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 「猫の散歩道」 
 作 結城翼

★登場人物
いろは・・
モモ・・・
陽子・・・
路子・・・




☆プロローグ・・「猫」は朝寝をしている

客入れの音楽。
溶暗。
スライド。猫の後ろ姿。シッポがぴょこぴょこと左右に振れる。
『タイトル』が入り。
溶暗。
音楽消えて溶明すれば掃除機の音。

Ⅰ「猫」たちのパーティー

溶明。
左右に出入り口。
中央に小さいテーブル。いすが2個。テーブルには真っ赤な薔薇が飾られている。
掃除機をかけているミチ子。
止めては、テーブルの上の小物をなおしてみたりしている。
腕時計みて。

路子 :遅い!なにやってんの、みんな。手伝うなんて嘘ばっかり。

と、いらつく。

路子 :もう十一時なのに。ったく。

と、また掃除しながら。

路子 :せっかく日曜日だからパーティーしようってのに。まにあわないじゃない。

と、ぶつぶつ。

路子 :盛り上がるだけ盛りあがっといて。えい、こらっ。このっ。どう!

と、掃除機をしつこくする。なんかとれにくいゴミがあったようだ。

路子 :いろはー。・・いろはーっ。おきなー。

と、呼ぶ。音沙汰なし。あてにはしてない様子。

路子 :あーっ、こんなところに。モモのやつ。

と、転がっているビールの空き缶を見つける。

路子 :あーあ、つまみまで。食べるなら全部食べろよなあ。

と、小皿に残ったイカくんの切れ端。拾ってぱくっ。

路子 :角のコンビニね。・・片づけぐらいしなさいよ。

と、小皿もって去る。
入れ替わりに陽子が、なにか探す風で入ってくる。
机や椅子の周りを見るがないようだ。
ミチ子が入ってくる。

路子 :あら。
陽子 :おはようございます。
路子 :おはよう。
陽子 :すみません。今日、ここは私の当番なのに。
路子 :いいの、いいの。どうせやらなきゃいけないし。食事当番誰だっけ。
陽子 :モモさんです。
路子 :やっぱり。三時よ、彼、呼んでるのに。間に合わないわ。
陽子 :ああ、はい。

陽子はなおも何かを探しているがミチ子は気づかない。

路子 :共同生活ってのはルールがあるんだからちゃんと守ってもらわなきゃ、なりたたないのよね。
陽子 :あ、はい。すみません。私やります。
路子 :ごめん。あなたにいったんじゃないわ。あ、そう。やってくれる。そう。ごめんなさいね。私、やることいっぱいあって。

陽子が掃除機を受け取って、掃除始める。

陽子 :どんな人か、楽しみです。すてきなひとでしょ。こんな薔薇贈ってくるほどですものね。
路子 :ふつうよ、ふつう。
陽子 :応援してますよ。
路子 :ありがと。       
陽子 :勝負ですね。
路子 :絶対、ものにしてみせるわ。
陽子 :ファイト!
路子 :うっしゃー。

と、気合いはいって、照れくさくなって。

路子 :やだあ。いわせないで。
陽子 :いろはさんは?
路子 :起きてきゃしないわよ。ここたのんでいい。
陽子 :はい。やっときます。
路子 :じゃ、まかせた。あ、トイレの掃除はいろはにやらせるから。

ミチ子が去ると、掃除をやめてそこらあたりを探すが見あたらないようだ。
困った風だが、そうだという思い入れで、出ていく。
モモがパジャマでおはよう、新聞ないとか言いながら入ってきて、ぼりぼりお腹なんかかかいてる。
一服しかけたとたん、うっとくる。

モモ :いけね。まだ残ってる。

ふたたびうっ。気持ち悪そうに、またよろよろと出ていく。

路子 :だいたいあんたはねー。

ミチ子にずるずるとパジャマのえりつかまれていろはがはいってくる。

いろは:だってー。
路子 :姉さんを応援する気持ちないの。ももたばっかりかまってないで、準備、準備。
いろは:だってねむいんだもん。
路子 :もう、お昼よ。陽子ちゃんなんか、ちゃんとてつだってくれてんのよ。
いろは:どこでよ。
路子 :あら・・とにかく。後二時間少ししかないんだから。
いろは:勝負開始かあ。

ぎろっとにらむ。

いろは:はいはい。
路子 :あんたはトイレね。
いろは:またあ。
路子 :トイレをきれいにすれば心もきれいになるわ。
いろは:十分きれいだとおもうんですけど。
路子 :夜の夜中も遊びほうけているような高校生がなにをいうか。トイレきれいにね。わかった。
いろは:はいはい。愛しい彼が気分良く用を足せるようにぴかぴかにすればいいんでしょ。
路子 :下品。
いろは:なんでよ。トイレってご飯食べるとこ?
路子 :一言多いの。あんたは。
いろは:うまれつきです。
路子 :育て方間違ったわ。
いろは:いえいえ、感謝しておりますよお姉様。
路子 :いろは!

ミチ子、いろはをぶつが、いろは、体をかわす。

いろは:パターン同じだよ、お姉ちゃん。あ、おはよう。

陽子が再びきょろきょろしながら入ってきた。
いろははおはようといいながら、だきつく。

陽子 :あ、きゃっ。
いろは:ふっふっふ。おっきいぞ。
陽子 :やめてよ、もむの。
いろは:だってー、きもちいいんだもん。
陽子 :変態。
いろは:あ、モモさんおはよう。

もも、新聞もって入ってくる。なんかまだ気持ち悪そう。

路子 :まだよっぱらってんじゃない。
陽子 :彼とのんだんですか。
モモ :いやあ、まあね。あー、気持ち悪い。
いろは:モモさーん。

と、抱きつきにいくがかわされる。

モモ :あたしは、男にしかもませないの。
いろは:ちっ。
陽子 :飲み過ぎですよ。毎日じゃ。
モモ :まあまあ。
路子 :手伝ってくれるんじゃなかったの。

と、皮肉っぽく。

モモ :てつだうわよ。心配しなくても。うっ。

と、また、でていくモモ。

路子 :あきれた人。
いろは:つわりだったりして。
路子 :何馬鹿なこと言ってるの。はやくしてよ。トイレ。

とミチ子。忙しそうに出ていく。

いろは:はいはい。お姉さま。

陽子はなおもなにか探しているふう。

いろは:何か捜し物。
陽子 :え、別に。

と、あわててでていく。
不審そうに見送ったが、何かが落ちているのに気づいた。拾い上げて首をひねっている。
よろよろと入ってきたモモ。ふっと見て。

モモ :あんた使うの?
いろは:え?
モモ :へー。進んでるわね、最近の高校生は。
いろは:何がです。
モモ :検査薬だよ、それ。妊娠の。
いろは:ひろったんですけど。
モモ :ほう。・・というと。
いろは:そういうことになりますか。

ミチ子が入ってくる。
ばっと振り返る二人。

路子 :何よ。
モモ :あんたもなかなかやるじゃない。
路子 :えっ、何が。

路子に、モモがばっと見せる。
路子、じろりと見て。

路子 :そこまでいってないわ。
モモ :そうよねえ、ごぶさたしてるひとはそんな心配することがなくていいわよねああよかったー。
路子 :そうよ。まるっきりご無沙汰よってなにいわせるの。あんたじゃないの。
モモ :あたし?あたしはいつでも万全の対策とってるよ。
陽子 :あ?!

と、陽子が入ってくるが気づかない。

路子 :じゃだれよ。まさか。
いろは:は?
路子 :いろは!
いろは:あたしはひろっただけ。
路子 :じゃ。
三人 :まさか。
陽子 :わたしのです。
三人 :えっ。

と、陽子に気づく。

路子 :ちょっと、ちょっと、陽子ちゃん。ほんとに。

頷く、陽子。
小さい間。

路子 :ここ、すわって。

座る陽子。気まずい間。

路子 :いつからなの。
陽子 :二ヶ月前からです。
いろは:ほー。
路子 :なぜ。
陽子 :・・。
路子 :責めてるわけじゃないわ。どうしてそうなったかって聞いてるのよ。
いろは:責めてると同じじゃない。
モモ :まあまあ。彼とはどうしてであったの。
陽子 :お釣りを渡しすぎたんです。
路子 :お釣り?ああ、バイトでね。
陽子 :ちょくちょく買いにきてくれてて。
いろは:一目惚れ?

陽子、いろはを複雑な目で見るが、頷く。

モモ :若いわねえ。
陽子 :一目惚れがいけないんですか。
モモ :そういう訳じゃないよ。ただね・・。
陽子 :私って・・そうなんです。

思い詰めたような調子。小さい間。

路子 :それで。
陽子 :二ヶ月ぐらい前、すごく忙しいときあって、ぼーっとしながら働いてたんです。いいだろうなあって、あんな人と一緒に買い 物にきてたらって。
モモ :かわいい、かわいい。
陽子 :で、精算するときお釣り百円多く渡してしまったみたいで。
モモ :わざわざ返しにきたと。
陽子 :ええ、一時間ぐらい後で。気づいてなかったのに。すごくうれしくなって、なんだか。
路子 :それだけ。
陽子 :お礼いったんです。わざわざすみません。ありがとうございます、私のためにって。
いろは:私のために、ねー。
モモ :いうもんだねー。
陽子 :でも、そのときほんとにそう思ったんです。
路子 :彼は。
陽子 :じゃ、仕事終わったらちょっとつきあってもらえませんかって。
いろは:うわっ。
モモ :わかりやすいねー。
路子 :あなたねえ、そりゃ手よ男の。
陽子 :でも、優しくて。おもしろい人で。
いろは:ナンパすると男は優しいよ。
路子 :あんたは黙ってる。
いろは:はーい。
モモ :で、たべられちゃったわけだ。
陽子 :そんな。
モモ :でもそうでしょ。
陽子 :なんか、全然おもしろいことも起こらなくて、毎日毎日同じことしてて、先も見えなかったし。
いろは:やれやれ。
陽子 :どうにもならなかったんだから。

