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「千年女王の夜は深く・・神林響(かんばやし ひびき)の冒険第一章・・」     

作 結城 翼 
       
     第24回四国地区高等学校演劇研究大会劇団「猫のSippo」(高知南高等学校演劇部)上演台本
 
献辞:不撓不屈(ふとうふくつ)の少年少女たちへ。勇気が何より!元気が一番!
 
☆登場人物
神林 響(かんばやし ひびき)・・・地上からの「脱落者」でネズミと呼ばれる地下住民。天衣無縫、天下無敵の美少女(たぶん)。
カケル・・・・・地上からやってきた少年。
茉莉(まつり)・・・・・・気位高そうな地底人の美少女。
ハリネズミ・・・ウガガなネズミの相棒。
ヤグモ・・・・・ぷっつん警備局員。地底人でありながら響の友達。
 
 
 
 
Tプロローグ
 
ざっざっざっざっという軍隊が行進するかのような威圧的な音。
青い夜。壁に囲まれた地下の広場。
奥の方から光の束が放射状に降りている。
光はゆっくりと脈動する。
緊張感が漂う音があふれて、揺れる。
ネズミたちが恍惚として通る。
一段高いところに、純白のドレスに包まれた千年女王がいる。
その光景は確かにどこかで見た悪夢に似て奇妙なゆがみがある。
彼女は、やがて失望したように去る。
音はまだ完全ではなかったようだ。
ネズミたちも去り、静かに青い夜が明ける。
そしてただの青い朝が来た。
Uネズミの朝
 
青い朝にふさわしい明るい音楽。
少女が歯磨きしながら出てくる。
胸には笛のような銀色のペンダント。
熱心に歯を磨いたと見えて、鏡にいーっをして一安心すると。
 
響 :よっし。
 
水を蹴立てたような元気な洗面。
手探りでタオルを探し、あったと見えて、勢い良く顔をふく。
 
響 :ふーっ。
 
と、ためいき吐き。簡単に髪を整える。
うまくいったらしく。
 
響 :よっし。
 
と、満足そうに、ヘアピンなんかをつけている。
パンパンと頬をたたき。
 
響 :OK。
 
口笛吹きながら、食卓を整える。
小さいテーブルにイスを一つ持ってくる。楽しそうに元気に。
写真スタンドも一つある。大事に拭いて、置く。
小さいお皿。カップも一つ。
台所とおぼしきところに引っ込んで、また出てくる。小さいパンが一つだけ。
鼻歌歌いながら、一人で食事を始める。
 
響 :いただきます、お父さん。
 
もちろん、父はいない。どうやらスタンドの写真が父らしい。
少し食べて、写真に語りかけている。別に湿っぽくはない。元気な様子。
 
響 :お父さん。響は今日も元気だよ。ほら、パンがあるもの。おいしいよ。ふふ。お父さん、欲しいでしょ。はい、あげる。っとおもったけどやーめた。
 
と、ぱくっと食べる。
 
響 :へへっ。ごめんね。だけど、もうこれでパンはありません。
 
全然危機意識がない声。
 
響 :今日は響の誕生日だというのにね。このままじゃやばいです。あ、14才になったからね。
 
と、ミルクならぬ水を飲む。
 
響 :これもただの水だし。誕生日プレゼントも届かないし。ほんとに困ってます。
 
全然困っていない声。
 
響 :どうしようか、お父さん。
 
と、少し考える。だがいい知恵は出てこない。
 
響  :ヤグモに頼んで探したんだよ。ずいぶん仕事。えーと。
 
と、ポケットから手帳らしいものを引っぱり出す。
ぺらぺらとめぐって。
 
響  :でもね、お父さん知ってるとおりネズミにはなかなか仕事まわってこないのよね。やっとおとつい、どぶさらいみつけたわけ。14の乙女がどぶさらいよどぶさらい。もう最低ね。でもね、そいついやらしく笑ってこういうの。あんたはネズミだからダメだって。馬鹿にして、どぶさらいもやらしてくれないの。ひどいよね。
 
と、まためぐって。ため息ついて。
 
響  :・・一日一個ってパン決めて、のばしてきたんだけどね。
 
と、手帳をしまう。
 
響  :水だけじゃ持たないしね。
 
と、ここは少し情けなさそうに皿を見て、おなかを少しなでる。
 
響  :ごちそうさま。
 
と、お皿とコップを片づけに立つ。
  そのすきに、するするっと出てくる影。
写真を調べている。
 
響  :とりあえず、も一度仕事探してみるね。これじゃひぼしになっちゃう・・・。
 
と独り言をいいながらでて来るが。
 
響  :誰。
 
男の子がいた。
 
U侵入者たち
 
カケル:渡して。
響  :何?
カケル:持ってるだろ。渡して。ボクに。
響  :何言ってるの。
カケル:日記帳。
響  :日記帳って。
カケル:君のお父さん。
響  :お父さんって。
カケル:神林恭一郎。違う?君は神林響。
響  :響だけど。
カケル:なら、知ってるはずだ。神林恭一郎の日記。
 
思わず、ポケットを握りしめる。
 
響  :失礼な人ね。ひとんちにずかずか入ってきて、いきなりの挨拶がそれ。名前ぐらい名乗ったら。
カケル:ゴメン。ボクはカケル。時間がないんだ。お願い、ボクに渡して。
響  :いやよ。
カケル:そんなこと言わずに。知ってるだろう君も。
響  :何を。
カケル:ウサギの夜に取りに来い!
響  :なにそれ。分けわからない呪文。
カケル:知らないはずはない。君のお父さんが言ったはずだ。銀河の街に取りに来い。ウサギの夜に取りに来い。
 
響、少し動揺する。ポケットをきつく押さえる。
めざとく見つけるカケル。
 
カケル:知ってるね。
響  :し、知らないわ。
カケル:嘘だ。
響  :知らない。
カケル:嘘だ。
響  :知らない。
 
追いつめられる響。壁まで追いつめられた。
逃げ道を両手でふさがれ、顔を近づけてカケルは問いつめる。
 
カケル:しってるだろ。
響  :しってたら何よ。
カケル:言ってみて。
響  :何を。
カケル:銀河の街に取りに来い。言って!
響  :銀河の・・街に・・取りに来い。
カケル:続き。・・言って!
響  :ウサギの夜に取りに来い。
カケル:その続き!
響  :祭りの夜に取りに来い。
二人 :竜の牙を取りに来い。
 
ばっと離れたカケル。
 
カケル:知ってるじゃないか。
響  :ひどい。
カケル:何が。
響  :無理矢理言わせて。お父さんの大事な・・。
カケル:日記帳。
響  :そんなの無いわ。
 
笑って。
 
カケル:そのポケットにあるのがそうだろ。
響  :ちがいます!
 
思わず引いた。
 
カケル:渡して。
 
と、進む。
 
響  :違うと言ったでしょ。
 
と、逃げる。
 
カケル:違わない。お父さんはボクにそういった。
響  :お父さんが、あなたに、何を。
 
思わず立ち止まってしまった。
カケルがすかさずつかまえる。
 
響  :離して。
カケル:これだね。
 
ポケットから素早く取り出す。
 
響  :返して。
カケル:後で。
 
と、離れる。
 
響  :今すぐ返して。返さないなら。
カケル:どうするの。
 
周りを見回すが何もない。
 
響  :人を呼ぶわ。悲鳴上げてやる。
カケル:ネズミの悲鳴なんて、誰もききやしないよ。
 
響、思いっきり悲鳴を上げる。
思わず耳を押さえるカケルだが。
 
カケル:なるほど、すばらしい。でも、誰も来ないよ。ネズミはネズミだ。
 
響、口惜しそうにしてるが。
やがて、につこりと笑顔を浮かべる。
 
響  :そうよ。響はネズミ。でもね、ネズミでも追いつめられると猫をかむのよ、知ってた!
 
というなり飛びかつて行く。元気だ。
 
カケル:わっ!
逃げる。入り口探すが、すかさずふさいでる響。
 
響  :それはあたしのものよ。
カケル:今はボクの手にあるさ。
 
と、ぐるぐる駆け引きしてるが、やがて、隙を見てだつと、出口へ走る。
 
響  :あ、まって!
カケル:あとで!
 
といつたまではよかったが、入り口で何かに跳ね返され、ひっくりかえる。
思わず日記帳がこぼれる。
すかさず拾って。
 
響  :どじね。
 
と、冷たい。
カケルは、しかし、入り口を見て。
 
カケル:畜生。
響  :誰。
 
響も身構える。
ハリネズミが出てくる。
茉莉がその後ろにいる。
 
ハリネズミ:人にもの尋ねる場合は、自分の名前から言うもんじゃないかい。
響  :ここ、私の家よ。
ハリネズミ:とネズミが言いました。
響  :あなたに私を侮辱する権利はないと思うけど。
ハリネズミ:失礼。事実を述べたまで。侮辱するつもりはない。私もネズミだ。
響  :ハリネズミね。まるで。
ハリネズミ:ハリネズミ?おもしろいこと言うね。
 
と、物騒なものを出しそうにするが。
 
茉莉 :水島。
ハリネズミ:何です。
茉莉 :いい名じゃない。
ハリネズミ:またまた。やめて下さいよ。
茉莉 :神林響さん?
響  :はい。
 
とケイカイ。
 
茉莉 :その日記帳を見せて。
響  :あなたも名前を言わないのね。
茉莉 :失礼。茉莉というわ。日記帳を見せてもらいたいの。
響  :(皮肉っぽく)ふーん。見せるだけでいいの。
ハリネズミ:お嬢さん、粋がらない方がいいよ。
茉莉 :どう、神林響さん。
響  :ヤダ。
ハリネズミ:何?
 
