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「突破!」
 
作:結城 翼
 
 
★登場人物
トシオ・・
ゴダイ・・
ヒロシ・・
ジュン・・
アキラ・・
カエデ・・
 
T追いつめられた
 
ぶーんとかひーんとかいうやや、気持ち悪い音が継続したり、とまったり。
トシオ:だからやって見なきゃわからねーだろ。
ゴダイ:だから、もうやってるよ。
トシオ:おい。
ゴダイ:だから、やってるさ。
トシオ:なにをよ。
ゴダイ:あなほり。
トシオ:人のけつ掘るんじゃねえよ。
 
        パッと明るくなる。
        破壊されたとおぼしき場所。
 
ゴダイ:だから、冗談だって。
トシオ:冗談っていっていいことと悪いことがあるんだぞ。
ゴダイ:そういや、婆さんいってたなあ。
トシオ:なんだって。
ゴダイ:食ってすぐ寝ると牛になる。なあ、聞いたことねえか。
ジュン:あるある。
トシオ:だから、どうしたって。おれたち今なんか食ったか。
ゴダイ:いや。
トシオ:だったら、つまらねえこというなよ。
ゴダイ:ああ、腹減ったなあ。
ジュン:こう、なるとしかしなんだねぇ。次から次に食い物浮かんでくるけど、けっこうやすいものしか浮かんでこないわ。
ゴダイ:焼き鳥食いてえなー。
ジュン:げそのさ、あのいぼいぼ。うまいねえ。
ゴダイ:狐うどんの汁を腹一杯飲みてえ。
トシオ:お前らなさけねえんじないの。いじましいものばかりいいやがって。せめて、さあ、サンマの塩焼きとかさあ、
ジュン:腹減ったねぇ。
トシオ:・・ああ・・。
 
        間。
 
ゴダイ:なあ。
トシオ:なんだよ。
ゴダイ:暗いとさあどうなるんだろう。
トシオ:なにが。
ゴダイ:いや、ここよ。ここ。
トシオ:なに。
ゴダイ:かゆいんだわ。
ジュン:おい、よせよ。
ゴダイ:なんで。
ジュン:かゆみが移るのよ。
トシオ:あ、俺もこのあたり・・。くそっ。
 
        と、つぎつぎとかゆみが移ったようにかき始める。
おーんという音。
ぴたっと動作が止まる。
静寂。
 
トシオ:おい。
ゴダイ:うん。
トシオ:きいたか。
カエデ:聞いた。
トシオ:助けかな。
ジュン:わかんない。
ゴダイ:違うと思うな。
トシオ:なんでよ。
ゴダイ:だって、あれ、ちょっと違う。
トシオ:どう違うんだよ。
ゴダイ:なんか、こう。
ジュン:叫び。
トシオ:叫び?俺たち呼んでるンか?
ゴダイ:違う、叫び。
トシオ:だから、おれたち助ける・・
ゴダイ:憎んでるよ。
トシオ:憎んでる?
ジュン:思い出したっ!
トシオ:な、なんだよっ。
ジュン:トロル。
トシオ:トロル?
ジュン:トロル。
トシオ:わけわかんねーな。
ゴダイ:なんかこえー。
トシオ:ばかっ。
ジュン:食べちゃう。
 
間。
 
トシオ:何を。
ジュン:全部。
トシオ:食べ物なんかねえよ。
ジュン:あるじゃん。
トシオ:どこによ。
 
間。
神経質に笑い出す男。
笑い声がぴたっと止まって。
トシオ:ばからしい。なっ。
ゴダイ:・・ああ。けど。
トシオ:ばかっ。
 
トタンに音楽が鳴り出す。
 
トシオ:な、な、なんだ!
 
壊れたジュークボックスかららしい。
陽気なジャズ。
 
ゴダイ:楽団かな。生きてたんだ。
トシオ:あほっ。ジュークボックスだよ。となりの。
ゴダイ:あ、そうか。
トシオ:そうかじゃねえよ。死んでる奴ら、とろいやつばっかりだろ。だいたい、あのバンマスが。
ジュン:嫉妬してたんでしょ。
トシオ:なにがよ。
ジュン:聞いたわよ、サックス吹いてた子に。
トシオ:なんのことかな。
ジュン:とぼけちゃって。ねえ。
ゴダイ:あ、オレも聞いた。
トシオ:ばかやろ、何聞いたんだよ。
ゴダイ:や、雪子にちょっかい出して振られたって。
トシオ:ば、ばか。あれはな。
ジュン:あ、ほんとだったんだ。噂。
 
やぶ蛇。
 
トシオ:けっ。それがどうした。
ゴダイ:つぎ込んだって。
トシオ:それほどでもねえよ。
ジュン:ずいぶん強引に迫ったっていってたよ。
トシオ:んなことしねえよ。
ジュン:アパートまで強引におくってって、上がり込んだって。
トシオ:しねえって。
ゴダイ:部屋はいるなり、押し倒したっていってたな。
トシオ:こらっ、だれがじゃ。
ジュン:あわてて、上がりかまちでつまずいて、柱の角で頭打って、白目向いてひっくり返ったって?
ゴダイ:金蹴り食らったって聞いたな。
トシオ:ばかやろうっ。
ゴダイ:どじだね。
ジュン:最低。
トシオ:こ、殺してやる。
ジュン:誰を。
トシオ:でまこきやがったやつだよ!どいつもこいつも、人のこと悪くいいやがって。
ジュン:大きなばんそうこしてたじゃない。
ゴダイ:なんか内股で歩いてた。
ジュン:殺すたってねー。
ゴダイ:殺されそうだ。
トシオ:そのうちだよ。
ジュン:いつ。
トシオ:そのうち。
ゴダイ:そのうちって。
トシオ:うっせえな、ばかっ。助かったらだよ。
ジュン:助かるの?
 