間の悪い間。

路子 :産むつもり?
陽子 :いいえ。そんなこと考えたこともないです。
路子 :彼にはどういうの。結婚してくれって。
陽子 :とんでもない。まだそんな年じゃないです。
路子 :じゃ、どうするの。
陽子 :・・・。
いろは:あたしなら、赤ちゃんだけほしいな。
路子 :いろは!
いろは:わかってます。
モモ :とにかく事実確認したらどう。
路子 :(ため息ついて)先走ってたわね。・・そうしなさい。
陽子 :・・ええ。
路子 :使い方わかる?
陽子 :何となく。
路子 :簡単だから。

二人去る。

モモ :馬鹿だなあ。
いろは:陽子ちゃん?
モモ :こんな時、貧乏くじ引くの女だからね。陽子ちゃんはちょっと無防備だな。
いろは:純情なんでしょ。
モモ :それは免罪符にはならないの。単なる馬鹿。
いろは:馬鹿ですか。
モモ :一直線てのは怖いからねー。
いろは:一直線かー。
モモ :あああ、朝からやなこときいちゃったな。
いろは:もう、お昼ですよ。
モモ :つっこむなって。そうそう、一直線っていえば北海道はいいよー。
いろは:北海道??
モモ :去年行ったんだけどさあ、ほんとに道一直線なんだから。半日、ぶっ飛ばしてもさあ。風景全然かわんないところあるんだよ ねー。夏なんか、緑、緑、緑。いやんなっちゃうほど広いわ。
いろは:そういえば、よく一人で旅行いきますね。
モモ :ほっといてよ。けど、旅はいいわよー。
いろは:いきたいなあ。
モモ :北海道?あの広さが絶対いいよね。
いろは:じゃなくてもいいですけどね。・・でも、行っても・・戻ってこなきゃいけないし。
モモ :我が家へ?
いろは:(見回して)そうですね。
モモ :いやなのここが。

軽い調子で言われるが、目は鋭い。

いろは:そんなことないですけど・・。
モモ :・・。
いろは:なにも変わりはしないんですよー。これって。

笑う。

モモ :帰ってこなければいいじゃない。
いろは:そういうわけにも行かないでしょ。
モモ :まあね。・・うらやましい?
いろは:え?
モモ :陽子ちゃん。あの子、これから変わるわよ。
いろは:変わるでしょうね・・。
モモ :先越されたって思わない。
いろは:・・それは、あるかも。
モモ :あんたは、しないわよ。
いろは:どうして。
モモ :もう少し賢そうだから。
いろは:そっかなあ。
モモ :黙って、茶々入れてるだけ。
いろは:さあ、どうでしょう。
モモ :あたしの職場にあんたに似たのがいるよ。
いろは:誰です。
モモ :マネキン。
いろは:(笑う)わたし、そんなにスタイルよくないですよ。
モモ :マネキンの笑いって、目が死んでるのよね。
いろは:・・。
路子 :まずいわね。

と、ミチ子が入ってくる。

モモ :ドンぴしゃ?
路子 :たぶんね。ちょっと微妙なとこだけど。
モモ :どうするの。
路子 :彼氏にいうしかないでしょうね。男に責任とらせなきゃ。
モモ :とるかなあ。
路子 :怪しいわね。
いろは:いいじゃない別に。
路子 :いろは?
いろは:自分の責任だもの。うみたきゃ産むし、産みたくなきゃ産まなきゃいいわ。
路子 :そういうわけにはいけないのよ。
いろは:どうして。
路子 :いろいろあるのよ。
いろは:あ。
モモ :落ち着いた。
陽子 :ええ。

意外と明るい。

路子 :彼とよく話し合うのね。
陽子 :はい。すみませんせっかくの日なのに。
路子 :いいの、いいの。
陽子 :手伝います。
路子 :いいのよ、あなたは大事にしてないと。明日にでも病院行って来るのね。

ピンポーンと誰か来た。

路子 :みてきて。
いろは:はいはい。

出ていった。
ちょこっと顔出し。

いろは:ピザ頼んだ?
路子 :ああ、私。

と、ミチ子が行く。
いろは、引き返しながら。

いろは:あたしにもある?
路子 :あるわよ。
いろは:さんきゅ。じゃ、用意するね。陽子ちゃんも食べる?
陽子 :あたしは・・。
モモ :人間食べないと暗いことしか考えないよ。
いろは:そうそう。食い気が一番肝心。

と、テーブルを片づけているところへ、でかいのを持ってきた。

路子 :あんたは食い気しかないものね。
いろは:すみませんねー。

と、がさつに箱を開けると。

いろは:あ、モッツアレ(適当なやつを)。これ、すきなのよね。
モモ :どれどれ。

ミチ子、はいと陽子に渡す。
すみませんと陽子。だが、さすがに食欲は出てこない。

いろは:ほんとにたべなきゃ。
陽子 :うん。

と、一口。

いろは:おいしいでしょ。

と、がっついている。

モモ :そういえばあんた服どうするの。
路子 :着替えるわよ。
いろは:勝負服?
路子 :普通の服よ。
モモ :またまた。この間、ブティックはいるのみたわよ。
いろは:みずくさーい。
路子 :普段着よ。
モモ :ほほー、それにしちゃ一度もみないわよねー。
いろは:ねー。
路子 :いいじゃない。かってでしょ。
いろは:じゃ、今日がデビューね。
路子 :ま、結果的にそうなるかな。
モモ :無理しちゃって。
いろは:モモさんなら、ここ一番の勝負服どんなの。
モモ :そうねえ、ま、私ならこれね。

と、下着(ぶらせん)をちらっと。豹がらか赤。

いろは:それはただのしたごころ。
モモ :お持ち帰りしてえ。とか?
いろは:どこもってかえんです。
モモ :やっぱ彼の部屋でしょ。
いろは:定番よね。
路子 :二人とも!
二人 :はーい。
路子 :パジャマでがっついでないで着替えなさい!
いろは:勝負服?
モモ :あんたが勝負してどうする。
いろは:おつきあいってものがあるじゃない。
路子 :早く!
二人 :へーい。

と、ごそごそ行く。
それでも、いろははまだピザを一切れ手を出そうとしたが、ぴしゃりとミチ子に手をしばかれる。

路子 :ったく。

と、ピザを片づけにかかる。

陽子 :うらやましいな。
路子 :なにが。
陽子 :何でもありません。
路子 :・・そっ。

モモの悲鳴。

路子 :どうしたの。
モモ :これみてよー。
路子 :あらら。
陽子 :ひどい。

服が、ももたがぶら下がったと見えて、ほつれるはやぶれるはめちゃくちゃ。

モモ :たかかったのよー。これ。
陽子 :どうしたんですか。
モモ :ももたがぶらさがってたわ。しっかり。ほら、爪でやぶけちゃって。
陽子 :直せないんですか。
モモ :無理ね。あー、困ったわ。別の、クリーニング出してるし、普段着じゃなあ。
路子 :あんたも勝負するわけ。
モモ :いえいえ、ミチ子さんの引き立て役に甘んじますわ。
路子 :どうだか。
陽子 :でも、何か着なくちゃ。
いろは:パジャマでおじゃまでいいんじゃない。

いろはが入ってくる。

モモ :おー。やるじゃん。
いろは:でしょ。
陽子 :いろは・・。それってちょっと。
いろは:悩ましい?いいじゃないこれぐらい。
路子 :いいって言ったって。
モモ :まあまあ、目くじらたてない、たてない。
路子 :まったく。
モモ :うーん、負けずにこちらもいくかぁ。何で勝負するかなあ。
いろは:勝負下着ってのは・・・。
モモ :ガキは可愛い系だろけど。やっぱ、大人の色気ってのがね。
いろは:でも、見えませんよ。
モモ :このあたりならちらちらと。

と、胸のあたりや、肩のあたり。

路子 :やめなさい。
いろは:やっぱり値段?
モモ :結局ねー。
いろは:ぬいじゃえばおなじでしょ。
路子 :いろは!
モモ :やーねー、エッチ。
いろは:今更なにを。

そそくさと去る陽子。
見送って。

路子 :ほら。傷ついたじゃない。
いろは:なによあたしが悪いわけ。
二人 :そうよ。
いろは:あたしだけが悪いわけ。
二人 :そうよ。
いろは:けっ。裏切り者。
モモ :何の事かしら。
いろは:あーあ、大人は汚い。あっ、ももたー。

と、追いかける。

いろは:大人は汚いよねー。
モモ :こら、ももたあたしの服を。あっ。
いろは:ももたっ。

テーブルの薔薇に引っかけて逃げた。
薔薇は落ちる花弁が散る。

路子 :ももたー!
いろは:あーあ、やっちゃった。
路子 :なによ、これ。
モモ :そう、おこりなさんな。大丈夫よ。
路子 :いやっ。

いろは、片づけながら。

いろは:しかたないじゃない。
路子 :彼の薔薇よ。
いろは:わかってるよ。そんなこと。でも、これぐらいだよ、だめになったの。
路子 :いやなの。一本でも。
いろは:そんなこと言ったって。
路子 :どうするの。

小さい間。

いろは:あたしが?
路子 :ももたの責任とりなさい。
いろは:そんな。
モモ :まあまあ、いやなら買ってくれば。
路子 :彼のと違う。
モモ :子供みたいなこと言わないの。
路子 :でも。
モモ :同じ本数買えばいいじゃない。ねっ。
路子 :そう?
モモ :そう。
いろは:しゃあないね、買ってくる。でも、なかったら。
路子 :町中探しなさい。
いろは:やれやれ。
路子 :あたしが金出すんだから。さっさと行く!
いろは:へーい。

露出度高い服でそのまま行くのを。

路子 :その服!
いろは:いいからいいから。

出ていく。

モモ :そんなにかりかりしない。
路子 :してないわ。
モモ :いろはちゃんにあたり過ぎよ。
路子 :このごろ反発してばっかり。
モモ :大人になってんのよ。よくやってくれるじゃない。
路子 :ならいいけど・・ああ、掃除止まってたわ。いろはの代わりにトイレやってよね。
モモ :トイレかあ。

というが、立ち上がる気配はない。
ミチ子ががんがんやってるの眺めながら一服。

モモ :ねえ、どうなのよ。
路子 :え?