とすごむ。
思わず後じさる響。
 
茉莉 :どうして。
響  :どうして?恐れなモがら神林響、分けわからないまま、人にものかすほどお人好しじゃあないものね。一体この日記なぜ探してるの。
茉莉 :説明してやって、ハリネズミ。
ハリネズミ:はいはい。・・いいかい、響さん。あんたのお父さんの日記帳はね。
 
ところへ、元気な声。
 
ヤグモ:響ーっ、いるー。ヤグモー。仕事どうだった。
 
茉莉は直接顔を見られないように目をそらす。
ハリネズミがさりげなくガード。
 
ヤグモ:どぶさらいしかなくてごめんね。警備局の下っ端じゃあんなのしか世話できなくて。
響  :ありがと。感謝してるよ。でもごめんね、あれダメだった。
ヤグモ:なんで。
響  :ネズミだから雇わないって。
ヤグモ:今時まだそんなくだらないこと言ってるの・・くそっ。今度あったら締めとくからね。
響  :いいよ、ヤグモ。また自分で探すから。
ヤグモ:悪かったね。いやな気持ちにさせちゃって。またなんか探しとくよ。響とあたしの仲じゃない。
響  :ヤーグモ。
ヤグモ:ひびきーっ。
 
と、一生懸命しゃべっててやっと気がついた。
 
ヤグモ:あら。お客さん。
響  :呼びもしないのにね。
 
にげかけるカケル。
 
ヤグモ:そこの君!・・証明書は。・・ネズミか?
 
カケル、後じさりをする。
 
響  :カケル?
ヤグモ:カケルって言うの。カケル君。証明書は。
 
と、無防備に近寄るが、ばつと押しのけ、響の手を引っ張って逃げる。
 
カケル:行くよっ。
響  :ちょ、ちょっと。
カケル:おとうさんのこと知りたくないの。
 
響はためらったが、引っ張られるように去る。
 
ヤグモ:響っ。
 
と、追いかけようとして、ハリネズミがふさぐ。
 
ヤグモ:何する。ジャマをするな。
ハリネズミ:ふふん。カケルはこちらがもらうよ。
ヤグモ:何?あ、・・おまえ。
茉莉 :いくよ。
 
と、去る。
 
ヤグモ:あ、待て。
 
と、追っかけるがすっころばされる。
 
ヤグモ:くそーっ、あいつらだ。窓の手がかりだ。絶対逃がすか。おりゃーっ!!
 
と、ピストル構えて走る去る。
音楽。
威圧的な行進音。
暗くなる。
 
V神林恭一郎の日記帳
 
行進音が消えていく。溶明。
駆け込むカケルと響。
辺りをうかがうカケル。
響は息が切れている。
 
響  :もう、いい、でしょ。いき、切れて・・。
カケル:やすも。
響  :もうだめ。
 
と、へたる。
荒い息ついてたが。
 
響  :馬鹿みたーい。
カケル:何が。
響  :何であたしが逃げるのよ。
カケル:知らない。
響  :知らないってねえ。あんた。
カケル:カケル。
響  :カケル。あんたは追われてるかも知らないけど、神林響はまっとうなネズミだからね。ほんとに。
カケル:じゃなぜついてきた。
響  :ほーお、そういうわけ。ふーん。そういうの。わかった。さよなら。
 
と、とっとと去ろうとする。
 
カケル:ちょちょっと待って。
響  :何でよ。
カケル:何でよって。
響  :どうせ、これ目あてでしょ。
カケル:ま、それもある。
響  :それも?
 
冷たい声。
 
カケル:それ目当てです。
響  :やっぱり。さよなら。
 
と、去ろうとする。
カケルあわてて止める。
 
カケル:まってよ。
響  :ふーん、命令形?
カケル:待って下さい。
響  :哀願する?
カケル:する。
響  :じゃ、お父さんのこと話して。お父さんあなたに何いったの。
カケル:あ、あれ・・ごめん。嘘。
響  :嘘?どういうこと。
カケル:お父さんとは・・・あったことはない。
響  :へー。そうなんだ。で、いけずうずうしく嘘ついて、哀れな小娘から日記帳こましてやろうと。へー。そう。さよなら。
 
ほんとに怒ってる。
 
カケル:ちょっと、待って。ほんとに。
響  :うそつき。
カケル:嘘じゃない。
響  :うそつき。
カケル:そりゃ、そのことについて嘘ついたことは謝る。けれどお父さん知ってることは確かだよ。
 
間。
 
カケル:聞いてくれるね。
 
小さい間。
 
響  :ま、すこしなら聞いてもいっか。
カケル:ありがとう。
響  :その代わり嘘はダメ。いい。
カケル:うそはつかないよ。
 
その真剣な声にはさすがに真実が込められている。
 
響  :話して。
小さい間。
 
カケル:ボクはね。ここのものじゃない。
響  :そうじゃないかと思った。もしかして。
カケル:地上から来た。
響  :やっぱり。
カケル:神林恭一郎を捜してた。
響  :え、どうして。
カケル:ノートを見たんだ。
響  :お父さんの。どうして。
カケル:母さんが持ってた。
響  :母さんが。
カケル:ああ、ちょっと手づるがあってね。君のお父さん、失踪者の研究してたんだろう。
響  :良く知らないけど。
カケル:してたんだ。
響  :へー。
カケル:父さ・・神林恭一郎は、失踪する人を研究してて気がついた。
響  :どんなこと。
カケル:どう考えても、失踪するはずがない人、あるいは目の前でふと目を離したときに失踪する人。そんな、どうしても原因が分からないケースが結構あることに。
響  :なんだ。そんなことならここでもありそう。嫌なこといつぱいあるし。
カケル:神林恭一郎はそんなケースを研究してて気がついた。
響  :何に。
カケル:道があることに。
響  :道?
カケル:そう。現実に受け入れられない人、排除される人、逃れたい人、誰でもいい、現実に適応できなくなってどっか違う場所に行きたいと強烈に思う人に開かれる道。理想郷への道。
響  :理想郷って、まさか。
カケル:そう、ここ。
響  :ここが?
 
笑い出す。
 
響  :ここは地上の現実から落ちこぼれてきたものの街だよ。ネズミと呼ばれてもとからいたものたちに軽蔑されてる。仕事もなかな か見つからない。落ちこぼれの街だよ。理想郷?おかしいね、いまじゃみんな結構もとの空の街に帰りたがってるのに。
カケル:君は帰りたくないの。
響  :全然。
カケル:どうして。
響  :私はここで生まれたし、それに、結構気に入ってるの。そりゃ、食べるのにも困るし、嫌なこといっぱいあるけど、でも、それ ってどこでも同じでしょ。なら、愚痴言っても始まらない。うだうだ言う前に、なんかやった方がよっぽどまし。
カケル:前向きだね。
響  :そうだ、あんたどうやって来たの。
 
カケル、鞄からノートを取り出す。
 
カケル:これに書いているとおりにやってきた。
響  :それって。
カケル:そう。神林恭一郎のノート。
響  :お父さんの・・。
 
響、神妙な声。
 
響  :ねえ。
カケル:何。
響  :・・見てもいい。
カケル:・・いいよ。
 
響、そっといとおしむように受け取り、開く。
父の懐かしい筆跡があった。
 
響  :お父さん・・。
 
一字一字慈しむように読む。
 
カケル:母さん最近事故で亡くなってね。遺品の中にあったんだノート。
響  :・・例えば、ふとした横町の路地の裏、いまではほとんど見られない赤い郵便ポストの裏手、板塀が続く路地裏、人影が少なくなる黄昏時、影が長くのびて重なる時、ふっと、板塀の裏手へ続く細い道が見える。
 
カケルが続ける。
 
カケル:君は思わずその道を覗く。そこには、黄昏のはずなのに、青々とした草が風になびく、8月の暑い日差しが照りつける、遠い道が見える。
二人 :何がなし懐かしくなって、思わずその板塀を押し明けて、一歩踏み出す。すると。
響  :君は。
カケル:ここにやってきた・・。
 
