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マルコ1999Ⅱ・・・クローンは夢を紡ぐ・・・  
登場人物

マルコ
カズー
卑弥呼
執政官
伊豫
ケイ
その他わさわさ



☆プロローグ
崇高なメロディーが流れる。マルコが夢を見ている。
  1999年時間は乱れ現実はその姿を失い時間の流れの中に浮かぶ島となっている。
  いましも舞台には大きな桜の樹がある。夏なのに桜が咲きときどきこぼれている。狂気のような気配が漂う。
  遠雷がひっきりなしに轟いている。階段中央にマルコ胎児のように体を丸めて眠っている。遠雷の中桜が悲しげな声とともに散る。日傘の女がゆっ くりと通ってゆく。
マルコ、語り始める。遠いはるかに遠い物語である。

マルコ:たとえば闇の中に浮かぶ取り留めもない硝子玉。ゆっくりと現れては消え、消えては輝く。まるで僕の記憶のように寄せては返す波のなか、遠く潮騒の中から呼びかける声がある。幾重にも重なった塔の中にひっそりと輝く窓がある。僕の体は中空に浮かび窓の中からのぞく人影に心引かれる。透明な硝子の窓の中では、くるくると回る日傘に夏の日が輝いて、つややかな黒い髪と白いうなじがこぼれ僕は言葉を失ってしまう。日傘は吹き渡る風に揺れ、その人は僕を振り返る。声かける暇もなく、強い力が僕をさらい情景は急速にセピア色にあせて僕の手の中で形を失う。僕は満たされぬままその人の顔を思い浮かべようとするのだが、僕の努力をあざ笑うかのようにすべては深い、深い夜の闇の中にゆっくりと沈んでしまう。なすすべもなくたたずむ僕を、いつかその人に会うのだという確信がゆったりと包む。僕はそうしてまた心地よいまどろみに身をゆだねるのだ。

マルコ、幸せな微笑
不協和音が重なる中、闇に沈み、再び明るくなる。
マルコが座っている。夢みているよう。
カズーがきた。

カズー:マルコ・・・マルコ。
マルコ:・・・。
カズー:もう起きろ。マリアを探すぞ。
マルコ:・・・・。
カズー:夢を見ていたのか。
マルコ:・・うん。
カズー:クローンは夢を見ないものだ。
マルコ:僕は特別なんだって。
カズー:誰がいった。
マルコ:ケイ。
カズー:ケイ?
マルコ:保安局員。四課のね。
カズー:ふうん。マリアの完全培養体クローンだからか。
マルコ:さあね。
カズー:夢はいいか。
マルコ:どうだろ。よくわからない。
カズー:おれも夢をみてみたいものだな。
マルコ:カズーは見ないの。
カズー:タイムワーパーは見ないんだ。いや、見れないのかな。どっちでも同じことだ。
マルコ:ほんとにそう思うの。
カズー:まあな。それより急ごう。まだ236年が残っている。卑弥呼の時代だが確率は高い。。
マルコ:もういいよ。僕はここが気に入った。
カズー:敗北主義か。おまえらしくもない。
マルコ:ありがとう。でもいいよ。これだけ探したのにどこにもマリアはいないもの。
カズー:元気印はどこいった。あきらめるのはまだ早い。
マルコ:そうじゃないって・・・あああ、気楽なタイムワーパーにわかれって言う方が無理だよな。僕がわるうござんした。はい。
カズー:気楽な?ふん。俺は楽観主義者だ。気楽と楽観の間には深くて明るい河がある。それを希望と人は呼ぶ。    
マルコ:はいはい、わかりました。わかりましたよ。どうせ、ぼくはカズーさんと違います。ええ、クローンですから暗いんです。淀むんです。どよどよ。
カズー:あっ、お前ひょっとして俺を馬鹿にしてないか。
マルコ:いいえ、こけにしてるだけです。(きっぱり)
カズー:ようし。明るいっ。それならばよっし。自己卑下は一銭にもならん。
マルコ:・・・?
カズー:ん?・・はずしたかな?
 
へんな、間

マルコ:(気を取り直し)・・・今は。
カズー:もう秋、誰もいない海。1999年7月。時間の滅びる年。いわゆるとどのつまりというやつだ。
マルコ:とどのつまり。
カズー:とどのつまり時間が狂う。とどのつまり時間が腐る。とどのつまりとどがつまる。時間の流れの中でひっそりと浮かぶ島みたいなものだ。今と言うよりどこかな。
マルコ:時間管理局は。
カズー:さあ、どうなったかな。
マルコ:マリアはなぜ逃げだしたんだろう。
カズー:おおかた自由に生きたいんだろ。時間を自由にあやつるなんてのは神様も裸足で逃げ出すちからだからな。おかげでこちとら大迷惑だ。
マルコ:いまどうしてるのかな。
カズー:あいたいか。母さんだものな。
マルコ:僕分からない。一度も会った事ないし。遺伝子のドナーだっていうだけじゃ、母さんと呼べないよ。
カズー:そんなものか。
マルコ:カズーならどう思う。
カズー:俺にも分からんよ。
マルコ:(桜吹雪とともに悲しげに桜が哭く)桜が哭いてる。

マルコ、カズー、哭き声に聞き入る。桜がひとしきり散る。

マルコ:悲しそうだね。
カズー:奴らは夢はみないだろうな。
マルコ:だれ。
カズー:桜さ。やたらきれいに散りやがる。
マルコ:そうだね。きれいだね。

マルコ、カズーに桜が散りかかる。

マルコ:僕はここが好きだよ。
カズー:桜が散るからか。
マルコ:ううん。マリアが残してくれたから。
カズー:狂ってる時間だぜ。
マルコ:それでも消滅するよりはいい。
カズー:直せねえか。
マルコ:僕には無理だ。
カズー:マリアのクローンでもか。
マルコ:マリアはなぜ時間を狂わすと思う。
カズー:さあな。おもしろいんじゃねえか。それとももともとそういううまれか。それを調べるためのクローンじゃないのか。
マルコ:それはそうだけどね。マルコプロジェクトか・・・ずいぶん昔のような気がする。
カズー:結局、お前が生まれただけだったがな。

桜ふたたび悲しげに哭く。マルコ、カズー桜を見上げる。

マルコ:・・ねえ、僕はマリアに似てるのかな?どう思う。そりゃ似てるよね。僕の遺伝子の提供者だから。当り前か。・・カズー、クローンに過去なんてあるのかな。試験管から取り出される前の過去ってあるのかな。きみはどう。
カズー:ふん、おれには過去はない。その必要もない。俺にあるのは俺が生まれた試験管だけだ。必要なのは感傷ではない。行動だ。マルコ。
マルコ:・・
カズー:・・考えるな。お前はマリアを探せばいい。後は俺が片をつける。お前には無理だ。
マルコ:ほんとうにそう思う。
カズー:それとも力があると?
マルコ:夢がね。
カズー:どんな夢だ。
マルコ:いつか言うよ。
ケイ:(野戦服・サングラス)その夢、興味あるわ。
マルコ:だれ?
カズー:おっ、四課だな。
ケイ:(サングラスをはずして)そのとおり。時間管理局保安4課のケイ。
マルコ:ケイ!
ケイ:今日はマルコ。(カズーに)ふーん。長距離型ワーパーか。認識番号をいいなさい。
カズー:4級ワーパー502号。通称カズーだ。もんくあるか。
ケイ:ふん4級ね。・・・やっと追いついたわ、マルコ。
マルコ:僕になんのよう。
ケイ:まいろいろと。お目つけ役というとこね。マルコ、これからは、私の指揮下に入ってもらうわ。
カズー:おっと、そんな命令は受けてないぜ。
ケイ:でしょうね。あなたたちが出発してから決まったことだから。
カズー:おじょうさん、命令書はあるかい。
ケイ:おにいさん、あるわけないでしょ。唐変木。第一時間管理局もとうに消えちゃったしね。
カズー:やっぱり。
マルコ:じゃあ、結局・・・
ケイ:そう。きれいさっぱりマリアが食い散らかしてくれたわ。もう時間なんてあっちこっちにちらほら残ってるだけ。ここもその一つだけどね。追跡隊で残ったのは私たちだけかもね。
マルコ:管理局員はもう誰もいないの・・
ケイ:誰にも会わなかった。たぶん。だから誰もあてにはできないってこと。私たちがいくしかないわ。ね、マルコ。
マルコ:わかった。いくよ。でも・・
ケイ:でも?
マルコ:僕はきっとここへ還ってくる。
カズー:例の夢か。
マルコ:いや、僕の希望だよ。僕は楽観主義者だからね。(カズー、ふんと笑う)
ケイ:(断ち切るように)出発。
カズー:了解。航時目標卑弥呼236年。出力上昇。タイムワープ開始。