掃除機の音で聞こえない。

モモ :彼とよ。

掃除の手を休める。
また、掃除へ戻りそうだが。

モモ :どっちがどうなのよ。

完全に掃除の手が止まる。掃除機のスイッチも切る。

モモ :いやあ、なんか話が突然だったしね。
路子 :おかしい?
モモ :だって、男っ気全然なかったし、薔薇はくるわ、急にパーティーするわって言い出すしさ。ほんとかよって思ったりして。

路子、ちょっとギクッとした感じで。

路子 :ずいぶんね。
モモ :一目惚れ?
路子 :まあね。彼がよ。
モモ :おおーっ。すっごい。どこでよ。
路子 :病院。
モモ :仕事場かあ。
路子 :虫垂炎で入院してきたの。
モモ :ほほー、盲腸が結ぶ縁結びか。もうちょっとね。・・ごめん。それで。
路子 :別に。
モモ :おいおい、別にって事ないでしょ。いいなさいよ。
路子 :・・夜勤なんかにね。
モモ :おーおー、夜勤かあ。夜勤ね。くっくっく。
路子 :なによ、それ。
モモ :いいから、いいから、病棟の巡視なんかするするわけだ。出会いだなあ。
路子 :なに言ってるの。ただね、若くてかっこいい患者がくるとどきどきするってことあるわね。
モモ :やっぱり。
路子 :気を遣うのよ。これは、これで。
モモ :白衣の天使って訳ね。
路子 :でも、患者さんが積極的なことってあるわね。
モモ :どんなに。
路子 :血圧はかるときとか、手をさすられたり、抱きつかれたり。
モモ :押し倒したり。
路子 :おいっ。
モモ :夜なんか特にでしょ。
路子 :退院したら食事に行こうとか、コンパしないっとか。携帯の番号教えてっとか、ああ、彼じゃないわよ。別の子よ、別の子。
モモ :ほーお。
路子 :あ、私でもないわよ。私でも。別の人。
モモ :ほーお。・・で、夜勤の巡視。暗いよね病棟。
路子 :消灯してるじゃない。カーテンもそれぞれ閉めてる。懐中電灯もって回るわけ。
モモ :ふんふん。
路子 :さっさっと様子みて懐中電灯照らして、回るとさ。起きて待っててくれるわけ。
モモ :ふんふん。
路子 :あら、眠れないんですか。うん。ちょっとね。眠らなきゃ、だめですよ。いや、君のこと考えてるとね、なんだか。あら、じょうだんばっかり。本気だよ。だめだめ、そんなお上手言っても。本気なんだよ、僕は。患者さんなんだから。直すことに専念して、ね。患者の前に恋する男さ。まあ。いいだろ。いけません。そんなこと言わずに。ここではだめよ。じゃどこならいいの。ああ、だめ、だめよ。そんなつもりでいったんじゃないわ。ああ、だめ。だめ。だめ。・・・いいわ。

突然、着メロ。

路子 :うおーっ。

あわてて携帯取り出す路子。
あきれてみているモモ。

路子 :はい、はい。すみません。今日はちょっと。事情があって。山上さんなら大丈夫だと思います。・・・ぼけーっ。今日は大事な休みなんじゃー。じゃますんなーっ。
モモ :呼び出しじやない。
路子 :そう。緊急らしいけど。いっつもあたしに来るのよ。
モモ :ご無沙汰してるから。
路子 :くどいよ、それ。ああ、じゃまくさ。電源きっとこ。

と、携帯をテーブルへおく。

モモ :あきれた。
路子 :いいの。個人の幸福は何ものにも代え難い。

ピンポーン。

路子 :何?
陽子 :モモさんにですよ。
モモ :あっ、きたきた。

通販の箱。

モモ :へっへっへ。勝負じゃ勝負じゃ。
路子 :なに。
陽子 :衣類みたいです。
路子 :ふーん。やっぱり買ってたか。
モモ :ほっほっほ。

と、箱を開けた。

モモ :ほらっ。

と、派手なブラジャー。

陽子 :あら。
路子 :勝負下着かい。
モモ :何とでもいえ。
陽子 :でも、モモさんておっきいんですね。
モモ :えっ。
路子 :あんた、サイズ間違えたんじゃない。
モモ :げっ。

あわてて、調べるモモ。がっくりくる。

モモ :・・でかい。
路子 :まあ、彼に見せる訳じゃないから。
モモ :こんなの、あうわけないじゃない。ほら、ほら、ほら。

確かにでかい。

路子 :お茶でも飲んで気を静めたら。入れてくるわ。

と、出ていく。

モモ :ちっくしょう!

ミチ子の、ぎゃーっという声。

モモ :どうしたのー。
路子 :また、ももたがーっ。
モモ :なんだ?
路子 :これ見て!

と、泣きそうな顔で出てくる。
取り出した、ピカチュウのクッションにべったりと猫のおしっこ。

モモ :あ、やった。
陽子 :匂いますね。
路子 :お気に入りなのにー。
モモ :サイズがでかいのよりはましよ。洗えば落ちる。
路子 :においきえないのよなかなか。
モモ :こちらは、取り替えれないのよ。丸損よ。
路子 :あたしだって。
モモ :使えば気にならないって。
路子 :あんただって、使えば気にならないって。
モモ :落ちてくるわ、使える分けないじゃない。
路子 :根性よ。
モモ :あんただって、根性出したら。
路子 :においいやなの。
モモ :おおきいのいやなの。
いろは:ただいま。・・どうしたの。

と、いろはが浮かぬ顔をしてカルカン大量にかって帰ってくる。
有無を言わさず突き出す路子。

いろは:あー、やっちゃったのね。ももたお気に入りだったから。
路子 :あたしのお気に入りよ。
いろは:いいじゃない。買えば。
路子 :限定品よ。もう。・・なに、それ。
いろは:え、猫缶よ。
路子 :みりゃわかるわ。薔薇は。
いろは:えっ、あ、しまった。忘れた。
路子 :あんたはー。
いろは:だって、ももたのカルカンないじゃないもう。だから。
路子 :頼んだことぐらいしてよ。彼の花なんだから。
いろは:じゃあ、頼まなきゃいいじゃない。
路子 :そんな問題じゃない。
いろは:わかった。買ってくればいいでしょ。もう一回行って来る。
路子 :いい!
いろは:いるって言ったじゃない。
路子 :いらない!
モモ :買いに行くって言ってるじゃない。
路子 :いらない!間に合わないわ。
いろは:やけになることないじゃない。
路子 :もう、やめる!彼に電話かける!
モモ :それがいいね、これじゃ。

ミチ子、半泣きで部屋へ駆け込む。

モモ :あ、携帯。

無視して去る。

いろは:子機でかけるんでしょ。
モモ :あーあ、なんだか気が抜けたなあ。
陽子 :結局中止ですか。
いろは:仕方ないんじゃない。あーあ、機嫌悪いだろうなあ。一日中。
モモ :逃げるしかないねえ。
いろは:出かけようかな。
モモ :あんたはどうするの。ここにいると、うるさいわよ。
陽子 :別に行くところもないから。
モモ :じゃ、あの人のお相手お願いね。わたしちょっと。

と、出かけようとしたところへ。
るんるんになったミチ子。
一同、唖然。

いろは:どうしたの。
モモ :おかしくなった。
陽子 :大丈夫ですか。
路子 :私?だいじょうぶよー。今までで一番大丈夫よー。

くるくるっと、回る。

路子 :彼がねー。

と、みんなをみて。

路子 :ちょっと遅れるって。うふ。

と、るんるん。けろっと忘れたようだ。

モモ :はあ。
路子 :仕事入って五時になるんだって。よっしゃー、間に合うぞー。
モモ :まにあうって、やる気?
路子 :あたりまえじゃない。なにいってんのよ。今更。
いろは:今更って・・さっきは。
路子 :ああ、あれ。ごめんなさーい。ちょっとあんたにあたっちゃって。いやね、人間いっぱいいっぱいになるとつい身内に当たるのよねー。
いろは:いいけどね。
モモ :あんたねー。
路子 :何か言った。
モモ :いいわ、もう。
陽子 :とにかくまだ間に合うますよね。なんか作ります。
モモ :じゃ、わたしブラ買ってくる。

携帯をもって。

路子 :じゃ、はじめよう。頑張るわよー。
一同 :(いろはをのぞく)おーっ。

と、みな散りかかり。

いろは:あ、お姉ちゃん。
路子 :何。
いろは:薔薇だけど・・。
路子 :薔薇がどうしたの。

いろはを通して遠くを見ている目。

いろは:・・ううん。なんでもない。
路子 :そっ。

と、くるりっと去る。
いろは、見送って。
無惨な薔薇を一本抜き出して。

いろは:売り切れてたんだよね。・・真っ赤な薔薇は・・。

ぎゅっと花弁をつかんできっと去った方向を見る。
暗転。
音楽。
「スライド・・猫のシッポがくるくると」・・ちょっとちがうのがいい。

Ⅱ「猫」は目を覚ます

溶明。
彼が来るという一時間前。
いろはが本を読んでいる。
ちょっと暗い明かり。ちょっと不気味な音楽。

いろは:ねえ、私を愛してる?台所で料理をしていた手を休めて女がいった。青ひげは何も知らず女にほほえんだ。どうしたの、そんな顔をして。いいえ、なにも。愛してる?愛してるよこんなにも。キスをしようとした手を払い、女はいった。私だけ?もちろん。じゃ、彼女たちにもそういって。青ひげが振り返ると、女たちがいた。私を愛してる?私も愛してる?おまえたちは・・。あら、と片手を後ろに隠したまま女たちは笑う。あなたの妻よ。愛人よ。恋人よ。情婦よ。私たちにいったじゃない。あんなにも。愛してるって。・・ああ。ならいって、私たちに、愛しているって。青ひげは追いつめられて・・愛してるよ。そう、私もよ。と女たちは隠していた手を出した。よく切れそうな包丁を握ったまま、女たちは愛しそうな笑顔を浮かべながら青ひげにいった、だから、ね、ほしいの、あなたの・・。
モモ :暗いじゃないの。