響、いとしそうにノートを抱える。
 
響  :お父さんは?
カケル:・・父さんもいない。・・ずっと前に死んだ。
響  :・・私といっしょだ。独りなんだ。
 
少しの間
ノートを名残惜しそうに返す。
少しの間。
 
響  :でも、暇人ね。
カケル:え?
響  :だって、ノート見たからって飛び出すなんて。無鉄砲というか、馬鹿というか。
カケル:そりゃ、そういう所もあります。認めます。だけど違うの。これは体質なの。
響  :体質。
カケル:わが家には脈々と流れる冒険家の気質があるの。
響  :脈脈ね。
カケル:謎を目の前に出されると、我慢できなくなって飛びついていくの。
響  :おてっ。
カケル:わんっ!なにさせんだよ。
響  :はは。熱血冒険少年ってわけだ。
カケル:悪い。
響  :悪かないわよ。かっこよけりゃねー。
カケル:ムカツク。
響  :どじしたんでしょ。ここきたとき。
カケル:ぎっくっ。・・ま、そういうわけ。
響  :なるほど。それならそうと最初から素直に言えばいいのよ。それが高飛車に言うからさ。
カケル:響が素直に見せてくれりゃ文句無いわけ。
響  :ほー、そう。そういう態度取るわけ。聞いてもらいたいっていつたのそっちじゃない。聞いてやったよね。もう十分。じゃさよなら。
カケル:そればっか。
響  :何。
カケル:何でもありません。はい、ボクが悪うございました。どうか、もう少し聞いて下さい。
響  :人間すなおにでりゃかわいいってもんよ。いってごらん。何。
カケル:日記見せて。
 
間。
 
響  :どうしても。
カケル:どうしても。
響  :ふー。しょうがないなあ。ノート見せてもらったし。お父さん、いいよね。少し見せても。
 
少しの間。
 
響  :でも私がいいと言うところだけね。いい。
カケル:いいよ。
響  :実はね、道があることは知ってるの。でも、その道はねいつも一方通行なの。
 
と、読み出す。
響  :道は確かにある。もつと確実な大きな道が地の上と地の下をつないでいるはずだ。大昔の伝承によもつ平坂という話がある。あ れなどは、実は地底の人々と地上の人々をつなぐ大きな回廊であったのではなかろうか。災厄が起こり、地下は黄泉の国として、 忌み嫌われ出すまで、実はもっと人々に近しい存在ではなかっただろうか。
カケル:死者の国か。なるほど全部捨ててきたものだものね。
 
間。
 
響  :次はこんなこと書いてる。・・千年女王の夜に何かが起こっている。観察は難しい。近づけないからだ。
カケル:千年女王って。
響  :この街の女王。千年も生き続けてるって言うんだけど、笑えるよね。滅多に宮殿から出てこないもの、よく知らない。
カケル:ふーん。変なの。
響  :調べたところによると、音を集めているようだ。片っ端から音と言う音を集めて回っている。詳しいことは・・あれ。
カケル:何。
響  :ん、続きやぶれてる。おかしいな。前そうじゃなかったのに。
カケル:そこに何書いてあったの。
響  :うーん、はっきり覚えてないけど、音の巣がどうのこうのって。
カケル:どうして覚えてないの。
響  :だって、お父さんの夢物語と思ってたもの。ほんとのこととは思ってなかったもの。
カケル:バカじゃない、父さ・・、神林恭一郎の日記だよ。
響  :どーせあたしはバカですー。
カケル:おこるなよ。
響  :おこってませんー。
カケル:怒ってる。
響  :だって、カケルあたしのこと馬鹿って言った。
カケル:言わないよ。
響  :言いましたー。
カケル:あー、もう、わかったよ。ごめんなさい。ボクがわるかった。これでいいだろ。
響  :誠意こもってない。
カケル:はいはい。誠意込めました。ごめんなさい!
響  :ま、いっか。
カケル:あーあ。やってらんねー。
茉莉 :仲がいいことね。
 
茉莉が居た。
 
V茉莉
 
響  :あーあ、また出た。
茉莉 :ご挨拶ね。
カケル:行こう。
 
と、響をつれていこうとするが。
行く手にハリネズミが居た。
にやっと笑って通せんぼ。
 
茉莉 :神林響。考え直した?
響  :何を。
茉莉 :日記を渡して。
響  :や。
茉莉 :どうして。
響  :カケルはどうして読みたいか言った。あんたは言わない。だから、いーや。
茉莉 :じゃ率直に言いましょう。神林恭一郎の日記には窓を開く手がかりが書いてあるはずよ。私はそれを知りたいの。
響  :窓を開く・・。
茉莉 :道よ。
響  :地上へ?
茉莉 :その通り。
カケル:やっぱり、見つけてたんだ。
響  :ちょ、ちょっとまって。するとなに、この中に、空の街へいく道の手がかりがあるというわけ。
ハリネズミ:そういうことになるな。娘っこ。
響  :信じられないわね、つんつん頭。
ハリネズミ:なにおー。
響  :べーっ。
茉莉 :水島!
ハリネズミ:はーっ、名前読んでくれましたねー。ハリネズミ感激!
響  :は?
ハリネズミ:は?しまった。
茉莉 :窓を開くためには音が必要なの。その音を探さねばならない。
響  :音?
茉莉 :言ってたでしょ、さっき。
響  :さっき。あたし何言った?・・まさか。
カケル:たぶん、あれだ。
二人 :ウサギの夜に取りに来い。竜の牙を取りに来い。
茉莉 :そういうこと。さ、渡して。ネズミには所詮必要のないものでしょ。
響  :勝手なこと言わないで。お父さんの日記帳よ。意地でも渡さないわ。
茉莉 :それほど強情を張るほどのものでもあるまい。
カケル:いやがってるだろ。
茉莉 :カケルといったね。空の街の落ちこぼれか。日記かっぱらおうとしてる君に言われたくはないわね。
カケル:ボクは探しに来ただけだ。
茉莉 :言い方はどうとでも言えるわ。おとなしく、空の街にいればよいのに。何の不服があって、こんな惨めな街へ来たの。
カケル:君みたいな不平ばっかり言ってそうな人にはわからないよ。
ハリネズミ:小僧、言葉には気をつけたほうがいいぞ。
カケル:よく選んでるつもりだけど。気に入らない?
ハリネズミ:このがきゃ。
茉莉 :ハリネズミ。
ハリネズミ:(押し殺してねめつけて)はい。
カケル:へへん。
茉莉 :不平か。ふふん。せめて正当な目的と言ってもらいたいわ。
響  :何よ、それは。
茉莉 :聞く気があるの。
響  :まっとうなことならね。
茉莉 :これ以上まっとうなことはあるまい。私は・・。
ヤグモ:見つけた。
 
振り返れば気合いはいったヤグモ。
武器を構えていまにもうちそう。
 
ヤグモ:よーし、みーんなおとなしく、両手両足を上げて、ステップふんで出てこい。ワルツが嫌なら、ブルースでもいいぞ。タンゴ踏むなら、コンチネンタルでかかってこいや、こらー。
 
わけわからない。
ハリネズミ:なんじゃそりゃ。
 
と、うごきかかるが。
 
ヤグモ:うごくな。動くとうつぞ。ほんとはうっちゃいけないけどうつからな。当たったらおまえたちの責任だか らな。うごくなー っ!!
 
と、絶叫。気合い入りまくり。
 
響  :うごかないよー。
 
と、動いてる。
 
ヤグモ:うごいてるっ!!ぜったいうごいてるー。うごくとうつーっ!絶対うつぞーっ。
 
とバリバリ肩の力はいる。
 
響  :錯覚よ、錯覚、気の迷い。ねっ。やぐも。ほら、うごいてないよ。
 
と、ハートマーク的台詞。
合間に、カケルに合図。
 
ヤグモ:ひびきーっ。
響  :やぐもーっ。
 
と、抱き合わんばかり。
さりげなく武器を取り上げようとするがはなさない。
なおも。
 
ヤグモ:ひびきーっ。
響  :やぐもーっ。
ヤグモ:ひびきーっ。
響  :やぐもーっ。
 
とやるが、そこで一発ぶっ放す。
こそこそ逃げかけていた一同、ストップ。
 
ヤグモ:そうはいかないからね。友達でも。
響  :あら。冷静。
ヤグモ:おら、おら、手を挙げるんだよ。
 
牽制しておいて。
 
ヤグモ:一級指名手配だかんね。あんたたち。動くんじゃないよ。
茉莉 :そちらは動いてるようだけど。
 
カケルはだつと、走る。
 
響  :あっ。
カケル:ゴメン、後で返す。
 
かけ去る、カケル。日記帳をかっぱらっている。
 
ヤグモ:あつ、くそ。待て、逃げるなっ。
ハリネズミ:って言って、待つやつは居ないよな。
ヤグモ:くそっ。
 
と、周りを見回すが。
 
ヤグモ:いいかっ。逃げるなよっ。逃げたらお前たちの責任だからな。
 
と、おどかしといて、だつと後を追う。
 
茉莉 :ハリネズミ。
ハリネズミ:こちらは。
茉莉 :大丈夫。
 
ハリネズミ、すちゃっときざに合図して、後を追う。
 
茉莉 :響は追わないのか。
響  :間に合わないわ。それにどうせあとで返してくれる。
茉莉 :信頼してるのか。
響  :そういうわけではないけど、少なくともネズミに必要ないなんてえらそうに言う方よりましでしょ。
茉莉 :悪かった。心ないことを言ってしまった。
響  :ね、結局あんた誰。ネズミじゃないよね。
茉莉 :どうしてそう思う。
響  :でも、なんかえらそうだもの、あいつらのにおいと同じ。
茉莉 :あいつらか。
響  :そう、お高くとまってネズミを馬鹿にしている。
茉莉 :馬鹿にしたつもりはない。
響  :どっかでそう思ってる。
 
