作 結城 翼
★登場人物
メイド1まこと (赤)
メイド2あきら (青)
☆アベリティフ(食前酒)
風が吹いているようだ。
余り広くない無機的な室内。
白いベンチが有る。
まこととあきらが、いろんなものをせっせと運んできて小道具を配置。
段ボール持ってくる。ベンチの前に据える。
もう一つ持ってくる。くっつけておく。
一つの上に電気のたこ焼き器を乗せる。も一つには包丁とまな板。
周りに、まだ切っていないキャベツとたこ、野菜ジュースのボトルを配置。
上手にドアらしきものあるようで、あけようとするがあかない。
いつものことのようですぐあきらめる。
よいしょと後ろの壁の紐を引っ張ると、幕が落ちて背景にずらっと男物のスーツがつり下げられているのが現れる。
にやっと笑って、引っ込むと今度はウェディングドレスを持ってきて掛ける。
たこ焼き器をセット。装置は完成。
だが、それらは少しずつ奇妙というかずれが見られる。
統一がとれていないし、乱雑に、全体として、不調和、不安定な感じを受ける。
風が吹く。溶暗。やがて風に代わり。
音楽。溶明。
まことがボールをかき混ぜながら出てくる。
ちよっとなめてみてよしっと言うような顔をしてすわる。
たこ焼きに流し込み、ふんふんと楽しそうにしている。
あっという顔をして。
まこと:ピックもって来て。
と、呼ぶ。
周りの材料ちらっと見た後、雑誌をみてふんふんいう。
小さい間。
あきら:はい。
と錐を持って出てくる。
もう一方の手にはケーキの大皿。
じろっとみて。
まこと:ばかか。
あきら:なんで。
まこと:錐なんかどうするよ。
あきら:ひっくり返すんだろ。
まこと:あぶないじゃない。
あきら:道具は何でも危ないもんだ。
まこと:どうぐによるだろ。
あきら:ようがたりゃいいよ。
まこと:やだよ。
あきら:なら、何がいる。
まこと:千枚通し。なければアイスピック。
あきら:最初から言ったらいいじゃん。
まこと:空気読めないの。
あきら:あいにく空気は吸うもんです。
まこと:刺したろか。
あきら:あー、痛い痛い。痛いのや。
まこと:千枚通し。ついでに、包帯とメンソレ。
あきら:めんどいな。
口には明らかに一口なめたと見られるクリームが付いてる。
めざとく見つけて。
まこと:きたねー。
あきら:何が。
まこと:これっ。
と、お口をぺろっとするまね、
あきら:なんのこと。
まこと:たべたろ。
あきら:ケーキなんかたべないよ。
っといって、にやりとまことを見て、しまったという顔。
まこと:ふっふっふ。
あきら:へっへっへ。
と、ケーキをおく。
錐を利き手に持ちかえる。
無意識の殺意。
あきら:ほっほっほ。
と、笑いながら雑誌を縦にして錐に用心。
まこと:ひっひっひ。
小さい間。
用心してるのをさとって。
あきら:見たな。
まこと:見ないよ。
あきら:知ってるはずがない。
まこと:ばればれ。
あきら、あわててぺろりとなめて。
あきら:証拠隠滅。
まこと:あほか。
あきら:なんで。
まこと:回してみ。
と、おいたケーキをみる。
まこと:裏側。
あきら:ちっ。
渋々ケーキの反対側を見せると。
ぺろりとなめた後がすごい。
まこと:甘いな。
あきら:確かに。
指でまた生クリームすくってぺろりとなめて味を確かめて。
あきら:確かに。
くるっと、そのまま、去る。
何事もなかったようにその背に。
まこと:早くね。
あきら:かしこまりましたまこと様。
と、振り向きもせず割合機械的な言い方をしながら去る。
どこか、全体に違和感ある会話の調子。
去ると同時にばっと雑誌投げ捨て、素早くケーキにしがみつくまこと。
まこと:現場検証。
と、あんぐりと口あけて、一口。
ひょいと顔だけ見せたあきら。
あきら:現行犯。
まこと:証拠隠滅。
と、にっこり笑って。ぱくっと食べる。
あきら:ばーか。
あきら引っ込む。
まこと:お茶も。
あきら:ぬすっとに追い銭。セルフサービス。
まこと:ちっ。
と座り込んで、そばにあった野菜ジュースを一口。
まこと:まずっ。
溶暗。
?U前菜
風の音。
あきら:ほれっ。
明るくなる。
アイスピック(ないしは千枚通し)をぬっとつきだした。
軽く交わして何気なく受け取る。
まこと:それ。
あきら:切ってないの。
まこと:まあね。
あきら:あきれた。
といって、キャベツを刻み出す。
軽快な手さばき。
まこと:うまいね。
あきら:プログラム。
まこと:何だ。
あきら:たこは。
まこと:まだ。
あきら:何してたの。
まこと:生地。
あきら:貸して。
たこも取り寄せて。
切り始める。
まこと、つっと立って壁に掛けた服をいじる。
まこと:これどう?