ぱっと明るくなる。
モモが入ってくる。椅子に座り、一服。

モモ :何、収まってるの。
いろは:おもしろいですよ、これ。
モモ :青ひげ?
いろは:青ひげの料理。ホラーですけど。
モモ :ああ、何人もの女と結婚して次から次へ殺しちゃったというあれ。
いろは:一人です、殺されるの。
モモ :一人?
いろは:青ひげが。気づいた妻たちが殺すんです。
モモ :どこがこわいの。
いろは:殺した後、それぞれ気に入ってたとこをもって帰るんです。青ひげの指とか、目とか
モモ :ぐろいわね。
いろは:食べちゃうんですよね。みんな好きだったから、料理して。
モモ :趣味悪いよ。いろはちゃん。
いろは:えぐいですね。確かに。けど・・。
モモ :何。
いろは:そんなものじゃないですか。女って。ほんとに好きなら。
モモ :どうかね、それも大人のご意見?
いろは:裏切られた時って、モモさんならどうします。
モモ :あたし?そうね、お互い様っていうとこもあるからねー。どうするかなあ。あんたなら?
いろは:許さないです。
モモ :おーおー。ナイフでも持ち出すわけ。
いろは:かもしれません。

にっこりと美しく笑う。どこか、怖い。

モモ :あんたの彼にはなりたくないなあ。
いろは:でも、私は裏切りませんよ、絶対。
モモ :彼、一途と言うわけだ。命かける恋みたいな?
いろは:・・そうですね。命かけてもいいです。裏切られたら、それで私、終わりですから。

静かにいう。
小さい間。
いろは、また本を読み出す。

モモ :じゃ、あれがそうかな。
いろは:何がです。
モモ :みたわよ。
いろは:なにを。
モモ :彼。

いろは、無表情になる。
本を置く。

モモ :一週間ぐらい前かなあ。公園で。ほら、打ち上げで遅く帰ってきたときあるじゃない。
いろは:ああ、あの吐きまくった時。
モモ :死ぬかと思ったわよあれは。
いろは:懲りない人だから。
モモ :ほっといて。ちょっとあたしの彼に似てたかな。背高かったし。
いろは:どんな顔でした。
モモ :顔はあったわよ。
いろは:どんな髪型。
モモ :髪もあったわね。
いろは:なんもみてないんじゃないですか。人違いですよ。
モモ :だめだめ。ごまかしても。観念しな。・・なにしてたの。

ちょっとため息。

いろは:星をみてました。
モモ :おっとー、ロマンチックねー。
いろは:ガキみたいって言いたいんでしょ。
モモ :初めてじゃないわね、あの雰囲気。いつからよ。
いろは:2年ぐらいかなあ。
モモ :お見それしました。
いろは:いえいえ。
モモ :どんな出会い。
いろは:痴漢なんです。
モモ :痴漢?!

陽子が入ってきたが、その言葉ですっと隠れる。
二人は気づかない。

いろは:バスに乗ってて、なんかさわられて手つかんだらその人で。
モモ :どうしたの。
いろは:もちろん、突き出しましたよ。
モモ :痴漢だったの。
いろは:いいえ。結局人違い。
モモ :あらあら。
いろは:一ヶ月ばかり経って、偶然あの公園であったんです。
モモ :それで。
いろは:やっぱり、夜で星みてたら。
モモ :声かけてきた。
いろは:好きなんですって、星が。
モモ :痴漢の件は。
いろは:もういいよ、気にしてないから。って。結構、ここ、引きつってたけど。・・・おかしいですか。
モモ :まあ、出会いはいろいろあるから。それからずっと。
いろは:時々。いつも、星一緒にみてるんです。
モモ :好きなの。
いろは:さあ、どうでしょう。彼は、君といると安心するっというけど。
モモ :おーおー。いうねえ。命かけてる?
いろは:・・どうかなあ。
モモ :それにしても痴漢とはねー。
いろは:だから、それは誤解で。
路子 :やめなさい、そんな男。
いろは:おねえちゃん。

反対側からミチ子が入ってくる。
陽子は隠れて聞いている。

路子 :そんなの悪い男に決まってる。
いろは:知りもしないくせに。
路子 :とにかくやめなさい。
いろは:どうしてよ。
路子 :あんたのためよ。
いろは:都合のいいせりふ。気に入らないだけでしょ。自分の手を離れるのが。

たたかれるいろは。

いろは:なにすんのよ。
路子 :頭冷やしなさい
いろは:十分冷静よ
路子 :どこまで行ったの
いろは:もちろん最後までよ。いけない。(うそである)

モモはおっとという顔。

路子 :なんてこと。陽子ちゃんといいあんたといい。私は許さないわよ。
いろは:お姉ちゃんの許しなんかいらないわ。
路子 :いろは!
いろは:お姉ちゃん、今日変よ。
路子 :どこが。
いろは:いろいろ。人に八つ当たりしてさ。
路子 :そうさせてるの誰。
いろは:私?
路子 :わかってりゃいいわ。
いろは:そんな。
路子 :ああ、くさくさする。ももたは。
いろは:しらない。
モモ :二人ともいいかげんにしたら。
いろは:私はなにもしてません。
モモ :はいはい。ミチ子も大人なんだから。
路子 :どうせ大人です。
いろは:どうせ、がきです。

二人とも、そっぽむく。

モモ :あらら。・・。

と、打つ手なし。
ももたが入ってきた。

モモ :あー、ももた。
いろは:ももたこっちおいで。
路子 :こっちよね、ももた。
いろは:こっちだって。
路子 :こっち。
モモ :あーあ、いやがってにげちゃったよ。・・なに、その顔。

二人、顔を見合わせて、なんだか気持ちが和らぐ。

路子 :いいわ。おねえちゃん言い過ぎた。
いろは:私は別に。
モモ :はいはい、手打ちね。準備しなきゃいけないでしょ。こんなことやってらんないんじゃない。
路子 :そうだ。・・調味料買ってきてもらおうと思ったんだ。もう、わすれちゃうんじゃない。
二人 :あんたのせいじゃない。
路子 :悪うございました。
二人 :当然。
路子 :けっ。あ、そうだ、プレゼントも用意しなきゃ。

と、いそいそでていく。

モモ :プレゼント?
いろは:なんか昨日買ってきたみたい。
モモ :プレゼントか。
いろは:彼にします?
モモ :滅多にしないね。
いろは:私がプレゼントとか。
モモ :エプロンだけでね。
いろは:風邪引きますよ。
モモ :あはは、しないってそんなこと。

陽子が出てきた。
浮かぬ顔。

モモ :元気ないぞ。そうだ、あんた彼になんかもらった。
陽子 :何も。
モモ :じゃ、なんかあげた。
陽子 :お金ないから。
いろは:お金の問題じゃないと思うな。夜店の指輪でもいいよ、私。
陽子 :そりゃそうだろうけど、やっぱり。
いろは:ほんとに好きならね。

と、ちょっとトゲ。

陽子 :プレゼントなんかもらわなくても十分です。
いろは:もらえばうれしいわ。
陽子 :もらったの。
いろは:別に。
陽子 :なら、何でそんなこというの。

間。

いろは:見てられないもの。
陽子 :あなたにいわれる筋合いないわ。
いろは:だまされてるとおなじじゃない。
陽子 :だまされてる?ええ、それでじゅうぶんなの。くやしかったら彼つくってみたら。できないんでしょ。
いろは:いるわよ。
陽子 :いっつも星を見てるだけの彼。
いろは:・・聞いてたの。
陽子 :聞こえたの。
いろは:そう。・・それで十分じゃない。
陽子 :なら私も同じ。干渉しないで。
いろは:同じじゃないわ。
陽子 :関係持ったから?
いろは:違う。
陽子 :じゃ、何が違うの。
いろは:・・・。
陽子 :ほら。いえないでしょ。いろはさんのは夢見る王子様と同じじゃない。お子さまじゃないのよ、私はもう。
いろは:私も違うわ。
陽子 :違わない。じゃ、夢物語じゃあるまいし、なんで二人で時々星見てそれでおわれるわけ。キスしたいとか、エッチしたいとかおもわないわけ。そんなの、おかしいよ。あなた、だいたい勝手よ。いつも好き勝手して。
いろは:好き勝手?
陽子 :そうよ。お姉さんの苦労も知らないで。
いろは:知ってるよ。
陽子 :なら態度であらわしたら。お姉さんなんかこの間泣いてたんだから。
いろは:・・私も泣いてるよ。
陽子 :それはそれは。

いろは、きっと見るが。

陽子 :ちょっと出てきていいですか。
モモ :いいけど、買い物?
陽子 :ちょっと。すぐ帰ってきます。

と、そそくさと去る。
すれ違いざま、路子。

路子 :あ、陽子ちゃん、ちょっと・・・・調味料、頼もうと思ったんだけどな。
いろは:彼に会いに行くんじゃない。
路子 :しっかりした男ならいいんだけど。
モモ :なんか、やばそうだよね。
路子 :(ため息ついて)考えてもしょうがないね。・・調味料買ってきて。いつものやつ切れてるのよ。あれないと、おいしくないし。
モモ :そこのコンビニには。
路子 :一駅向こうなのよ。うってるところ。
いろは:行ってこようか。
路子 :行って来てくれる。
いろは:いいよ。一瓶?
路子 :そう。