茉莉、ふっと笑った。
 
響  :どうしたの。
茉莉 :響みたいなネズミは初めてだ。
響  :どこが。
茉莉 :ずいぶんずけずけとものを言う。
響  :あら、言ってないわよー。奥ゆかしく言ってるつもり。
茉莉 :どこがだ。
 
二人ふっと笑う。
 
茉莉 :独りで生きていたからだろう、たぶん。えらそうに見えるのは。それにネズミは卑屈だからな。
響  :あたしは違うわ。
茉莉 :確かに。
響  :けど、同じだね。
茉莉 :何?
響  :いやね。いま気がついたけど、あんたもカケルも私も独りだね。
茉莉 :それだけ孤独だと言うことだ。
響  :それは、悲観的な考えね。
茉莉 :悪い?
響  :悪くはないけど、んー、暗いかな。
茉莉 :暗い?
響  :暗い。
茉莉 :どうせ私は暗いわ。
 
響、ちっちっと。
 
響  :そんなこと今更どうしようもないじゃない。そんなことでへこんでないで笑ってすませばいいわ。
茉莉 :笑ってすます。
響  :そう、わらってね。イイ言葉教えて上げる。世界、いいえ、宇宙最強の台詞。こういうの。それがどうした。
茉莉 :それがどうした。
響  :天下無敵よ。それがどうした。ほら。言ってみて。
茉莉 :・・。
響  :ほら。
茉莉 :どうせ私は暗い。
響  :それがどうした。
茉莉 :それが・・どうした。
響  :もう一回。わらってね。スマイル忘れちゃダメだよ。
茉莉 :それがどうした。
響  :笑顔。
 
茉莉、ぎこちない笑顔。
 
響  :情けないけどまっいいか。ほら。
茉莉 :それがどうした。
響  :それがどうした。
茉莉 :それがどうした。
二人 :それがどうした!
 
二人思わず笑う。
結構まじめに。
 
茉莉 :響。
響  :な、なによ。改まって。
茉莉 :音を探しに行こうか。
響  :音?
茉莉 :そう。道を開く窓を開ける鍵。
響  :どうしてそんなにこだわるの。たしか正当な目的とか言ってたわね。
茉莉 :そう。私にとってはとても大事なことだ。・・・響はこの街が好きか?
響  :けっこう好きだよ。
茉莉 :私はきらいだ。
響  :なんで。
茉莉 :昔、たった一度だけ空が破れたところを見た記憶がかすかにあるわ。
響  :空が破れた?なにそれ。
茉莉 :あの空から光が見えた。
響  :空の街の光?
茉莉 :本当の空だ。
響  :本当の空。
茉莉 :ここには本当の空がない。
響  :仕方ないじゃない。地底だもの。
茉莉 :私は、もう一度あの空を見たい。
響  :それが正当な目的?
茉莉 :いけないか?
響  :いけなくはないような・・・。
茉莉 :私は見たいの。それに。
響  :それに。
茉莉 :何でもない。ここは惨めな街、ネズミじゃなくてもこのままじゃ一生はいずって生きていくしかない。
響  :空の街も同じだと思うけど。
茉莉 :行ってみなければわからない。
響  :はいはい。みんなだいたいそれで道を誤るのよね。
茉莉 :とにかく行くよ。宮殿の地下へ。
響  :えっ、あたしも行くの。
茉莉 :えっ、いかないの。
響  :えっ、そんなこといわれても。
茉莉 :えっ、ヒロインでしょ。
響  :ま、まあそうではあるけどね。・・あーしかたないなあ。どうやっていくの。
茉莉 :地下の排水溝。
響  :えーっ、やーよ。臭いから。
茉莉 :ヒロインでしょ。
響  :ヒロインはね、そんな臭い場所行かないの。
茉莉 :ほー、それぐらいのレベルね。
 
と、冷たい目。
 
響  :わかったわよ。ハリネズミに同情しちゃうな。
茉莉 :何かいった。
響  :なんも。
 
ほとんどハリネズミ状態。
 
茉莉 :時間がない。急ぐよ。
響  :どうして。
茉莉 :言ってたじゃない。ウサギの夜に取りにこいって。
響  :もちろん。
茉莉 :今夜は何。
響  :わかるわけないでしょ。
茉莉 :月が満ちるとその表面にさまざまな文様が浮かぶ。響のお父さんの国では、ウサギが餅つきをしているらしいね。
響  :ウサギが餅つき・・それで、ウサギの夜。
茉莉 :満月の夜に取りに来いと。
響  :なんて安直。
茉莉 :いくよ。
響  :やだなあ、これしかないのに、汚れちゃう。
茉莉 :洗濯もしないのか、響は。
響  :してるよ。毎日。           
茉莉 :ほう、その間何にも着ないの。
響  :着てます!裸のわけないジャナイ、エッチ!
茉莉 :これしかないといった。
響  :言葉のあやって言うの。バカじゃない。
茉莉 :響程じゃない。
響  :もーっ。
 
いいあいしながら去る。
 
W宮殿地下のおいかけっこ1
 
行進音が聞こえる。
雨音やぼちゃぼちゃいう音も混じる。
カケルがやってきた。
 
カケル:ちくしょう。ここじゃない。日記もあんまり当てにならないな。
 
読んでいるがあきらめた。
嫌な音がきしんだ。
 
カケル:嫌なところ。
ハリネズミ:いやなところへどうして来るのかな。
カケル:ハリネズミ!
ハリネズミ:水島だって言うとろうが。
カケル:何してるの。
ハリネズミ:いや、君を捜してただけだ。
カケル:どうして。
ハリネズミ:そいつに用があってね。
カケル:どうするつもり。
ハリネズミ:君次第だな。君が日記を渡せば何もしない。
カケル:ヤダね。
ハリネズミ:どうして。もう読んだんだろ。
カケル:でも響に返さなきゃ。
ハリネズミ:無理矢理うばったくせに。
カケル:ちょっと貸しもらっただけさ。
ハリネズミ:じゃ、私が響に返してやるよ。
カケル:そうはいかないよ。ボクが返す。
ハリネズミ:大人に逆らうと痛い目に遭うぞ。
カケル:子供脅すとろくなことないよ。
ハリネズミ:いうねえ。
カケル:茉莉は。
ハリネズミ:神林響と一緒だろう。
カケル:茉莉って何者。
ハリネズミ:答える必要あるのかな。
カケル:日記どうしようっかなあ。
 
と、ちらちら。
ハリネズミ、笑って。
 
ハリネズミ:女王蜂さ。
カケル:女王蜂?
ハリネズミ:なれなかった女王蜂。
カケル:何のこと。
ハリネズミ:だから、女王蜂。さ、日記は。
カケル:何のこと。
ハリネズミ:おいっ。さっき。
カケル:どうしよっかなあっていっただけ。
ハリネズミ:あっ、くそ、畜生!
 
カケル、べーっとして日記を持って逃げる。
 
ハリネズミ:待て!くそがきっ。
 
ハリネズミ、追っかけて去る。
青い夜がさらに深くなる。
次から次へ違う音が、現れては消える。
雨音やぼちゃぼちゃいう音も混じる。
 
響  :くさいなあ。
 
と、ぼやく響の声。
響たちがやってきた。
 
茉莉 :仕方ないでしょ。
響  :これ、におい落ちないだろうなあ。
 
と、くんくんかいで。
 
響  :あーあ、来るんじゃなかった。せっかくの誕生日なのになあ。
茉莉 :ほう、偶然ね。
響  :なにが。
茉莉 :私も生まれた、今日。
響  :げっ、最悪。
茉莉 :こちらも同じ。
響  :ますます来るんじゃなかった。
茉莉 :強制した訳じゃない。
響  :わかってます。自発的です。自・発・的。
茉莉 :待て。
響  :あら。
 
ヤグモが飛び込む。
 
ヤグモ:おらーっ、うつぞー、おとなしくしろー。うったらお前等の責任だからなーっ。
 
見回す。
 
ヤグモ:いたーっ、めっけ!!
響  :あら、ヤーグモ。
ヤグモ:ひびきーっ。
響  :ヤグモーっ。
ヤグモ:ひびきーっ・・っていうわけにはいかないのよ。
響  :あらら。
ヤグモ:茉莉さん、ちょっとこちらへ。
茉莉 :ほう、私の名前を知ってるのか。
ヤグモ:あんたのポスター結構人気があってね。千年女王様に勇敢にも盾突いて、道を探してるって。
茉莉 :それならどうする。
ヤグモ:あたしだってね、いつまでもしたつぱしてるわけには行かないの。一口乗らしてもらうよ。
響  :ヤグモ。
ヤグモ:ごめん、響。あんたの友達のようだけど、さっきみたいに逃がすわけにはいかないのよ。こちらも生活かかってるからねー。
茉莉 :それはそちらのかってだろう。
ヤグモ:やかましいーっ。うだうだいうとうつぞーっ。
響  :やーぐも。
ヤグモ:だめよ、甘い声だしても。
響  :やーぐも。
ヤグモ:だめ。
響  :やーぐも。
ヤグモ:ひびきーっ。
 
