高校演劇初心者の扉


 現役を引退して、何年か審査のお手伝いをしてきて、感じたことがあります。どうも、演劇をやるときの初歩的なポイントにつまづいているというか、何に気をつけたらいいのかがよくわかっていない。というか、どうも誰もそのあたりをきちんと教えてくれていないと言うことです。
 私自身も始めて顧問をしたときには、何から始めていいかとか、何が大事なポイントだとか全く分かりませんでした。いろいろ試行錯誤していくのももちろん大事ですが、少なくても演劇のいろいろな要素について気をつけなければいけないということが、少しでも分かっていれば又違ったのにと思います。
 ここでは、私の体験を元に、高校演劇でよちよち歩きを始めたばかりの演劇部を念頭に置いて、各要素についてどんなことに注意したらいいかをまとめてみました。あくまでも、一般的な注意であり、なおかつ 私の体験から来たことですので、それを念頭に参考にしていただければと思います。
 なお、お助け猫の手  並びに 猫でも書ける脚本講座 のページもご参照ください。


●はじめに

ここにあげているのは、あくまでも技術的、実務的なポイントに絞っておきます。お芝居の本質的は当方は関知いたしません。それは、実際にお芝居を作るあなた方の仕事です。でも、多分結構お役に立つと思います。何に気をつけなければならないかを押さえてください。


●脚本について ちょっと小難しくなるかもしれません。めげずに読んでみてください。

脚本を選ぶ場合、書く場合に気をつけること
  高校演劇の場合、プロや社会人の劇団と違い、メンバーの交代が非常に早いことがその特質です。演技や演出を担当する生徒が、やっとできる頃になり、これからという時にもう引退。うまく経験の成果が継承されない場合またはじめからと言うことになります。高校演劇は部活動ですから、演出力と演技力がまだまだ常に不十分なところが多いのがどうしても一般的です。従って、高校演劇の成果は結果的に未だ脚本の持つウエートが大きいと言わざるを得ません。それを乗り越える学校もままありますが、だいたいは脚本に寄りかからざるを得ないのが現実です。スタート時点ですでにある意味差がついてしまっていることがよくあります。
 ここ数年演劇祭を見まして、特にそういうことを感じました。一部の学校を除き、残念な脚本が多すぎたことです。いわば不毛な努力を延々としている(部活動としては不毛ではありません。そのことは誤解のないように。演劇的に見てと言うことです。まあ重なることは重なりますが。)。全くもってもったいないの一言。役者が頑張ってるだけに惜しいなぁーということが多々ありました。今回も同じ轍を踏んでいました。既成脚本を選択した学校のほとんどが脚本選択に失敗していますし、創作脚本を選んだ学校の大方も、脚本の根本的な欠陥に気づかずにそのまま突入しています。もう少し、ほんのちょっとシビアに脚本を見る目があれば多分こんなことにはならなかっただろうにと言う舞台がちょっと多すぎました。
 創作脚本で言えば着想は面白いし、台詞もまあまあかけてる。しかし、その先というか、根底にある、組み立て(本当は構造といいたいですが)に対する考察がどうもおろそかになっていると思います。何も難しいことではない。ある設定を考えたら、それから出てくる問題は何かとか、人間関係こういう風に決めたら必然的にどんな問題が出てくるのとか、あるいは、その問題をいつ出したらわかりやすくなるか(別にわかりやすくする必要はありませんが)とか、論理的詰めが行われないまま、勢いで書いたり(これはこれで必要ですが)、ご都合主義で解決したり、説明的台詞に逃げたりしている脚本が多すぎます。スタートする前にこけているのでは、演技、演出をいくら必死で頑張ってもできることはそれほど多くありません。ちょっと注意すれば避けられる落とし穴にわざわざ落ち込む必要は全くないと思います。
 さて、脚本を選ぶ前に、あるいは書く前に予備作業として、どうしてもやっておいてほしいものがあります(もちろん、同時進行でもかまいません)。
 それは、自分たちがどんなお芝居をしたいかと言うことをできるだけみんなで話し合い共通理解を創っておくこと。地味な作業ですが、大前提ですので、脚本に飛びつく前に自分たちの判断基準を作るという意味で手を抜かないように。自分たちがいまどんな芝居をやりたいのかと言うことの確認です。このお芝居を、いま、この時点でなぜやるのかという立場をはっきりさせておかないと、どうしてもお芝居が曖昧になってきます。たとえばシェークスピアのお芝居が時を超えて、やり続けられるのは、シェークスピアの書いた内容の中に、現代の、いまの時点と共通する課題や、問題があり、かつ、それをやることが、自分たちの抱えている問題や課題にとって価値があるからです。いま、この時代でやる意味をその脚本がもっているから繰り返し上演されるわけです。そんなに、難しい話ではありません。要は、生徒の皆さんが、持っている問題意識や、興味、嗜好を、演劇の形で表現する意味をしっかりと持っている脚本を選ぶ(あるいは書く)ということです。生徒諸君はそれぞれの意識や意見がありますから、ばらばらでは困りますので、部内でテーマや、ジャンルから始めてもかまいませんので、あーだこーだと語り合う場をきちんと持ってください。先輩がこれやるよーといって持ってきたのをはいそうですかーとやるというのでは、ちょっとこまります。そういう場合でも、なぜこのお芝居をいまやるのか、その意味や価値はあるのかと言うことを、みんなが共通の理解としてできるだけ明確に持つまで、しつこく話し合ってみてください。あとがずいぶん違いますから。これは切実なお願いです。この部分は演出の項でまた触れます。