卑弥呼の年。遠雷が続く。神権国家ヤマトを支配する卑弥呼の神殿。階段状の神殿の上には銅鐸があたかもナチス帝国のようにたっている。夜明け はまだであろう。忍び寄る滅亡の悲哀。いま、卑弥呼のヤマトが正体不明の新羅なる騎馬国家の侵攻のため滅びを迎えんとしている。ヤマトととも に滅びんとする悲壮かつ、狂気を帯びた女性。ヤマトを滅亡へ引きずり込んでいるものは彼女なのかも知れない。
  マルコ、カズーらとともに卑弥呼の時代に到着。ケイは見えない。卑弥呼、執政官とともに高台にまっすぐ立ち遠くを見ている風情。運命にあらが うものの厳しく暗い表情である。狂気の影が既に忍び寄る。鯨波(とき)の声、微かに響く。マルコ、カズー二人、暗がりに潜む。

執政官:姉上、もう一度お考え下さい。新羅の軍は精強無比もはやわがヤマトの力では支えきれませぬ。
卑弥呼:ナギ、そのことはもういうな。講和はせぬ。ヤマトが屈服するなど許されぬこと。
執政官:ですが・・・

いいかけた執政官、伝令に気づく。

執政官:何事か。
伝令1:報告します。新羅軍本隊昨日深夜、ヤマト領内に三方より侵攻を開始しました。

執政官うなずき、下がらせる。卑弥呼、いらつきの感じ。引続き伝令2

伝令2:報告。本日未明第2軍正面を崩され敗走中であります。援軍の要請が、すくね殿からありました。

執政官が何かいいかけるのを制止

卑弥呼:援軍は出せぬ。そのままで死守せよ。(厳しく叱咤の様子)

伝令2気押されて出ていく。

執政官:姉上・・・
卑弥呼:いうな。一人になりたい。下がれ・・

執政官、何かいいたげだが。一礼して下がる。
卑弥呼再び遠くを見守る。肩に疲労が漂い悲痛さが増す。

マルコ:時間のねじれが大きいよ。
カズー:うむ。いるはずなんだが。反応が弱いな。(探知機を見ている)
マルコ:(見回して)ケイは?
カズー:ふん、なにをやってるんだか。四課のやるこたわからん。
マルコ:姉上っていってたね、彼女が・・・。
カズー:たぶんな。おのぞみの卑弥呼だろう・・クローン共鳴しているか。
マルコ:少ししてるよ。どう思う、彼女がマリアかな?
カズー:だといいが・・・(探知機を見て)やはりおかしいな・・
マルコ:ちがうの?
カズー:しっ。

卑弥呼、気配に気づく。カズー、マルコにいけという合図をする。

卑弥呼:誰か?
マルコ:僕です。マルコです。
卑弥呼:知らぬな。新羅の回し者か。
マルコ:あなたマリアでしょう。
卑弥呼:・・・けたいな事を申す奴らじゃ。お前たちは新羅のものではないな。どこからきた。
マルコ:・・・
卑弥呼:どこからやってきたかともうしておる。
マルコ:どこからといっても、とても遠いところから・・うまく説明できないけどぼくたちきました。あなたに会うために。
卑弥呼:(押しとどめて)まて・・。昨夜、夢を見た。光かがやく船に乗り、不思議なものたちがやってくる夢を見た。お前たち船できたのか。
マルコ:まあ、そんなものです。ねっ。
カズー:いわれりゃな。
卑弥呼:正夢じゃな。吉とでるか、凶と出るかはわからぬが・・夢に託すも一興。

マルコの前にやってくる。

卑弥呼:そなたたち、私を助けにまいったのだな。
カズー:へっ?
マルコ:たすけるというと。
卑弥呼:そうか。助けてくれるか。
マルコ:えっ、別に、・・・
卑弥呼:そうか、助けてくれるか、いやありがたい。そうか。そうか。
マルコ:どうなってるの。
カズー:いいじゃないか。調べるチャンスだ。
卑弥呼:いや、夢見がよかった。あちらで戦況の説明に移ろう。こうだ・・新羅の軍勢の本隊がすぐそばまできておる。

卑弥呼強引に連れて行きながら説明をする。マルコちょっ、ちょっとと閉口しながらもペースに巻き込まれる。

カズー:行ってこい。明日の朝あおう。

卑弥呼、マルコ去る。カズー、時間局を呼んでいる。

カズー:(探知機を見て)おかしいな。マリアはいないのか。・・・こちら、カズー。時間航法局応答願います。・・・応答願います。・・・ダメか。

カズー去る。卑弥呼さまーと伝令1がくるが、いないのでそのまま去る。
間があって、執政官再び卑弥呼にくいさがりながら登場

執政官:マルコとやらの素性が知れませぬ。姉上、あまり信用されては。
卑弥呼:かまわぬ。あの子には、野心が無い。安心できる。そなたとちがってな。
執政官:これは、いな事を。弟であり、執政官である私が信用できませぬか。
卑弥呼:悲しいものだなナギ。自分の血を分けた弟も信じられぬ。帝王と言うもののさがであろうよ。・・第5軍がなすすべもなく破れたとあってはな、これは裏切りがあったとしか思えぬ。・・のう執政官どの?
執政官:・・左様なことは信じられませぬ。わがヤマト軍は姉上に忠誠を誓うものたちばかり。たんなる戦術的な敗北に過ぎませぬ。裏切りなど軽々しく口になされる言葉ではありませぬ。
卑弥呼:・・・おまえも、たぬきになったな。・・よいわ。
執政官:それでいかがあそばしますか、マルコのことは。
卑弥呼:すておけ。
執政官:ですが・・
卑弥呼:くどい。それより、新羅本隊の情報は入らぬか。
執政官:姉上、新羅との講和をもう一度・・・
卑弥呼:(さえぎって)その話は聞きあきた。新羅の手に乗ってはならぬ。
執政官:ですが、もはやわが軍の力では・・
卑弥呼:伊豫がいる。神々が力をおかしになる。我がヤマトが最後には勝つ。
執政官:・・・・
卑弥呼:祭儀はいつになったら始められるのじゃ。
執政官:・・まもなく。
卑弥呼:いつもそれだな・・まもなく、まもなく、まもなくか。・・よい。作戦会議を明朝未明行なう。参謀どもに伝えよ。お前は祭儀の準備をせよ。もうまてぬ。さがれ。
執政官:はっ・・・
卑弥呼:まて、伊豫をつれてこい。話がしたい。
執政官:・・・(礼をして去る)

卑弥呼、しばらく立つ。マルコがやってくる。遠雷の轟。遠くで光りがある。桜が少し散る。

卑弥呼:伊豫か。
マルコ:マルコです。
卑弥呼:マルコか。・・・こっちへこい。
卑弥呼:みえるか?
マルコ:あの光り?
卑弥呼:なんだと思う。
マルコ:わからない。戦い?
卑弥呼:感がいいな。滅びの光りだ。
マルコ:滅びの光り?
卑弥呼:新羅本隊の野営の明りだ。・・・私も疲れた。
マルコ:弱気にならないで。大丈夫だよ。
卑弥呼:何が大丈夫と言うのか。沈みかけたふねからネズミが逃げ出すよう裏切り者がでておる。それもわが肉親からな・・(にがにがしげ)
マルコ:・・・
卑弥呼:これはグチだな。やめよう。