じろっと見るが無言。
音楽大きくなって、ぷつっと切れる。
間。
 
ゴダイ:静かだな。
ジュン:ほんと。
 
男1を見る。
 
トシオ:助かるよ。
 
不信の眼。
 
トシオ:助かるったら。
 
ますます不信。
 
トシオ:助かる、助かる、助かる!おめーらうるせーぞっ
ゴダイ:なんも言ってねーよ。
ジュン:あんただけじゃん。
トシオ:うるせえ!うるせえ!うるせえ!だまれーっ。
 
間。
暑くなってくる。
 
ゴダイ:暑いね。
 
間。
 
ゴダイ:かき氷食いてえ。
ジュン:ふらっぺ?
ゴダイ:かき氷。
ジュン:おんなじじゃん。
ゴダイ:違うの。かき氷。雪。
ジュン:ミルク入った?
ゴダイ:ミツだけの。
ジュン:ふらっぺじゃん。
ゴダイ:かき氷。
トシオ:どうでもいいだろ。かき氷でも、フラッペでも。
ゴダイ:わかってないねえ。日本人ならかき氷。
ジュン:遅れてるよ。
ゴダイ:伝統っつうもんだ。
トシオ:どっちでもいいだろが。
ゴダイ:いくない。
トシオ:くだらん。
ゴダイ:寒い。
トシオ:暑いだろが。ばかやろ。
ジュン:ちょっと。
トシオ:なんだよ。
ジュン:震えてる。
トシオ:だれが。
 
男2震えてる。
 
トシオ:どうした。
ジュン:風邪?
 
がたがた震える。
 
トシオ:こいつが?
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:だらしねーな。
ゴダイ:ひゃむい。
ジュン:やばいんじゃない。
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:しかたねーだろ。薬なんかねーよ。
ジュン:冷たい。
ゴダイ:ひゃむい。
ジュン:冷たい。
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:あーっ、わかったよ、うるせーな。けどよ、どうしようもねーだろ。
ジュン:となりの部屋。
トシオ:つぶれてるよ、入り口。
ジュン:でも。
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:がまんしろ!
 
音。
 
ジュン:誰かいる。
トシオ:となりの部屋か?
ジュン:助けかも。
トシオ:まさか。
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:うっせー、静かにしろ。
ジュン:静かに。
 
ごたごたと壁を壊すような音。
 
ジュン:助けよ!
トシオ:おーい、誰かーっ。
ゴダイ:ひゃむーい。
ジュン:たすけてーっ。
 
ぐわしゃっと言う音。
ほこりが立つと同時に、女が二人転がり込んでくる。
なぜか二人とも看護婦姿。
 
アキラ:いたーい。
カエデ:どいてよ。
アキラ:あんたがどきなよ。
カエデ:あんたのほうこそ。
 
どたばたしている。
 
ジュン:誰。
アキラ:ひゃーつ。
カエデ:助けてーっ。
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:おいっ。
アキラ:ごめんなさい。食べないで。この人から食べて。私、まずいわよっ。
カエデ:こっちの方がおいしいわ。早く食べて。
トシオ:おいっ。
 
間。
こわごわ、うかがう二人。
 
アキラ:なんだ。
カエデ:あいつらじゃないよ。
アキラ:よかった。
カエデ:ねーつ。
トシオ:ねーっじゃない。何してんだ。
カエデ:逃げてきたのよ。
アキラ:あたりまえじゃん。ちっ、ここ行き止まりよ。だいたい、あんたが、こっちなら大丈夫って言うから、見て、この指血だらけじゃない。
カエデ:あたしだって、ほら、爪、ぼろぼろ。だいたいねー、偉そうにこっちにしよって言うから。
アキラ:あんたがそうおもわせたんじゃない。
カエデ:おもうほうがわるいんじゃない。
トシオ:おいっ。
 
間。
 
ジュン:何かいるの。
 
間。
 
アキラ:知らないの。
 
間。
 
カエデ:知らないんだ。
トシオ:思わせぶりなのやめろ。閉じこめられてんだ。外がどうなってんのかわかりゃしねーよ。
ジュン:どうなの。
ゴダイ:ひゃむい。
ジュン:黙って。
 
間。
顔見合わせる、女2と3。
 
トシオ:どうなんだ。
アキラ:いるのよ。なんか分からないけど。
トシオ:何が。
カエデ:さあ。でも、食べられた。
ジュン:食べられた?食料、誰かとったの。
 
首を振る。
 
トシオ:何だよ。
アキラ:同僚。
カエデ:食べられたの。
ジュン:同僚って・・。
アキラ:主任。暗いから分からないけど、食べられた。
トシオ:ばかばかしい。
カエデ:ほんとよ、ほんとなんだから。建物潰れて、ちょうどその時主任と一緒にエレベーターに閉じこめられて、やっとの事で廊下に出て、逃げようとしたら、そうしたら・・。
トシオ:食べられた?
 
うんうんと頷く二人。
 
トシオ:こいつらおかしくねーか。
ジュン:ショックじゃない?
トシオ:たがはずれてるな。
カエデ:ほんとなんだから!
 
間。
 
カエデ:ほんとなんだから。生臭いニオイして、暗闇の中で何か来て、主任の悲鳴聞こえて、むしゃむしゃばりばりいう音聞こえて・・
 
ひぃーんという音。
 
アキラ:あいつだっ。逃げなきゃっ。
ジュン:なんかの機械だよ。そのうち止まる。
 
音が小さくなりやまる。
 
カエデ:でも、ほんとに食べられたもの。これ。
 
と、出した、指輪。何かがついてる。
 
トシオ:なんだよ。それ。
アキラ:吐き出されたの。
トシオ:あん?
ジュン:吐き出されたって?
カエデ:ぴちゃぴちゃいう音聞こえて。私たち、息殺して隠れてたら、なんか吐き出す音して。気配消えて。
アキラ:げっぷもしたよ。
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:確かに寒くなる話だけどよ。
アキラ:ほら、血が付いてるでしょ。
トシオ:持ってくるんじゃねー。
アキラ:でも、ほら。
トシオ:持ってくるなって。
アキラ:でも。
トシオ:お前な。
アキラ:何。
トシオ:面白がってるだろ。
アキラ:面白がらなきゃ、怖いじゃない。
 