というところへだだっとカケル。
 
カケル:うわっ。
ヤグモ:うわっ。
 
その隙に響が茉莉を引っさらうように逃げる。
 
ヤグモ:あ、ひびきーっ
響  :ごめーん。
 
と、消える。
所へハリネズミ。
 
ハリネズミ:いたなーっ。クソがき。
 
カケルも。
 
カケル:んじゃ。
 
と、脱兎のごとく去る。
 
ハリネズミ:まてー、こんちくしよー。じゃまだ、馬鹿やろ。
 
と、行きがけの駄賃にヤグモをどついていく。
 
ヤグモ:あ、あっ、ああーっ。
 
と状況に完全に乗り遅れてる。
 
ヤグモ:畜生。みすてるなー。見捨てたら承知しねーぞー。見捨てるとうつぞーっ。
 
もちろん誰もいない。
 
ヤグモ:響ー、あんたと私の仲じゃないーっ。返事しろーっ。そこにいるだろーっ。
 
耳をすますが誰もいない。
 
ヤグモ:そちらがそのつもりならこちらにも覚悟があるぞーっ。泣いちゃうからなー。泣いたら響の責任だからなーっ。いいかー。それでいんだなーっ。
 
それでいいようだ。
耳すますが反応がない。
 
ヤグモ:くそっ、覚えてろよ。警備局をなめたらえらい目に遭うぞーっ。
 
と、走っていった。
茉莉たちが入ってくるが迷っているらしく、相談して、また別の方へ行く。
軍隊−の行進の音。
カケルが逃げてくる。音が大きくなる。きいて、また逃げる。
ハリネズミが追いかけてきた、探していたがまた元の方へかけ去る。
さまざまな音が輻輳していく。
やがてその音は非常に輻輳して、迷路のように、体にまといつくような様相を示す。
宮殿地下。音の森。千年女王の防衛機構。方角が分からなくなり、迷ってしまう。
冒頭オープニングのシーンが再び繰り返される。ただし、千年女王はいない。
人々は消え去る。
軍隊の行進音が小さくなり、代わりに、別の緊迫した音。
青い光の柱がゆっくりと降りてくる。
光は脈動するように明滅している。
 
X茉莉の惑乱
 
茉莉の声。
 
茉莉 :困ったな。
響  :どうした。
茉莉 :やっぱり迷ったみたい。
響  :ほう。自信たっぷりだったの誰よ。
茉莉 :すみませんね。
響  :謝られてもね。
茉莉 :そこに広場があるわ。
 
と、出てくる。
 
響  :あー、きれい。
 
青い光の柱を見つけた。
押しのけて響、周りを見て回る。
響  :すごいな、これ。どこからはいってくるんだろ。
 
と、遙か上を見ているがわからない。
 
響  :ねえ、すごいよね。道迷ってこんなとこ来るなんてあんたも結構やる・・どうしたの。
 
声が鋭い。
呆然として見ている茉莉。異様な感じ。
 
響  :茉莉、茉莉。
 
駆け寄って、揺さぶる。
 
茉莉 :ここ。・・あのときの。
 
と、へなへなと崩れおれそうになる。
あわてて支えて。
 
響  :茉莉。どうしたの。茉莉。
 
と、支えて座る。
二人、光を見上げる格好。
 
茉莉 :ここなの、・・あのとき・・。
 
と、茉莉がくがく震える。しっかり響にしがみつく。
 
響  :茉莉、しっかりして。茉莉。
茉莉 :・・ここなのよ。ここが。
響  :窓があるところ?
 
茉莉、首を振って。
 
茉莉 :覚えていない。・・ずっと昔。・・小さいとき。あ、青い光が震えて・・。
 
また、がくがくしてきて、響にしがみつく。
 
響  :大丈夫。あたしが居る。大丈夫。
 
しばらく震える。響しっかり抱いてやる。
やがてふるえは収まる。落ち着いた。
弱々しいが、もとの茉莉がやや戻ってきた。
 
茉莉 :ごめん。・・みっともないこところを見せたね。
響  :大丈夫・・誰にもいわないよ。
茉莉 :手を貸して。体がまだ少しいうことを利かないの。
 
手を貸して、起こして立ち上がらしてやる。
少しふらついた。支える。
二人、青い光の柱を見上げる。
 
響  :何があったんだろう。
茉莉 :誰かに向かって。白いぼんやりとした影に向かって必死に訴えているの。
 
その声に何か痛ましい響を聞いた。
優しく。
 
響  :何ていってるの。
茉莉 :殺さないで。私を殺さないで。
響  :なっ・・。
 
絶句する響。
前を見据え、必死にこらえる茉莉。
響にしがみつく腕。
 
響  :大丈夫。・・大丈夫。
 
落ち着いた。
 
茉莉 :どうしてかはわからない。とにかくそれしかない。あとは何もない。
 
脈動する光の柱。
見上げる響。つられる茉莉。
 
響  :こんなにきれいなのに。
茉莉 :そうね。
 
小さい間。
 
茉莉 :気がついたらハリネズミに拾われていたらしい。
響  :らしい。
茉莉 :覚えていないから。そのあたり。
響  :聞かなかったの。
茉莉 :教えてはくれない。笑って、いつかそのうちにっていうだけ。私もあまり聞きたくはない。
 
茉莉、見回して。
 
茉莉 :行こうか。ここは嫌だ。
響  :そうね。行きましょ。
 
と、行きそうにしたが。
 
茉莉 :行こう。・・どうした響。気になることでも?
響  :あ、何でもない。錯覚でしょ。
 
茉莉頷いていく。
響、もう一度振り返り、首を振って後を追う。
Y宮殿地下のおいかけっこ2
 
カケルが警戒しながらやって来る。
 
カケル:確かに話し声が・・。誰もいないか。・・うわっ、こいつはすごい。
 
あわてて手帳を見る。
 
カケル:これって、もしかすると。
 
手帳を読む。
 
カケル:ああ、これだ。・・迷路の中に青い部屋があった。光が・・えー、光が・・おりる?違うな、なんだろ、よめないな。ここ。・・えーと、響と名付ける。・・響と名付ける?何これ。・・千年女王の夜は・・あー、また読めなくなってる。えーとこれは・・、響の夜に・・開く?・・何これ。分けわかんない。でも・・ここ、青い部屋・・雰囲気はあるけどな。
 
        見上げた。
音がおおきくなる。光の明滅が大きくなる。
ヤグモが出てきた。
 
ヤグモ:ここか、確か青い部屋は・・。
カケル:あっ、やばい・・。
ヤグモ:あっ、めっけたーっ。動くな。
カケル:ヤダね。
ヤグモ:あ、逃げるな。ばかっ。
カケル:といってもね。
ヤグモ:おいてくな。畜生、まてーっ。おまえの責任だぞーっ。畜生ー。
 
追いかけて去る。
ハリネズミが駆け込む。
 
ハリネズミ:畜生。すばしっこい奴だ。どっちだ。・・こっちか。
 
耳をすまし、ばっと走る。
行進音が迫ってくる。音が揺れて、大きくなり。
青い光の柱の明滅が大きくなり、やがてすべては闇に沈む。
音がしている。
響  :ヤグモ?
 
響たちが出てきた。
 
響  :ヤーグモ。いないね。
茉莉 :空耳じゃない。
響  :確かに聞こえたけどね。半泣きの声が。
 
あたりは薄暗く、灯りが脈動している。。
 
茉莉 :どうする。
響  :なんかこう秘密の通路つて無いかなー。よくあるじゃない。
茉莉 :お子さま向きのミステリーじゃないんだから。
響  :イイじゃない。あるかもしれないジャナイ。無いって証明できる。いつ。何時何分どこで。
茉莉 :あった。
響  :えっ。
 
全然信じていなかったようだ。
 
響  :まさか。
茉莉 :いや、秘密の通路じゃない。
響  :なんだ。
茉莉 :銀河の街に取りに来い。
響  :それがどうしたの。
茉莉 :ここだよ。
響  :えっ?
茉莉 :たぶんここ。
響  :どうして。
茉莉 :見て。
 
と、地面を指す。
地面が暗くなる。
ぼんやりと地面が光る。
 
響  :うわっなにこれ。
茉莉 :地下の銀河というところね。時間と場所か。
響  :何。
茉莉 :ウサギの夜に取りに来い。銀河の街に取りに来い。
響  :残りは、祭りの夜に取りに来い。
茉莉 :竜の牙を取りに来い。
 
待てーっと言う声。
ただっと転がり込んでくるカケル。
すっころんで、響の前に。
 
響  :あら。
カケル:やあ。
ハリネズミ:畜生!
 