既成脚本を選ぶ場合
●1.人数、性別、時間の問題等の物理的条件に関わるチェックポイント

 創作の時はあまり問題ないというか、人数や性別を前提として書く場合がほとんどですから、問題は既成脚本選ぶとき、せっかくやりたいのがあっても、人数や性別の構成が自分たちの部に合わないのであきらめるということがままあります。仕方がないことですが、もったいないですね。
 役者の性別についてはそれほど神経質になるには及びません。アレンジすればよいことですから(当然作者に許可をもらわなければなりませんが)。うまく潤色できないか、男を女の役に変えられないか、とか、検討してみてください。意外と、問題ない場合があります。ただ、アレンジする力が自分たちにないなという時、あるいはこれはどうやっても性別変えるとダメだろうというは、注意が必要です。女子生徒が高校生以上の男役をやらねばならないのは残念ですが、やはり避けたほうがよろしい。どうしても無理が生じますから。子供や、人間以外の役や、ファンタジー的処理をされたものはその限りではありません。
 人数については、多い場合、アレンジできる力があれば、選択範囲に入れてよいでしょう。結構不必要な登場人物が多い脚本がありますし、カットや統合して人数を減らすことはできます。また、構造部分を再構成するとうまくいくこともあります。もっとも、人数があまりにかけ離れているのは苦しいですが。反対に人数を増やしたい場合は台詞の密度が薄くなりますから、かなりの工夫がいります。
 時間的に長い脚本はこれはもう、うまくカットする力がいりますね。頑張るしかないけど、やってみれば、結構何とかなることがありますので、あきらめないこと。三分の一にするのはちょっと苦しいけれど、半分強ぐらいにはやってやれないことはありません。まあ、一時間半くらいのを一時間に詰めるのは割合できますので、どうしてもやりたいものが出てきたときは選択しに入れてもよろしいでしょう。中には当然無理なものもあります 補足して、巨大なセットがいるから無理、とかは無視して結構です。そんなのは演出で何とかなります。というか、しなければなりません。
 以上の点、どうしてもできそうにないときは、泣く泣くあきらめてください。

 ここからは、内容そのものに関するチェックポイントです。

●2.具体的な選定時のチェックポイント

 昔は、ネットなんてなかったですから印刷された脚本集から探さざるを得ませんでした。また、これが学校の図書館にはほとんどない、公立図書館を見に行っても意外とありません。苦労しました。結局人数などで合うので妥協してということが多々ありました。今は、ネット上に結構いろいろな脚本サイトや個人のサイトがありまして、その点では格段に便利になりました。中には、一千本を超えるサイトもあります。ただ、はっきり言っておきますが、ほとんどはしょうもない台本が圧倒的に多いことです。だから、選択眼が大事になりますね。心して探してください。
 その際、気をつけることは、台詞のおもしろさや場面のおもしろさに惑わされないこと。もちろんそれはそれで大事なことではありますが、それに重きを置きすぎると後で痛い眼に合います。つまらないなあと思う脚本でも意外にしっかりと組み立てをしていることがあり、処理の仕方でよい舞台になることがあります。見逃さないように。