間。
 
ジュン:かもね。でも、そんな動物ここにいたの。
カエデ:動物じやない。
ジュン:だって。
カエデ:なんか別のもの。
ゴダイ:悪霊とか。
トシオ:しゃべれるじゃん。熱は。
ゴダイ:ない。寒いだけ。
トシオ:それが熱あって言うんだよ。ばか。
ゴダイ:そうかな。
ジュン:なんかがいるのね。やばいのが。
 
二人頷く。
 
ジュン:じゃ、入り口あけたままじゃ。
トシオ:やばっ。
 
あわてて。
 
トシオ:お前も手伝え。
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:うるせーっ。早くしろ。ほら。バリケード。
 
あわてて、みんなでバリケードを作る。
ばたばたする。
お粗末なバリケードが出来る。
 
トシオ:よっしゃー。
ジュン:おそまつ。
トシオ:うるせー。
 
ぱっぽーと鳩時計。
 
ゴダイ:うごいてる。
トシオ:ああ。動いてる。
ジュン:・・えっと、12時間か。
ゴダイ:何が。
ジュン:始まって。
 
間。
 
トシオ:ああ。
アキラ:助け来るかな。
トシオ:さあな。
ゴダイ:れんらくもできねーよ。電話死んだままだし。
 
電話の音。
 
アキラ:なるほど。
ジュン:出て。
 
だが動かない。
 
ジュン:でてよ。
トシオ:お前出ろよ。
ジュン:やだ、なんか・・。
ゴダイ:怖い?
 
間。
カエデが出る。
 
カエデ:もしもし。・・ええっ。そうですかっ。はい。えっと。
 
見回して。
 
カエデ:五人です。元気です。・・あっと。一人具合が、はい。はい。え。・・もしもし、もしもしっ・・・。
 
切れた。
 
アキラ:どうしたって。助かるの。
カエデ:それが・・。なんか。
トシオ:なんだよ。何言ってた。
カエデ:変だわ。
ジュン:何が。
カエデ:応答にならないの。なんか・・・。
ジュン:録音?
カエデ:たぶん・・。
トシオ:やっぱりダメか。
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:うるせえな、ったく。
ゴダイ:でも、ひゃむい。
ジュン:助けは無理みたい。
アキラ:どうするの。来たら・・。
 
と、上手を見る。
 
トシオ:どうするったって。
ジュン:そうよ。どうすんよ。食べられるんでしょ。
トシオ:オレのせい?
ジュン:あたりまえじゃん。
トシオ:ええーっ。
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:それもおれのせい。
ゴダイ:ひょう。
カエデ:そうね。
アキラ:当然。
 
冷たい目。
 
トシオ:なんでよ?
全員 :なんでも。
トシオ:ひでーっ。
全員 :当たり前。
ゴダイ:ひゃむいーっ。
トシオ:うるせーっ。ひゃむいひゃむいいうなーっ。おれまでひゃむい。
カエデ:寒い。
ジュン:そう言えば。
アキラ:寒いわ。
 
気温がさがってる。
ひーんという音。
ぽっぽーっと鳩時計。
 
トシオ:もしかして。
ジュン:あれって。
ゴダイ:ひゃむい。
 
中央に走る。
耳を当てる。
 
トシオ:動いてる。
カエデ:冷房?
トシオ:冷凍庫。たしか、この裏。違う?
カエデ:あたし病棟だから。
アキラ:そう言えば確かに。
ジュン:ほんとに寒くなってきた。
ゴダイ:ひゃむい。凍る。
トシオ:まっずいな。壊れてる。ほらここ。
ジュン:わっ、冷たい。
アキラ:どうなるの。
トシオ:この部屋、密閉状態に近いから。
カエデ:凍っちゃう?
トシオ:零下70度だから・・。
ゴダイ:ひゃむい。
ジュン:駆け足。
トシオ:えっ。
ジュン:運動しなきゃ。ほらっ。
 
と、走り出す。
つられるが。
 
トシオ:ちょっと待て。
ジュン:何を。
トシオ:走ってどうする。
ジュン:だって、走らなきゃ体温。
トシオ:いつまで。
ジュン:止まるまで。
トシオ:息がか
 
皆動きを止める。
 
カエデ:無駄ね。助け来ないもの
ジュン:なら、どうするの。あの音とまるまで待つ。
 
ひぃーんと言う音。
 
トシオ:祈るんだな。
アキラ:いやよ、こおっちゃうの。なんか方法ないの。
トシオ:無駄といったろ。
アキラ:でも。
トシオ:あきらめろっ。
アキラ:いやっ。
トシオ:ばかかお前は。
アキラ:バカで結構、あきらめわるいもん。
トシオ:がきか。
ゴダイ:これ。
トシオ:お前!
 
といいかけて。
 
トシオ:どうすんだよ。
ゴダイ:燃やす。ひゃむい。
ジュン:そっか、燃やせば暖かくなる。あつめて。
カエデ:この紙で。カルテよ。
アキラ:こいつも。
ジュン:少しでも集めて。
ゴダイ:これも。
ジュン:そこのかべこわれてる。それも。
カエデ:これいい。
アキラ:手伝う。
ジュン:もっと。
 
と、ばたばたしてる。
冷たく見てるトシオ。
 
ジュン:どうしたの。協力しなよ、みんなやってるじゃない。
トシオ:燃やしてどうなる。
ジュン:あったかくなるじゃないばかっ。
トシオ:いつまで燃える。
ジュン:えっ。
 
皆、ばたついている手を休めた。
 
トシオ:密閉状態つていったろ。あぶねーよ、それに、酸素がもたねー。
ジュン:あっ。
 
気がついた。
 
ジュン:酸欠だ。
 
がっくりくるみんな。
 
ジュン:で、でも、こちらの壁を。
カエデ:そうよ、壊せば。
トシオ:やってくんだろ。
 
間。
 
ジュン:来るとは限らない。凍えるよりましよ。
アキラ:こわそ。
トシオ:しらねーぞ。
ジュン:何もしないよりましだよ。お願い。
ゴダイ:ひゃむい。
ジュン:あんたも、バカばっかり言ってないで。
ゴダイ:ひゃい。
カエデ:これでこわそ。
ジュン:つかえるね。
 