切りながらちらっと見て。
あきら:似合わない。
まこと:ふん。
ぱらぱらと見て。
まこと:どう?
あきら:没。
まこと:じゃこれだ。
と、一つ選んだ。
あきら:いいように。
まこと:あきらは。
あきら:これでいい。
まこと:ださ。
あきら:いいの。
まこと:制服だから?
あきら:そっ。
とんとんと威勢良く刻む。
突然ボーンボーンと三度柱時計がなる。
びくっとする二人。
あきら:時間?
まこと:変ね。
と、上手へいってかちゃかちゃする仕草。
まこと:まだよ。
あきら:変ね。
まこと:だよね。
あきら:あきっこないわ時間来ないと。
まこと:分かってる。
あきら:でも。
まこと:そう。
あきら:あれがね。
まこと:うん。
と、耳をすますが何も起こらない。
まこと:空耳よ。
あきら:二人とも?
まこと:二人とも。
ボーン、ボーンと鳴る。
まこと:空耳。
あきら:鳴ってる。
まこと:鳴っても!
あきら:分かった。
ボーン、ボーンとなるがあきらめるたように突然止まる。
それまで、無理に切り続けているが。
勝ち誇ったように。
まこと:ほら。
あきら:空耳。
二人、きゃっきゃっと笑うが突然止まり。
まこと:取ってきて。
あきら:何を。
まこと:紅生姜。
あきら:ないよ。
まこと:ないの?!
あきら:ない。
まこと:おふしは?
あきら:ない。
まこと:青のり
あきら:ない。
まこと:マヨネーズ、辛いの。
あきら:ない。
まこと:爪楊枝。
あきら:ない。
まこと:ない?
あきら:ない。
まこと:全部?
あきら:全部。
まこと:ほんとに?
あきら:ほんとに。
まこと:どうするの。
あきら:さあ。
まこと:たこ焼きだよ。
あきら:たこ焼き。
まこと:偽じゃない。
あきら:フェイク。
まこと:いいの?
あきら:いい。
まこと:やだな。
あきら:しかたない。
つついて。
まこと:半分。
あきら:フェイクの半分。
まこと:まずそう。
あきら:私たちみたい。
まこと:食べてみる?
あきら:あんたを?
まこと:そう。
あきら:まずそう。
まこと:味見しないと分からないよ。
あきら:あとで?
まこと:あとで。
異様な会話。まことはなにかさそうよう。
携帯電話が鳴る。
無視する風だがしつこくなる。
あきら:出ないの。
まこと:出ない。
あきら:いいの?
まこと:いい。
あきら:でも。
まこと:でたら・
あきら:いいの?
まこと:うん。
あきらが出る。
あきら:切れてる。
まこと:だろね。
あきら:いつも?
まこと:そ。
あきら:誰だろ?
まこと:しらない。
あきら:むかつくね。
まこと:どうして。
あきら:いたずら電話。
まこと:全然。
あきら:どうして。
まこと:お金いらないもん。
あきら:そういう問題?
まこと:そういう問題。
あきら:ふーん。
まこと:かけてみる?
あきら:どこへ?
