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「僕らはみんな生きている」
                        
作 西岡 椿
 
★登場人物
 
竹内 空・・・                             
加藤 海・・・            
山田 歩・・・               
浅野先生・・・                       
島田先生・・・                  
竹内彩美・・・                           
高木和美・・・        
安西道子・・・     
西岡部長・・・     
舞監川村・・・
0・プロローグ・・
 
         音楽。
         人影がゆっくりと様々に交差しながら動いている。
         無声音で「僕らはみんな生きている」と、うめくように叫んでいる。
         ぼんやり明るくなる。
         舞台、下手奥にやや高い通路(時には、屋上、時には通路となる。)。続いて、降りる階段。
         通路の手前には、金属製の様々に組み合わされた棚がある。
         さらに、舞台前面に、様々に配置されたさいころがある。
         交差するように人々は、さいころをぬってスローモーションのごとく動く。いろいろな生活を背負って。
         あるものは、通勤の感じ、あるものは、遊びに行くかもしれない。一人で、あるいは連れ立って。あるいは楽しそうに、あるいは不         機嫌に。
         高い通路に、赤いベンチがありその上に空が立っている。
         空は、通り過ぎていく人々をみている。
 
空  :屋上のベンチから見ると、なにもかも不思議に遠くて、近い。出入り口のドアを閉めると、ここは私だけの開かれた密室になる。街中を見渡   すことができ、街中の音を聞くことができる。それは、どこへも行けないからだ。私は、屋上が好きだ。なぜなら、どこへも行けそうだから。ど   こでもありそうで、どこでもない場所だから。何の役にも立ちそうにない場所だから。私はここが好きだ。見回すと、私の住む街が見える。たぶ   んあそこでは生活というものが繰り広げられているらしい。私は、それを見てなんだか無性にむかつく。どこにも行きたいところがないからだ。   だから、私はたぶん今日もどこへも行かないだろうと思う。
 
         人々は、なおもゆっくりと通り過ぎてはやってくる。
         突然、携帯が鳴る。
 
空  :もしもし、はい、はいそうです。あ、メッセージ聞いてくれたんだ。うん。今から?うん、時間あるけど。うん。分かったじゃあ、何処で待   ち合わせする?うん、分かった大丈夫だって、ちゃんと行くから。噴水のところね、どんな格好してるの?うん、スーツ。分かった、それじゃ、   後でね。
 
         携帯を切る。
         化粧品を取り出す。
 
  :(口紅を塗りながら)サラリーマン・・・・か。(塗り終えて)行こっか。
 
         人々も通らなくなった。
         空は、上手を向けられた階段を下りようとして、一度、振り返り空を見上げ、出入り口のドア(があると想定して)を丁寧に閉める。
         階段を下りて、そのまま去る。
         溶暗。    
        
1.登校
 
         「新しい朝がきた・・」とけたたましい音楽。
         ぱっと明るくなる。
         登校風景。
         校門の形に並べられたさいころが関所のように立っている。
         音楽とともに、ウサギ飛びでやってくる島田。
         その後を、チェック用の下敷きを持ち、むちを振り振り浅野がやってくる。
         見方によれば、調教しているようにも見える。
 
浅野 :いいですか、島田先生。先生は、少し甘すぎていらっしゃるから。文化祭目前、生徒はうきうき、教師はばたばた。指導が行き届きません。ここらで、きつーい一発かましとかないと、やれ打ち上げだ、やれ合コンだって、めちゃくちゃしますからね。島田先生!
島田 :はいー?
 
         島田、なんだかわけわからない体操らしきものを始めていた。
 
浅野 :何です、それは。
島田 :浅野先生。ほら。
 
         と、大きく深呼吸。
 
浅野 :は?
島田 :気持ちいいですよー。はい。大きく、すってー。はい、はいてー。
 
         と、つらされて、浅野も深呼吸。
 
島田 :いやー、さわやかっすねえーっ。きもちいいっすねーっ。黄金の秋、食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋かー。いやあ、結構、結構。
 
         と、なんだかわからない。
        
浅野 :とんでもない、秋は読書の秋、勉学の勉学の秋です。これからでしょ。追い込みは。
島田 :はっはっは。まあ、そんなふうに言う人もおりますがね。まー、それより、若者は未来を語らねば。
浅野 :島田先生。
島田 :は。
浅野 :先生は、さぞかし、学生時代をエンジョイされたほうなんでしようね。
島田 :いやー、まあー。ねっ。
浅野 :先生。先生の時代と、もう時代が違いますのよ。遊んで暮らせるような甘い考えは捨てませんとね。今は、とにかく勝つ!
 