へっぴり腰でやるがうまくいかない。
 
トシオ:わかったよ。どいてな。こうすんだよ。
ジュン:かっこいい。
トシオ:あほっ。
 
といって、打ち壊すとたんに。
爆発音。
みんなふっとび。
 
トシオ:いてー。
カエデ:なにー。
アキラ:ちよっとどいてよー。
カエデ:あんたがどいてよー。
ジュン:なによこれー。
ゴダイ:ひゃむいーっ
 
明かりが照らされている。
男が居た。
 
ヒロシ:なにしてんだぁ。
 
作業服姿。ヘルメットにライト。
ロープ、つるはし、等重装備。
のんびりした物言い。
 
ヒロシ:なんだおめーら。
 
みな、唖然。
 
ヒロシ:何とか言えよ。口あんだろが。
トシオ:あんたこそ何してんだ。
ヒロシ:みりゃわかるだろ、ぶっこわしてんのよ。
カエデ:ぶっこわす・・。
ヒロシ:にげなきゃなんないだろが。
ジュン:なにしたの。
ヒロシ:ちょこっと発破をな。
トシオ:アブねーだろが。
ヒロシ:すまんのう。人が居るとはおもわなんだわ。
 
見回し。
 
ヒロシ:いきどまりか。どりゃ。
 
と、上手へ行き、仕掛けようとする。
 
トシオ:何すんだよ。
ヒロシ:穴開けるのさ。
ジュン:やめてよ。
ヒロシ:なんで。
アキラ:食べられちゃうよ。
ヒロシ:は?
カエデ:いるのよ、何か。
ヒロシ:居るって?何が。
カエデ:なにかが。
 
困った様子で。
 
ヒロシ:おい、こいつらおかしいんか。
トシオ:かもな。
アキラ:ばかっ。しんぱいしてるんじゃない。
ヒロシ:心配って。
アキラ:だから、なにかがいるのよ。向こうに。
 
笑い出す。
 
ヒロシ:こいつぁいいや。これ以上しんぱいすること有るってか。
 
笑うが。全員マジな顔で居るんで。
 
ヒロシ:マジな話か。
 
頷く人々。
 
ヒロシ:じゃ、なおさらいかねーとな。
トシオ:何でだよ。
ヒロシ:やばいんだよ、向こう水が出てる。
ジュン:水?
ゴダイ:ひゃむい水?
アキラ:地下水?
カエデ:タンクが壊れたとか、水道が破裂?
ヒロシ:そういっぺんにごちゃごちゃ言われてもな。
トシオ:水没してるってことか。
 
見返して。
 
ヒロシ:まあな。
ジュン:じゃ。
ヒロシ:あと、二時間ぐらいかな。
 
と、のんびり。
 
カエデ:何が。
トシオ:ここまで水が来るってこと。そうだな。
ヒロシ:そう言うことになるかな。
アキラ:なるかなって。そんな。
ヒロシ:おれにいわれてもな。
ジュン:無責任!
ヒロシ:ほう?おもしろいこと言うねえ。
 
と、ドスが利く。
 
ヒロシ:あんたらにはなんも関わり合い寝えんだけどな。それても、なんかい?オレがオレが悪いっていうのかい?
 
と懐に手を入れる。ドスでもありそう。
 
ジュン:あ、いえ。そんな。
カエデ:水!
えっと振り返る。
 
カエデ:水が来たっ、ほらっ。
 
駆け寄るみんな。
 
ゴダイ:水だ。
アキラ:しゃべれるのね。
ゴダイ:あ、ひゃむい。
トシオ:やばい。
ヒロシ:どれどれ。
 
と、のぞき込み。
 
ヒロシ:大丈夫だな。
ジュン:ほんとに。
ヒロシ:一時間は持つ。
 
えーっとみんな。
 
トシオ:どうする。
ヒロシ:別に。
トシオ:死んじゃうぞ。
ヒロシ:どうして。
トシオ:だって、全部つかって。
ヒロシ:つかるのか?
トシオ:え?
ジュン:どゆこと。
ヒロシ:足首ぐらいまでだな来ても。
トシオ:ぬおーっ。なんじゃそりゃー!!
ヒロシ:何で怒ってる?
トシオ:何でって、お前が言ったろうが!!水が来て水没するって!!
ヒロシ:いったか?
ジュン:ううん。
 
周りのもの一同首を振る。
 
ヒロシ:言ったか?
トシオ:いや、あの。
ヒロシ:いったか?
トシオ:いや、あの、その・・・ごめんなさい。
ヒロシ:わかりゃいいんだ。
トシオ:すんせん。・・・ちぇっ。
ヒロシ:なんだ。
トシオ:え、なんにも・・・まったく。
 
ぶつぶつ。
 
カエデ:でも、なんとかしなきゃ。
アキラ:そうよ。このままじゃ、座りも出来ないわ。
ゴダイ:なんかつめよ。そこのぼろでもさ。
ジュン:大した効き目ないよ。
カエデ:やらないよりやったほうがいいでしょ。
ジュン:やらないって言ってないじゃん。
アキラ:だいたいあんた態度がでかいわよ。ねえ。
カエデ:そうそう。先輩面して。
ジュン:何その言い方。あんたらみたいな後輩持った覚えなよ。
カエデ:ここのせんぱいじゃない。
ジュン:ンもー、頭来た。
アキラ:やる気。
ゴダイ:まあまあ。
ジュン:うっさい。
 
どつく。
 
ゴダイ:いってー。
 
と、転がった。
トタンに。
音楽がけたたましくスイングする。
 
アキラ:八つ当たりね。
ジュン:うっさいわね。
カエデ:水とめないの、とめるの。
ジュン:とめりゃいいでしょ。
 
と、やつあたりぎみに。
 
ジュン:どいてっ。
 
とゴダイを邪険に扱う。
 
ゴダイ:ひゃむい態度。
ジュン:うっさい。
トシオ:おいおい。
ジュン:あんたも手伝いなさいよっ。
トシオ:へいへい。
ジュン:返事は一回!
トシオ:へい。
アキラ:奥さんみたい。ねーっ。
カエデ:ねー。
ジュン:何ですって。
アキラ:あら、聞こえた。
ジュン:聞こえたわよっ。バカにしないでっ。
カエデ:褒めたのに、ねー。
ジュン:ふざけんなっ。
カエデ:まじめよっ。
ヒロシ:いい加減にしな。
 
間。
音楽、スイングする。
 
ジュン:あー、うるさい、うるさい、うるさいっ!
 