まこと:すきなとこ。
あきら:といってもね。
まこと:110番。
あきら:死んじゃいないよ。
まこと:死ぬかもしれない。
あきら:誰が。
間。
見つめ合う。
まこと:かけてみたら。
あきら、かけてみる。
あきら:かからない。
まこと:でしょ。
あきら:壊れてる?
まこと:たぶん。
あきら:なら、なぜかかってくる。
まこと:さあ。
あきら:おかしい。
まこと:おかしいわね。
と、生地の世話をしてる。
あきら:ま、いっか。
まこと:いいんじゃない。
また携帯にかかる。
あきら:ほっとく?
まこと:ほっとく。
電話は鳴り続ける。
見ていて。
あきら:電源切ったら。
まこと:して。
電源を切る。
同じ携帯また鳴り出す。
まこと:はずせば。
あきらでんちをはずす。止まる。
また、別のところでなりだす。
あきら、上手につり下げている衣装の所に行き服を広げると携帯がハンガーにつるされている。
次々に電池はずし、ゴミ箱に捨てる。
あきら:落ち着くな。
まこと:どうだろ。
ゴミ箱の携帯が鳴る。
まこと:ほらね。
あきら:どうなってる。
まこと:さあ。
あきら:ほっとくの。
まこと:ほっとけば。
携帯は鳴る。
まこと:キャベツできた。
ぼーるのきゃべつをあきらがわたす。
きっかり17回鳴って、切れる。
まこと:17回。
あきら:え?
まこと:いつもね。
あきら:数えてるの。
まこと:まあね。
あきら:ふーん。
まこと:それで終わり。
あきら:ひまね。
まこと:ひまだもの。
ボールをちょっと混ぜて。
まこと:たこは。
あきら:こんなんでどう。
まこと:いい感じ。
あきら:次は。
まこと:油ひいたら。
あきら:どれ使う?
まこと:紅花油。
あきら:高級ね。
まこと:スペシャルだもん。
あきら:確かに。
あきら、油取りに行く。油を引く。
まこと:流すよ。
と、生地を流し込む。
あきら:どれ着るの?
と、後ろの服を。
まこと:どれにする?
あきら:どれでもいいよ。
まこと:こだわりないの?
あきら:軽蔑する?
まこと:ちょこっと。
あきら:センスないから。
まこと:そりゃそうね。
あきら:侮辱した。
まこと:ほんとのこと。
あきら:怒るよ。
まこと:怒ってみて。
あきら:おこったぞ。
もちろん、平板な声。
まこと:ほら。
あきら:ダメか。
まこと:ないのよ。
あきら:ないか。
まこと:しかたないね。
あきら:心ってのはねー。
まこと:ねー。
小さい間。
あきら:焼けた?
まこと:いれたばかりじゃない。
あきら:え、そう?
まこと:ぼけたんじゃない。
ちょっと考えて。
あきら:飛んだのよ。
まこと:飛ぶの?
あきら:最近。
まこと:ダメかもね。
あきら:まだまだ。
まこと:がんばるの。
あきら:がんばる。
まこと:あきらめたら。
あきら:だめ。
まこと:往生際悪いよ。
あきら:もがくの得意。
まこと:限度があるよ。
あきら:時間だ。
と、不意に立ち上がる。
まこと:トイレ?
あきら:まことは。
まこと:まだ。
あきら:行って来る。
まこと:いってらっしゃい。
あきら、去る。
まこと:短くなるわね。
ちょっと頸傾げて。
まこと:まだまだ持つのに。
たこ焼きの世話に取りかかる。
溶暗。
風の音。
?Vスープ
歌う声。
溶明。
ベンチの上に立ち上がってあきらが歌っている。下手である。
横では相変わらずたこ焼きの世話。
歌い終わった。
無反応。
あきら:どうよ?
まこと:下手ね。
あきら:認める。
まこと:くさっちやう。
あきら:くさってるだろ。
まこと:凍ってる。
あきら:とっくじゃない。
まこと:500年。
笑う二人。
間。
風の音。
あきら:やまないなあ。
まこと:当分ね。
と、たこ焼きの世話。
あきら、うろつき出す。服つついてみたり、上手のドアらしきところへ行ってみたり。
わざわざまことの前とおったり。
むしするまこと。
あきら:馬鹿にしてる?