いろは、出ていく。

モモ :こだわるわねー。
路子 :当たり前よ。あんたみたいにジャンクフードばっかり食べてると体ぼろぼろになるわよ。
モモ :あれがおいしいの。
路子 :舌狂ってるわ。
モモ :かわいそうに。
路子 :なにが。
モモ :なんでもない。それより、気になるな。
路子 :何が。
モモ :いろはちゃんの彼。なんか引っかかるんだよね。
路子 :どこが。星みてるってとか。
モモ :それもかなり怪しいと思うけど、別のこと。なんか忘れてんだなあ。あーっ、いらいらする。
路子 :どこが。
モモ :わかれば世話ないよ。でも、なんか違うんだわ。
路子 :脅かさないでよ。
モモ :なんでもない。
いろは:ちゃりないよ。

と、入ってくる。

路子 :別のところおいてんじゃないの。
いろは:いつものところ。さっき帰ってきたときおいたもの。
モモ :鍵かけてたの。
いろは:もちろん。
路子 :そういや自治会のお知らせにあったなあ。
モモ :手遅れね。
いろは:気に入ってたのに、ピンクでさ。
モモ :あきらめな。
路子 :調味料は。
いろは:そんなことしか心配しないの。
路子 :仕方ないじゃない、今更。
いろは:お気に入りなの。
モモ :まあまあ。
いろは:歩いていくのやだよ。
路子 :私は料理。
いろは:ももさーん。
モモ :お姉さまに働かせるの。
いろは:ここは一つ。あたし、警察に届けなきゃいけないし。
モモ :仕方ないわね。車出すか、めんどくさいなあ。
路子 :いやならいいわよ。
モモ :やりますよ、喜んで。
いろは:そこまで乗せてって。
モモ :交番なんか歩いて五分よ。歩きなさい。
いろは:だってー。
モモ :あーあ、どいつもこいつも。
路子 :なんだって。
モモ :なんでもありませーん。歩いて行きなさい。
いろは:ちぇっ。

モモはでていく。

路子 :行かないの交番へ。
いろは:後で行くわ。
路子 :そう。・・あんた、嘘でしょあれ。
いろは:え、何が。
路子 :最後まで行ったというやつ。
いろは:ま、言葉には勢いって言うものがあるから。
路子 :あきれた子。
いろは:どうも、すみません。
路子 :でも、気をつけるのよ。男はね・・。

いろは、ちらっと見て。

いろは:はいはい。
路子 :調子いい返事しない。
いろは:はい。
路子 :なんかはなしたいことあるんじゃなかったの。
いろは:何が。
路子 :さっき。
いろは:ああ、あれ。・・いい。後で。
路子 :そう。・・さあ、あとちょっとか。支度、支度。

と、そそくさと去る。
いろは、完全に去ったのを見て、電話機による。
受話器を取り上げて。

いろは:やっぱり。

悲しげな顔。

いろは:青ひげか・・。

いろは、厳しい顔をして去る。

Ⅲ幕間

モモが浮かぶ。

モモ :昔、あたしがまだちょっと若かった頃、ばかな恋愛したことあってさあ。あたし面食いだからいっつもちょっといい男だとついついいれこんじゃうんだよね。でね、まだ制服着てたときのことだけど、親友の彼氏に紹介されて一目惚れしたことあったんだよね。もう、世界真っ暗よ。いや、別に友情とるか恋愛とるかって言うようなことじゃなくて、ただこいつじゃなくちゃ絶対あたしは持たないなあって思いこんじゃって。あ、もちろん一方的な片思いなんだけど、そう、ふたりラブラブだし。居場所ないって言うのに、この親友ってのがまた脳天気でさあ、いっつも私つれてく訳。デートによ。勝手にさらせといいたいけど、やっぱり彼と会えるじゃない。ほいほいついてく訳よ。遊園地?ジェットコースター?乗るじゃない。もちろん前に二人仲良く並んできゃーきゃーいってるわけよね。あたしは後ろの座席に座って彼の背中見てるわけ。どんな顔してたんだろあたし。ジェットコースターがきりきりきりきり落として登ってくじゃない。おとがさ、たまんないのよね。心をきりきり締め付けてきてさ。ふいと、彼女がうしろむいてさ。すごい顔、怖いの。ってきくの。そうだよ、怖いんだよ、あんたも彼も自分もみんな全部が憎らしくってなんかめちゃくちゃにしたくなって。でもひきつりながらこういうのよね。ううん。何でもない。ジェットコースターが走り出すじゃない。一番こわくってスピード出すとこ、たぶん泣いてんのよね、さけびながら、死ねー、しんじまえーって。何ーって彼女も叫ぶの。なにーっ。何でもなーい。何でもないーっ。・・・帰りさあ、遊園地で別れるわけ。黄昏時っていうのかなあ、影がぼんやりして、空気黄色くなって、これがまた夏の終わりでさあ、二人のシルエットが消えるまで見送ってるわけ。好きです。好きです。好きです。好きです。呪文みたいに唱えながら見えなくなってもやっぱり好きです、好きです、好きです。好きです。ああ、このかげの中に自分もとけ込むことができたらってぼんやり思いながら。・・馬鹿だよね。   
陽子 :そんなこと・・ないです。

陽子が座っている。

モモ :彼?

頷く陽子。

モモ :・・いい話じゃなかったようね。
陽子 :ええ。
モモ :逃げたか。
陽子 :じゃないんです・・ただ。
モモ :おろせって。

陽子、こくんと頷く。

モモ :そっか。
陽子 :・・私、馬鹿でしょうか。のぼせて、行くとこまでいって、馬鹿見たんでしょうか。
モモ :それはわからないよ。
陽子 :私、どうしていいかわからないんです。ほんとに。産むつもりもないし、おろしたくもないし。

小さい間。

モモ :・・公園ってさ、妙に昔のこと思い出させるよね。あんたがぽつんと座り込んでるのみつけてさあ。なんかね。
陽子 :え?
モモ :さっきの話だけど、あたし結局どうしたと思う。
陽子 :片思いですか。
モモ :そっ。笑っちゃうのよねこれが。・・どうしていいかわからなくなって、も一人の親友に相談したの。そしたら。
陽子 :あきらめろとか。
モモ :ならいいわよ。その子顔色変わっちゃってさ。どうしてだと思う。
陽子 :・・まさか。
モモ :そう。そのまさか。彼、その子にも手を出してたというわけ。大笑いよね。一気にさめちゃった。
陽子 :馬鹿ですね。
モモ :そう、まるっきりピエロよ。あほくさ。おかげで、男見る目がかわっちやってさ。
陽子 :いいえ、自分です。
モモ :陽子ちゃん?
陽子 :いいんです。世間知らずの小娘が、寂しさに負けて、男にだまされたってよくあるお話なんですから。
モモ :陽子ちゃん。
陽子 :・・どうにもならなかったんです・・。
モモ :大丈夫、どうにかなるよ。考えて。
陽子 :決めました。
モモ :決めたって。
陽子 :産みます。
モモ :うむったって、あんた生活できないでしょ。
陽子 :何とかなります。
モモ :それはほんとの馬鹿だよ。
陽子 :はい、馬鹿です。ばかだからこんな責任とるしかないんです。だって、おろしたら、自分ほんとの馬鹿になっちゃう。
モモ :それは・・。
陽子 :ありがとうございました。

立ち上がる。

モモ :陽子ちゃん。
陽子 :帰ります。
モモ :ちょっと。

陽子、逃げるように去る。

モモ :陽子ちゃん・・・。ほんとにそれでいいの・・。馬鹿だよ。男って、なんぼのもんじゃない。・・くそっ。公園なんか来るんじゃなかった。

立ち去る。

Ⅳ崩壊・・「猫」は聞き耳を立てる

いろはがいる。
モモタに話しかけている。

いろは:・・ももた、どうしよっか。お姉ちゃんなんかやばいよ。このままじゃね。ももたこっちおいで。・・あ、まって。

と、追っかけていく。
ミチ子がさらになんかもって出てきた。

いろは:まって。こらモモタ。

と、でてくる。ももたを追っかけている。
おっと、と路子が皿を落としそうにした。

路子 :まだやってるの。
いろは:だってー、ももたが。
路子 :はやくやってよ。

と、いいながら皿を置く。

路子 :ほんとに時間ないんだから。

出ていこうとする。

いろは:おねえちゃん。
路子 :なに。
路子 :用事なら後よ。それより台所。
いろは:ほんとに好きなの。

え、と止まる。

路子 :なに言うの突然。
いろは:好き?
路子 :いろは、そんなのあんたが聞くべき事じゃないよ。私の問題。
いろは:だってそのスリッパ別々だよ。
路子 :え、えー、あ、こりゃまたどうした。いけないいけない。

と、ばたばた去る。

いろは:ももた。どうなるんだろね。
モモ :あいたっ。

と、声がして、荷物もって足引きずりながら帰ってくる。

いろは:ももさーん。

だきつこうとするが。

モモ :甘い。

と、荷物を抱かされる。

いろは:おもーい。こんなに買ったんですか。
モモ :あたしの買い物。速攻よ。頼まれたのはこれ。はい。
いろは:なんだ。
モモ :はいご苦労さん。こっちまで運んで。

と、いろはを使って、荷物を運ばす。

いろは:何ですこれ。
モモ :狸の置物。
いろは:またですかー。
モモ :コレクターにはまたという言葉はないの。どれも大事な一品よ。壊したら承知しないからね。
いろは:なら持ったらいいじゃないですか。
モモ :重い。
いろは:そんなー。
モモ :はいはいこっちよ。
いろは:死にそう。
モモ :落としたら殺すからねー。
いろは:殺されてもいいです。

と、別室へ。
路子が出てくる。
グラスをおいて去る。
別室から出てくる二人。

いろは:肩こったなあ。
モモ :悪かったわね、座って。もんだる。

       座らせて、肩をもんでやるモモ。

モモ :こってるねー。苦労してんだ。
いろは:わかります?
モモ :あんまり考えない方がいいかもね。
いろは:何にも考えてませんよー。
モモ :苦労なんか探さなくてもやってくるんだから。
いろは:そうですね。あ、そこ気持ちいいです。
モモ :こう。
いろは:はい、そこ。
モモ :よっし。