         と、びしっと鞭がふられる。
         びくっと飛び上がる島田。
 
浅野 :勝たねば生徒には未来もクソもございません。今日一日を気合いを入れて、汗を流す。継続は力なり。おわかりでしょう。
島田 :はあ。
浅野 :一日の計は朝にあり。しゃんとして下さいよ、先生も。
 
         と、意地悪く見る。
         あわてて、服のだらしないところを直す島田。
 
浅野 :明日のために、その一。服装の乱れは心の乱れ。心の乱れは成績の乱れ。成績の乱れは未来の乱れ、未来の乱れは・・
島田 :ぼつぼつですね。
 
         キーンコンーンカーンコーン。登校のチャイム。
         腰を折られた浅野はむっとするが。
 
浅野 :さあ、いよいよ、戦争。敵さん、おいでなすったよ。
 
         なぜか軍艦マーチ。
         いさましく、登校してくる生徒たち。
         門検の日なのできちんとした身なり。しかし生徒指導部の目はごまかせない。
         島田はさりげなく逃がそうと頑張るが、浅野に跳ね退けられる。
         海の後ろに隠れて登校する歩が捕まる。
 
浅野 :ちょっと、貴方。ハーイ、ストップ。
歩  :何よ・・・。
浅野 :何、その服装は。
 
         主任はやばいといった表情。
         生徒指導をしている間に和美が逃げようとするが失敗。捕まる。
         目があったのでとりあえず挨拶。
 
和美 :お早うございますぅ。
浅野 :今日はえらくオシャレな格好ね。ねぇ、先生。
主任 :え!?はい、そうですねぇ・・・・・。(笑ってごまかす)
 
         浅野、島田をにらむ。
         島田、困る。
 
浅野 :あなた、靴下は?(ルーズソックスを伸ばす)
和美 :洗濯したら伸びちゃったんですぅ。
浅野 :スカートも洗濯したの、縮んでるわよ。
和美 :分かりません。
浅野 :爪は?
和美 :地爪です。
浅野 :ほーお?
和美 :はさんじゃったんですよ、痛いなぁ。
浅野 :髪の毛は?
和美 :地毛ですぅ。
 
         和美はとうとう逃げられなくなってしまった。
 
浅野 :ホームは?
和美 :ひよこ組。
浅野 :名前は。
和美 :マライア・キャリー・・・・・。
 
         浅野、むちをぱしぱしとならす。
 
和美 :3−3、吉永小百合・・・・・。
 
         浅野、むちを気合いを入れてぱしぱししておいて。
 
浅野 :ふーーーーーーーん。
和美 :3−3高木和美です・・・・。
浅野 :後で生徒指導室にきなさい。
和美 :はい・・・・。
 
         和美は教師にあっかんべー。
         そして出て行きざまに主任に八つ当り。
         じろりと見送って。
 
浅野 :先生。
島田 :はい?
浅野 :どういう指導をしてるんですか。ちょっと生徒に甘いんじゃないですか?
島田 :生徒には自由な発想で居て欲しいかと・・・・・。
浅野 :自由な発想ねえ。
 
         と、またむちをぱしぱし。
         島田、ちょっと、引きつって。
 
島田 :いやだなあ、先生。みてませんでした金八先生?
 
         そこで少し物まね。下手だ。
 
浅野 :島田先生!
 
         ぴしっとむちがなる。
         しゅんとなる、島田。
 
島田 :はい。
 
         にっこり笑った、浅野。
 
浅野 :あとで。
二人 :生徒指導室にきなさい。
 
         二人、ふっふっふとにらみ合った瞬間。
 
浅野 :スカートっ!
 
         ばっと、振り向きざま、この間、集団でこそこそっとすり抜けようとした道子をすかさず押さえる。
         ばっと、むちがスカートに当てられていた。
 
浅野 :みじかいっ!
道子 :はいっ。
 
         と、思わず敬礼して、直す。
 
浅野 :よろしいっ。
道子 :失礼しまっす!
 