が駆け込んでくる。
 
響  :相変わらず騒々しいこと、つんつん頭。
ハリネズミ:おや、久しぶりだな娘っこ。
響  :ふん。カケル。
 
ちょっと危険な声。
 
カケル:へいへい。
 
と、日記帳。
 
ハリネズミ:あ、おまえ。
 
取ろうとするが、響がばっと取ると。
 
響  :ふふん。
ハリネズミ:ふふん。(と、肩をすくめる)
響  :あんた、まさかこっちの方読まなかったでしょうね。
カケル:響の日記。
響  :読んだのね。
 
危険性が増す声。
 
響  :あたしの秘密そこまで知ったからには責任取ってくれるんでしょ。
カケル:は?
響  :どう。
カケル:どうといわれても。それってプロポーズ?
響  :お婿に来てね。
カケル:謹んでご辞退申し上げます。
響  :何でよ。私の秘密知ったからには。
カケル:秘密ったって、今日何食べた、昨日は何を食べたって。食べ物のことしか書いて無いじゃない。
響  :あーっ、ひつどーい。言ったー。カケルって、さいってー。
茉莉 :何、漫才やってるの。いい加減にして。
響  :って、まあ、おちょくるのも面白いんじゃない。
カケル:あー、ひっどーい。
茉莉 :相変わらずくだらないことやってるな。
カケル:進歩が無くてごめんなさい。
茉莉 :帰り道は見つけたか。
カケル:そちらこそ窓は開いたの。
茉莉 :御覧の通り、お互い様ね。
カケル:正当な目的達成できるといいね。
茉莉 :捜し物が見つかるといいわね。
響  :何二人ともつんつんしてるのよ。
二人 :別に。なにかしてる?
響  :してる。
二人 :そう。
響  :してるじゃない。
二人 :響きほどじゃない。
響  :なによそれ。
 
思わずぶつとする二人。
 
茉莉 :思わず馬鹿をしてしまった。いこう。
響  :どこへ。
茉莉 :たぶんこちらだわ。銀河の方向。この先にきっとある。
ハリネズミ:そういえば、この先に怪しげな部屋が。
茉莉 :ほらね。
カケル:ご都合主義だ。
茉莉 :いいの。正当な目的達成出来れば。響はどうする。
響  :後から行くわ。ちょっとカケルと。
ハリネズミ:ふん、ひびってるのか。
響  :ハリネズミほどじゃないけどね。
ハリネズミ:一度その口チャックしめたろか。
響  :一度その頭、バリカンでかっちゃおうか。
ハリネズミ:くっそー。
響  :べーっ。
茉莉 :わかった。ハリネズミ。さきに、行くよ。
 
と去る。
 
ハリネズミ:うがーっ。
 
と駆け去る。
 
Z父について
響  :座らない。たってるのも何だから。
 
と、座る。
 
カケル:お、初めての優しい言葉。
響  :何言ってるの。私、とつても優しいんだよ。
カケル:へー?
響  :なにそれ。
カケル:いや、元気だけが取り柄の・・・
 
失言に気づき咳払いなどでごまかす。
 
響  :ごまかさなくてもいいよ。ほんと。元気だけが取り柄だもん。それ取ったら何も残らないもん。
 
と、なぜか声がしめっぽくなっている。
 
カケル:日記読んでごめん。
響  :・・いいよ。・・仕方ないもの。
カケル:いけないと思ったけど読んだ。
響  :忘れて。
カケル:ううん。
響  :忘れて。
カケル:忘れられない。
響  :お願い忘れて。
カケル:君がそういうなら。
響  :私がそういうの。忘れて。
カケル:君はどうして、お父さんが亡くなったときに笑ったの。
 
間。
 
響  :ひどい人。・・忘れてって言ったのに。
 
響、顔を覆う。
間。
 
カケル:悪かった・・。ボクが無神経だった。
 
やがて、響は顔を上げた。
 
響  :そうよ。あんたは無神経で、バカなカケルよ。
 
だがその物言いは穏やかだ。
 
カケル:響。
 
響は、日記を取り出して、大切そうに開く。
そうして、読み出す。
音楽。
 
響  :今日、お父さんが死んだ。あっけなく死んだ。お金がないから医者は呼べない。お父さんはいいよって笑っていった。これもそうなる運命だからね。お前にこれをあげよう。そういってペンダントを渡してくれた手がそのまま空中で力無く落ちた。・・私は運命なんか信じたくない。
 
ペンダントを持っている。
 
カケル:それなの。
響  :音のでない笛。バカみたい、お父さん。
 
笛を吹く。音はでない。
 
響  :ほら。
カケル:もう、読まなくてもいいよ。
 
まっすぐカケルの方を見る。
 
響  :いいえ、読みたいの。聞いて。
 
カケルは静かに頷く。
 
カケル:わかった。
響  :お葬式も出せなかった。管理局へ連絡すると遺体を引き取りに来た。ネズミにふさわしいお葬式だ。私はおとうさんをワタシガできる一番最高の笑顔で見送った。管理局の係員は変な顔で私を見ていたが何もいわなかった。車は角を曲がるとすぐに見えなくなった。それがお父さんとの最後の別れ。お父さんはもうどこにもいない。
カケル:お父さんと別れてしまうんだよ、永遠に。笑顔はないんじゃない。
響  :そうしろといったんだもの。お父さん。
カケル:父さんが。
響  :悲しいときには笑いなさい。辛いときには笑いなさい。苦しいときには笑いなさいって。だから。
 
泣きそうだ。
 
響  :世界でお父さんと二人だけだった。悲しくないわけないじゃない。辛くないわけないじゃない。苦しくないわけないじゃない。カケル:響・・。
響  :一番悲しいから笑うのよ。一番辛いから笑うのよ。一番苦しいから笑うのよ。笑えば元気がでてくる。泣きたいならわらいながらなけって。
カケル:滅茶苦茶だね。
響  :いいえ、真実よ。元気が出れば生きてける。だから、笑うの。一番世界で最高の笑顔をつくって、笑うの。
 
泣きそうな笑顔。
 
カケル:父さんそういったの。
響  :言ったよ。お前の笑顔は一番世界で最高の笑顔だって。私、だから私の精一杯の笑顔で見送ったの。・・そうして私、やつと生きることができた。
 
確かにその笑顔は美しい。つらさと苦しさと悲しさのないまざった笑顔だ。
凛とした笑顔であった。
間。
 
カケル:元気の裏に涙有りだね。
響  :なかないもん。私。
カケル:むりしなくっていいよ。
響  :むりしてませーん。
カケル:ま、そういうことにしておこう。
響  :やっぱりやなやつ。
カケル:あっ。
響  :どうしたの。
カケル:向こうで嫌な音がした・・ほら。警備局だ。
 
耳をすます。
嫌な音がかすかにした。
 
カケル:ね。
響  :ほんとだ。
カケル:いこう。銀河の方向の方向だったよね。
 
二人、去る。
行進音が響き、大きくなる。
ヤグモ:が駆け込むんで、耳を澄まし駆け去る。
音が大きくなって、冒頭の行進がまたもや繰り返される。
やがてさまざまな音が重なり揺曳してくる。
      
[音の巣
 
無秩序と言っていい。さまざまな音があふれている。
大きくなり小さくなり音は重なり揺曳する。
響たちがやって来た。
耳を押さえてしかめる響たち。
 
響  :何この音。
カケル:雑音だ。
響  :頭痛い。
 
音は、小さくなった。
 
響  :なんだか嫌な感じ。
カケル:不気味ではあるね。
響  :茉莉たち、どこいつたのかな。あわないね。
カケル:迷ってんじゃない。
響  :だれ。
 
振り返ればヤグモ。
 
響  :ヤグモ、よかったちょうど・・。
ヤグモ:ここが例の音の巣ね。
響  :例のって。
ヤグモ:響のお父さんが窓への道がここにあるっていってた所よ。
響  :お父さんが。何で知ってるの。・・あっ、するとまさか、日記破ったの。
ヤグモ:悪かったわね、響。
響  :ひどい、ヤグモ。なんで。
ヤグモ:空の街に行きたいの。
響  :え、どうして。
ヤグモ:どうして?きまってるでしょ。こんな街。誰がいたいって思うの。
響  :でもあんたはネズミじゃないじゃない。
ヤグモ:そうよ。たまたまそうであるだけ。黄泉の国の人として生まれた。響のような空の街のおちこぼれじゃない。でも、それが何。ネズミじゃないっていうのがなんぼのもの。こんな惨めな街、私はいや。
響  :だから、私に近づいた。
ヤグモ:それもあるわ。
響  :それだけでしょう。
ヤグモ:違う。友達だもの。
響  :はいはい。ご立派な黄泉の国のお方が惨めなネズミに哀れみをかけてくれた訳ね。どうもありがとうございました。
ヤグモ:そんなつもりはないわ。私はただ・・。
響  :ただ利用しただけでしょう。友達だと思ってたのに。猫かぶってたのね。
ヤグモ:私は友達と思ってたわ。
響  :・・うそつき。
 
ヤグモは一瞬悲しそうだ。
音がやや大きくなる。
 
\1/fの音
 
響  :なに。これ。
カケル:反応が強くなった。
ヤグモ:響。
響  :何。
ヤグモ:響のペンダントきれいね。
響  :だめよ。これ。お父さんにもらったんだから。
ヤグモ:それ笛でしょ。
響  :そうよ。でも音でないわよ。・・何がおかしいの。
 
ヤグモが笑う。
 
ヤグモ:立派に音出してるとおもうな私は。
響  :え。
ヤグモ:響には聞こえないだけよ。お父さんから聞かなかったの。
カケル:そうか。犬笛だ。
ヤグモ:さすがねカケル君。
響  :犬笛。
カケル:犬の耳には聞こえるけど人間には聞こえない。周波数が違うんだ。
響  :犬笛、これが。
 