伊豫登場。

伊豫:お召しでございますか。
卑弥呼:伊豫か。話をしたくて呼んだ。このものは私の客人だ。気にするな。
マルコ:じゃあぼくは・・
卑弥呼:遠慮せずともよい。・・・マルコ、伊豫じゃ。明朝ヤマトの勝利を祈願し、神々の供物となる。
マルコ:供物って。
伊豫:私の生命(いのち)を、ヤマトのため神に捧げます。ヤマトは神の祝福を受けて、新羅とのいくさにも勝利できましょう。
マルコ:もしかしたら・・いけにえ?
卑弥呼:ことばは気に入らぬが・・・
マルコ:本当なの、伊豫さん。
伊豫:本当ですわ。
マルコ:それでいいの。
伊豫:はい。
マルコ:嘘だろ。
伊豫:マルコさん。私たちは、皆この一時の生命を得ているだけなのですよ。私は、ただそれをお返しするだけ。この混乱に満ちたヤマトを救うために私の生命がお役に立てるのなら、私は喜んで死ねます。不自然なのは定めにあらがいむやみに生に執着する人々です。かような人は、修羅の道を歩むだけ。満たされぬ思いに渇き、己の運命をのろい充足を知らぬ哀れな生き物。新羅の軍はただひたすらにその修羅の道を歩むものたち。ねえ、おかあ様。
卑弥呼:そうだ。彼らは修羅の群。あくことを知らぬ欲望に身を焦がしておる。彼らの通ったあとは、何も残らぬ。
マルコ:・・・いまおかあさまっていったよね。いったよね。
伊豫:はい。
マルコ:・・・・そんなことって・・
卑弥呼:マルコ。確かに新羅は強い。だが、闘わずしてヤマトの滅亡を座視するわけには参らぬ。そのためには、神がみの力も借りねばなるまい。血に飢えた戦の神はいけにえを所望じゃ。しきたりとあらば致し方ない。
マルコ:しきたりのためなら子どもでも殺すの。
卑弥呼:捧げるのだ。
マルコ:同じことだよ。
卑弥呼:・・・
マルコ:母親ってそんなもの?ぼくはクローンなんだよ。クローンってわからないだろうけれど、髪の毛から遺伝子操作で作られたいわば人形さ。いっぺんだって会った事はない。だから、母さんなんて名前だけでどこにもいないとおなじ。でも、ぼくは探してるんだ。知りたいんだ。人形にだって、母さんあっていいよね。母さんてどんなものか。ぼくをどう思ってる?ぼくを好き?ぼくがいてうれしい?ぼくを生んで・・いやぼくのドナーになってよかった?知りたいんだ。本当に知りたいんだ。伊豫さんだっておなじだろ。
伊豫:(にっこりうなずく)
マルコ:伊豫がいてうれしい?伊豫が好き?伊豫を生んでよかった?
卑弥呼:私は、ヤマトの卑弥呼。伊豫は私の娘。それだけのことだ。
マルコ:そんな事聞いてやしない。伊豫を愛してないの?伊豫を助けたいと思わないの。
卑弥呼:お前には分からぬ。国を治めるものの義務なのだ。
マルコ:あなたは、狂ってる。
卑弥呼:ほう、このわたしが狂っていると。
マルコ:あなたは、ただこのヤマトを守りたいだけだ。伊豫なんてどうでもいいんだ。
卑弥呼:お前には、そうみえよう。だが志願したのは、伊豫じゃ。
マルコ:嘘だ!
卑弥呼:私は、嘘は言わぬ。我がヤマトは守られねばならぬ。世界はしょせん血塗られた道、私は、ただ、歩いているにすぎない。
マルコ:責任回避だよ、そんなの。
伊豫:(いいつのろうとするマルコをとどめて)私は、帝王の娘。神聖な義務を果たせてうれしいのです。おかあさまの為にいいえ、ヤマトのためにこの生命がお役に立つのですから。
マルコ:そんなことって。・・・・・・悲しいね、あなたたちって・・
卑弥呼:それは違う。・・悲しいのは私たちではない。この世界じゃ。のうマルコ、そなたは時をかけるという。だが、どこも同じであろう。人が人を喰らい、人が人を殺す。人ある限り、生命は滅ぼされ続ける。いわば人は修羅の道を歩むもの。いずれの時でもそれが掟じゃ。だが私は、喰らわれる側にはならぬ。ほかの生き方は知らぬ。我らはヤマトと共にある。

凛然と言い放つ狂気の相貌の卑弥呼。恍惚の表情の伊豫。マルコむしろ悲しげな表情で立ち尽くす。

伝令3:報告。第二軍すくね殿戦死。第二軍敗走中。なお、第二次防衛線の構築が遅れているとの執政官のお言葉であります。
卑弥呼:第三軍はどうした。
伝令3:第三軍は・・川に第二次防衛線を構築、現在踏みこたえております。
卑弥呼:執政官に伝令。第五軍を新羅本体右翼方面より突入させよ。主戦場は、熊野平原。第二軍は・・・まで下がり、防衛線を構築せよ。なお、(ちらっと伊豫を見る)祭儀は予定通り行なう。
伝令3:かしこまりました。
卑弥呼:マルコ、話はまたあとだ。

 
卑弥呼、皆とともにあわただしく去る。全体騒然とした雰囲気に包まれる。兵士たち戦闘の用意。指揮官に従い隊列が右往左往している。
マルコ、ぐったりした感じで階段に腰掛ける。
マルコは夢を見始める。
執政官、「待て。」と呼掛けながら、カズーと一緒に入ってくる。以下マルコを除いたまま進行。

カズー:何か用かい。
執政官:マルコを姉上に近づけるな。姉上は心弱くなっておる。そなたたち異形のもののいうことなどまにうけおって。
カズー:おれたちゃ何もしていないぜ。
執政官:ここにいることが邪魔なのだ。ヤマトは危急存亡の時を迎えておる。なのに姉君はやれ、祭儀じゃ、やれいけにえじゃと。我が娘まで捧げるつもり。 正気の沙汰ではない。
カズー:関係ないね。
執政官:そうだ。お前たちとはなんの関係もないこと。とっとと、もときたところへかえれ。これ以上姉君をまどわすと、ただではおかぬぞ。
カズー:それはおどしかい。
執政官:そう受け取るのはそちらのかって。いいか。明日朝までにヤマトから消えうせろ!
カズー:いやだといったら。
執政官:お前も私と同じ現実主義者だろう。よく考えるんだな。

執政官去る。ケイ、入って来る。

ケイ:まるで、てんやわんやね。
カズー:今まで何してた。
ケイ:うーん調べものを少々ね。卑弥呼ははたしてマリアであるかとか・・・

カズー、黙っている。

ケイ:知ってるでしょう。
カズー:・・マルコはマリアから造られたただ一人の完全純粋培養体のクローンだ。したがってマルコと完全に共鳴しない限り、卑弥呼はマリアではあり
えない。それぐらいならな。
ケイ:しからばマリアはどこなのか。そこでしょう。問題は。
カズー:そうだ。
ケイ:ヤマトもどうやら先は長くないようだし、大急ぎでさがさなきゃね。
カズー:気がつかないか。
ケイ:何を。
カズー:変だ。
ケイ:ここは始めから変よ。
カズー:いや、そうじゃない。違うんだ。
ケイ:卑弥呼のこと。
カズー:それもあるが・・・
ケイ:はっきりいいなさい。
カズー:俺達は出発点を間違っていたんじゃないかと・・・
ケイ:あなたの間違いでしょ。
カズー:いや、探知機は正直だ。
ケイ:それがどうしたの。
カズー:移動するたびに別の時代にマリアの反応が現れる。
ケイ:ピンポーン。やっと気づいたわね。
カズー:どういうことだ。
ケイ:マリアさがしは無駄かも知れないわ。
カズー:なぜだ。
ケイ:そのうちにわかるわ。
カズー:マルコに変なことを吹き込むな。
ケイ:マルコ自身が見つけるでしょうね。
カズー:まさか・・・
ケイ:マリアは時間の流れのどこにもいない。それが真実というものじゃないかしら。ねえ、カズーさん。・・・さて、黒幕に会いに行ってみるか。・・

にっこり笑って立ち去る

カズー:・・呆然とケイの去った方向を見続けるが)まて・・詳しく話せ。

とあわてて立ち去る。

  緊迫感が漂う。卑弥呼、兵を連れてやってくる。執政官階段の後ろから姿を表わす。
  前景に卑弥呼、階段に執政官それぞれ兵士を引き連れて立つ、あたりは薄明の光りに包まれている。下手袖にケイ・マルコ・カズー。以下交互にス ポットがあたり、急展開となる。

執政官:もはや、姉君に任せては置けぬ。ヤマトは私を必要とする。新羅と講和を結び、もってヤマトの安泰をはかるしかない。準備を進めよ。

卑弥呼:ナギは、目先の利益のみ追っている。新羅の目的はわかっておろうに。愚かな。祭儀はまだ始められぬか。

執政官:姉上を討つ。近衛の軍を排除せよ。勝負は一時。夜があける前につける。新羅の軍はまだ動かぬか。姉上の自由になる兵はたかだか4、50。一気 に勝負をつける。行け!
卑弥呼:弟が動き出したか。・・・先手を撃つ。第5軍のシバに伝令。執政官に謀反の疑いあり。身柄を拘束せよ。

マルコ、夢から覚める。ケイたち出て来る。

マルコ:様子が変だ。
ケイ:始まったね。カズー、様子を見てきて。

カズー去る。

マルコ:どうしたの。
ケイ:脱出するよ。
マルコ:そんな!
ケイ:ごたごたは後免だわ。
マルコ:卑弥呼を助けなきゃ。
ケイ:私たちに何ができる?
マルコ:なにもしないよりはいい!
ケイ:自己満足ね。感傷におぼれる暇はないわ。もうすぐここは戦場よ。
マルコ:ほっとけないよ。
ケイ:この世界の運命は彼らが決める。この世界は彼らのもので私たちのものじゃない。マルコ、そうでしょ。
マルコ:マリアがそうさせたじゃないか。いったい僕たちは何のために来たのさ。
ケイ:少なくてもクーデターに巻き込まれるためじゃないわ。

クーデター軍迫る。

卑弥呼:援軍はまだこぬか。
卑弥呼の兵士:門が破られました。ナギ殿の兵がやってきます。
卑弥呼:まもなく近衛の兵がくる。それまで防げ。

マルコ:でもやりたいことがある。
ケイ:伊豫のことなら諦めなさい。
マルコ:どうして。いけにえなんてひどいよ。
ケイ:この世界では合理的よ。
マルコ:合理的?・・・ずいぶんな言いぐさだね。マリアの肩持つの。
ケイ:無責任な感傷よりましだと思うけど。
マルコ:・・・
ケイ:マルコ、人はそれぞれ自分の人生を選ぶ権利があるわ。たとえそれがマリアのために滅びゆく人生でもね。
マルコ:人生を選ぶ権利・・
ケイ:それが、自由と言うこと。
マルコ:・・・・

卑弥呼の兵士:駄目です。突破されました。やってきます。!
 