         と、敬礼して、走り去る。
         押さえる島田も押さえられる生徒も呼吸が見事だ。
         その生徒を見送って。
         軍艦マーチが高鳴る。
         校門をぴたぴたっとたたきながら。
 
浅野 :ああ、今日も一日すがすがしいわ。授業よ。行きましょ。
 
         と、むちを一振り。颯爽と去る。
 
島田 :そうですかあ。
 
         と、こちらはだるそうに去る。
 
2.授業
 
         キーンコーン、カーンコーンのチャイムの音とともに空が朗読を始める。
         生徒たちが入ってきて、さいころを授業の形になおして、着席。
     
空  :I was born。確か 英語を習い始めて間もない頃だ。或る夏の宵。父と一緒に寺の境内を歩いてゆくと 青い夕靄の奥から浮き出   るように 白い女がこちらへやってくる。物憂げに ゆっくりと。女は身重らしかった。父に気兼ねをしながらも僕は女の腹から眼を離さなかっ   た。頭を下にした胎児の 柔軟なうごめきを 腹のあたりに連想し それがやがて 世に生まれ出ることの不思議に打たれていた。女はゆき過ぎ   た。少年の思いは飛躍しやすい。その時 僕は<生まれる>ということが まさしく<受身>である訳を ふと諒解した。僕は興奮して父に話し   かけた。――やっぱりI was bornなんだね――父は怪訝そうに僕の顔をのぞきこんだ。僕は繰り返した。――I was bornさ。受身形だよ。正しく   言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね――
 
         国語の時間。
         空と海は真面目。歩は隠れて雑誌を読み、和美は化粧をする。道子は手紙を書く。
         その間に、机間巡視しながら、しばいたり、耳引っ張ったり、こづいたりする。
         ノートは、とか、教科書。とか小声で言いながら、チェックしている。
         たとえば。
 
浅野 :起きなさい。
 
         風は起きないがそのままにしておく。
         道子の手紙を取り上げる。
 
浅野 :何ならここで読もうか?
道子 :いいです。
 
         和美は鏡を教師の顔が写った時点でやばいと感じるが遅かった。
 
浅野 :はい、没収ーっ。
 
         教師、和美からファンデーションを取り上げる。
         戻ろうとするが風が起きていないので叩く。
         前に戻る。
         歩がまだ雑誌を読んでいるのに気付いて。
 
浅野 :(そばに寄っていく)いい加減にしなさい。
 
         教師は取り上げる。
         以上のようなことが、はたと空の声が止まるまで続けられる。
         回りながら、気にもとめず。
 
浅野 :その時 どんな驚きで 父は息子の言葉を聞いたか。はい、つづけて。
 
         と、促す。暗唱しているらしい。さすがだ。
         空は、止まっている。
         気づいて。
 
浅野 :どうしたの。読んで。
空  :受け身なんですね。
浅野 :え?・・ああ、生まれるっていうことは、選べないからね。作者はそういっているようね。続けて。
空  :いいえ。生まれるだけでなく、生きてることです。
浅野 :は?
 
         と、初めて、ちょっと様子が違うことに気づく。
 
浅野 :竹内さん、それ質問?
空  :はい。先生は生かされていますか。
浅野 :なに馬鹿なこと言ってるの。
空  :馬鹿ですか。
浅野 :詩の話でしょう。関係ないこと聞かないの。
空  :私は、いきてることを聞きたいんです。
浅野 :わからないの。ぴんぴんしてるじゃない。どっからどこまでも、生きのいい浅野あつ子。人生謳歌してるわ。能動的で、アグレッシブで、ホジティブよ。なんていい女。どう、これでいいわけ。
空  :そうじゃなくて。
浅野 :なにを言いたいわけ。
 
         いらついていた道子。
 
道子 :先進めて下さい。
浅野 :という、人民の声ね。悪いけど、時間ないから、後は自分で考えて。じゃ、さきいきましょ。続き、加藤さん読んで。
海  :その時 どんな驚きで 父は息子の言葉を聞いたか。僕の表情が単に無邪気として父の眼にうつり得たか。それを察するには 僕はまだ余り   に幼かった。僕にとってこの事は文法上の単純な発見に過ぎなかったのだから。
 
         途中で携帯の呼び出し音。
 
浅野 :誰、携帯なんて鳴らしてるのは!!
 
         携帯をもっている人はちょっとビックリ。おどおどする。
 
浅野 :誰のなの!!
空  :私です。
浅野 :え。
 
         と、少し驚いたが。
 
浅野 :預かるわ。出して。
 
         と、周りからも鳴り出す。
     
浅野 :なに、これ。
 
         口々に、私です。私です。
         浅野、切れる。
 
浅野 :もー、このクラスは、なに。授業妨害よ。全員、没収!ペナルティ、大掃除!
 