と、もむ。

モモ :さっきむかついたなあ。
いろは:何がです。
モモ :いやあ、公園にいたら車で通りかかったから。手を振ってやったんだけど。
いろは:あ、いいです。替わりますよ。
モモ :あ、そう。悪いわね。

と、かわり、いろはがもみ出す。

いろは:誰がいたんですか。
モモ :彼よ、彼。無視しやがって。
いろは:気づかなかったのかもしれませんよ。
モモ :それが許せない。
いろは:厳しいですね。
モモ :まあ言ってるだけだけどね。
いろは:どうでもいいんでしょ。
モモ :まあね。気張ったところで男は中身。
いろは:見栄えはいいんですか。
モモ :三日で飽きる。
いろは:ははー。
モモ :男なんてみんな同じなんだから。
いろは:中身?
モモ :欲望。けだものよ。
いろは:露骨だなー。
モモ :男に夢なんか見ちゃだめよ。やることしか頭にないから。
いろは:やだなあ。
モモ :ああ、もういいわよ。

と、こきこき。

モモ :おお、なかなか気持ちよくなったぞー。
路子 :何やってんの。
モモ :いやね、彼がこのあたりうろうろしてるねって。
路子 :日曜なんだから暇なんでしょ。
いろは:お姉ちゃん、それ?
路子 :プレゼント。どうよ。どうよ。
モモ :ネクタイ?
路子 :そうなの。何にしょうか迷ったんだけど、結局ありきたり。
モモ :いいんじゃない。どんなのよ。
路子 :ストライプ。いつもしてるから。
モモ :ああ、あたしの彼もそうだわ。
路子 :あんたの彼も。
モモ :無難だからじゃない。
路子 :そうかなあ。
いろは:やっぱりつとめてると、そうそう派手なのはだめじゃない。
路子 :似合うか心配だなあ。
モモ :大丈夫。もらえば何でもうれしいものよ。
路子 :そう。じゃ、そうしとこう。あ、お茶の支度しなきゃ、もうすぐね。

と、ネクタイおいて去る。

いろは:もう用意してるよ。
モモ :聞いてない、聞いてない。羽生えちゃってるから。
いろは:しょうがないなあ。

と、ネクタイを片づけようとする。

モモ :どれどれ。

と、手を伸ばすが。

モモ :あっ。
いろは:あぶない。

引っかけてこぼす。

モモ :あらら。
いろは:やっちゃいましたね。

と、濡れてしまったラッピング。

モモ :まずいなあ。
いろは:中は大丈夫みたい。
モモ :でもねえ。

いろはが、ラッピングをはずす。

二人 :えっ。

顔を見合わす。

二人 :趣味わるーい。

ほんとに疑うようなストライプ。

モモ :あ、でもあいつよくこんなのしてるよ。
いろは:そういえば彼も。いいんじゃないですか。
モモ :そうね。みんなこんなの好きなのよね。あああ、ラッピングし直さなきゃ。

モモ、ネクタイ持って去る。
路子が料理を持って入ってくる。
テーブルへ載せる。

路子 :これ見てて。モモタがいたずらしないように。

行こうとする。

いろは:おいしそうだね。
路子 :もちろんよ、腕によりかけたんだから。
いろは:もったいないね。
路子 :何が。
いろは:食べる人いないと。
路子 :変なこと言うわね。彼が食べるじゃない。あんただって。
いろは:気になるんだ。
路子 :何が。あんた変よ。さっきから。
いろは:変?
路子 :なんか思わせぶりなこと言ったり、缶詰かってきたり。
いろは:変なのはお姉ちゃんじゃない?
路子 :私、どこが。
いろは:無理してるように見えるけど。
路子 :別に。うれしくて少々舞い上がってるけどね。さあさあ、変なこと言わずにしっかり見張っててよ。

と、去るが。

いろは:薔薇売り切れてたよ。

小さい間。
戻ってくる。
無表情だ。

路子 :それで。
いろは:赤い薔薇買い占めてった人がいた。
路子 :そう。仕方ないわね。残念だけど。

再び去ろうとする。

いろは:何で嘘ついたの。
路子 :嘘?
いろは:お姉ちゃんでしょ。薔薇買ったの。店員さんが覚えてた。
路子 :人違いでしょ。
いろは:そんなはずないよ。時々買ってたじゃない。言われたよ。あら、またですか、昨日お姉さんが全部買っていかれたのにって。

振り返る路子。

路子 :そう。ならいいんじゃない。

と、また去ろうとする。

いろは:よくない。どうして嘘ついたの。彼にもらったって。
路子 :・・見栄って言葉ってあるじゃない。
いろは:カッコつけたかってわけ、私たちに。
路子 :そうとってもいいわ。
いろは:違うよ。お姉ちゃん、そんな人じゃない。
路子 :じゃどんな人。
いろは:話そらさないで。・・本当は、彼こないじゃないの。

くるっと振り向いた。

路子 :来るわよ、いろは。
いろは:ほんとに。
路子 :絶対に。
いろは:なら、なぜ買いにいかせたの。見え見えじゃない。嘘ばれるの。
路子 :・・・。
いろは:彼が来て薔薇見たら何か言うわよね。そしたらお姉ちゃん惨めになるだけじゃない。わかるでしょそれぐらい。
路子 :・・・。
いろは:おかしいよ絶対。どうして。
路子 :いろは。
いろは:何。

冷たい目。

路子 :彼は来るの。そうして薔薇は彼が贈ってくれたの。
いろは:お姉ちゃん!
路子 :もうすぐよ。見ててね。
いろは:お姉ちゃん!

路子、去る。

いろは:どうして・・・。

モモが入ってきた。

モモ :どうしたの、変よ。
いろは:お姉ちゃんが変なんです。
モモ :ああ、浮かれすぎちゃったのね。
いろは:薔薇買ってきたのお姉ちゃんです。
モモ :え?・・だってそれって。
いろは:嘘ってすぐばれるのに。
モモ :おかしいね。
いろは:でしょ。
モモ :ばれてもかまわない嘘じゃないよね。
いろは:彼ほんとに来るんでしょうか。
モモ :あ、そうか。こなかったらばれない。あ、違うかあんたい買いにいかせたし。・・深層心理かなあ。
いろは:何です。それ。
モモ :心の奥ではばれて欲しい。だから買いにいかせた。薔薇がちょっとだめになったのがこれさいわい。
いろは:どうしてばれて欲しいんですか。
モモ :どんな事情があるかわからないけど、本当は彼に来て欲しくない、あるいは彼とは終わりにしたい。でも、みんなにいってしまった手前どうしようもない。だから。
いろは:でも、急にそんなに心変わります?薔薇買ってきたの昨日ですよ。
モモ :・・そう、あれだわ。電話。そうよ、あれがきっかけ、何はなしたか知らないけど、決定的引き金。それよね、うん。
いろは:薔薇買いにいかされたのそれより前ですよ。
モモ :あー、そうだった。だめかこれは。でもねえ考えられるのはそれしかないけどねえ。
いろは:私も気にかかることがもう一つあるんです。
モモ :え。
いろは:電話です。
モモ :電話。電話。電話ねえ・・。
いろは:かけてみます。
モモ :だれに。
いろは:だれでもいいです。
モモ :何考えてるの。
いろは:まあ、いいから。

いろは、電話を取り上げてみせる。

モモ :思い出した。これよ、これ。止められてんだ今朝から。あたしが払いにいくの忘れたから。そう、路子からお金預かってたのに。・・ということは。
いろは:お姉ちゃんは電話が止まってるのに気がつかなかった。
モモ :でも、電話で話したと言った。
いろは:携帯はここにおいてあった。

間。

モモ :彼は来ないのね。
いろは:たぶん。
モモ :でもいったんでしょあんたに。
いろは:彼は来るって、薔薇は彼が贈ったって。
モモ :・・どうするの。問いつめてみる。
いろは:待ちます。
モモ :彼が来るのを?
いろは:彼がこないのを。
モモ :・・なんか悲しいなあ。
いろは:はい。
モモ :・・もうすぐね。
いろは:・・もうすぐです。
モモ :ああ、なんかやだ。ちょっと部屋で一服してくる。あんたは。
いろは:ここにいます。料理を見てくれって言われましたから。
モモ :そう。のど通らないよね。これは。

ちょっと見て、去る。

いろは:たぶんお姉ちゃんは・・・。

陽子が入ってきた。

いろは:あ、陽子ちゃん、お姉ちゃんが・・。
陽子 :捨てられちゃった。

笑う。

陽子 :産むわ。
いろは:え?
陽子 :未婚の母ね。
いろは:陽子ちゃん、おかしい。らしくないよ。
陽子 :らしくない?らしくないって、じゃどんなことがらしいの?
いろは:だから。
陽子 :おろしたらあたしらしいって言うわけ。
いろは:そんなこと言ってないじゃない。
陽子 :いってるとおなじじゃない。あなた、あたしをいっつもそんな目で見てるでしょ。おとなしい、馬鹿な女の子だって。
いろは:見てないし、いってない。
陽子 :けど、あなたの目はそういってる。あたしやめたの。
いろは:何を。
陽子 :我慢するのやめた。、自分の思うとおりにすることにしたの。
いろは:でもうむったって。

笑う。

陽子 :あなたも同じね、そこら辺の大人と。口じゃ、赤ちゃんだけ欲しいって言うくせに。
いろは:揚げ足とらないで。
陽子 :とるわよ。本気じゃないのに茶々入れて、あたしを軽蔑してるでしょ。
いろは:軽蔑なんかしてない。
陽子 :なら、なぜまともにあたしに言わないの。そうじゃない。いっつもなにかに茶々入れて、それで軽く流してる。うらやましいと思ったこともあったわ。けど、今はそう思わない。あなたって、まともに生きようとしてないじゃない。
いろは:そんな。
陽子 :やりたいようにやってるように見えるけど、ほんとはあなたがいちばん不自由なんじゃない。
いろは:私が・・不自由?
陽子 :そう。足をつながれた小鳥が羽ばたいてる。そこそこ長いひもだから自由だと錯覚してるだけじゃない。