まこと:なにを。
あきら:たこばっかり焼いて。
まこと:たこ焼き。
あきら:たこ。
まこと:たこ焼き。
あきら:たこたこたこたこたこたこたこたこ。
まこと:もっと。
あきら:たこたこたこたこたこたこたこたこたこたこたこたこたこたこたこたこたこたこ。
息切れる。
まこと:こたこたこたこた言ってる。
あきら:それで。
まこと:れろれろ。
あきら:ん?
まこと:言ってみ。
あきら:れろれろ?
まこと:れろれろ。
あきら:れろれろれろれろれろれろ。
まこと:エロエロいってる。
あきら:うそ。
まこと:ほんと。
あきら:れろれろれろれろれろれろれろれろ・・・。
まこと:ほら。
あきら:エッチ。
まこと:かつ舌悪いだけ。
あきら:まこと言って見ろ。
まこと:やだ。
あきら:どうして。
まこと:無駄な労力。
ふんと怒ったふり。
あきら:たこばっかりやいて。
まこと:仕事だもん。
あきら:退屈。
まこと:どうして。
あきら:退屈退屈退屈退屈退屈。
まこと:いえるじゃない。
あきら:つまんないつまんないつまんないつまんないつまんない。
まこと:上手、上手。
あきら:ほんと?
まこと:ほんと。
ひたすらたこ焼きの世話。
あきら:一口。
まこと:ダメ。
あきら:どうして。
まこと:猫舌。
あきら:冷ますから。
まこと:おいしくない。
あきら:けち。
まこと:いやしんぼ。
あきら:ごうつくばり。
まこと:せっかち。
あきら:わがまま。
まこと:くいしんぼ。
あきら:おたんこなす。
まこと:どんななす?
あきら:おたんこ産のなす。
まこと:しなびてそう。
あきら:しなびるよこんなんじゃ。
きちんと見て。
まこと:どしたいの。
あきら:あそぼ。
まこと:また?
あきら:だって。
風が強い。
明かりが揺らぐ。
見上げて。
まこと:いつものことよ。
あきら:だからよ。
まこと:片づけて。
あきら:何。
まこと:もう使わない。
と、あまった材料示す。
あきら:作らない?
まこと:これで十分。
あきら:もったいない。
まこと:冷凍したら。
あきら:いつもみたいに?
まこと:いつもみたいに。
あきら:十分あるのに。
まこと:余るほどね。
小さい間。
あきら:分かったよ。
あきら、やれやれと片づけて去る。
たこ焼きの世話をするまこと。
溶暗。
風が吹く。
溶明。
あきらが出てくる。
あきら:まだかよ。
まこと:まだ。
あきら:焼けてるよ。
まこと:まだ。
あきら:焦げちゃうよ。
まこと:まだ。
あきら:火を噴くよ。
まこと:まだ。
あきら:爆発するぞ。
まこと:まだ。
あきら:死ぬぞ。
まこと:まだ。
あきら:骨になるぞ。
まこと:まだ。
あきら:葬式あげるぞ。
まこと:まだ。
あきら:墓作るぞ。
まこと:まだ。
あきら:あきらめるぞ。
まこと:まだ。
あきらめるあきら。
おいっちにとたいそうし始める。
無視してたこ焼きの世話をするまこと。本当に十分焼けている。
体操しながら。
あきら:退屈だ。
まこと答えない。
あきら:生活は。
と、横目で見る。反応なし。
あきら:退屈だ。
まこと答えない。
あきら:いつまで続く。
反応なし。
あきら:ぬかるみぞ。
反応なし。
あきら:一年、十年、五十年。
反応なし。
あきら:百年、百年、また百年。
反応なし。
あきら:たこ焼き焼いて五百年。
まこと:代わる?
あきら:やだよ。
まこと:じゃ、我慢したら。
あきら:退屈だ。
まこと:自業自得。
あきら:生活するのは。
体操も終わりに近づく。
あきら:退屈だっと。
終わったけれど。反応なし。
あきら:あきない?