執政官たち階段から降りる、同時にスポットは卑弥呼、執政官両方を囲む。

執政官:これは、これは、姉上。ごきげんうるわしう。
卑弥呼:やはりそなたか。おろかな。新羅にまんまとのせられおって。
執政官:ヤマトを私に預けなさい。ヤマトの民は私の側につく。
卑弥呼:民はついてもヤマトはやれぬ。
執政官:民の信頼なき王が栄えた試しはありませぬぞ。姉上、新羅と講和をむすばれよ。
卑弥呼:伊豫がおる。神は我らに力を与えてくださる。
執政官:姉上は狂っておられるのです。伊豫をいけにえにされてもヤマトの神は喜びはしませぬ。姉上、現実をご覧なさい。ヤマトの軍はもはや数千。新羅    は数万。このままではヤマトには未来は有りませぬ。
卑弥呼:新羅のかいらいから指図はうけぬ。
執政官:まだ、目をさまされませぬか。・・やむを得ぬ。そんなにヤマトが大事なら、ヤマトを抱いて死ねばよい。

兵士たち卑弥呼を殺そうとする。

マルコ:殺さないで!

カズー、かけつける。

カズー:卑弥呼!

乱闘。卑弥呼をかばうカズーに兵士たちが殺到。カズーが防ぐ。卑弥呼が逃げようとするところへ執政官が切りかかる。カズー、ブラスターで執政 官の胸を打ち抜く。「馬鹿なことを・・」という叫びとともに執政官倒れる。兵士たちカズーへ殺到。カズーブラスター連射で兵士たちを倒す。一 人の兵士の槍がカズーを差し貫く。カズーくずおれながら、マルコに何かいいたそう。卑弥呼駆けつける。卑弥呼の近衛兵なだれ込み、執政官の軍 をけちらす。
マルコ悲痛に呼びかける

マルコ:カズー、カズー!
カズー:・・マルコ、どこにいる。
マルコ:こにいるよ、カズー、一緒にいこう!
カズー:・・マルコ、自分を見つけろ。
マルコ:どういうこと。ぼくはぼくだよ。
カズー:夢だ。マルコ、夢だ。
マルコ:ごめんよ。話すよ。だから死なないで。
カズー:おれも夢を見るのかな。
マルコ:ああ、きっと見るよ。本当だよ。カズー君はきっと見るよ。
カズー:・・・暗いな、まだ夜が明けないのか・・寒くなってきた・・
マルコ:タイムワーパーだろ?しっかりしろよ!・・・カズー、死んじゃ駄目だよ!夢を見たいんだろ。だったら生きろよ。
カズー:(聞こえたかのよう薄く笑う)ふん、論理的でないな。
マルコ:そうだよ論理的じゃないよ。だから死なないで。
カズー:・・そうだな。・・全くそうだ。(死ぬ)
マルコ:カズー・・カズー・・

卑弥呼カズーをねかせる。
卑弥呼、到着時と同じ感じでたたずむ。疲労感ありあり。
ときの声。新羅の軍勢が攻め込んでくる感じ。

伝令1:卑弥呼さま。新羅本隊が来ました。
卑弥呼:いよいよきたか。新羅の一兵たりとも、生きて我がヤマトを帰してはならぬ。総攻撃をかける。伊豫に準備を。いけにえの祭儀じゃ。

伝令1、退出する。卑弥呼、やや、くるしげな表情。
荘厳な曲とともに祭儀が始まる。兵士に先導されながら伊豫祭儀の場所に向かう。卑弥呼ににっこり会釈。卑弥呼「ヤマトに栄光を、新羅に死を!」 兵士重ねて唱和・祭儀へ死の行進続く。それはヤマトの滅びへの道でもある。

卑弥呼:マルコ・・もうゆくか。不思議な少年であった。わがヤマトが新羅に滅ぼされるという。とんだ夢みであった。しかしそなたが見たのはそなたの歴史。私は、私の歴史を作る。私は、卑弥呼。歴史は私が支配している。そなたの世界とは、違う歴史を作って見せよう。マルコ、約束しよう。私は死なぬ。(凛然とだが、狂気の美しさ)

卑弥呼さまーという声が聞こえる。ときの声も響くよう。

卑弥呼:マルコ、さらばじゃ。

と、祭儀の列とともに粛々と立ち去りかける。

マルコ:さようなら。・・・・

卑弥呼、その声が聞こえたかのようにふりかえって、にっこりと誰にともなくほほえむ。あたかも現実との別れの如く。かくて、卑弥呼は滅びの道 を歩いてゆく。

マルコ:あの人は、どこへゆくのだろう。
ケイ:マルコ・・・
マルコ:わかってる。僕には止められない。そのぐらい分かってるよ。でもくやしい。・・・・マリアなら止められるのに。
ケイ:マリアは関係ないわ。
マルコ:どうして。
ケイ:(無視して)反応が1990年にでている。これが最後よ。出発します。・・・いいね?
マルコ:1990年。本当にそこにいるの。
ケイ:いるわ。あなたを待ってるはずよ。
マルコ:どういう事。
ケイ:(こたえず)・・エンジン始動。航時目標1990年11月。タイムワープ。

時間流の中で幻影の人々がマルコ達の回りを流れていく。一人、二人、三人・・・幻想的な音楽照明の中で、時間を渡っていくマルコ達。マルコの すぐそばを通り過ぎて行く、あの懐かしい日傘の女。

ケイ:危ない!さわってはダメ。
マルコ:ごめん。でもたしかにあのひとだ・・・
ケイ:うっかりさわると、時間の流れに引き込まれるよ。このあたりもうぐちゃぐちゃになってるからね。
マルコ:透明な硝子の窓があるんだ。幾重にも重なる塔の中にあの人はいた。日傘がくるくると回って、風の中で確かに振り返る・・・
ケイ:(制止するように)マルコ、疲れたろう。すこし眠るといい。起こしてあげる。
マルコ:・・うん。・・・そうだね。

間・時間の経過

ケイ:そろそろつくわよ、マルコ。おきて。

マルコ、夢を見ている。

ケイ:ま、いいか。目がさめたら地獄ね、マルコ。あなたの目で真実を見なさい。・・・航時目標1990年、11月。時空制動ブレーキ用意。制動開始。 着時!