と、手近にあったもくざいでぶったたく。
止まる。
鳩時計、ぽっぽー、ぽっぽっーぽっぽー。
間。
 
トシオ:あのう。
ヒロシ:なんだよ。
トシオ:みずとまってるけど。
ゴダイ:ほんとだ。
カエデ:どうして。
ヒロシ:わからんな。
ジュン:よかったじゃない。
 
と、冷たい。
 
アキラ:そうね。でも。
 
ちらちらっと明かりがちらつき、すっと消える。
 
アキラ:やられたみたい。
トシオ:何が。
カエデ:確か、この階には電気室があったはずよね。
アキラ:うん。
ヒロシ:電気系統が死んだな。
ジュン:冗談じゃないわ。電気つかないの。
ゴダイ:ひゃむくなる?
ヒロシ:普通はな。
 
音楽また鳴る。
 
トシオ:電気通ってるぞ。
カエデ:でも。
アキラ:明かりはつかない。
ジュン:ブレーカーだけじゃない。この系統の。
ヒロシ:だとしても状況に代わりはない。
トシオ:あのー。
ヒロシ:なんだ。
トシオ:このままでしょうね。
ヒロシ:電気か?・・たぶんな。
ジュン:そんな。
ゴダイ:けーたい有るよ。
 
と、携帯の明かりをつけようとするが。
 
ヒロシ:つけるな。電池がもったいない。
アキラ:充電できないよ。
ゴダイ:でも、通じないんじゃいみないよ。
カエデ:万一の場合においといたら。
ゴダイ:そっか。
 
と、消す。
間。音楽つづく。明るいだけにやりきれない。
 
トシオ:このまま続くのかなあ。
ジュン:切れるわよ。どうせそのうち。
トシオ:ああ。そうだな。
ゴダイ:なあ、たすかるかなあ
トシオ:しるか。
ゴダイ:でもよ。
トシオ:ねてろ。
カエデ:果報は寝て待て
アキラ:寝る子は育つ
ジュン:寝た子はおきないよ。寝っぱなし。
ゴダイ:しんじゃうよ。
 
間。
音楽はあくまで明るく陽気。
 
トシオ:ちくしょう、やけにあかるいじゃん。
ヒロシ:ほっとけよ。子守歌さ。
ジュン:誰があやしてんの
ヒロシ:さあな。
トシオ:待つしかない。
カエデ:誰を。
トシオ:助けさ。
カエデ:来るの。
トシオ:来るさ。
アキラ:あてになんないわよ。
トシオ:他には何もすることないだろ。
ジュン:まあね。
ヒロシ:まつしかないわな。
ゴダイ:ひゃむい。
トシオ:すぐ来るって。
ゴダイ:しんじゃうよ。
トシオ:ねてろ。
ジュン:この曲聞いたことある。
トシオ:なんてだ。
ジュン:忘れた。
トシオ:思い出すまで寝てろ。
ジュン:そうするわ。
 
暗転。
 
ゴダイ:うしになりてーっ。
トシオ:寝てろーっ!!
 
音楽は続く。みな寝た。
音楽は止まってる。
突然電話が鳴る。
飛び起きるみんな。
 
トシオ:はいっ。、もしもし、もしもしっ。
 
切れている。
 
トシオ:なんだよ、何だよ、その目。切れたんだよ。何も話さないうちに。ほんとだったら。
ジュン:失望してるだけ。責めちゃいないよ。
ゴダイ:腹減った。
カエデ:・・あ、12時間経ってる。
トシオ:・・ほんとだ。
ゴダイ:助け来ないよ。
 
ちらちらっとして、電気がついた。ひぃーんと言う音。
 
トシオ:電気は来た。
アキラ:やれやれ、消えたり、ついたり、わけわからない。
ゴダイ:ノド渇いた。
ジュン:みずならあるじゃない。
ヒロシ:やばいからやめとけ。
ジュン:でも。
ヒロシ:しぬぞ。汚水が混じってる。
カエデ:え、下水。
アキラ:そういやなんか臭いと思った。
ゴダイ:ノド渇いた。
トシオ:我慢しろ、死ぬぞ。
ゴダイ:我慢できねー。
トシオ:あほっ。しんでいいんか。
ゴダイ:牛になりてーっ!!
ジュン:なれば。
 
間。
 
トシオ:なってどうする。
ジュン:しらん。
ゴダイ:うしになりてー。お腹痛い。
 
うなってる。
 
トシオ:どうした。
 
とちかより、ハッとする。
 
トシオ:熱がある。
カエデ:どいて。
 
と、額にさわる。瞼をひっくり返したり舌を出させたりする。
お腹さわってみる。
深刻そう。
 
ジュン:どう。
カエデ:はっきりとは分からないけど。
 
と、アキラを促す。
アキラも見てみて。
 
アキラ:たぶんね。
カエデ:でしょ。
トシオ:どう。
カエデ:多分腹膜炎起こしてる。
トシオ:腹膜炎。じゃ。
アキラ:虫垂炎起こしてたんじゃないかなぁ。それで・・。
トシオ:お前前からいたんでたのかよ。
ゴダイ:いたいからここきた。牛になりてー。
ジュン:どうするの。
 
首振って。
 
アキラ:薬もないし。
トシオ:ないしって。
カエデ:どうしようもないわ。
 
小声。
 
トシオ:そんな。
ゴダイ:いてーっ。牛になりてー、ノドかわいたー。
トシオ:どうしよう。
ヒロシ:捜すんだな。薬。
ジュン:捜すって。
ヒロシ:そのままじゃ死んじゃうんだろ。薬局どのあたりだっけ。
アキラ:下の階。
ヒロシ:じゃいくか。
トシオ:いくかって・・。
ヒロシ:みごろしにするんか。
トシオ:しないけど。どうやって。
ヒロシ:二つにわけよう。ここに残るもの。薬探しに行くもの。うまくすると食い物もあるだろうし。
ジュン:明かりは。
 