●ア
  まずは、余り批判的に読まずすべてを受け入れること。色眼鏡は良くないので、とりあえずこんなことをやるのねというぐらいがよろしいかと。ただ、その際に、あれ?とか、ん?とかたぶん引っかかる台詞や流れがあるかと思います。それは厳しくチェックしてメモっておくこと(ある程度絞れたら当然全員でかかってください。眼が違えば見方も変わります)。

●イ
  さらっと読んだら、その台本の流れを単純化してみること。これは非常に大事です。何が問題なのか。対立する登場人物はどのように対立するか。そしてそれは、対立する人物のエピソードの中でどのように解決されていくのか。心情独白の長台詞で説明して筋を運ぶのはあまりよくありません。それは説明です。エピソードで物語っているやつをチェックしてください。
そうして、シンプルに話の組み立てを整理してみてください。お芝居を観てない人にもある程度流れがわかるように。全体の俯瞰図を作るつもりで台詞の一つ一つにこだわらず、流れを観てみましょう。場面単位でみてみるとやりやすいと思います。その際、以下の点にチェックを入れると鮮明になります。
 設定された問題は何かを把握する。(解決はあってもなくてもかまわない)
 世界設定や、登場人物、ストーリーの流れに不要なものがないかチェック、あまりにごちゃごちゃ組み込んでいるのはよくありません。60分で解決できる問題はメインが一つ、サブがせいぜい二つぐらいと考えておいた方がよろしいです。多すぎると説明するのでいっぱいいっぱいになることが多いからです。
 結果としてご都合主義がないかチェック、流れが大きく変化するところとか、問題を解決する 鍵が現れるところとか、基本的には主人公たちの外部からそれらはもたらされます。このあたりをモノローグ(特に説明的なものとか、心情が全面にでているとか)で処理しているのはちょっと怪しい。
 登場人物がどう変化するか、あるいはしないかを見てみる。変化する場合は納得できるかどうか。台詞として変化したよーでなくて状況から(エピソードの流れを見て他の登場人物との関わりからの変化)そう判断できること。当然これは、登場人物相互の関係の変化を含み、むしろその方が重要なので図示化してみることわかりやすい。。
 そうして、描かれた問題は、本当にこの流れでかかれねばならないのかを考える。これはなかなか難しいところだし、好みや、何を重点に置くかで微妙に変わりますので、特に問題がないと思ったらパス。自分、あるいは自分たちならこう配列するというアイデアが浮かべば、それは大事なポイントになりますから、メモして保留しておくこと。
 全体を通して、作者が何を表現したかったのかが明確かどうか。明確でなくても暗示されているかどうか。そうして、それは無理がないと納得できるかどうか。
 扱われていることは演劇でなければ表現できない物か。単なる主張を人間の動きで代行した説明や小論文になっていないか。けっこうこれが多いです。ここは少しわかりにくいかもしれません。

●ウ
 全部できなくても、ある程度上記の作業ができればそのお芝居のいわゆる構造が浮かんできます。その中で、特にラストに表現されている、流れの結末を導き出すために、その脚本はいったい何を仕掛けているのかということがおぼろげにでも浮かんできます。登場人物の性格付けや、エピソードの配置によって、ああ、ここではこの作者はこんな要素を加えてそのあとこういう風に持って行くんだなとか。どんな難しい脚本も必ず、その場その場で、登場人物の方向性や抱えている問題を一つ一つ提出したり、少し解決したり、さらに困難な場面に繋げたりといろいろ仕掛けています。そうした流れをできるだけ簡単にまとめる努力をしてみて下さい。
エ そうすると、その脚本がきちんと組み立てられているかどうかがある程度わかります。自分たちでできそうな範囲で、この組み立てがしっかりしたものを選ぶようにしてください。とにかく都合のいい設定や、人物がでてきたら警戒すること。