不協和音を発して、着時する。
1990年。激しい変異があるようだ。かくかくたる逆光の中を漂う日傘の女。
以下さまざまな事象は矢継ぎ早に起こり応接の暇がない。

どこか似かよっている市民達がいる。初めはよく聞こえないがリーダーが何か演説をしている。

市民A:1月1日自宅こたつで中学1年男子コードを巻き付け縊死。遺書なし。
市民B:3月3日ベランダより小学3年生女子飛び降り自殺。遺書なし。
市民C:4月8日マンションで中学2年女子自殺。遺書なし。
市民D:5月5日校舎屋上より飛び降り自殺。小学6年男子。遺書なし。
市民E:9月1日高校1年女子・友人と服毒自殺・遺書なし
市民F:12月24日中学3年男子・同じく中学2年女子焼身自殺・遺書なし。
市民G:1月15日高校1年男女橋より飛び降り心中・遺書なし

演説はなおも続いているらしい。
ケイ立っている。マルコ夢を見ている。ケイやさしくおこす。

ケイ:ついたよ。マルコ。
マルコ:・・夢か。
ケイ:(優しく)どんな夢を見てた?
マルコ:いつも見る夢。あの人が日傘をさして歩いている。僕はなぜだか母さんに違いないと思う。「待ってよ、母さん。そんなに早く歩かないで。僕だよ。マルコだよ。」あの人は、振り向きもしない。あたりは、いつのまにか暗くなる。恐くなって、僕は必死で走る。やっと追いついて、「母さん!」って叫んだとき日傘が揺れて、あの人がこちらを向く。そしたら・・・
ケイ:(優しく)そうしたら?
マルコ:・・・・いつも、そこで眼が覚める。
ケイ:そう。辛い夢ね。
マルコ:辛い?ううんそうじゃない。怖いんだ。顔を見るのが。母さんじゃなかったらいいや母さんだったらどうしようかって。・・わらっちゃうよね。
ケイ:笑わないわ。
マルコ:・・ありがとう。

かぶさるようにリーダーの演説が聞こえる。どこかナギに似ている。

リーダー:すべての戦うレプリカント市民諸君、今や我々には死にゆく道しか残されていない。我々レプリカントには自由はないのか。我々の命はマリア神聖帝国の圧制のもと完全に支配されている。今まさに我々自身がマリア神聖帝国の暴虐と戦うことなくして我々自身を救う道はない。諸君、マリア神聖政府打倒の戦いに立ち上がろうではないか。シュプレヒコール「マリア神聖帝国打倒!」「レプリカントに自由を!」

市民達唱和するが、それをあざ笑うかのような放送が入る。

放送:国防幹部会議発表。本日未明わが帝国とユス連邦は交戦状態に入れり。マリア神聖帝国臣民諸君は不退転の決意を持ってわが帝国の勝利に邁進されたい。マリアは我々とともにある。国防幹部会発表。・・・・

市民達のブーイング。リーダーの演説。諸君我々は断固怒りを持って戦争遂行を阻止しようではないか。
どこか似ている通行人①②おしゃべりをしながら、出てくる。腕章をしている、黒い日の丸。突然マルコに向かい挙手の礼。「ハイル・マリア!」 何事もなかったように退場。市民たちブーイング。

曲に乗って狂気のような点検おばさんたちがくる。一種の陶酔めいた表情と制服・長靴。武器らしきものも持っている。集会の市民につめよる。

A:そこにいるのは。
B:誰。
C:私たち全日本平等愛国協議会は。
D:平等・平和をモットーに
A:生活改善・社会を明るく
B:規律・秩序を守りましょう。
C:守れない人
D:守らない人は
A~D:安全・平和を損なう社会の害虫。みんなで正しく排除しよう。
A:髪が違う。服装が華美。めだちたがり。危険度10
B:思想が偏向している。不穏分子。危険度80。排除!
A:23歳女子・軽度の精神障害あり。軽作業可能。生産力にならず。危険度60。排除!
B:58歳男子。現在脳卒中のため右半身付随。リハビリ中。生産力にならず。危険度70。排除!
C:難病にて療養中8歳男子。高額の医療費を国家に負担させる。生産力にならず。危険度80。排除!
A:私たち、明るく楽しい21世紀をめざし、
B:限られた資源の有効利用と無駄な経費節減に
C:生活改善社会を明るく
D:平等愛国協議会
ABCD:全員排除!

一同、市民たちに襲いかかる。市民たち逃げる。リーダー逮捕され連行される。

ケイ:かなり混乱してるわね。レプリカントに自由を?マリア神聖帝国?1990年?。これほどとは思わなかったわ。
マルコ:どうしよう。
ケイ:マルコのお仲間がたくさんいていいじゃない。
マルコ:冗談はいいよ。
ケイ:でもチャンスはここしかないわ。マリアを探すしかなさそうね。
マルコ:どうやって。卑弥呼の時代よりひどいよ。
ケイ:共鳴してるでしょ。
マルコ:うん、すごく共鳴してるけれど変なんだ。
ケイ:なにが。
マルコ:方向が見つからない。というより、あっちもこっちも反応がある感じ・・マリアがどの方向にいるのかもわからない。
ケイ:大丈夫、たぶん、あなた自身がいちばんよく知ってるはずよ。
マルコ:僕がね。

マルコ、なずんでいるところへ、やおら、少女ABC出てきて、これみよがしに自殺の準備をせっせとする。

マルコ:君たち、何をしてるの。
少女A:自殺しようかなっておもってる少女Aでーす。
少女B:自殺したいなって思ってる少女Bでーす。
少女C:自殺してもいいなって思ってる少女Cでーす。
少女ABC:私たち、安全自殺少女隊でーす。
ケイ・マルコ:・・集団自殺?
ケイ:こんな時代よ。どうせ、おふざけよ。
少女A・B・C:ヘイ、そこなねえちゃん、おれたちゃ、マジだぜ。(三人ポーズ決める)
マルコ:ターボレンジャーみたいだね。
ケイ:暗くないわね。
少女A:明るい自殺よお。わるい?
少女B:今年のトレンドよ。
少女C:ポリシーよ。ポリシー。たんなる、ポリシー。
マルコ:お遊びか。
少女A:ちがうもーん。本気だもーん。やってみよっか。
少女B・C:やれ、やれー!いけ、いけー!

マルコ、あわてて止める。

マルコ:本気だって事は、わかったから、ちょっと待って。
少女A:いいわよ。(あっさりやめる)
少女B:やっぱり、ここ一番ていうガッツがほしいわね。ねー。
少女C:緊張感もアイデンティティーもポリシーも何もないからね。ねー。
少女B・C:根性なし!
少女A:死んでやる。
マルコ:よせよ。君達ちょっとだまっっててくれないかな。話ややっこしくしないでくれる。
少女B・C:ヘイヘイ。物好きね。
マルコ:何で自殺するの、なにか、理由があるんだろ。
少女A:理由なんてなーいよ。自殺したいだけ。みんなしてるじゃない。ねーっ。(B・C「ねーっ」)
マルコ:みんなしてるって・・・
少女B:お母さんに叱られたから。お小遣いが少なかったから。
少女C:成績悪かったから。友達が悪口言ったから。生きるのいやになったから。
マルコ:じゃ、君は?
少女A:うーん、そういわれるとあるような気もするけど、・・なにかなあ・・と深刻に悩む。(少女B・C:ノンプレノンプレ、軽くいこーぜっと励ます。) うんそう。まほそのほ時代の気分ね。気分。じ・さ・つ・き・ぶ・ん。とってもおいしいじゃなーい。
少女B・C:おっしゃれー。

マルコ、呆然。

ケイ:ふん、なんてご苦労なこと。まったく緊張感もポリシーもないんだから。ったくいまのがきゃ。
マルコ:ケイ!
ケイ:トレンドだかポリシーだか知らないけど死にたきゃさっさと死んだら。だいたい、自殺なんて物はね、こうひっそりとくらーく肩身狭く恨みを抱いて死んでゆくものよ。(ケイ、おもいこみ)
少女B:演歌ってくらいのよねー。
少女C:ねー。
少女B:やーねオバタリアンは。
生じC:おもいこみだけでいきてんだからねー。
ケイ:(ケイ、気づかずに)見せびらかすうちはとうしろね。ま、本気で死ぬならおやんなさい。じっくり見届けてあげるから。はい、はい。三人まとめて三途の川を渡んなさいよ。・・・マリア神聖帝国だかなんだか知らないが狂った時代にふさわしいわ。え、どうなのさ。悔しかったら死んでごらんよ。
少女A:死んでやる!(少女B・C:行け、行けっー!)
マルコ:(止めながら)ケイ。いいすぎだよ。
少女A:あんた、じゃましないでくれる。
マルコ:・・・・本当はそんな気ないんだろ?
少女A:・・・
マルコ:・・ね、そうなんだろ。
少女A:(ハックションと大きなくしゃみ)・・ああすっきりした。くしゃみってすっきりでないとこう、なんていうか鼻がフフガフガしてきてさ・・・わかるでしょ。こーゆーの。

一同白ける。B・C例の緊張感も・・・をやってる。

ケイ:とても、付き合いきれないわ。私マリアを探してくる。マルコ気をつけるのよ。
マルコ:待ってよ、ケイ。僕一人じゃ・・
ケイ:いつかは一人でやらなくちゃ。大丈夫、すぐ戻るわ。