         ばしっと、暗転。
         明るくなると、みな、「私はケイタイを持っていた悪い子です。」という札をぶら下げている。
         大掃除しながら場面の転換。
 
3.放課後・・文化祭一週間前・・金曜
 
         転換と同時に。放送が入る。
 
放送 :文化祭まであと7日です。各クラス・クラブは準備を急いで下さい。続いて警告します。執行部のノコギリとトンカチを無断でぱくって行っ   たクラブはすぐ返して下さい。さもないと、見つけ次第、来年度の部費をゼロにします。警告します。執行部のノコギリと・・
 
         後ろの棚に、「結構やばいぞあと7日」というビラが貼られている。
         結構、がやがやした雰囲気。
         文化祭の準備。周りでがちゃがちゃ準備している。
         いすや机もって出たり入ったり。あるいは、布を持ってくるもの。
         大工仕事をするもの等々。
         歩が海と少し困った顔で出てくる。
 
歩  :だからさっきから言ってるでしょう、あれは従兄弟だって。
海  :歩、あんた従兄弟と腕組んで歩くの?
歩  :だから、それは・・・・・。
海  :誰なのよ、あんな時間に一緒に歩くなんて。
風  :え、だから、まあね。(勘違いさせにかかる)
海  :あ、そうか。恋人だ。そうでしょう。
 
         べーと、逃げる歩。海はおいかけっこ。
         そこへ空が入ってくる。
 
空  :遊んでるひまないよ。もう、みんな、逃げちゃうんだから。
歩  :空、今日は何するの?
空  :なにするじゃないの。歩、どこさぼってたの。
歩  :へっへっへ。ちょっと。
空  :あと3日だよ。3日。看板仕上ないとやばいじゃないの。ほら、海も遊んでないで。
海  :大事な秘密捜査なのであります。
空  :なに?
海  :はっ。某、前田歩なる高校生が不届きにも昨夜、恋人とおぼしき男性と公園通りを手をつないで歩いてたというけしからん情報が入りまして。
空  :えー、本当。
歩  :あは、まあねー。
空  :このこの・・って言ってるひまないんだよね。看板は。
歩  :そうだった。たわけている暇ないんだ。海、反省のポーズ!
海  :反省。
 
         と、軽くポーズして。
 
海  :って、おい。歩よ、歩。犯人は。
歩  :私知らない。
 
         と、ぶりっこ。
         あきれて。
 
空  :やるのやらないの。ほんとに日がないよ。
海  :悪かった。
空  :今日中に仕上げよう。
海  :歩、ペンキは?
歩  :ない。
海  :ないって、どうするのよ。
空  :買ってくれば。(歩に)看板取ってこよ。
海  :お金は。
歩  :先生。あ、ほら。
 
         島田がせかせか通る。
         空と歩は袖に引っ込む。
 
海  :先生。お金下さい。
島田 :え、小遣いか。おじさんお金いまないぞ。
海  :先生。オヤジギャグおもしろくない。
島田 :そうかあ。おもしろくないかあ。うーん、修行がたらんなあ。経験値もたまってない。
海  :先生。
島田 :何だ。
海  :ペンキないんですよ。
島田 :ペンキか。
 
         空と歩が看板を持って入ってくる。
 
海  :あれです。お化け屋敷の看板。
 
         お化け屋敷の出来損ない。
 
島田 :下手だなあ。
海  :ほっといて下さい。それよりお金。クラス費あるでしょう。
島田 :あるけど・・、そうだ、去年のあまりがあったぞ。確か倉庫に。あれ使おう。
海  :えーっ、去年の?
空  :腐ってません?
島田 :大丈夫、大丈夫。生きのいいやつだったから。かいたてのほやほや。行こう。
海  :え、私。
 
         海はぶつぶつ言いながら、島田と出ていく。
         塗る用意をしていた空たち。
 
空  :いかなくていいのかな?
歩  :いいの、いいの。
 
         歩のポケベルが鳴る。
         ちょっとビックリする歩。
 
歩  :空、私トイレ行って来る。
空  :分かった。
 
         歩は出ていく。
         刷毛を探して、バケツを持ってくる。
         新聞を敷いた。
         そこへ戻ってくる海。
         手に持てるだけのペンキの缶をもってきた。
 