●補足1
 二つの世界を扱った台本が割合多い。いわゆる「ゆきて帰りし物語」ですね。ポイントは、現実での課題がきちんと描けているかどうかと、二つの世界の転換の手段や方法、帰還の方法が十分考えられているか。また、その過程の中で、何を得て、何を失い、その結果、どう変わったか、あるいは変わらなかったかがきちんと、シーンで描かれている物を選びましょう。主人公のモノローグの長台詞で解決するような脚本は選ばない方がよろしい。直接話法でなくて間接話法で描かれていて観客がああ、そうだねと思う脚本はなかなかの物です。
●補足2
 これも多いんですが、前半いろいろ遊びまくって、後半やたらシリアスになってくる脚本。気をつけましょう。一見まとまっていますが、実はご都合主義の物が多い。判断のポイントは、遊びの中に、抱えている問題や課題が、きちんと伏線として仕込まれているかどうか。意外とそのあたりが雑いものが多いです。遊びが面白くて夢中になってしまうんですね。それなら、徹底的に遊び倒している脚本がましです。結構、突然課題が現れてシリアスモードに突入とかいうのが見られます。それは、遊びで時間を稼いでラストはそれらしくまとめようとする不徹底な姿勢から生まれます。形にとらわれた脚本、予定調和の脚本と言っていいですね。不適だと思います。反対に、課題が最初の5分で遊びの中にそれとなく仕込まれているのがなかなかよい物になってるのが多いです。遊びそのものが、課題を生み出し、自然に次の段階へ進ませるような遊び方をしているものがよいでしょう。

創作脚本を書く場合
●はじめに

 既成脚本では、どうしても、自分たちのやりたいことや、人数などの関係で適当なものが見つからない場合があります。というか、ほんとうは、その方が正解の場合が多いんですが、実は、これはまあばくちみたいなもんで、不安もありますし、できあがった脚本の善し悪しもなかなか自分たちでは判断しにくいと思います。
 実際には、その個別の作品によりアドバイスの仕方が変わりますので一概には言えないのですが、演劇祭や四国大会の創作をみてきた体験から、一般的な条件・要素を上げておくことにします。チェックリストとしてください。
 ただし、どうすればよくなるかは個々の脚本によって違いますから、アドバイスがほしい方は以下のアドレス宛にメールをいただければ、できる範囲でアドバイスいたします。

 ●アドバイスほしい方 whitewing20_08@yahoo.co.jp まで。

 ここでは、書き方というより、よくできた脚本の条件でわかりやすいところをごく簡単に挙げて、心構えとしておきます。ただし、どのタイプの脚本にも当てはまるわけではありません。一応、ストーリー性のある脚本を念頭に読んでみてください。具体的な書き方の手順のモデルは 猫でも書ける脚本講座 のコーナーで。誰でも高校の国語で学習すると思われる 芥川龍之介『羅生門』の脚本化をベースに説明してあります。

●よくできた脚本にするための一般的な条件・要素

●ア対立の構造がきちんとあること。

 人間的な対立だけには限りません、状況や、進行方向の対立があると、その矛盾を解決していかなければならなくなり、ドラマ性が強くなります。できるだけ解決不能と思われる対立をもちこむこと。解決されなくても、対立がそのまま残るラストでもかまいません。むしろ、安易な解決を強引に作らないように気をつけましょう。

●イ 場面提出の仕方

 お話のどこから始めるかが、大事なところ。最初の五分で、大きな問題が提出され、観客をつかむようにすると、観客の興味がわきます。問題の提出があまり遅れると、観客の注意力が低下します。何も、いかにもな劇的効果を狙うことを言っているのではなく、さらりとした出だしでもよいですから、さいごに解決される(あるいは解決されない)矛盾と対立が提出できればOKです。

ウ ギャップがあること

 観客の日常感覚とギャップのある、あるいはズレのある視点で問題を出せるならかなりOKです。日常の中にズレを生むこと、あるいは日常に違和感を持たせることに成功すると、その脚本は力を持ちます。

●エ 先の展開が読めないこと(裏切り)

 こうなればこうなるだろうなあ、ああ、やっぱりそうなるか。というような展開はあまりよろしくない。予定調和の類型的パターンになりがちです。途中何回か観客の予測・期待を裏切るような展開を工夫しましょう。ラストも観客の予定調和的な安心感を打ち砕く展開になれば申し分ありません。バッドエンディングとかハッピーエンディングとか言うことではありませんので念のため。