音が大きくなって、脈動を始めた。
 
ヤグモ:ほら、早速ききはじめた。
響  :え。
ヤグモ:響の笛に反応しはじめたの。音たちが。
響  :音が。
ヤグモ:もう一度吹いて。
 
響、おそるおそる吹いてみる。
 
ヤグモ:強く。
 
響、吹いた。
とたんに音の脈動が強くなる。みんな、耳を押さえたりする。
音が飛んで、揺れる。船酔いににた音酔いの体を示す。
響、せいいつぱいこらえながら。
 
響  :なに、これ。
ヤグモ:(こらえながら)もっと吹き続ければいいわ。そうすればやがて出てくるはずよ。
カケル:何が。
ヤグモ:ウサギの夜に取りに来い、銀河の街に取りに来い、祭りの夜に取りに来い。
響・カケル:竜の牙を取りに来い!
ヤグモ:それよ。          
カケル:まさか。
ヤグモ:吹いて、もっと。
響  :カケル。
 
カケル頷く。
響吹く。
音が爆発。みな、うち倒れそう。
        さまざまな無秩序とでも言うべき音の巣が、やがて一つの音に代わり、それは本当に優しい揺らぎ、響きになっていく。
1/fの揺らぎを持つ優しい音。
自然の音。生命の営む音の揺らぎになる。
とどうじに、青い光が降臨する。
 
カケル:イヤー、死ぬかとおもった。
響  :これって、さっきの。
ヤグモ:竜の牙よ。何と思ってたの。
カケル:いや、なんかほんとの竜でも。
ヤグモ:ばかね。神林恭一郎が見つけたものよ。振動がこいつを呼び出す。・・こいつよ。地脈のエネルギーがのたくつてる。
カケル:地脈。
ヤグモ::聞いたことあるでしょう。大地のエネルギー。鍵がそろったわ。これで窓が開くはず。空の街へ行ける。
 
でも、それ以上、何もおこらない。
きれいな音と光の柱が立っているだけだ。
 
響  :何も起こらないね。
ヤグモ:もっと吹いて。吹き方が足りないのよ。早く!。
 
        吹こうとする響。
 
茉莉 :無駄よ、それ以上吹いても。
 
茉莉がいた。
 
]茉莉の決断
 
響  :茉莉。
ヤグモ:遅かったわね。窓はこちらが。
 
緊張した、茉莉。
 
茉莉 :いいえ、それでは開かない。
ヤグモ:開かない?ウソ。
茉莉 :かわいそうに、何も知らないのね。
ヤグモ:何が。
響  :茉莉、変よ。
茉莉 :変。そうね。怖いもの。
響  :怖いって。
茉莉 :ここなの響。本当は。
響  :まさか、さっきの。
茉莉 :そう、同じような場所だけど、ここなの。そして、窓がある場所。空が破れた場所。
ヤグモ:なら、開くはず。神林恭一郎の日記にも。
茉莉 :何が書いてあった。
ヤグモ:音の巣の音に窓は開くと。
茉莉 :確かにね・・。でも、誰にもは開かない。
ヤグモ:誰にも?
響  :茉莉、苦しそう。
茉莉 :苦しい?怖くてたまらないだけ。でも、それでも窓を開けなければならないの。
響  :どうして。
茉莉 :この街には未来がないもの。
響  :そんなことないよ。生きてれば何だってできる。元気出して・・。
茉莉 :あなたのようにはできないわ。
響  :そんなつもりじゃ。
茉莉 :私の夜なのよ。
響  :え?
茉莉 :私の夜。言ったでしょ。今夜はウサギの夜。そうして私の生まれた夜でもある。茉莉の夜に取りに来いと。私がいないと開かないの。
カケル:うそ。
ヤグモ:謎にしてもひどい出来ね。
響  :しってたのね。
 
声に危。険性が少し混じる。
 
茉莉 :最初からそれだけはわかってた。
響  :ひどい。私だましたのね。
茉莉 :だましたつもりはない。
響  :いいえ、だました。茉莉、どうして。あんた、本当にだれ。
ヤグモ:そうよ。あんた、いったいだれ。
ハリネズミ:なりそこねの女王蜂。いま本当の女王蜂になるのさ。窓を開けてね。
響  :女王蜂。何それ。
ハリネズミ:千年女王に決まってるだろ。何と思ったの。
響  :あんたが千年女王?
 
笑う。
 
茉莉 :おかしいか。
響  :似合わないよ。それに、窓、窓って、そんなにここがいやなの。
 
ハリネズミ、笑う。
 
ハリネズミ:窓の本当の意味を知らないようだね。お嬢さん。道は、副産物でしかないよ。本当の意味はね。この音だ。
響  :音って。どういうこと。
ハリネズミ:振動だよ。千年女王の目的はさ、すべての音の振動を集めることだ。
ヤグモ:振動集めてどうするの、ばかばかしい。何の意味も。
 
かぶせて。
 
ハリネズミ:すべての生き物は動いている。生命は振動なんだ。生きている限り生命は動く。振動する。ならば、その振動をすべて集めれば、逆に生命はいつまでも生き続けることになるだろう。・・不老不死さ、名実ともに千年女王となる。彼女はそう考えた。
ヤグモ:まさか。
響  :この音が。
 
音の優しい揺らぎ。
 
ハリネズミ:これは、音の揺らぎさ。自然界にあふれる生命の音。これがその導きをしてくれる。
カケル:待って。どっかへんだよ。
響  :なにが。
カケル:何で二人が鍵なの。
響  :え?
ヤグモ:そうよ。変だわ。何であんたら二人?
カケル:響が笛を持っている。なるほど、竜の牙は現れる。でも、それ以上は何も起こらない。今度は、茉莉が自分の夜だという。
茉莉 :この夜は私の夜よ。
響  :それを言うなら私の夜でもあるわ。私生まれたんだから。
 
妙な間。
二人見比べていたカケル。
 
カケル:まさか、君たち。
ヤグモ:そうか、そうなんだ。
カケル:そういうこと。
響  :どういうこと。
茉莉 :何を言いたい。
カケル:二人とも拾われたんだ。
響・茉莉 :え?
カケル:そういうことだろ。
ハリネズミ:勘がいいな。そういうことだ。
ヤグモ:やっぱり。
響  :何のこと言ってるの二人ともって。
茉莉 :ハリネズミ?
カケル:響、心して聞いて。・・神林恭一郎は君のお父さんじゃない。
響  :え・・
 
響はその言葉を音として意味をとらえられない。
 
響  :もう一度言って。何。
カケル:神林恭一郎は君のお父さんじゃない。
響  :うそ。なにいうの。そんなひどいうそ許さないよ。
ヤグモ:うそじゃない。
響  :ヤグモ。
茉莉 :ハリネズミ。
ハリネズミ:掟がありまして。
 
振り返る響。
 
ハリネズミ:千年女王はただ一人居ればよいのです。何人か候補者は集められ、選別された上、一人を遺して、あとは処分されます。
茉莉 :お前は何を言っている。
ハリネズミ:自分は、その作業をする特殊部隊の一員でした。処分しなければならなくなったとき、どうにもできず、一人を連れて逃げました。
茉莉 :私がそれか。
ハリネズミ:はい。
茉莉 :だが、いま、一人をといったな。
ハリネズミ:はい。
茉莉 :どういうこと。
茉莉 :ハリネズミ。
ハリネズミ:自分が逃亡するさいに神林恭一郎が現れました。それだけです。
茉莉 :なるほどそれで響を知っていたのか。
ヤグモ:そういうことだったのね。
響  :やめてーっ!
 
一同、気圧される。
 
響  :やめて。みんなして、お父さんを侮辱して。許さないから。絶対許さないから。
茉莉 :響。
響  :それに、あたし何にも覚えてない。ここに来ても怖くも何ともない。どう、これって関係ないことでしょ。
カケル:神林恭一郎は催眠療法にも詳しかったんだよ。
響  :え。
カケル:たぶん、君がよけいなことで苦しまないように君の記憶を閉じこめたんだろう。だから、君は元気いっぱいに育ったこれた。
響  :うそよ。勝手な憶測しないで。
カケル:推測じゃない。知ってるんだ。
響  :どうして、あんたが。
カケル:ボクの名前は神林カケル。
響  :神林?
ヤグモ:神林カケル?まさか。
カケル:離婚した母さんに引き取られてたけど、ボクは神林恭一郎の子供だよ。
響  :神林カケル・・お父さんの子供・・うそ。
ヤグモ:ひゅーっ。それはそれは。
カケル:嘘じゃない。
響  :うそつき。ひどいじゃない。今まで黙ってて・・ひどいじゃない。馬鹿にして笑ってたんでしょ。
カケル:そんなことしないよ。ボクだって、ここへ来て初めて知ったんだ。神林響って言う子供がいるってこと。
 