カエデがペンライトを示す。
 
カエデ:連絡は。
ヒロシ:携帯で。指示してくれ、場所がわかりにくい。出来るか。
カエデ:多分。
トシオ:誰がいく。
 
ヒロシ、見回して。
      
ヒロシ:看護婦一人残らないとな。
アキラ:私残る。
ヒロシ:後、男か。
トシオ:よし。
ジュン:私残るわ。
ヒロシ:そうしてくれ。
トシオ:どちらから往く。
ヒロシ:水が出ない方だな。
カエデ:でも、そっちは。
ヒロシ:出るかでないかは時の運さ。時間ないだろ。
カエデ:ええ。
ヒロシ:じゃ往こう。
ゴダイ:うしになりてー。
 
声が弱ってる。
 
トシオ:確かに時間ないな。往こう。
ジュン:食べ物も捜してね。
カエデ:分かったわ。
 
音楽が流れる。
 
トシオ:またかよ。
アキラ:寂しくないからいいよ。
ジュン:頑張って。
トシオ:ああ。
ヒロシ:往くぞ。
 
音楽に見送られるように、上手に向かう。
暗転。音楽高まる。
静まってかすかに流れている。
溶暗。
残されたもの達。
トランシーバーで話してる。
 
アキラ:そうよ。階段有るでしょ。その階段上がって、・・えーっと左。違う、右だ。・・ごめんなさい。そう。右のほう。崩れてる?じゃ、一度戻って、階段降りて、反対側の階段へ回って。いける?
 
ジュンが奪い取る。
 
ジュン:ねえ、思い出したんだけど、真ん中あたりにある病室ない。そう、五藤っと名札ある。底に食べ物有るよ。林檎だけど。えっ、潰れてる。ドア、開かない。何とかやってみてよ。・・そう。え、お見舞いにいってたの。・・そう、だめだったのね。
 
再びカエデ。
 
アキラ:わかる?そう。反対側。かわって。
 
相手はカエデに代わった。
 
アキラ:そう、あたし。ナースステーションチェックしてよ・・誰もいない?抗生物質は、えっ、潰れてる。それに・・・来たのね。分かった。
 
反対側から様子伺いながら出てくる探検隊。
二面舞台ふうになる。
トシオたちに明かり。
 
カエデ:そう。やられたみたい。大丈夫。いない。めちゃめちゃだから、やっぱり倉庫見なきゃね。うん。今来てる。分かった。気をつけて。・・そこよ。
トシオ:薬有るのか。
カエデ:荒らされてなきゃね。
ヒロシ:ドアがこわれてるな。なんか強い力で壊されてる。
トシオ:誰かがやったのか。
ヒロシ:人間の力じゃむりだな。
トシオ:すると・・。
カエデ:いきましょ。
トシオ:ああ。
 
明かり消える。ジュンたちにあかり。
 
ジュン:なんかやばそうね。
アキラ:めちゃくちゃね。
ジュン:ねえ。
アキラ:何。
ジュン:バリケード。
アキラ:そうね。
ゴダイ:無理しないで。
ジュン:無理しないで寝てなさい。
ゴダイ:ごめん。
アキラ:ごめんで済むなら病院いらんわ。早く手当てしなかったの。
ゴダイ:金ない。
アキラ:ないったって。盲腸ほっとくと。
ゴダイ:牛になるよ。
ジュン:熱上がったみたい。
アキラ:バリケード。
ジュン:そうだね。
 
二人取りかかり、明かり消える。
トシオたち。
 
トシオ:あるか。
カエデ:多分・・あ、割れてる。これも。ちっくしょう。
ヒロシ:静かにっ。
 
間。
しゃかしゃかする音。
 
カエデ:ひっ。
ヒロシ:落ち着け。遠い。
トシオ:早くしよう。
カエデ:で、でも。
トシオ:とにかく薬。長居は無用。
カエデ:わ、わかった。
 
あわてている。
 
ヒロシ:落ち着け。大丈夫。
カエデ:そんなこと言ったって。・・あ、あった。
 
と、二三本取る。
 
トシオ:注射器は。
カエデ:あ、そ、そうね。
ヒロシ:あわてるな。
カエデ:そんなこと言ったって・・。
 
と、泣きそう。
 
ヒロシ:音を立てるな。ほんとにくるぞ。
 
あわてて、捜す。
ひそひそごえで。
 
カエデ:あった。
トシオ:いこう。
 
と、いったとたん何かにひっかかつてトシオがこける。
 
トシオ:いってーっ。
カエデ:しずかにっ。
ヒロシ:気づかれた。
二人 :えっ。
 
明かりが消える。
しゃかしゃかいう音大きくなる。
ジュンたちに明かり。
 
ジュン:どうしたの。えっ、くるって。分かった。気をつけて。
アキラ:どうしたの。
ジュン:薬見つけたけど。
アキラ:来たのね。
ジュン:そう。
アキラ:バリケード、早く。
ジュン:まって、帰ってくるよ。
アキラ:それまでに来たら。
 
顔を見合わす。
頷いて。猛然ととりかかる。
 
ゴダイ:ひゃむーい。
 
音楽がやや大きくなる。
明かりが消える
トシオたちに明かり。
はいつくばったり警戒態勢。
 
カエデ:来る?
ヒロシ:さあな。
トシオ:やばいよ。
ヒロシ:分かってる。様子を見よう。
 
音は大きくなる。
 
カエデ:来るわ。
ヒロシ:やむをえん、おとりだな。
トシオ:おとり?誰が。
 
二人、トシオをみる。
年をブルブル顔を振る。
 
ヒロシ:誰もあんたになれっていわないよ。オレがなる。
カエデ:ダメよ。
ヒロシ:仕方ないだろ。死ぬと決まった訳じゃない。
カエデ:でも。
トシオ:はやくしなきゃ。
カエデ:あんたの方がいいかも。
トシオ:無理だよ。
ヒロシ:しずかにっ。
 