●オ 台詞をできるだけ低い言葉で語ること

 日常生活で使われる、理解しやすい概念や言葉を使うよう努力しましょう。高い言葉、抽象性を持った、難解な言葉はできるだけ避けた方がよい。難解なことをわかりやすい言葉で語るようにしてみてください。なぜなら、観客にとって台詞は音として入ってきます。活字なら理解しても音として即理解できない台詞は観客にその知識が無いと無意味な『音』となります。結果、なんだかようわからんということになります。戦略的に使うなら別ですが、そうでないなら、理念的、述語的な言葉は舞台の上ではただの音になるますから、避けた方がよろしいかと。ただし、乱暴な言葉や俗語を使いまくれということではありません。もつともた、高い言葉をあえて使う場合もあります。私の場合は結構高い言葉を使うのが我ながらまずいですね(-_-)わかつてはいるんだがねー(-_-)
●カ 説明はできるだけ避ける。
 長台詞で心情説明をしたり(独白だとよくありますね)とか、都合のよい登場人物が問題点を整理してくれたりとか、自分たちだけの会話で物語が展開するとか、面倒くさいんでよくやりがちですが、あまりよろしくはありません。場面のエピソード、外部からの介入で基本的に物語は動きます。工夫してみましょう。

●キ 場面数をあまり多くしないこと。
 スピーディーに展開するように見えますが、60分の中で場面を増やしすぎると問題が深化せず、浅くなり、結果的に説明的に見えてしまいます。一場面5分でやるとすれば、12場面、これでも多いでしょうか。もちろん、長短がありますので一概には言えませんが、スピード感の緩急のリズムを考えて、ある程度長い場面でじっくり問題を掘り下げることは必要です。

●ク テーマにあまりこだわりすぎないように。
 テーマを一言で言うと何ですかというようなことをきかれたりしますが、一言で言えるようなら、めんどくさいお芝居にはしません。生身の人間がじたばたして、一つの空間で物語を作っていくわけですから、テーマなんぞは、奥にひっこんどれというぐらいでちょうどです。生身の人間(役)がいかにもがいて、変化していくかを描くものです。だいたいテーマを背負うような台詞をあまり書かない方がいい、説明や押しつけになります。書いても、変化球というか、直接言及しない方法をできるだけ追求してください。お説教にならないように。

●ケ 登場人物の関係性をしっかり設定する
 そうすると、お互いの会話でこんな言い方はしない、こんな場面なら多分こういうということが、ある程度決まってきます。このあたりをきちんとしておかないと、逆に関係性の変化も出しにくくなります。お互いを変化させていくための基礎ですから、できるだけきちんと設定しておいた方がいい。もっとも、お互いがその関係性を把握しているか、把握していないかという設定も大事です。お互いの思い込みや、勘違いが問題を生み出したり、変化させたり、解決させたりしますから。なお、補足として、それぞれの登場人物や状況に弱というか枷をかけると、意外と関係性の変化や、物語の転がし方がうまくいく場合があります(ウルトラマンは3分しか戦えないという制限はキャラクターにかける枷で、映画「スピード」(ちょっと古いですが)では、爆弾犯がバスに仕掛けた時速60キロ以下になると爆発するというのは状況に対する枷ですね。演劇部ものでいえば、コンクールに入賞しなければ、部はお取りつぶしとか、新入部員が入らなければ廃部とか。生徒会ものでは何時までに仕上げなければいけない仕事があり、いろいろな邪魔が入ってなかなか先に進めないとか。面白い枷をかけると結構魅力的になります。ここは工夫ですね。ありがちでないものを考えましょう。

●コ 台詞は書き言葉であることの確認
 意外と忘れがちというか盲点になるのですが、どんな日常場面の会話でも台詞に書かれた会話は、あくまでも整理された書き言葉であると言うことです。本当の日常会話、例えばあなたたちが友人としゃべっているのを録音して聴くと、意外に、無駄なというか、中途半端な言葉が多いと言うことが分かります。だから、これは、演技や演出と絡みますが、台本に書かれた台詞はあくまでも整理された書き言葉としての日常言語であり、決して、本当の日常会話では無いと言うことを頭の中に入れておいてください。役者が、素のままで台詞を言ったところでそれは演劇の言葉にはならないと言うことですね。役者や演出はもちろんですが、書く側も頭の隅に入れておいた方がよろしいと思います。