そのすきに、少女Aまた死のうとする。みんな止めない。ちらっと見て。

少女A:あんたたち、とめないの?
少女B・C:あんたトップバッターでしょ!いけ、いけーおらー!
少女A:あんたは
マルコ:知らないよっ!
少女A:怒ったの?
マルコ:当り前だ。人がこんなに心配してるのに。
少女A:どうして怒るの?
マルコ:気分で死ぬなんてバカげてる。
少女A:気分で死んじゃたっていいじゃない。あたしの勝手よ。
マルコ:あのねえ。・・君ねえ。君のいうこと、めちゃくちゃだよ!とにかく、自殺なんかまちがってるよ!
少女A:あーあ、もうこまっちゃうなあ。ったくわかんないんだからー。あたしたちなんにもできないの。せめて自殺だけでもしたいのにさあ。何とかしてよう。(B・C「なんとかしてよー!」)

「なんとかしましょー!」とどこかから声。
と制服の一同ずずっとチンドン屋ふうに出てくる。以下さらに狂気のような盛り上がりと有無を言わさぬ怒涛のテンポ。この時代いったいどうなっ ていくのか。

一同:あ、さて、あ、さて、あ、さてさてさてさて、さては南京玉簾。ほりゃ、自殺もいじめもえじゃないか。管理も排除もえじゃないか。戦争も革命もえじゃないか。ほりゃ。えじゃないか、えじゃないか、えじゃないか。あら、さて、さて、あさてさてさてさて、さては南京玉簾れ。・・・・
ディレクター:いやーこれはこれはこれは、いやーどーもどーもどーも。ハイハイハイハイなんとかしましょう。わたしゃKTVの・・・ともうします。(以下アドリブで適当に。)

マルコ、ひたすら呆然。かまわず続けるディレクター。少女隊はのっている。バックはドンチキやっている。スタッフ一同大いに盛り上がる。

ディレクター:いや、どーもどーも。桜が狂いさいてますね。哭いていますね。異常ですね。いいね、いいね。11月。小春日和。この感じグーよ。グー。はいはいはい。今日はめでたい開戦日。ミサイルばんばんとばしちゃって豪快に行こうね。さあ今日も愉快なレプリカントニュースショウ。みんなそろってるかな。(バックもとに戻って位置につく。マルコ、はいごめんなさいねと見物の位置に押し出される)惟ちゃん、すたんばいいい。あきちゃん音いい。OK・OH・YAER・OH・YAER。それじゃ行きましょうか。ケイちゃんお願いねー。

リポーターのケイ。それらしき服装でスタッフとともにくる。ディレクターズチェア・ゲストの席もうけられる。メーキャップやらなんやらスタッ フ忙しい。以下、スタッフ適当に忙しい。カメラマンも本当に忙しい。ごたごたの雰囲気。

スタッフ:本番、いきまーす。5秒前、4、3、2、1・・・・
リポーター(ケイ):わたしは、今****にきています。今日は11月26日。時計は午後・・・をさしてます。風が少し強くふいてきました。狂い咲の桜もちらほら散っています。少女たちが、自殺をしようとしている現場から中継でお伝えしています。ゲストに少年心理評論家の楠田博子さんにおいでいただきました。宜しくお願いします。。楠田さん自殺は厳罰なんですよね。
楠田:楠田博子です。(以下楠田調)はい。ロマンチックですね。あじけのない合理化、砂漠化する大都会、一筋に咲く心のオアシス。自殺。なんて、ロマンチックでしょう。夢を見れない私たち、はかなくも燃える乙女のこころ<ああロマンチック!
リポーター:(冷たく)自殺は厳しく罰せられるんですよね。
楠田:(ころりと)はい。そうなんですよね。
リポーター:といいいますと。
楠田:楠田博子でございます。はい。帝国刑法第21条マリア神聖帝国臣民はみだりに自殺をすべからず。違反したるものは死刑ないし無期懲役または強制労働15年また、関連して25条市民秩序の破壊または扇動するものはこれを10年または15年の有期懲役に処せられるんですねー。はい。同45条・・
リポーター:(さりげなくけり倒す)まだ続きますか。
楠田:(しぶとく起きあがり)そうですね。軽くあと、10か条ぐらいはいけますね。
リポーター:ちびちびと日本酒じゃないから。どうでしょう、一気飲みでまとめてみては。

少女B・C:一気、一気のかけ声。

楠田:(はい、はいと少女達へ)ではごはざんで願ましてー色々色々ありまして、気合いをいれてはいっ。全部まとめて花一もんめ。どーんと死刑です。文句ありませんねー!

少女たちガッツポーズ

リポーター:はい。はいはい。きましたきました。随分思い切りました。どどーんと死刑です。これはのけぞります。これで話が一気にもりあがりますね。

盛り上がる少女隊

マルコ:死刑だって。
リポーター:ここで街の人の声をきいてみたいと思います。あなたいかがですか。
街の人A:いいじゃないですかー。べつに、すきずきだからー。あまり関心もないしー。せいじってむつかしいからー、よくわかんない。
街の人B:おかあさんみてる。やっほー。(とVサイン。いるんだよこんな奴が)
街の人C:えっ、あたしですか。えっ、うっそー、きゃーどうしよー。きゃー。(こんな奴もいるんだ)
リポーター:(あきらめて)楠田さんお願いしまーす。
楠田:ちょっと、ちょっとそこのぼうや。お願いね。
マルコ:死刑だって、ふざけないで!こんなのインチキだ!
ディレクター:(リポーターに向かって)ちょっと、ちょっといまの、カットね。過激よ、過激!あぶなーい。(以下リポーターをいびる。始末書50枚よ。 とかなんとか。)
リポーター:(むくれながら)ねえ、ぼく、困るじゃない、ちゃんと言ってくれなくちゃ。本番中なんだから。・・ええ(インカムに向かって)わかってます。やりなおしゃいいんでしょ。はいもう一回いきます。・・ここで街の人の声を聞いてみたいと思います。あなたどう思われます。
マルコ:何度でも言ってやる。めちゃくちゃだ!でたらめだ!
リポーター:なにこのこ。あっぶないわねー。ちょっと誰、こんなピンボケつれてきたの。本番めちゃくちゃだわ。
ディレクター:カット、カット。CMだ。CM。たくーっ。

CM流れる。スタッフたちあれこれ。少女隊のところへディレクター。

マルコ:めちゃくちゃなのは君たちだ!どうして、自殺止めないの。おもしろがって、馬鹿にして。
楠田:まあ、このこかわいい。むきになってる。
マルコ:むきになってわるいか。
リポーター:番組つぶす気!みんなが楽しんでるからいいじゃない。
マルコ:よくない。絶対によくない。
楠田:まあまあぼく。
マルコ:マルコだよ。
楠田:マルコくん。こっちおいで。見て御覧。

ディレクター、少女Aに演技つけている。

少女A:・・ったく。あーたいくつ。ねえこんな感じでいいかなあ。
ディレクター:いいね、いいよー。、もう少し、すねた感じほしいなあ。そう、世の中全体うらんでるってかんじ。そうそう、はい、いいよう。OK、それでいこう。

楠田:わかる。
マルコ:やらせだね。
楠田:いいえ。ちがうわ。願いよ。
マルコ:え?
楠田:夢を見たいのよ。みんなね。
マルコ:自殺が?
楠田:自由だわ。
マルコ:違うよ。自由はそんなものじゃない。
楠田:マルコもレプリカントね。・・わかるわ。自由じゃない。
マルコ:僕は夢を見る。自殺もしない。
楠田:そうかな。(と、もとの位置へもどる)
マルコ:待って。

CM終わり、時間がまた流れ始める。

リポーター:(ころっと)はい、お待たせしました。それでは、少女たちはどうしているでしょうか。代表して少女Aさん今の御心境を一言。
少女A:(すかさずポーズをつくる)お母さんは、なんでも買ってくれます。ノート。鉛筆。参考書。百科事典。VIVA YOUのスーツにPINK HOUSEのスカートとATUSKI・OHNISHIのトレーナー。とても優しくて対話は欠かしません。今日の学校どうだった。お勉強はできたの。試験は大丈夫。体を壊さないようにね。頑張ってね。・・わたしは、そんなお母さんが大嫌いです。(少女B・Cヒューヒューと盛り上がっている)
楠田:はい、唇にバラ、懐にナイフという所でしたね。ロマンチックですねー。恐いですねー。はい。
リポーター:いま、ここに少女Aさんのおかあさまがいらっしゃってます。少しお話をうかがってみたいと思います。おかあさま、娘さんはああおっしゃってますが・・・