海  :ちょーっと、誰か手伝ってよー。
空  :はいはい。
海  :あー、そこ取ったら崩れるよ。
 
         空は下の一つを取ると崩れた。
 
海  :ほら、言わんこっちゃない。
 
         島田がやってくる。
         さらに、ものすごいペンキの缶。
 
島田 :おまえら、みとらんで手伝え。
空  :はいはい。
 
         と、いいながら、取りに行こうとして、足下のペンキ缶につまずく。お約束。
 
空  :うわーっ。
島田 :うおーっ。
 
         ドンからがっしゃんとものの見事にペンキが崩壊する。
         暗転。  
         校内放送。
 
放送 :文化祭まであと7日です。各クラス・クラブは準備を急いで下さい。なお、執行部の倉庫を破ってペンキをかっぱらっていったクラブは直ち   に、返還して下さい。さもないと、君たちのクラブに明日は明日はありません。警告します、執行部のペンキをかっぱらったクラブは・・
 
4.家庭  土曜
        
         音楽。
         溶明。
         食事中の空と母親。
 
空  :母さん、月曜日に三者面談があるから。
彩美 :そう。
空  :進路面談よ。プリント、棚においてるから。
彩美 :分かった。
 
         沈黙
 
空  :聖林女子大に決めたから。
彩美 :聖林女子?それって私立じゃないの。
空  :う、うん。
彩美 :うちにはそんな所にいかせるお金、ないわよ。あの人、養育費だってまともに入れないんだから。大学なんて。
空  :奨学金があるじゃない。
彩美 :誰が返済するのよ。
空  :私に決まってるでしょう。だから・・・・。
 
         母親はテレビのスイッチを入れた。
 
空  :あそこの心理学有名だし、ちょっと遠いけど家からだって通えない事ないし・・・・。
 
         母親、聞き流しているようだ。 
         空、なおも話し続ける。
 
空  :それにね、この間の模試だっていい結果だったし・・・・。
 
         そこへ電話がかかる。
 
彩美 :はい、竹内ですが・・・・あ、はい。はい、分かりました。それじゃあ、明日はお休みということで。はい。はい、失礼します。
空  :仕事?
彩美 :そうよ。
空  :何だったの?
彩美 :あしたは、休んでくれって。
空  :そうなんだ・・・・。
彩美 :あーあ、パートはこれだからね。あの人さえしかりしてりゃこんなことには。
 
         空は茶碗を置いて。
 
空  :ごちそうさま。
 
         空、茶碗を持って出ていく。
         そして急須を持って出てきた。
 
空  :いる、でしょ?
彩美 :気が利くね。
 
         空は湯飲みを渡す。
 
彩美 :有難う。
 
         空は一口飲んだ。
         するとひどい吐き気に襲われる。
 
彩美 :空?
 
         空は黙って出ていく。
 
彩美 :どうしたの?大丈夫なの?
 
         水の流れる音。
 
空  :(袖から)だ、大丈夫だから。私、部屋にいってる。
彩美 :そう。
 
         母親、少し心配そうにしている。
         しかし、テーブルを片付けて出ていく。
 
5.それぞれの風景・・土曜〜日曜
 
         一人考えている空。
         やがて思い出したように、ケイタイを取り出す。
         かけようとして、ピポパポとするが、やめる。
         迷っているが、思い切ったようにかける。
         海が出た。
 
海  :はい、もしもし。
空  :あ、私。空だけど。
海  :どうしたの。
空  :うん。
 
         間。
 
海  :空?・・もしもし。
空  :ねえ、今さ、海、なんかつらいことある?
海  :え?つらいこと・・・。受験のこととか・・かな。どうしたの、空。変よ。
空  :ま、いろいろとね。
海  :いろいろって・・どうしたのよ、変だよ。なんか悩んでるの?
空  :まあ、・・いろいろ・・ね。
海  :空、言ってみなよ。
空  :文化祭の準備進んでる?
海  :話、そらさないでよ。
空  :いいよ。私なんか変だね。それじゃあね。
海  :空、空・・、まったくもう。
 
         落ち込む空。
         スイッチを入れる。
        「目を開けて最初に君をみたい」が流れてくる。
         じっと、うつむきこんで何かを考えている。
         吐き気を覚える空。トイレに駆け込む空。トイレから戻ってくる空。
         何かをみている。
         空は、じっと、凝固したように膝を抱えて、一点を見つめ続ける。
         曲が消えていく。
         溶暗。
         ピンポンパンポーンと放送が入る。
 
6.進路面談・・月曜
 
放送 :本日、午後1時30分より3年生の三者面談を行います。3年生は時間になりましたら、各面談場所に移動して下さい。なお、本日の校舎内   でのクラブ活動は禁止をします。もし、やっているところを見つけたら、一週間の停部処分となります。気をつけてください。各クラブの部長さ   んは、文化祭の打ち合わせがありますので、1時30分になりましたら、生徒会室に必ず集合して下さい。各クラブは・・・
 
         空の面談が始まっている。
 
島田 :竹内は、どこを希望してたかな?
空  :聖林女子の心理学部です。
島田 :そうか。
 
         母親は空をにらむ。
 
島田 :で、心理学部にいって何がしたいんだ?
 