●書き始める前にやらなければならないこと。

 みんなでいろいろやりながら創作をするとき、実はこれが最も大切な作業です。地味ですがここをしっかりしないと後がぐだぐだになったり、腰砕けになったりして苦しい脚本になります。
 まずは、みんなで興味があることやいま疑問に思っていること、あるいは、これはなんとかしなければと思っていることなどをいろいろ出し合って見ることをおすすめします。問題の発見の過程です。けっこう時間がかかりますが、できるだけ話し合ってください。雑談の中でもいいし、そんな中から生まれた問題と着想が意外と面白くなる可能性があります。そうして、一番大事なことは最初に述べたように、既成脚本の選択と同様に、いま、現在このとき演劇としてやる意味や価値があるのかということです。この確信がないと表現として弱いものになります。じっくりみんなの中で確信が生まれるまで話し合いましょう。
 さて、着想が生まれ、みんながそれをやろうという共通理解ができたとします。次にやることは、どんな切り口から攻めていくかと言うことです。たとえば、いじめで被害者側にたつのがまあ、多いと思いますが、加害者側から切り込むことはできないかとか、被害者と加害者がころころ入れ替わるゲームのような切り口はとか、最近話題になってるスクールカーストはとか。この切り口の新鮮さが魅力を生み出しますから、できるだけいままで誰もあまり語ってこなかった、演じてこなかったことを見つける努力をしてみてください。見つけたら、もうこっちのもんです。
 独創的なものあるいは新しい切り口をだれか最初から持ってればいいですが、なかなかそううまい話はありません。その切り口を探す、あるいは決めるために、書く前に徹底的にその着想や問題に関する資料の調査、収集と、検討をしましょう。周辺を固めましょう。特にファンタジー的な処理をする際には、とことん固めてから始める方がよろしい。いじめを扱いたいなら、事例をたくさん集めたり、当事者の悩みを調べたり、あるいは、いじめに関する調査や研究を調べたりそれだけで結構な時間がかかりますが、単なる自分たちだけのいじめのイメージではない、もっと深いところへいけるはずです。自分たちと違う考え方をできるだけ探しましょう。そうすれば、自分たちとの対立軸が生まれるかもしれませんし、自分たちなりの方向性が見えてくるかもしれません。なんせ、いじめは深くしぶとく現在進行形のリアルですから。いまやる意味や価値は十分にありますしね。問題は、この作業を通じて自分たちでしか提出できない方向性を見つけられるかどうかですが、見つけられなくても無駄にはなりません。この過程を踏まえたことにより、どこかで観たようなお芝居になっても、深さが違ってきます。この作業にしっかり時間をかけることができれば、そうして、みんなの共通理解ができれば、かなりいいものができる可能性があります。

まだ、いろいろありますし、書く作業に取りかかったときの、テクニック(必要な材料とは何かとか、組み立て方とか)も書きたいところですが、長くなりすぎますし、脚本それぞれの場合かなり違ってきますので、アドバイスをもらいたい方にはメールでお答えすることにして、ここでは割愛いたします。

●猫耳屋翼相談窓口 

 脚本のことでも、下記のいろいろなことでも何でも結構です。お悩みがあれば気軽にご相談ください。能力の許す限り対応いたします。暇だし(^。^)y-゜゜゜

 whitewing20_08@yahoo.co.jp

●装置について

装置は舞台空間を規定する
●はじめに

 装置は何もない素の舞台から、豪華絢爛やたらに過剰なものまで見られますが、大事なことは装置がそのお芝居に対して、ほんとうに必要な物であったか、十分に効果的であったかどうかです。シンプルでも実は手抜きとかありますからね。別に物を創ることだけが装置ではなく、大黒を閉めたり、袖幕を攻めて空間を狭めたり、配置を工夫したりすることも、あるいは何も置かないで、役者に装置の代用をさせることも装置として考えた方がいいでしょう。
 装置は何か置くと、まずは、物理的空間を決定します。当たり前ですが役者はその空間の中で演技するしかない。置き方一つで、その空間が変わります。ほんとうにそのお芝居に必要な物か、あるいはただ、空間を埋めるために飾っているのか。厳密な検討が必要です。創るにはお金も時間もかかりますし。もっとも、裏方としては、装置を作る時間は実に楽しいし、役者だけでなく(役者にもやらせました。今日は装置の日とか。)部員全体が参加していることが、部活動としての演劇をかなりの面で保証してくれます。助人も頼んだりして、目に見えない効果が上がります。その意味で最近装置が簡略化しているのはちょっと寂しいですね。もっとも、無駄な装置はいくら作っても効果はありませんけど。でも、技術の継承と参加意識を高めるために個人的にはもっと装置を作って舞台に乗せてもらいたいと思います。