少女Aの母、日傘をさしてでてくる。マルコ、はっとする。少女たち断固たる応援体勢。

少女Aの母:娘は受験生なんです。お夜食もつくらなきゃいけないし、栄養をつけなくちゃいけないから、お料理教室へ通いました。ついでに火曜と木曜は テニスに通ってます。コーチがハンサムでかわいいんです。あ、べつに不倫はしてません。私、尽くす女ですから。みんなからかわいいといわれま す。わたしもそんな自分がいじらしくなります。ポッ。本当なんです。毎朝ご飯をつくります。もちろんお弁当も作ります。健康管理ってたいへん ですから。味噌汁は塩分控えめ。ご飯は七分づきに胚芽米を混ぜて、無農薬野菜とまったりとしてそれでいてしつこくない卵焼き。本当なんです。 私、尽くす人、あなた尽くされる人なんです。でも子供の学習塾だってばかにならないです。やれ模擬テストだ、特別補習だ、夏季講座だ集中講座 だ実力模試だって。パートでは足りないし。だから、私考えてるんです。夜のおつとめに出ようかしらって。だって、わたし自分なんかどうでもい いんです。あたししあわせなんです。だから、あたし頑張ってるんです。私、少女Aの母です。
マルコ:もしかして、母さん。
母:完ぺきの母です。
マルコ:でも、
母:帝国の母です。鑑です。

拍手の中で、母一種勘違いした崇高な感じ。マルコ、呆然と立つ。

リポーター:はいっごくろうさまでした。尽くして尽くして尽くし抜く、悲しくも恐ろしい母の原点を見るような感動的な主張でしたねえ。なかなかいい線 行くと思いますよ。はいここで、再び自殺現場にカメラお願いします。楠田さん、いかがでしょう。
楠田:はい、ロマンチックですね。このぶんでゆくと、
マルコ:やっぱりおかいしいよ。
楠田:マルコくん、何がおかしいの。ロマンチックじゃない。
マルコ:何がロマンチックだよ。何が完ぺきの母さ。子どもに尽くしてるって、そんなのエゴさ。
少女A:わたしはいいの 。
マルコ:どうして、よくないよ。君は自分をごまかしてる。
少女A:じゃましないで。あなたは関係ないわ。
マルコ:そんな・・・
楠田:そんなわけで、マルコくん。ロマンチックな展開です。
リポーター:楠田さん。どうなってますかー。
楠田:はい。この展開で行くと、まもなく出前裁判が始まるとおもいます。ああ、きました。きました。

「遠山左衛門尉様御出座ー」という声が掛かる。マルコたちをのぞく一同平伏。
 出前裁判官遠山金四郎、前座をしたがえて登場。桜吹雪が派手に舞う。迅速な裁判始まり終わる

遠山:余は出前裁判官の遠山である。これより少女A・B・Cの市民権ならびに生存権の停止の一件につき吟味致す。一同のもの面をあげい。・・さて、調べによると、そのほうたち、不届きにも本日自殺をはかろうとしたとのこと。左様相違ないか。
少女たち:ございません。
遠山:お上にもお慈悲はあるぞ。申すことはあるか。
少女A:私は少女Aです。私はバラよりのじ菊のひとひらが好きです。私は五月の空はとても美しいと思います。
少女B:私は少女Bです。お茶づけは鮭に限ります。私は・・・が好きです。
少女C:私は少女Cです。・・が楽しい。・が悲しい。
少女たち:私は私であるために死ななければいけないとおもいます。
遠山:ふむ、さて、母に尋ねる。娘のもうすことにしかと相違ないか。
母:私、尽くす女です。でも、ふと思うんです。毎日毎日、一年365日おかずをつくりながら、生きるってこんな事ですか。一日24時間、一週間168時間、一ヶ月720時間、一年8760時間、私は尽くしています。本当にわたしは自分を愛しいと思います。それで、誰に払っていただけるんですか。私の時間を。時間給500円として、8760時間*500円は438万円。わたしの時間を奪った人は払って下さい。あなたでもいいですから・・・どうぞ・・
遠山:ひかえい、吟味の最中である。
母:・・・私は、つくす女です。私は完ぺきの母です・・・
遠山:さようか。しかとあいわかった。それでは判決を言い渡す。判決主文被告人少女A並びにB・C、そのほうたち自殺をはかり世間を騒がせた罪重々不届きしごく、よって死罪獄門申しつける。本日の白州はこれまで。(一同ははーっと平伏。見得を切って)これにて一件落着。(マルコをのぞく一同、イヨー、ヨヨヨイ、ヨヨヨイ、ヨヨヨイ、ヨイ。一本締め)めでてえな。

 マルコ立ち尽くす。遠山桜吹雪とともに去る。

リポーター:ただいま判決が出ました。事態はいよいよクライマックスに突入したもようであります。

少女たち本格的に自殺を決行しようとする。

マルコ:だめだ!

マルコ少女Aを連れて行こうとする。少女A抵抗。少女B・Cマルコへ襲いかかる。リポーターインタビューへ突進。少女Aマルコを突き放し、皆 ぶちこける中階段をかけあがる。リポーターたおれながらも根性入れてマルコにインタビュー。カメラも頑張る。

リポーター:御心境を一言。
マルコ:ちくしょう!

かぶせるように点検おばさんたちかっこよくリズムを取りながら迫る。

A:自殺は私(わたくし)たちの敵
B:みんなが頑張る学歴社会、自殺なんかするひまない
A:あなたのとなりにいませんか。
B:気をつけよう、暗いことばと暗い顔。
C:注意一秒巻添え一生。
D:ぼくもわたしも今度は主役、みんなで摘もう自殺の芽
A:それでも自殺とおっしゃるの
B:その時は
C:きまってます。
D:私たちの社会から
ABCD:排除します!
A:危険度100。少女A・排除!

おばさんたち少女Aに襲いかかる。マルコ、引き離そうと乱闘になる。少女B・C・リポーターも加わり、短い乱闘の結果少女A階段上に追いつめ られる。

マルコ:やめるんだ。みんななぜ止めない。
A:止めるものがいるときは、
B:防衛法7条
C:これを排除すべし。
D:排除!

マルコにせまり、乱闘になり一同ぶちこける。マルコ押さえられている。

少女A:私は私でいたいだけなの。バーイ(と、身を投げる)

少女B・Cいけー!

マルコ:(同時に)やめろー!
リポーター:少女A子さんがただ今自殺されました。これは、今年度10000人めの自殺者であります。お母さま、御感想を一言。
少女Aの母:ありません。
リポーター:ありませんじゃ困るんですよね。何か一言。
少女Aの母:ありません。・・なにも、ありません。わたし完ぺきの母です、何もありません・・・
リポーター:深い悲しみの中お送りしました。なお、10000人目を記念してスポンサーからビッグなぷれぜんとがあります。なんと御遺族2名様ハワイ慰霊の旅ご招待。さらに・・・

少女B・C続こうとする。止めるマルコ。CMかぶさる。しゃしゃり出る楠田、そうはさせじとするリポーター。ニュースショーおおいに盛り上が る。なだれ込む点検おばさん。有卦にいるディレクターたち。狂気の南京玉すだれの嵐、狂騒状態の悪夢のような盛り上がりがマルコを囲む。

一同:あ、さて、あ、さて、あ、さてさてさてさて、さては南京玉簾。ほりゃ、自殺もいじめもえじゃないか。管理も排除もえじゃないか。戦争も革命もえじゃないか。ほりゃ。えじゃないか、えじゃないか、えじゃないか。戦争も革命もいじゃないか。レプリもマリアもいじゃないか。さて、さて、あさてさてさてさて、さては南京玉簾れ。

放送がかぶさる。

放送:国防幹部会議発表。本日未明わが帝国とユス連邦は交戦状態に入れり。マリア神聖帝国臣民諸君は不退転の決意を持ってわが帝国の勝利に邁進されたい。マリアは我々とともにある。国防幹部会議発表。・・・・

一同、見れば戦闘服。ディレクターたちはコマンドとなっている。

コマンドA:(無線機に向かって)チェックメイトキング2よりレッドポーン3へ。聞こえますかどうぞ。チェックメイトキング2よりレッドポーン3へ聞こえますかどうぞ。・・・了解。・・マリアは宮殿にいます。
ディレクター:よし。(GOサインを出す。一同いえーっ)
コマンド:チェックメイトキング2よりレプリカントチャイルドへ、チェックメイトキング2よりレプリカントチャイルドへ。レプリカントは夢を見る。繰り返すレプリカントは夢を見る。オーバー。(ディレクターに向かい、準備OKです!
ディレクター:アーユーレディー。
一同:いぇー。
ディレクター:俺達はなんだ。
一同:レプリカント!
ディレクター:マリアはなんだ!
一同:レプリカント!
ディレクター:マリアは夢を見る。

一同、ぶーいんぐ。

ディレクター:俺達は夢を見ない。

一同、ぶーいんぐ。

ディレクター:俺達も夢を見る。
一同:おれたちは夢を見る。
ディレクター:レプリカントは夢を見る。
一同:レプリカントは夢を見る。
ディレクター:目標、マリア宮殿。
一同:レプリに夢を、レプリに自由を!
ディレクター:いくぜ!
一同:やーっ!