いろは、すごい目で見る。

陽子 :そんな目で見たって怖くないわ。くやしんいでしょ。あたしが。
いろは:どうして。
陽子 :新しい世界が広がったからあたしに。
いろは:意味が分からない。
陽子 :見えたもの。自分が変われることが。あたし、産むの。あたし、変わるの。どうしようもなかったことを変えるの。
いろは:意地になってるだけじゃない。
陽子 :そうよ。意地にならないと変われないもの。あんたなんか意地もないんでしょ。
いろは:どういうことよ、それ。
陽子 :怒ったの。あんたはいつまでほしみてるつもり。
いろは:それ以上言うと許さないよ。
陽子 :あんたに許されてもうれしくもなんともないわ。

ばしっと、頬をたたいた。
はっとするいろは。

陽子 :気が済んだ。

立ちつくすいろは。


陽子 :あたしは産むの。

脇を通り去りながら。

陽子 :臆病者。

きっと振り返るいろは。
だが動けない。必死でこらえる。
モモがいた。

モモ :ごめん、聞いちゃった。
いろは:すみません。
モモ :謝ることないよ。けどびっくりしたな。
いろは:お姉ちゃんのことで混乱してて、あんなことするつもりじゃなかったのに。
モモ :ううん、陽子ちゃんのほう。切れたかと思った。
いろは:おかしいです。陽子ちゃん。
モモ :まあ、妊娠して捨てられるってのはあんな子にとっては天地ひっくり返ることだろうからね。
いろは:あんなに憎まれてたなんて。
モモ :違うよ。嫉妬だよ。
いろは:嫉妬?
モモ :あの子がどうしても手に入れられないものにね。
いろは:私にですか?そんなもの何にもありませんよ。
モモ :自分じゃ気づかないってことはよくある話よ。
いろは:それでも、何にもありません。逆に不自由な人だってさんざん言われました。
モモ :そっかな。
いろは:壊れていくんですね。
モモ :何が。
いろは:みんな。

漠然とさす。

モモ :どうだろう。
いろは:何が悪いんでしょうか。
モモ :路子?陽子ちゃん?
いろは:いろいろ。
モモ :間が悪いんだろうね。何にもないことがちょっとずつ重なって、ちょっとずつずれていって・・。
いろは:そんなつもりないのに。
モモ :まあ、運命?神様が与えた。
いろは:まるで罰みたいですね。
モモ :そうねえ。人間から見ればねー。
いろは:全部知ってるんですものね。
モモ :何を。
いろは:どうしたらいちばんよく効くかってこと。
モモ :それは確かに。
いろは:臆病者か・・。
モモ :勇気あると思うけど。
いろは:私が?
モモ :たぶんね。
いろは:どんな勇気でしょうね。やけっぱちとか。
モモ :運命を受け入れる勇気ね。ふふっ。ちょっと恥ずかしいような言葉だけど。あるよ、あんたには。
いろは:神様の罰でも。
モモ :そう、たとえ神様の罰でも。
いろは:そんなに強くありませんよ。

笑う。

モモ :弱くったっていいんだよ。・・じゃない?

間。
心の中を覗くようないろは。
やがて、小さくこくんとうなづく。

モモ :さて、どうなるかなあ。やな予感するなあ。
いろは:こんなんじゃ。
モモ :陽子ちゃんも気になるのよね。
いろは:産むんでしょ。
モモ :あれは、空元気。反動ね。後の落ち込みが怖いわ。
いろは:それって、妙に真実味ありますよ。まさか。
モモ :へへっ。実はね。
いろは:モモさんって結構修羅場ふんでんですね。
モモ :あたりまえよう。社会人なめちゃだめよう。
いろは:お見それいたしました。
モモ :いえいえ、いろはちゃんこそおそるべしよ。
いろは:だからあたしは。
モモ :これ以上増えなきゃいいけど。
いろは:トラブル?
モモ :神様の罰。
いろは:待つしかないです。
モモ :ほら、つよいなあ。
いろは:だから違いますって。
路子 :何が違うの。

やっぱり少し変な感じ。
よく見れば衣装が何かちぐはぐっぽい。異様な感じもある。

いろは:何、お姉ちゃんそのかっこ。
路子 :これ。
モモ :うーん、味だしてると言うか、ユニークというか。
いろは:髪乱れてるよ。
路子 :いいのよ、これは。
いろは:でも。
路子 :違うんでしょ、私。
いろは:え?
路子 :いつもと。どう。
モモ :まあ、確かに。
いろは:それで彼迎えるの。
路子 :いけない。
いろは:いけないって言う訳じゃないけど。ちょっとね。
路子 :じゃ着替える。

と、すたすたと去る。

モモ :え?何。今の。
いろは:・・一つ、追加かもしれません。
モモ :それはないだろ。趣味の悪さは定評あるし。
いろは:でも、あれは・・ゆがんでる。
モモ :いろはちゃん・・。

間。

いろは:怖い・・・。
モモ :いろはちゃん。
いろは:怖いんです・・・。
モモ :大丈夫、人間って結構頑丈だから。そう、やすやすと変なことにはならないよ。
いろは:・・。

陽子が入ってくる。

モモ :あ、陽子ちゃん。

じろっと見たが、無表情で、答えず、あちこち探す様子。

モモ :捜し物?
いろは:てつだおか。

立ち上がるいろは。
無言で、何か探す。
かがみ込み、見つからなかったようだ。

いろは:陽子ちゃん。

近寄った。
急に立ち上がった拍子にいろはとぶつかる。
だが、そのまま何もないようにすたすたとさる。

モモ :陽子ちゃん。・・どうしたんだろ。
いろは:変ですね。
モモ :確かに。・・大丈夫かな?

路子が入ってくる。

いろは:あ、お姉ちゃん、ようこちゃんが・・・。

言いかけて声が消える。
先ほどの服と髪型に装身具をいっぱいつけている。
様子がおかしい。

路子 :そうなのよ。だからそうなのよ。ネギがいるんだわ。千六本に刻んで、あ、あれは大根か。テレビいつだっけ。そう、放送されるのよ。頭の中でそういっている。誰かがそういっている。私を好きだって。困ってしまう。だって、そんなにたいした女じゃないもの。ほんとに強引なんだから。いくら年下だってそうそう甘えられちゃ。うふふ。そう、ほんとに。うれしい。だから、好きなのよね。
いろは:おねえちゃん・・・。
路子 :お姉ちゃんが結婚するっておかしい。おかしくはないでしょ。
あ、いろはに聞かなくちゃ。あんた本当は、私にくんでない。だってそうでしょ。ほんとの姉妹じゃないのに。泥棒猫の娘。お父さんを奪ってお母さんを泣かしたあいつの娘。でも私はあんたを好きなんだよ。いいじゃない。あ、彼が来るから早く支度しなくちゃ。まず掃除よね。そう、掃除。愛人の子だってそんなことどこでもあるじゃない。ここんとこへんだわ、なんかいつもぼうっとして、星みるなんて言ってるけど、あんたほんとは何見てるの。わらってるけど、何笑ってるの。ああ、トイレそうじしたの。
いろは:・・まだ。
路子 :そう、早くしてね。ピザまだかな。困ってしまう。どれがいいのかなあ。彼に買ってもらったの、これも、これも、これも、これも。だからって全部つけるつてのはおかしいけれど、そう、誠意よね、誠意、こんなにも好きだから、全部つけなくちゃ。ああ、でも髪がきまらないわ。どうしよう。どうしよう。ねえ、どうしたらいいと思う。ねえ、どうしたらいいと思う。このブレスレットつけた方がいいと思う。ねえ、思う。どうしたらいい。

静かに。

モモ :つけたほうがいいよ。
路子 :そう。そうよね。当たり前だもの。つけなきゃね。つけなきゃ。ああ、髪が決まらないわ。どうしよう。どうしよう。
モモ :それでいいんじゃない。
路子 :それでいい。いい。そうよね、それでいい。自然だわ。テレビでも言ってた、自然よ、そう自然。いろは。
いろは:え?
路子 :トイレ掃除しといて。
いろは:・・はい。
路子 :トイレを磨けば心も磨く。

笑いながら去る。
いろはは泣きそうだ。

モモ :いろはちゃん。
いろは:壊れた。・・お姉ちゃんが。
モモ :大丈夫。・・大丈夫。
いろは:でも、あれって・・。あれって・・。
モモ :そうね。でも、一時的なものよ。
いろは:あんなこというなんて・・。
モモ :・・泥棒猫の子・・。

いろは、やがて、こくんと頷く。

モモ :ほんとに思ってるわけじゃないよ。

こくんと頷く。
いろはをそっと抱いて。

モモ :つらかったろ。

いろは、静かに泣いているよう。
間。やがて。

いろは:もう・・大丈夫です・・。

モモ、離れて。

モモ :いっただろ。勇気があるって。

いろは、かすかにほほえむ。

いろは:そんなもんじゃないです。
モモ :はいはい。
いろは:ずっと知らなかったんです。高校まで。生物の授業で血液型習って、みんなで判定して。・・それで。
モモ :あり得ない組み合わせって言う訳ね。
いろは:それで、戸籍調べたりしていろいろ。
モモ :星でも見たくなるわけだ。
いろは:そんなわけでもないんですけど。
モモ :生まれるの選べないからねだれも。
いろは:なんかここにいてもいいのかなあって。
モモ :路子はそんなつもりであんた育てた訳じゃないんでしょ。
いろは:分かってます。分かってるんですそれは・・。けど。
モモ :まあ、折り合いつけることあんたならできるよ。
いろは:ならいいですけどね。
モモ :大丈夫。

こくんと頷いて。

いろは:でも、お姉ちゃんどうしよう。
モモ :明日、病院へつれていこう。今日は、なるべくそっとして。
いろは:でも。
モモ :どうしようもないよ、今は。
いろは:それは分かってるんですけど。
モモ :それより、あれって、ティファニーよね。
いろは:え?