音が大きくなる。
 
ヒロシ:いいか、オレが引きつけてる間に反対側に走れ。
カエデ:でも。
ヒロシ:オレは大丈夫。それより薬落とすなよ。
カエデ:分かった。
トシオ:早く。
 
ヒロシじろっと見て。
 
ヒロシ:わかってるよ。じゃ。
カエデ:気をつけて。
ヒロシ:あんたもな。
 
ヒロシ、手近なものをかまえて身構える。
 
ヒロシ:かかってこいヤー。
 
明かりが消える。
音が大きくなる。
ジュンたちに明かりがつく。
 
アキラ:もしもし。もしもしっ。ダメだ。
ジュン:どうしたの。
アキラ:わかんない。なんかあったみたい・・あっ、はい。どうしたの。えっ。・・わかった。気をつけて!!
ジュン:何があったの。
アキラ:襲われたみたい。
ジュン:えっ。大丈夫。
アキラ:いまのところ。
ゴダイ:大丈夫・・大丈夫。
ジュン:ねてなさい。
ゴダイ:みんな・・大丈夫・・。牛になりたい。
アキラ:まずいわね。意識喪いかけてる。
ゴダイ:牛になったらなぁ・・反芻できるぞ・・腸が動くんだ。ホルモンが動く。どくんどくんどくんどくんどくん・・・
ジュン:なにいってんの。
ゴダイ:溶けるよう・・溶けてくよう!牛だよー。反芻するぞー。熱いよう!牛になりてーっ!!
 
絶叫してけいれんして静かになる。
 
ジュン:死んだっ?!
アキラ:気を失っただけ。・・でももたないかも。
ジュン:薬来ないと。
アキラ:来てもね。
ジュン:手遅れ?
 
アキラ頷く。
 
ジュン:馬鹿だね。こんなとこ来て。
アキラ:運が悪いのよ。
ジュン:それは同じよ。
アキラ:・・そうね。
ジュン:大丈夫かな。
アキラ:そう思わなきゃ。
ジュン:帰ってくるかな。
アキラ:たぶんね・・。
 
見合わせたが。
 
ジュン:聞こえない。
アキラ:何が。
ジュン:ほら。
 
鼓動音。
だんだん大きくなる。
 
アキラ:なにかな。
ジュン:さあ。
 
不安になりながら聞き続ける。
溶暗。
アキラ絶叫。消える。
ジュン:どうしたの。ねぇっ。どうしたの!
 
鼓動音大きくなる。
小さくなって消えた頃。
トシオ達に明かりが入る。
別の部屋に来たようだ。
明かりは暗い。
 
トシオ:ここまっすぐに行けば戻れるだろ。
ヒロシ:そうだな。
トシオ:うぉっ、生きてた。
ヒロシ:勝手に殺すな、行くぞ。
 
といきかかり。
 
カエデ:待って!
トシオ:どうした。
カエデ:違う。ここ違う。
トシオ:だって同じ階のはずだよ。なっ。
ヒロシ:そうだ。
カエデ:でも違う。ほら、そこには階段ないはずよ。
トシオ:え?そうだったか。
ヒロシ:いわれりゃな。
トシオ:でも、そんなはずないけど。
 
と、なにげにあける。
音楽がかかる。
光が照らされる。
 
トシオ:うわっ。
 
とあわてて閉める。
カエデは飛び退くが電気でも通ったようにけいれんして崩れ落ちる。
 
ヒロシ:みたか。
トシオ:あれはなんだ。
ヒロシ:楽団だろ。
トシオ:そんなはずは。
ヒロシ:も一度やってみろ。
 
顎で指示する。
トシオおそるおそるあける。
何もない部屋。
 
トシオ:あれ?
カエデ:何もないわ。ほら。
トシオ:どういうことだ。
カエデ:分からないけど。
 
と、下手よりの壁のほうにさわる。電気に触れたように硬直。
気づかずに。上手のほうにある壁をさわる感じで。
 
ヒロシ:やばいな。
トシオ:何が。
ヒロシ:さわって見ろ。
トシオ:それが。
とふれて、思わず手をびくっと引く
 
トシオ:あったけー。
ヒロシ:しめってるだろ。
トシオ:なんかいやなにおいだな
 
と、手をかぐ。
 
ヒロシ:それに、よく見ろ。
トシオ:え。
ヒロシ:微かに動いてる。
 
じっと見て
 
トシオ:うぇっ、ひくついてるよ。
ヒロシ:わからんがやばそうだ。行こう。
トシオ:ああ。
 
二人行きかかるがカエデはついてこない。
 
ヒロシ:どうしたっ!
トシオ:おい、何してるっ!
 
カエデがおかしい。
この間からだがびくっびくっとけいれんしていた。
 
カエデ:そうよ、牛よ。牛なのよ。
トシオ:おいっ。
 
と、振り向かせると焦点が合ってない。
笑い出す。
 
カエデ:うしになりてーっ。
トシオ:何いってんだ。
 
と、掛けた手にかみつく。
 
トシオ:いてーっ。何すんだ!!
ヒロシ:下がれ。
トシオ:どうした。
ヒロシ:狂った。
 
ポケットに入れてた薬を飲む。
だらだらと口から薬がこぼれる。
焦点が合わないまま。
 
カエデ:食ってやる。貴様達を食ってやるー!!
 