        
 
空  :居場所。
島田 :え?
空  :見つけたいんです。居場所があるのを。
彩美 :なに、それ。
空  :みんなどこいったかいいかわからないじゃないですか。あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。今の学校って、いいえ、いまの社会なんて私   たちの居場所なんてろくにないんです。
島田 :居場所か。
空  :探せば、みんなも助かるかもしれない。
母親 :他人を助ける前に自分の家の家計を助けることを考えたらどうなの。
 
         困ってしまう主任。
         主任は模試の結果を出し、母親に見せる。
 
島田 :これがこの間の模試の結果なんですが・・・・・。
空  :ほらね。
 
         少し良い成績でちょっと自慢気な空。
 
彩美 :いれるんですか、聖林女子。
島田 :え?いや・・・それは、まぁ本人の努力次第ですけど・・。あはははは。
母親 :空、今から頑張ったって仕方ないわよ。それなら近所の国立大に行きなさい。先生あそこなら確実でしょ。
島田 :えぇ、あそこならランクも一つ下ですし、たぶん・・・・。
彩美 :ほら、国立ならそんなにお金だって要らないし。
空  :奨学金があるじゃない。それを使えば、ねぇ、先生。
島田 :え?そうですねえ。お母さん。経済的にも心配ありませんよ。
彩美 :奨学金だって結局いつか返さないといけないのよ。
島田 :そうだ、竹内、返さなきゃいけないんだ。
空  :私がかえすわよ。
島田 :返すそうです。お母さん。
彩美 :とにかく。国立大にしなさい。
島田 :国立大にした方がいいよ。
二人 :先生!
島田 :はい。
 
         しゅんとなって、間。
 
彩美 :先生はうちの経済状況をご存じないんですか?うちは母子家庭で私立にいかせるお金なんて逆立ちしたって出てこないんですよ。
主任 :まぁ、経済的事情もいろいろとおありでしょうが、竹内の才能をここで潰してしまうのはもったいないなと・・・・。
彩美 :この子にどんな才能があるというんですか。
主任 :え?
 
         主任、ピンチになる。
 
彩美 :先生、私は空のことを思ってランクを下げて国立にしろと言ってるんです。母親のやさしさなんです。分かって下さいますよね。
島田 :え?あ・・・・・・・。
空  :先生。
彩美 :じゃあ、先生からもいって下さいよ、国立にしなさいって。
空  :先生。
 
         空は主任を見る。
 
島田 :え?あの・・・・・・・。
彩美 :先生、はっきり言ってください!!!
空  :私の将来ですよ!
彩美 :先生!
 
        母親机を叩く。
 
島田 :ことが心理学だけに。
二人 :心理学だけに。
島田 :心のままに。
二人 :は?
島田 :おあとがよろしいようで。
二人 :よくないわ!!
 
         暗転。
 
歩  :先生、おそーい。
 
         ぼーっと、一方で明るくなると歩がいる。
 
島田 :イヤー、悪い悪い。ちょっと、あったもんで。
 
         島田が、歩いていって座る。
         歩の面接。
         母親はいない。
 
島田 :で、おまえは就職希望だったよな。
歩  :そうよ。
島田 :でも、どんな仕事したいんだ。
歩  :わかんない。
島田 :おいおい。
歩  :だって、どんな仕事でも短大卒が最低のところ多いし、高卒ってのはねえ。
島田 :うーん。
歩  :仕事ないんだもん。
島田 :どうする?就職浪人か?
歩  :えー、ださーい、その言い方。フリーターにしてよ、せめて。
島田 :はいはい。で、どうする。
歩  :先生、養ってくれる?生徒のよしみでさ?
 