モモ、厳しい顔。

いろは:ブレスレット。
モモ :そりゃどこにでもあると言えばそれまでだけどあれって同じなんだよね。
いろは:まさか。
モモ :そう、私の彼がくれたものと。だって、何か変だよ。あいつ、なんでこの近所にいたのかなあ。
いろは:偶然じゃないですか。
モモ :偶然が重なるのって、いやなのね。偶然が重なればやがてそれは必然となる。昔、あいつと一緒に習った先生がよく言ってなあ。
いろは:一緒に習ったって・・まさか、彼って。
モモ :あ、・・。そうよ、例の初恋の彼。やけぼっくいに火がついたってとこ。
いろは:ブレスレット私も気になるんです。
モモ :え、・・それって。
いろは:はい。陽子ちゃんにはああいったけど、もらったんです。高価な物だし、私にはまだ似合わないから。
モモ :偶然か。
いろは:偶然ですよね。

携帯がなる。

モモ :ああ、もうこんな時に。はいはい。え。

携帯を押さえて。

モモ :彼からよ。え、困るわ、今取り込んでる。え。

声が漏れる。
いろはの表情が変わる。

モモ :あ、ちょっと、ちょっと。・・ばか、気が聞かないんだから。これからくるってよ、ここへ。もう。たいへんなときだってのに。いろはちゃん?どうしたの。
いろは:声です。
モモ :声。
いろは:私の彼にすごく似てる。
モモ :まさか、電話の声って変わるよ。
いろは:電話の声がです。
モモ :それって・・。

Ⅶ九尾の猫・・「猫」は獲物を見つけた・・

陽子が入ってきた。

モモ :陽子ちゃん。

陽子再び何か探す風。
先ほどと同じ情景。

モモ :陽子ちゃん・・。

二人は何か恐ろしい物を見るように陽子を見ている。
陽子が出ていく。

いろは:探してるんですね。あれは。
モモ :探すって、何を。・・・・あ。
いろは:そう。検査薬探してるんじゃないですか。朝と同じ。
モモ :まさか、もう済んだことよ。
いろは:繰り返してるんです。
モモ :繰り返すって。
いろは:時間が。・・・壊れたんです、陽子ちゃんも。
モモ :ちょっと見に行こう。
いろは:ええ。

行こうとしたところへ。

陽子 :見つけた。

ナイフを持っている。

いろは:それ、何。
陽子 :ナイフよ、決まってるじゃない。刺すのよ。
いろは:何を。
陽子 :あんたを。

いきなり斬りつける。

モモ :あぶないっ!

いろは、かろうじてかわす。

モモ :やめなさい、陽子ちゃん!

陽子、笑う。

陽子 :返してよ。
いろは:何を。
陽子 :彼に決まってるじゃない。この、泥棒猫!

その言葉は痛い。

いろは:何言ってるか分からない。
陽子 :星見てるだって、嘘ばっかり、聞いたわ、ブレスレットもらったって、私には何にもくれないくせに。うそつき。平気な顔して、人の彼取って。
いろは:あんたの彼なんか取らない。混乱してるよ陽子ちゃん。
陽子 :気安く名前呼ばないで。寝たんでしょ。返してよ。あんたは何でもあるじゃない。
いろは:だから、取ったりしないって、第一あんたの彼なんか知らないよ。
陽子 :うそばっかり。

笑う。

陽子 :しってんだから、私、あんたの彼。
いろは:え。

ちょっと油断した。

陽子 :泥棒猫!

また、斬りかかる。
かわし損ねそうになるが、隙をうかがっていたモモが飛びついて、止める。

陽子 :はなして、はなして!
モモ :落ち着いて!
陽子 :はなせ!

陽子、悪鬼の形相。
モモ押さえかねる。

陽子 :離せーっ!!

陽子、自分の手を切ろうとする。

モモ :いろは!

いろは、飛びついて、手を押さえて、かろうじて、二人がかりで押さえる。

陽子 :離せ、離せ、畜生!お前ら!

暴れるがやがて、がくっと力が抜けて泣き始める。
しばらく用心しているが。

モモ :もう、いいよ。

そっと二人はなす。
泣き崩れる陽子。
ぶつぶつ言う。

陽子 :好きだったんだから。初めてだったんだから。ほんとに好きだったんだから。いろはが取ったんだ。いろはが悪いんだ。
モモ :邪推よ。あんたが取ったって。
いろは:取る分けないです。
陽子 :どうしていろはがいいの。そんなのうそでしょ。どこがいいのよ。あんな子。ただのうそつきじゃない。
モモ :気にしないで。
いろは:明日まで待たない方がいいです。
モモ :そうね。けど。

陽子が何かまた言った。

二人 :え?
陽子 :はっきりして、どちらを選ぶの。私、いろは。私を選ぶよね。浩一さん。そうでしょ。私こんなに思ってるの。いつも思ってるの。何見ても思ってる。何やっててもあなたの影が浮かぶ。レジ打っててもあなた思ってる。掃除しててもあなた探してる。浩一さん。
モモ :浩一。
いろは:浩一。
陽子 :浩一さん、どこにいるの。浩一さん、私寂しい。浩一さん。来て。浩一さん、浩一さん、浩一さん。・・・

陽子は名前を呼び続け、やがてそれは単なるつぶやきになる。泣いているのかもしれない。
二人は、呆然としてたたずむ、

いろは:彼と同じ名前です。
モモ :彼と同じ名前だ。

間。

いろは:同じなんですね。
モモ :同じだったね。

二人、乾いた笑い。

いろは:全部壊してくれたんだ。

笑う。

いろは:壊してくれたんだ・・。

Ⅸ猫は爪を研ぐ

路子 :壊れてしまうものなら壊れればいいわ。
いろは:お姉ちゃん。

美しい衣装。
ブレスレットが光る。

路子 :何を悲しむ必要があるの。もともと持ってないものを失っただけじゃない。期待するほうが悪いのよ。人生は失望の連続、希望なんてありはしない。パンドラの箱?嘘ばかり。生きてることにしがみつきたい人が作った幻。愛?

笑う。

路子 :誤解と錯覚、思いこみ。調味料の入れすぎだわ。甘ったるくなってしまう。舌が麻痺してんのよ。

静かに。

いろは:お姉ちゃんの彼の名前教えて。
モモ :いろはちゃん?
いろは:教えて。
路子 :彼?そんなのいたかな。ああ、いたいた、浩一ね。つまんない男。でもいい男。ほら、もらったの、これ。きれいでしょ。

ブレスレットが光る。

いろは:きれいね。おねえちゃん。
路子 :きれいでしょ。嘘の光よ。目がくらむのねみんな。愛してるって言われてさ。でも、だまされていたい。あんまりきれいだものね。
いろは:みんなの彼も、浩一だよ。
路子 :おもしろいわね。
いろは:おもしろいね。
路子 :じゃ、みんなの浩一をよびましょ。パーティーしよう。
いろは:パーティーするよ。
路子 :それがいいわ。
モモ :いろはちゃん。
路子 :いろは、あんたも着替えたら、その服どうかと思うわ。あんたももう大人なんだから。
いろは:大人になったよ。
路子 :ドレスよね、パーティーって言ったら。あんたに買っておいた服あるのよ。
いろは:ありがとう。おねえちゃん。
路子 :とってきて。部屋にあるわ。

モモ、いろはに何かいいたそうだが。
いろはかすかに頷く。
間。
モモ、静かに去る。

路子 :楽しいわね、この時間が続くといいけど。
いろは:続くよ、いつまでも。
路子 :ありがとう。
いろは:それでいいんだよね。
路子 :それでいいのよ。
いろは:では。

明かりが落ちてきて、いろはの周りだけが明るくなる。
モモが服とブレスレットを持ってくる。(ナイフをさりげなく3本持ってきておくこと)
歌舞伎の後見役。
いろはの長台詞とともに着替えを手伝う。(たぶん今着ている上から着る感じ、脱いで着替えることが可能ならばそ の方がいい。脱いだ場合、それを片づける)

いろは:世界が壊れるってこんなことなんだろうか。いてはいけないかもしれない場所が、もともとありはしなかったなんて。神様は私にとてもよく効く罰をご存知だ。だって、神様は私から奪えないものは何もない。神様は星を作った。私はそれをいつも見ていた。オリオン、アンドロメダ、ベガ、アルタイル。見ているのが好きだった。だって星は静かだし、何も言わない。宇宙の奥底でひっそり光っている。一つ一つがたまらなく孤独で、でもそれでも光っている。愚痴も言わず、泣きもせず、怒りもせず、悲しみもせず、笑いもせず。あの光と一つになれたならといつも思った。そうすれば私は神様の罰だって受け入れる。ただそっと受け入れる。そうして、私は・・。

着替えが終わった。
明かりが元に戻る。
いろは、静かにナイフを取り上げる。

いろは:パーティーの準備ができたわ。

ピンポーン。

路子 :お客さんが来たんじゃない。
いろは:そのようね、おねえちゃん。

いろは、ナイフを後ろに隠す。ブレスレットが光る。

いろは:おむかえしましょう。

にっこり笑う。
ドアのほうを向いて、優しく。

いろは:いらっしゃい、浩一さん。
三人 :いらっしゃい、浩一さん。

音楽。
暗転。

☆フィナーレ・・猫たちは散歩に出かける・・

そのままの姿勢(ただしナイフを持っている)からくるっと振り返り。
一人ずつ、テーブルの上のケーキにナイフを刺して去る。
陽子、モモ、路子。
最後にいろは、笑みを浮かべながらナイフをゆっくりと刺す。
ふっと笑って、去る。
暗転。

【 幕 】


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