再び絶叫。
だがトシオ達を認識しているのではない。
後じさりする二人。
 
トシオ:狂ってる。
ヒロシ:いくぞ。
トシオ:おいてくのか。
ヒロシ:仕方ない。
トシオ:薬は。
ヒロシ:無駄だ。
 
再び薬をぽろぽろこぼしながら食べるカエデ。
顔はゆがんでる。
 
カエデ:食って寝ると牛になる。牛は反芻する。腸が動く、どくんどくんどくんどくんどくん・・・
 
けいれんするような変な動きしながら舞台袖のほうへさりげに移動。
 
トシオ:しかし。おいといたら。
ヒロシ:だめだ。
トシオ:けど。
 
といったと瞬間。
 
カエデ:ぎゃーっ。
トシオ:うわーっ。
 
絶叫したと同時に引っ張られてように消える。
ぽっぽーぽっぽーぽっぽーと間抜けな鳩時計。
腰抜かしたトシオの前に靴が転がる。血まみれ。
 
トシオ:うわ、うわ、うわーっ。
ヒロシ:やばいっ。
トシオ:まってくれーっ
 
とはうように逃げようとする。
暗転。
鼓動音。
微かに続く。
電話の音。ベルが続く。
ジュン達のほうが明るくなる。
転がっているゴダイ。アキラはいない。ぼんやりしているジュン。
ベルが止まった。
 
ジュン:止まった。
 
その瞬間、二人が転がり込んでくる。
 
トシオ:いってー。
ジュン:どうだった。
ヒロシ:だめだ。
ジュン:あの子は。
 
首を振る。
 
ジュン:そう。こっちも。
トシオ:やられたのか。
ジュン:消えたわ。これだけ残ってる。
 
とまた血まみれの靴をほうる。
 
トシオ:うわっ。
 
と後じさりする。
 
トシオ:食われたのかっ
ジュン:わかんない。
トシオ:わかんないって、いないんだろがっ。
ジュン:知らないわよっ。
トシオ:知らないって、お前!!
ジュン:もういやっ。こんなのいやっ!!
トシオ:落ち着けよ!
ジュン:どうやって。いったいなによこれ!地震で壊れたんじゃないのこのパブ!それがなんかいるだの食われるだの。
トシオ:ちょっと待て!
ジュン:待てないわよ!
トシオ:まてったら!
 
吠える。
 
ジュン:何を。
トシオ:今なんて言った。
ジュン:なんて?言ったわよ食われるだのなんだのって訳わかんない、いつの間にか人消えるし!
トシオ:その前!
ジュン:え?
トシオ:食われるだのなんだのの前。
ジュン:え、地震で壊れたんじゃないかって。
トシオ:何が。
ジュン:だからこのパブが!
トシオ:ここは病院だろ。
ジュン:え?
トシオ:お前言ってたじゃねーか、五藤の病室がどうのこうのって。
ジュン:そんなん知らないわよ!
トシオ:お前なぁ。
ヒロシ:ちょっとまて。ここは現場だぞ。
ジュン:何いってんの。ここは。
トシオ:こここは。
ヒロシ:ビル工事だ。だって俺は。
 
沈黙。
間。
 
ジュン:どういうこと。
 
ゴダイがなんかうめく。
 
トシオ:なんだ。
ゴダイ:うしになりてー。
トシオ:けっまだ言ってやがる。なれよ、なりたかったら、牛でも豚でもなっちまえーっ。
ゴダイ:なるよ。
 
微妙にはっきりした言葉。
はっとするとけいれんするゴダイ。
死ぬ。
 
ジュン:死んだわ。
トシオ:ああ。
 
鼓動音がする。
明かりがちらちらする。
 
ヒロシ:いくぜ。
 
ちらっと見て。
 
ジュン:いけば。
ヒロシ:ああ。
トシオ:どこへ。
ヒロシ:わかんねえな。でぐちだよ。ここはビルだ。建築中の五階建てのビルだ。出口はある。
ジュン:パブだって。
ヒロシ:見解の相違だな。
 
さっと壁をなでて。
 
ヒロシ:しめってる。いかないのか。
トシオ:どこへ。
ヒロシ:出口だよ。
ジュン:あればね。
ヒロシ:つくるのさ。
と、発破のようなものを用意した。
 
ヒロシ:こいつでな。
 
と、ばっと出ていった。
 
ジュン:さよなら。
トシオ:行かないのか。
ジュン:どこへ。
トシオ:その・・・パブの出口。
ジュン:病院のでしょ。
トシオ:あればな。
 
間。
ぽっぽー、ぽっぽー。と鳩時計。
ジュン:死ぬわ。
 
爆発と共に。
 
ヒロシ:うしになりてーっ
 
絶叫が聞こえる。
ぽっぽー、ぽっほー。
 
ジュン:死んだわ。
トシオ:でたらめだな。
ジュン:なにが。
トシオ:なにもかも。
ジュン:人生みたいにね。
トシオ:ああ。なにがなんだかわからねーっ。
 
間。
 
トシオ:おい。
ジュン:何。
トシオ:濡れてきてねえか。
ジュン:今気がついた。?
トシオ:動いてるかな、あの壁。
ジュン:かもね。
 
笑い出すトシオ。
 
ジュン:おかしいの。
トシオ:なんだかな。
ジュン:そうね。
トシオ:音楽欲しいな。
ジュン:あるんじゃない。
 
音楽が流れ出す。
 
ジュン:ね。パブだもの。
トシオ:病院でもいいや。
 
鼓動音が被さる。
 
トシオ:牛になりてー、か。
ジュン:ぞっとしないね。
トシオ:ぞっとしない。でも。
ジュン:でも。
トシオ:消化されるのはもっとぞっとしねえなね
ジュン:反芻されてもね。
 
間。
 
トシオ:暇だな。
ジュン:暇だね。
トシオ:なにまってんだろな俺達。
ジュン:何待ってんだろ。
トシオ:おわりあるかなあ。
ジュン:さあ。
 
間。
 
トシオ:しりとりでもやるか。
ジュン:どうして。
トシオ:やらねえよりましだろ。牛。
ジュン:塩。
トシオ:檻。
ジュン:リボン。
トシオ:んがついた。反芻。
ジュン:牛。
トシオ:塩。
ジュン:檻。
トシオ:リボン。
ジュン:ンがついたわよ。牛。
トシオ:塩。
ジュン:檻。
トシオ:リボン。
 
鼓動音が少しずつ大きくなる。
音楽も大きくなり始め。
暗くなっていき。
 
2人 :牛になりてーっ
 
びたっと音が止まり。
ぽっぽーぽっぽーと鳩時計。
再び音楽大きくなっていく。
 
【 幕 】

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