         歩、スカートちらり。
 
歩  :ね、センセ。
島田 :あ、いや、その・・。
歩  :なんて、うっそピョーン。
島田 :歩ィ!おまえってやつは!
歩  :まあまあ、そんなに怒ると浅野みたくなるよっ!
島田 :ギクッ。
歩  :まあ、学校なんかに期待してないから。安心して。どうせ、しょうもない求人しか来ないでしょ。
島田 :うーん。
歩  :どうせさ、自分のやりたいことじゃなきゃ、すぐやめちゃうし。
島田 :それはまずいんじゃないか。
歩  :仕事に生きるなんてダサーイ。
島田 :そうか?
歩  :ダサイ。
島田 :ダサイか・・うーん。。
歩  :ま、テキトーでいいから。
島田 :うーーん。
歩  :親はそれでいいって言ってるしさ、それでいいの。
島田 :うーーーん。
歩  :出なきゃ子供簡単に一人暮らしさせたりする?
島田 :うーーーーん。
歩  :ま、センセ、そんなに困らないでよ。あせったって人生なるようにしかならないんだから。
島田 :うーーーーーーん。
歩  :ね、人生もっと気楽に楽しくね。
 
         「WAになっておどろう」が流れる。
         生徒達乱入して、踊り出す。
        
島田 :な、なんだ!
歩  :踊ってくらそう。人生一度きりなんだよ。一度きり、やり直しはきかないんだから。
島田 :歩!
歩  :人生にリセットボタンはないのよ。はい!
 
         つられて島田も思わずダンス。
         楽しく盛り上がる一同。
         がらっと、ドアを開けて浅野がくる。
 
浅野 :何じゃこりゃー!
 
         ストップモーション。暗転。
         転換の音楽。
         溶明。
         「わたしは踊り狂っていた悪い子です」という札をみんなぶら下げて、場面転換をしている。
         もちろん島田も。
         終われば、文化祭三日前。
 
6.放課後U・・文化祭三日前・・火曜
 
        放送が入る。
 
放送 :文化祭まであと3日です。各クラス・クラブは準備を急いで下さい。警告します。執行部のノコギリとトンカチを無断でぱくって行った演劇   部は直ちに執行部まで出頭して下さい。さもないと、来年度の演劇部の部費はありません。繰り返し警告します。演劇部は直ちに執行部に出頭し   て下さい。
 
         「何とかしろよ、あと三日」のプラカードがかかっている。
         「げっげっげげげのげ」と、いう歌声とともに、やってくる、お化け屋敷の軍団。
         せこい、仮装。
         ふざけ廻っているところへ。
         海と、空が看板もって入ってくる。
 
海  :もう、先生。なにやってんですか。
島田 :え、なにって。盛り上げてんだよ。
 
         と、先頭のやつが仮装を脱ぐ。一番、張り切っていたやつだ。
 
海  :馬鹿やってないで、準備しないと。看板まだなんですよ。
島田 :まにあえば、いいよ。な。
 
         と、うなづく、化け物たち。
 
空  :歩、衣装、裏返しだよ。
歩  :あ、いけね。(脱ぎながら)・・ねえ、布まだあまりある?
空  :あったと思うけど、みてくる。
歩  :ごめん、お願い。あ、それと、コーヒーお願い。
 
         空は頷いて去る。
 
海  :ほらほら、早く。
 
         促されて、ちぇっ、もりさげるなあ。まじめだからねー。とか言いながら、片づける風たち。
         島田は、しっしっと言われて、名残惜しそうに去っていく。
         看板塗りに取りかかる。
         浅野が通っていく。
         じろっとみたが、皆黙々と作業を始めているのでなにも言わず去っていく。
         イーをして。
 
和美 :浅野って態度でかいよね。
道子 :うん。
和美 :いっつもヒステリーなのよ。
空  :昨日・・お見合い失敗したらしいよ・・・。
歩  :まじ?
空  :13・・いや、14回目?
海  :15回目。
道子 :かわいそう・・。
和美 :しかたないよねー。あの顔で、あの性格。再悪ーー。
歩  :(物まね)スカート上げても、偏差値は上がらないわよ・・だもん。なんてたって。
海  :スカート上げても、偏差値下げるな!
 
         いい気になって盛り上がる風たち。
         気づかぬうちに、浅野がやってきて、ゴキブリのようにかさかさと偵察。
         さささっと、下手へ移り、身を隠し、また、さささっと上手の方へ移動して、聞き耳を立てる。
 
空  :くだらない・・・よね。
和美 :いえてる。
道子 :先生達って頭堅すぎるのよ。
空  :島田は別だけど。
歩  :あれは頭ないんじゃないのかな。
和美 :ノー天気じゃない。
歩  :年中お日様照ってるスポーツ馬鹿だもんね。
海  :それいっちゃおしまいよ。
和美 :ねえ、うちの校長って誰だっけ?
 