●装置を考えるためのチェックポイント

●ア 装置は、全体の雰囲気を醸し出すと同時に、物理的な空間を決定して演技空間を制限する。従って、そのお芝居の演技エリアを考えた場合、無駄に広く展開したり、あるいは狭くしたりしてはいけない。まして、演技の動きを制限しすぎて、たとえば横方向にしかうごけないというのはちょっと問題。また無駄な空間を生むことは避けましょう。

●イ 装置は原則として必要最小限がいい。ただし、過剰におく場合が効果があるときもある。中途半端が最悪。すべての装置が本当に必要で意味があるものかどうかチェック。なくてもかまわなければないほうがいい。

●ウ 配置が適正かどうか。(上手により過ぎとか、演技空間を狭めて不自由にしているとか、)固定した装置は特に配置に注意。それによって演技が制限されるので気をつけなければならない。

●エ いろいろと転換する装置・・転換の仕方も効果的かどうか。暗転でミスが生まれないかどうか。明転で処理できるかどうか。暗転時に手に余って時間かかりすぎは芝居が止まりますので、カバーするアイデアが浮かばなければ装置自体の再検討が必要です。

●オ 抽象的な装置の場合見立ては生きているかどうか。転換して別の意味にとらえることができるかどうか。転換は容易かどうか。箱とか、六角椅子とかよく使いますが、それに限らず、うまく創ると便利だし効果は大きい。逆に失敗すると何が何だかという世界になります。もちろん普通の既製品、椅子とか机とかを使う場合も同じことです。

●カ 全体の配色や形状は効果的かどうか。大きさや、高さ、大小があればそれは適正かどうか。具体的な作り物、抽象的セットに限らず、目に飛び込んでくるから、デザイン性は大事です。あと、よく失敗するのは、実際に照明が入ったときの色ですね。使用する塗料によっては、てかったり、色が変になったりと。このあたりはちょっとつらいところです。色について経験的に言えば、赤と黒をうまく使うと結構印象的な物になります。使い方が難しいですけど。

●キ リアルな物と抽象的な物が混在するのは原則的に避ける。見ている側に混乱を招くし、美しくない。装置はビジュアルだから、やはり美しくなくてはいけない。もっとも、めちゃくちゃ汚くても、効果を上げればその限りではない。

●ク 作り物の場合は技術的な巧拙が物を言うが、まあこれは、頑張って技術を上げてください。あり物を配置する場合は脚本の内容によってきわめて不適切な場合があるから注意。時代が古い設定だと特に。

●ケ 全体として、演技を生かせているか、空間をうまく処理しているか、見やすいか、装置だけが浮いていないか、照明と合っているかなどなど、感覚的でよいからチェックします。当然、脚本とうまくかみあっているかどうかが一番大事だが、かみ合っていないとき意外に面白い効果を出すこともあるにはあります。

●コ 平台や馬、箱足をそのまま舞台にさらすのは、特殊な状況設定でなければ装置とはいえません。裸でさらすのでなく、けこみをつけてください。布でも、紙でも、ベニヤ板でも何でもかまいません。そうして、初めて装置といえます。まあ、舞台の約束事ですね。

●サ 地がすりを敷くべきか否か。手間もかかりますが、しくと照明効果が落ち着いて、板の反射によるへんな感じもありません。アスファルトフェルトなどという比較的安い材料もありますので(ちょっとくさいですけど)、検討してみてもよいでしょう

●シ 照明と関係しますが大黒を閉めるかあけるか。お芝居の性質にもよりますし、好みにもよります。ただ、大黒あけてホリゾントでいたずらに色を変えるのはいただけません。大概何の意味もない場合が多い。きっちり、しんみりやるなら大黒を閉めることを薦めます。空間が締まって見えるという効果もありますし。