コマンドたち、マリア宮殿の襲撃へ
リポーター、ケイにもどる。

ケイ:始まったね。
マルコ:ケイ。どういうこと。僕は夢を見てるの。
ケイ:どこが。紛れもない現実よ。教科書どおりじゃないけどね。
マルコ:子供が沢山自殺してた。いいや、殺されてた。劣悪なるものに死を!優秀なるものに生を!・・・こんなの現実じゃないよ。僕は夢を見てるんだ。
ケイ:残念ながら現実よ。
マルコ:狂ってる。
ケイ:狂っているのはマルコ、あなたよ。
マルコ:ひどい。
ケイ:そう思うでしょうね。無理ないわ。・・・この時代になぜ共鳴したと思う。
マルコ:マリアがいるからさ。
ケイ:そう。マリアがいるから。・・・でもどこに。
マルコ:わからない。でもどこかにいる。きっと見つける。
ケイ:私は見つけたわ。
マルコ:ほんとう。

ケイ、うなずく。

マルコ:どこにいたの。

ケイ、マルコをゆっくりと指す。

ケイ:ここに。
マルコ:冗談言わないで。なんのこと。
ケイ:マルコ、あなたがマリアよ。
マルコ:なにいってるの。ケイおかしいよ。僕はマリアじゃないよ。
ケイ:おかしくはないわ。何もおかしくはない。ここはあなたの世界。見ててわからないの。どこにマリアがいるの?優しいあなたのお母さんはどこにいるの?どこにもいやしない。いるのは見捨てられ、殺される子どもたちばかり。ここにいるのはみんなあなた自身よ。違って?・・・マルコ、ここはあなたが作った世界よ。
マルコ:嘘だ。
ケイ::あなたには時間と共鳴する力がある。共鳴しながら世界のありようを加速する。たとえ滅亡への道であろうとね。
マルコ:僕にはそんな力はないよ。・・・ないったら。

遠くで連絡の声が聞こえる。「チェックメイトキング2からレプリカントチャイルドへレプリは夢を紡ぐ。繰り返す。レプリは夢を紡ぐ」

ケイ:聞こえたでしょ。これはまぎれもない現実よ。
マルコ:嘘だ。
ケイ:嘘?じゃ、あなたは何者?クローンじゃなくて。それもマリアの純粋培養体クローン。十分能力はあるはずよ。
マルコ:僕にはそんな力はない。証拠を見せてよ。
ケイ:証拠?よくご覧なさい。あなたはいまどこにいるの。

マリア宮殿だろうか。伊豫がいる。ナギがいる。カズーや卑弥呼もいる。コマンド姿だ。それぞれ絶望的とも言える戦いを続けている。
宮殿には日傘の女がいる。だが兵士たちに守られて姿は見えない。次々と倒れるコマンドたち。以下スローモーションで戦いは続く。

マルコ:伊豫!卑弥呼!カズー!
ケイ:聞こえないわ。
マルコ:あのひとだ。
ケイ:マリアよ。
マルコ:母さんだ。母さん!止めて、殺さないで。
ケイ:顔をよくみるのよ。
マルコ:だめだ。僕は見れないよ。
ケイ:夢におびえて生きては行けないわ。マルコ、見なさい!

ふわっと風がゆれて、日傘がまわり、その人は振り返った。マルコである。

マルコ:あの顔は・・・
ケイ:よく見て!
マルコ:・・・
ケイ:誰?
マルコ:・・僕だ。

コマンドたち必死の戦いで、マリアに迫る。マリア、宮中の窓から中空に飛んだ。日傘が風に舞う。

マルコ:やめろー!

ケイ、マルコをおさえる。むしろ優しく。

ケイ:きこえないわ。存在しないといった方がいいかしら。あそこにいるのは幻よ。いいえもっとはかないものかも知れない。あなたの願いだから・・・
マルコ:僕の願い?
ケイ:時間の中に浮かぶ島。
マルコ:僕の願い。
ケイ:そう。クローンマルコのね。あなたは時間の流れで夢を紡いでいるの。あなたの希望をね。
マルコ:僕の願い。・・・僕の願い。・・・そうだ。僕の願いだ。僕は夢を見ていた。クローンなのに夢を見ていた。日傘をさした母さんが歩いてる。僕は叫ぶ。まってよ母さん。母さんは振り返る。でもいつだって振り返るのは、そう確かに僕の顔だった。・・当たり前だよね。クローンだもの。はは、おかしいね。僕が僕を愛してる。考えりゃこっけいだよ。僕は誰も愛せない。だけど、僕は愛したいんだ。誰かを愛したい。自分を愛するのではなく誰かを愛したい。おかしい?
ケイ:いいえ、おかしくなんかないわ。
マルコ:クローンには母さんはいないんだね。
ケイ:・・・そうよ。あなたひとりだわ。いつまでもね。
マルコ:・・・マリアはどうしたの。
ケイ:わからない。あなたと同じように時間の中に夢を紡いでいるでしょう。ひっそりとね。もう捜せないわ。
マルコ:でも、いつかであえるかもしれないね。
ケイ:可能性ならね。
マルコ:・・・それでもいい。



ケイ:これからどうするの。
マルコ:予感がしたんだよね。
ケイ:予感?
マルコ:1999年だよ。滅びの年。もう一度始めてみる。
ケイ:好きなのね。
マルコ:僕の希望だよ。
ケイ:そう。じゃここでお別れね。
マルコ:ケイ・・
ケイ:この時代なんとなく気に入ってね。むちゃくちゃだけどマルコの作った世界だから・・・・
マルコ:ありがとう。
ケイ:(にっこり笑って)・・マルコ、10年後に会いましょう。
マルコ:はい。・・・(ケイの背中へ)待ってます。

ケイ、去る。

マルコ:・・・夢を紡ぐクローンか。いい言葉だなマルコ。・・・カズーなら多分そういうだろう。お前レミングっていう動物知ってるか?増えて、増えて、 増えすぎたとき、突然狂ったように暴走を始め、群全体が海に沈むまで、一匹も行進をやめない。まてよ!そこから先は海だぜ。とまりなよ。おい とまれったら!・・・でも、ただの一匹だって止まりはしない。喜びの表情を顔一杯に浮かべながら全速力で走るんだ。そうして、みんないなくな るんだぜ。マルコ、覚えとけ。おれたちゃ、レミングさ。時間の終わりまで走り続けなきゃ気がすまないどうしようもない生き物よ。

コマンドたちゆっくりと立ち上がる。

マルコ:カズー、夢を見てるかい。・・・僕レミングにはならないよ。僕もう一度やってみる。

コマンドたち彼らの夢を紡ぐ。

カズー:たとえばラッシュアワーの窓からみるビルの情景、うだるように熱い七月の太陽はゆっくりとビルに沈む。俺は揺れる電車のリズムに身をゆだねな がら遠い惑星を思う。
伊豫:たとえば光る星屑の下、冷たいアスファルトに響くハイヒールの足音。一月の三日月に凍る吐息に揺れる私。
執政官:たとえば夕闇に消える後ろ姿、いつだって届かない想いに振り向けば信号は赤。
卑弥呼:たとえば桜吹雪散る校庭になつかしくも流れる鐘の音
一同:なつかしくも流れる鐘の音
カズー:とらえどころなく広がる想いは
伊豫・カズー:果てしない時空連続体に
執政官・伊豫・カズー:クローンは夢を紡ぐ
一同:たとえば闇の中に浮かぶ硝子玉。現れては消え、消えては輝く。まるで僕の記憶のように寄せては返す波のなか、遠く潮騒の中から呼びかける声があ る。幾重にも重なった塔の中にひっそりと輝く窓がある。透明な硝子の窓の中では、くるくると回る日傘に夏の日が輝いて、つややかな黒い髪と白 いうなじがこぼれ僕は言葉を失ってしまう。日傘は吹き渡る風に揺れ、その人は僕を振り返る。だが、僕はついにその人の顔を見ることはなくそれ でもいつかその人に会うのだという確信がゆったりと包む。僕はそうしてまた心地よいまどろみに身をゆだねるのだ。僕はそうして夢を見続ける。

マルコ、誰にともなく。

マルコ:じゃあ、僕は行くよ・・・(ゆっくりと世界を見渡す)・・・みんな、元気で。きっと元気で・・・

マルコ、永遠に向かい歩き始める。崇高なメロディーがふたたび流れ、たそがれの光の中マルコはコマンドたちに囲まれていつの間にか夢を紡ぎ始 める。
世界はふたたび新しい夢を見始めるのだ。  
 
                     【 幕 】



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