まこと:好きだもの。
あきら:人それぞれか。
まこと:言いたい?
あきら:たで食う虫も。
まこと:好きずき。
二人、ふふっと笑う。
あきら:懐かしいな。
まこと:うん。
二人遠い目。
首振って。
あきら:昔のことだわ。
風が吹く。
ボーンと時計が鳴る。
灯りが揺れる。
あきら:またかよ。
まこと:仕方ない。
あきら:あきっこないのに。
まこと:あいてもしょうがない。
あきら:壊れてくんだ。
まこと:ものみないつかは滅びるわ。
あきら:焼くしかない。
まこと:そういうこと。
あきら:しぶといね。
まこと:あきらめ悪いから。
あきら:あきらめちゃいないぞ。退屈だ。
まこと:あきらめたら。
あきら:いーや。
ふーっと溜息ついて。
まこと:おままごと。
あきら:やってるよ。
まこと:じゃんけん。
あきら:意味ない。石蹴り。
まこと:どこに石あるの。
あきら:かくれんぼ。
まこと:隠れるとこない。
あきら:陣取り。
まこと:狭い。
あきら:騎馬戦。
まこと:人いない。
あきら:縄跳び。
まこと:疲れる。
あきら:まことが?
まこと:あやとり。
あきら:さっきやってた。
まこと:トランプ。
あきら:ババ抜きか?
まこと:花札。
あきら:かけてもしょうがないだろ。
まこと:着せ替え。
あきら:着せ替え?
まこと:ほら。
と、後ろの衣装。
あきら:着せ替えね。
まこと:いつもこれじゃね(と、メイド服を示す)。
あきら:まあな。
まこと:やる。
あきら:いっか。
まこと:決まった。
楽しい、音楽。
あれこれと衣装を選んではやめる。
そのうち。
まこと:これ。
あきら:えーっ。
男物。
まこと:いいジャン。
あきら:まことは。
まこと:うーん、これ。
と、ウェディング。
あきら:きたねー。
まこと:どこが。
あきら:なんだか。
まこと:きたかったもの。
あきら:あーね。
まこと:何。
あきら:なんでも。
まこと:じゃ。
着せ替え始まる。
といっても、メイド服の上から、着せるだけ。ズボンは無理だから上だけ。
抵抗するあきら。
あきら:はいんねーよ。
まこと:我慢。
あきら:苦しい。
まこと:いいの。
珍妙なあきら。
あきら:ひでー。
まこと:いいじゃん。
あきら:くそっ。
まこと:私は。
あきら:着たいんだろ。
まこと:・・ええ。
あきら:しらねえぞ。
まことにウエディングを着せる。
まことはされるがまま。
あきら:あ。
まこと:何。
あきら:や、なんとなく。
そこそこ似合う。
あきら:で、どう。
まこと:どうって。
あきら:どうするわけ。
まこと:決まってる。
あきら:なにが。
まこと:分からない。
あきら:分かるけど。
まこと:じゃ。
あきら:なんだか。
まこと:何。
あきら:本当に。
まこと:もちろん。
まことは真剣。
結婚式の衣装。
あきら:嘘なんだよ。
まこと:分かってる。
あきら:いいの。
まこと:いい。
異様な感じ。
あきら:音楽は?
まこと:わすれてた。
スイッチをつけにいく。
明かりと音楽。
結婚式の雰囲気。
あきら:仕込んだな。
まこと:だったら。
あきら:かわいそう。
まこと:どうせ。
あきら:フェイク。
悲しげに笑うまこと。
あきら:どうすればいい。
まこと:来て。
音楽。
あきら:まことがいいなら。
まこと:いいよ。
あきら、ゆっくり近づく。
滑稽な衣装の結婚式の雰囲気。
見つめ合う二人。
あきら:いいの。
まこと:いいよ。
キスを受けようとするまこと。目を閉じる。
あきらはキスしようと近づくが、一呼吸してはずしてまことをぎゅっと抱く。
まことは目を開ける。寂しげ。
そのまま、静止。
ふっと息して。
まこと:やめよ。
あきら:ああ。
抱きしめていた手をほどく。離れる。
気まずい間。
あきら:ごめん。
まこと:なぜ。
あきら:別に。
まこと:そう。
まこと、さっさとウェディングを脱ぐ。
あきら:ごめん。
まこと:いいよ。
と、上着を脱ぐ。
まことはさっさとたこ焼きの世話へ。
あきら:好きだったんだ。
まこと:いいよ。
厳しい声。
あきら:ごめん。
まこと:いいよ。
押さえて我慢している。
電話。
あきら:鳴ってる。
まこと:でたら。
あきら:誰も出ねーよ。
まこと:出ないわ。
あきら:なら、なぜ。
くるっと振り返り。
まこと:いつか出るわ。
あきら:ほんとに。
まこと:・・。
あきら:信じてる?