●ス 具体的な大工仕事の技術、塗料に何を選んだらいいかとか、のこぎりやナグリ(トンカチのこと)、壁の作り方、階段やボックスの作り方など説明したいですが、長くなりすぎますので割愛します。昔は、技術講習会の中で、階段の作り方とか、六角椅子の作り方なんかをやりました。参加した部員たちはそれなりに技術を習得し、なぜか秋のコンクールではやたらと階段使ってましたね。そうした、ノウハウの継承はやはりどこかで保証しなければならないと思います。チェックポイントではないですが書いておきます。全般にそういう面での技術水準が落ちています。高知だけかなぁ(-_-)



●照明について

役者の顔を見せようね
●はじめに
  照明の基本は、役者の表情を観客にきちんと見せることです。もちろん、いろいろな効果狙いもありますが、とにかく、どんな場面でも、演出の必要上で(あえて見えにくくする場合もある)ない限りは、役者の表情をきちんとみせるようプランを立ててください。暗い中で、上からトップサスが当たっただけでは、役者の顔は陰になって見えません。補助的に前明かりか、横からのサイドスポットで役者の上部を照らして(床ギライといいます。)きちんと表情を見せてやってください。結構このあたり無神経な舞台が多いです。せっかくのいいところなのに役者としても泣こうにも泣けません。見えなきゃ黒子と同じですもんね。
 舞台にあるライトの基本的な名称や働きについては、ここではふれません。舞台技術講習会や本で学習してください。また、ライトの種類や、こういう場面ではこういうフィルター(シートっていうとふるいかなあ)を基本的に使うとか言う知識は、また別の機会にします。その際は、小技もいれますが、それは又お楽しみに。ここでは、ごく基本的に気をつけたらいい事を挙げておきます。

●ア 大黒(バック幕)を閉める場合と開ける場合があります(ホリゾントを使う、使わないと言うこと)。お芝居によりますので一概には決められません。ただ、ホリゾントで色と情景を変える必要があるかどうかを、判断するように。美しい星空や満月を照明で出したければホリゾントを使うでしょうし、そうでない、たとえば、夜とか夕方とか表現したいのなら、大黒を閉めても表現できます。まあ、好みもありますけれど。

●イ 登場人物の心情としてとシンクロして説明的すぎる照明はあまりいただけない。表現と言うより押しつけになる。最も、受けねらいでやる場合はある。

●ウ 全体として統一感があるかどうか。考えましょう。ベースの照明プランがあって、後は、せいぜい二つぐらいが見やすいかも。芝居によりますけれど。

●エ 特殊効果の照明は絶対に必要な場合にやること。目つぶしとか、いろいろ。意外に効果が上がらないし、お金もかかります。

●オ 暗転処理のときの、スピードは注意。カットアウトか、フェードアウトか、カットインか、フェードインか。演出と絡みます。結構大事なところ。

●カ くどいようですが、とにかく、説明にならないように、役者の表情をできるだけ見せるようにが基本です。細かいことは、舞台技術講習会等で勉強してください


●音響について

説明にならないように
●はじめに
 きっかけが間違ったとか、音量が大きすぎたとかの技術的ミスはそれぞれに気をつけてください。ここでは、そのほかの注意点。

●ア 歌詞のある音楽を使う場合、説明的すぎるのは判断が分かれるところ。

●イ 台詞が聞こえないほど音量が大きい、きっかけを間違うなどの技術的ミスは不幸なことですが、やりがち。音合わせの場合に小さめにしといた方があとでピンチになった場合処理しやすい。

●ウ 全体を通しての選曲というか音の使い方が統一感があるかどうか。ただ音を入れればいいという物ではない。

●エ 心理や雰囲気のための効果音はやたらに使わない。あえて多用する場合もあることはある。

●オ タイミングのミスを避けるため、BGM的に使う場合はフェードイン、フェードアウトが無難。

●カ リハーサル時の音合わせは当然観客がいません。実際に観客が入ると音が吸われます。そのことも頭の隅に入れて。

●衣装について

とにかく目に入ります
 


●演技について

 


●演出について