小さい間。パニクっている響。
 
カケル:神林恭一郎は、君のお父さんだよ。間違いなく。
響  :いま違うっていったじゃない。
カケル:父さんは君に辛く当たったかい。
 
響、首を振る。
 
カケル:君を悲しい目に遭わせたかい。
 
響、首を振る。
カケル:君を苦しい目に遭わせたかい。
 
響、首を振る。
 
カケル:そういうことだと思うよ。血はつながってなくてもね・・。
 
間。
 
カケル:神林、響。・・君は父さんの子供だ。
 
間。
 
響  :血はつながっていない。
カケル:君は父さんにここで助けられた。そうして父さんの子供になった。
 
間。
 
響  :父さんの子供になった・・・。
 
間。
笑い出す、響。
 
カケル:響。
響  :そうよね。そうなんだ。
 
笑顔。
 
響  :血はつながってない。・・。だけど、それがどうした。
カケル:響。
響  :そうね。お父さんだものね。響の大好きなお父さんだもの。たった一人の響の大事なお父さんだもの。私は・・。
茉莉 :千年女王のなり損ねというわけね。
響  :私そんなものになりたくない。お父さんは正しい。そんなのあるべき姿じゃない。
茉莉 :どうして。
響  :あんたはなりたいの。
茉莉 :そのために努力してきたわ。
響  :あんたなんかなれないよ。
茉莉 :どうして。
響  :そんなの滑稽よ。あんた、笑えないじゃない。
茉莉 :笑えない?
響  :不老不死。そんなのただの牢獄よ、いつも元気で笑えるようにならないと。でなきゃ、悲しみや、苦しみやつらさの中で永遠に生きて行かなきゃならないんだよ。
茉莉 :かもしれない。
響  :かもしれないじゃないよ。あんたはまだ、わらえないじゃない。あんたの笑顔なんか最低よ。ネズミにも劣るわ。やめなさい。茉莉。あんたは、永遠に笑わないつもりなの。
茉莉 :響。
響  :おねがいやめて。
茉莉 :私の笑顔はよほど情けないようね。けれど、私にはこうするしかない。私は千年女王になるの。そうしてこの街を出ていく。
響  :この街を捨てたって、何もいいこと無いよ。それより、わらいなよ。笑えよ。茉莉、笑え!
茉莉 :・・私には無理らしいわ。
響  :茉莉!
 
茉莉は、光の柱の中心に立つ。
何か言ったようだ。
音が急激に高くなる。エネルギーが増幅された。
耳が痛くなる。
 
茉莉 :響、あなたといると楽しかったわ。
響  :茉莉!
茉莉 :これが本当の竜の牙よ。
 
エネルギーが爆発した。
本当の竜の牙が覚醒する。
音と光が爆発。
窓が開いた。
青い光が背後から差し込む。茉莉はその逆光の中にいる。千年女王の誕生にも見える。
 
響  :茉莉!
茉莉 :響いっしょに来ない。ここはもういいでしょう。
響  :いけない。いいえ、いかない。私はここが好きだもの。お父さんがいるもの。ここが私のいる場所だもの。
茉莉 :残念ね。・・ハリネズミ、行こう。
ハリネズミ:はい。
 
光の中に入ろうとする。
 
ヤグモ:待って、私も連れてつて。
響  :行かさない。逃げたってだめなのよ!
 
ヤグモをつかんで引き留める。
 
ヤグモ:ほっといて、私は行くの。ここで一生過ごしたって、ネズミと同じ、何にもなりやしない。
響  :だめよ。それはだめ。
ヤグモ:なぜ。
響  :ここがだめだからどこかへ行く。それってただ逃げてるだけじゃない。ネズミたちが、現実からここへ逃げてきて、でも結局脱落者でおわってしまっているじゃない。逃げたってダメなの。にげるとこなんかどこにもないの。
茉莉 :ここよりはいい。
響  :いいえ、どんなところだつて、いいの。元気にわらって暮らせれば。
茉莉 :私にはできない。
響  :それがどうした!
茉莉 :響。
響  :それがどうした!できない、できないっていってたらいつまでたってもできないよ!やってみなよ。絶対あんたいいかおで笑えるはずよ。茉莉!
茉莉 :わかってる。そんなことわかってる。言われなくたってわかってる。
響  :なら、笑え、茉莉。こんな街だけど、あんたがいきてくぐらいの事はできるはずだよ。元気出して笑え。
茉莉 :わかっていてもできないことはある。さよなら、響。
ヤグモ:待って。
響  :いかさない。あんたはこっちにいるべきよ!
茉莉 :やめろ響!エネルギーが足りなくなる!!
 
音が高くなる。。
ゆっくりとスローモーション。
なだれ込んでいく響たち。とめようとする茉莉。音が変調してやばい。
光が再び爆発。なぎ倒される人々。
 
]T それぞれの道
 
光が収まれば、窓は閉まっている。
のろのろと起きあがる茉莉。
呆然としている。
響はすわったまま。
 
響  :へへーっ。残念でした。定員オーバーでおシャカねー。
ヤグモ:響のせいよ。
 
笑う。
 
ヤグモ:あーあ。いけなくなった。
茉莉 :窓はしまってしまった。
響  :そういうこと。あたしは二度と吹かないからね。
茉莉 :諦めたわけではないわ。
響  :ま、強がって。カケルはどうするの。
カケル:そうだな。
響  :一緒に暮らしてみる?
カケル:それもいいけど。なんか、またうずくんだよね。
響  :神林家の血ね。
カケル:響にもありそうだ。
響  :まっね。
カケル:でも。行くにもいけないってとこかな。
茉莉 :カケル一人分くらいなら、まだ何とか出来るわ。
カケル:え。
茉莉 :地脈のエネルギーの余波はまだある。いまのうちなら何とかできる。
ヤグモ:え、それならあたしに行かせて。
響  :あんた。かえったらちょっと話があるかんね。
 
しゅんとなるヤグモ。
 
響  :カケル。
カケル:うん。・・そうだね。ぼくはやはり一度帰る。でも、きっとまたここへ来る。
ヤグモ:こなくてもいいのに。
 
じろっと見る響。
 
響  :茉莉はどうするの。
茉莉 :なんとか方法を探す。
響  :じゃ、せいぜい頑張るのね。ハリネズミと。
ハリネズミ:水島だ。
響  :いいじゃないつんつん頭。
ハリネズミ:マジにいっぺんしめたろか。
茉莉 :やめろ、ハリネズミ。
ハリネズミ:水島です。
茉莉 :響はどうする。
響  :あたし、やっぱりここがいい。お父さんいるし、それに、千年女王じゃなくて自分ネズミだから。うん。
カケル:みんな、もとの一人だね。
響  :そ。でも。一緒だよ。
茉莉 :一緒か。
 
だが、いやそうではない。
 
響  :どこにいたって、元気が一番だからね。
カケル:笑顔もね。
響  :笑顔。ほら。
 
茉莉、やはり笑顔は下手だ。
 
響  :あんたやっぱり下手だわ。
茉莉 :そうだ。それがどうした。
響  :それがどうした。
 
笑う。
 
カケル:またいつか。
茉莉 :またいつか。
響  :またいつか。
 
うん。と肯いて、カケルと茉莉は別れて去る。
ヤグモは茉莉たちと去る。
響は一人になった。
 
響  :ふん、またひとりか。・・・それがどうした!。
 
につこり笑う。音楽がかかる。
 
★エピローグ
 
響の部屋。朝。
歯磨きしながら響が出てくる。
熱心に歯を磨いたと見えて、鏡にいーっをして一安心すると。
 
響  :よっし。
 
水を蹴立てたような元気な洗面。
手探りでタオルを探し、あったと見えて、勢い良く顔をふく。
 
響  :ふーっ。                      
 
と、ためいき吐き。簡単に髪を整える。
うまくいったらしく。
 
響  :よっし。
 
と、満足そうに、ヘアピンなんかをつけている。
パンパンと頬をたたき。
 
響  :OK。
 
と、鏡に向かって。
 
響  :お父さん。あれからずいぶん立つけど響は一人で元気だよ。安心して。カケルも茉莉も行っちゃったけどね。相変わらず仕事はありません。3日に一度はダイエットしてるよ。なかなか辛いものがあります。今日はクリスマスだというのに困ってます。
 
相変わらず、全然困っていない。
 
響  :何か仕事があるといいけどね。・・誰。
ハリネズミ:お迎えに来ましたよ、お嬢さん。
響  :ハリネズミ!
ハリネズミ:水島です。
響  :すると。
 
茉莉が出てくる。あとにはヤグモ。
 
茉莉 :相変わらずまずしい食生活のようね。
響  :茉莉。ヤグモーっ
ヤグモ:ひびきーっ。
響  :ヤグモーっ。
ヤグモ:ひびきーっ。             
 
と、ぱたぱたする。
 
茉莉 :新しい冒険よ。アガルタの虹を探すの。道が開くかも。やばいけど来る?
響  :あんたもこりないねえ。ねえ、パンついてる?
 
おいおい、いやしくもヒロインだろ。
                           
茉莉 :スープぐらいなら大丈夫。
響  :よかった。もちろん行くわよ。5分待って。
茉莉 :3分だ。
響  :けち。
茉莉 :響には言われたくないな。
響  :もう。
 
と、言って、笑い合い、抱き合う。
再会の祝福。
水島とも握手。水島は嫌そうだ。
ヤグモと響再び抱き合う。
四人がにぎやかに再会を祝う。
幸せなカーテンフォール。
ところへだだだーっと、駆け込んできてすつころぶカケル。
 
カケル:やっ。メリークリスマス!
 
茫然とする一同。ストップモーション。
音楽高鳴って。
        TO BE CONTINUED 「夕焼け草を追いかけて・・神林響の冒険第二章」
 【 幕 】
参考:宮崎駿 「天空の城ラピュタ」



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