まこと:・・・。
あきら:だって。
まこと:いけない。
あきら:無理だ。
まこと:・・。
あきら:絶対に。
まこと:だから。
怒りにもにた目。
あきら:・・いや。
まこと:・・。
あきら:それでいいなら。
まこと:いいの。
あきら:時間ないのに。
まこと:分かってる。
あきら:というか。
まこと:分かってる。
あきら:・・・。
まこと:時間は止まってる。
間。
あきら:分かってりゃいいか。
まこと:いいよ。
間。
あきら:あ。
まこと:なに。
あきら:風。
風の音。
聞く。
あきら:やむかな。
まこと:やみはしない。
あきら:だよね。
まこと:生活も。
あきら:フェイクの。
まこと:フェイクでも。
あきら:続くかな?
まこと:続けるの。
聞き続ける。
風が強い。
溶暗しかかって。
?Wメインディッシュ
何かが壊れる音。
明かりが元に戻る。
あきら:どうした。
まこと:わからない。
あきら:壊れた。
まこと:たぶん。
あきら:大丈夫かな。
まこと:たぶん。
あきら:ほんとに?
まこと:ほんとに。
と、上手に行く。
まこと:ほら。
あきら:言われても。
まこと:大丈夫。
電話の音。だんだん小さく。
まこと:ほら。
あきら:なるほど。
まこと:心配性ね。
あきら:用心深いだけ。
まこと:早死にするよ。
あきら:死ねりゃいいけど。
まこと:死ねるわ。
あきら:いつ。
まこと:いつか。
あきら:ありがたい予言。
まこと:真実。
あきら:疑わしいけど。
まこと:あっ。
あきら:どうしたの。
まこと:つくらなきゃ。
あきら:何。
まこと:たこ焼き。
と、さっさと下手に引っ込む。
あきら:焼けてるよ。
だが、意に解しない。
あきらはたこやきを食べようとする。
すぐにボールをかき混ぜながらでて来るまこと。
まこと:ピック持ってきて。
と、座る。
あきら:ほらよ。
あきら、そこにあるピックを渡そうとする。
まこと:ダメ、新しいの。
あきら:なんで。
まこと:んー、そういう気分。
あきら:わがまま。
まこと:ポリシー。
あきら:やれやれ。
と言いながらも取りに行く。
まこと、ふんふんいいながらこねている。
あきら:はいよ。
と錐を持って出てくる。
じろっとみて。
まこと:ばかか。
あきら:なんで。
まこと:錐なんかどうするよ。
あきら:ひっくり返すんだろ。
まこと:あぶないじゃない。
あきら:道具は何でも危ないもんだ。
まこと:どうぐによるだろ。
あきら:ようがたりゃいいよ。
まこと:やだよ。
あきら:なら、何がいる。
まこと:千枚通し。なければアイスピック。
あきら:最初から言ったらいいじゃん。
まこと:空気読めないの。
あきら:あいにく空気は吸うもんです。
まこと:刺したろか。
あきら:あー、痛い痛い。痛いのや。
まこと:千枚通し。ついでに、包帯とメンソレ。
あきら:めんどいやつ。
と、いいながら引き換えそうとする。
まこと:ついでにあれも取ってきて。
あきら:何を。
まこと:紅生姜。
あきら:ないよ。
まこと:ないの?!
あきら:ない。
まこと:おふしは?
あきら:ない。
まこと:青のり
あきら:ない。
まこと:マヨネーズ、辛いの。
あきら:ない。
まこと:爪楊枝。
あきら:ない。
まこと:ない?
あきら:ない。
まこと:全部?
あきら:全部。
まこと:ほんとに?
あきら:ほんとに。
まこと:どうするの。
あきら:さあ。
まこと:たこ焼きだよ。
あきら:たこ焼き。
まこと:偽じゃない。
あきら:フェイク。
まこと:いいの?
あきら:いい。
まこと:やだな。
あきら:しかたない。
まこと:あきらめはやいね。
あきら:そんなものよ世界って。
といいながら二人はっとする。
まこと:え・・ループ?
あきら:あ,ループ。
ドアの外で何か破壊音。
同時に、背後の衣装棚のようなものが崩壊。
?Wデザート
ハザード音。とともに人工の声。
アナウンス:警告。プログラム破損。レベル4、直ちに、システム再起動。・・警告、プログラム破損、レベル4。直ちにシステム再起動。警告。・・(放送が間延びして止まる。)
ハザード音止まる。
プリザードの音が強く聞こえる。
あきら:壊れたかな。
まこと:みたい。
あきら:長くないかな。
まこと:何が。
あきら、自分とまことをさす。
。
まこと:かもね。
強い風の音。
あきら:やまないかな。
まこと:無理。
あきら:だろね。
まこと:持つわ。
と、上手にあるらしいドアを見る。
あきら:ならいいけど。
まこと:たぶん。
顔を見合わす。
風が強い。
溶暗。
?Wコーヒー
あきら:人間は。
まこと:いないよ。
あきら:とっくの昔?
まこと:500年。
あきら:こないか。
まこと:こないの。
あきら:誰が食べるの。
まこと:さあ。
あきら:フェイクね。
まこと:偽の生活。
あきら:食べてみる。
まこと:そんな機能ないよ。
あきら:やってみなくちゃ。
まこと:そうね。
あきら:味分かる?
まこと:データなら。
あきら:やってみるか。
まこと:待ってみない。
あきら:待ってるなんて意味ないよ。
まこと:私たちみたい。
あきら:それが生活ね。
にやっと笑う。
あきら:始めよ。
と、素早く一口。
あきら:味薄いんじゃない。
まこと:そっかな。
あきら:何使ったの。
まこと:冷凍保存。
あきら:ああ、ご主人の。
まこと:おなかの一部。
あきら:年代物ね。
まこと:愛してたもの。
あきら:抱きしめられたい?
まこと:生きてれば。
と、ピックで刺したたこ焼きを一口。
まこと:あつい。
あきら:猫舌だから。
まこと:猫だもの。
あきら:違いない。
まこと:薄いね。
あきら:塩かけようか。
まこと:かけて。
塩かける。
あきら:ほら。
まこと:ほんと。
あきら:食べたいほどいとおしい。
まこと:食べてる。
あきら:あら。
まこと:何。
あきら:液体。
まこと:これ。
と、目に触る。
涙。
あきら:それって。
まこと:なんだろ。
あきら:涙。
まこと:これが。
電話が鳴る。
あきら:またよ。
まこと:25回。
あきら:つながらないよ。
まこと:うん。
あきら:まだ、待つ?
まこと:うん。
あきら:いつまで。
まこと:抱きしめられるまで。
あきら:そ。
とまた一口。
あきら:もっと塩かける?
まこと:うん。
あきら:おいしい?
まこと:わからない。
あきら:もっと?
まこと:もっと。
あきら:どれぐらい。
まこと:もっと。
塩をかけ続けるあきら。
じっと見つめるまこと。
電話は鳴り続ける。
正確に25回鳴って止まる。
ピックで突き刺したかじりかけの目の前にかざす。
まこと:もっと、かけて。この人に。
塩をかけ続けるあきら。
やがて塩の山ができるほどに。
うっとりとたこ焼きを見つめ続けるまこと。
悲しいような、愛しいような、微妙な表情。
風が強くふいている音。
暗くなっていって。
【 幕 】