         一同沈黙。
 
歩  :テスト多いし、学年集会ながいし、公衆電話少ないし、もう最悪。
和美 :門検、きついよね。
歩  :ビンゴ!!言えてる、言えてる。
道子 :ビンゴってふるくない?
和美 :死語よ、死語。
歩  :ほっといて。
和美 :やっぱり、なんてったって浅野にゃかなわねえよなー。
歩  :年中失恋女!
和美 :ナイス!
 
         調子こいてる、二人の背後からばっと忍び寄り、二人の頭を抱えてヘッドロック。ふんっ!とココナッツ。
 
浅野 :天誅!
二人 :ぎゃーっ!
 
         蜘蛛の子を散らすように薄情にも逃げ去る奴ら。
 
歩  :卑怯ものーっ。
 
         と裏切られた悲痛な叫びとともに。
         暗転。
         明るくなると、二人の首に「私は教師の悪口を言う悪い生徒です」という看板を下げている。
         ぶーたれながら、看板をぬっている二人。海はいない。
 
浅野 :そうそう、まじめに塗ればすぐ終わる。
和美 :先生、ペンキ足りませんが。
浅野 :買ってくるのね。
和美 :お金は?
 
         と、期待するが。
 
二人 :島田先生。
 
         と、肯き。
 
和美 :はい、はい。
 
         と、和美は去る。
         浅野は見送り、歩がまじめにやっているのをみて、よしよしと肯き去る。
         すかさずあっかんべーと、お尻ペンペンをあびせる歩。
         くるっと、振り返ったので、奇妙な格好で停止する歩。
         にっこり笑う、浅野。にっこり会釈する歩。また、くるりと振り返り、去る浅野。汗を拭う歩。
         さりがけに、空が衣装を持って、入ってくるのとすれ違う。少し具合が悪そう。
         空は、会釈をしてすれ違う。
 
空  :はい、これ。
歩  :さんきゅー。
 
         と、受けとって。
 
歩  :あー、しんど。浅野のやつ、ひどいんだから。ほら、これ一人でさあ。
 
         と、話しかけて、気づく。
 
歩  :どうしたの空。具合でも悪い?
空  :なんで。
歩  :元気ないじゃん。
空  :そう?
 
         去ろうとしていた浅野は何か気になったのか、首傾げ、そのまま隠れてみている。
         浅野の目が光る。二人は気づかない。
         歩あたり見回して、少し声を落とす。
 
歩  :ねえ、今日行かない?
空  :今日?
歩  :そう。昨日さぁ、超お金持ってるおじさん捕まえたの。すっごいのよ5万、ポンと出してくれたの。変なこともしないし、一緒に喋っただけ、   しかも30分。でね、そのおじさんに明日は友達もって言ったらぜんぜんいいって。
空  :へぇ。いいじゃない。
歩  :だから、行こうよ。
空  :うーん、でも。
歩  :どうしたのよ。
 
         耳がダンボになりかけている浅野だが今ひとつ聞こえないらしい。
         海が入ってくるのに気づく浅野。
         聞き耳を立てていたのをみられて、あわてて、居住まいを正し、舌打ちをして、去る
         海が浅野を見つつ入ってくる。
 
歩  :どうしたの。
海  :いや、浅野がさ、盗聴してるようなかっこうしてたから。
歩  :盗聴!?
海  :あんたら、なんか変なこと話してたんじゃない。
歩  :(少し焦って)えー、なんにも。ねえ。
空  :え、ああ。うん。
海  :そう?
 
         と、少し怪しそう。
 
歩  :それより、看板、看板。
海  :いつになったら仕上がるの、これ。
歩  :世紀末ミステリーね。
海  :はいはい。その前にペンキ買いにブリコいこ。
歩  :チャリで?もてる?
海  :二台あれば平気、平気。正門で待ってて。
歩  :はいはい。
 
         空、ひどい吐き気を催す。
         空は慌てて走って行った。
 
海  :なに、あれ?
歩  :トイレじゃないの?なんか凄く具合悪そう。
海  :大丈夫かなぁ?
歩  :ちょっと、空。どうしたのよ。
海  :ペンキは?
歩  :頼むわ。
 
         歩もその後を追いかけていった。
         海は、肩そびやかして、去る。
 
島田 :みんな、やってるかーい。あれ?
 
         島田が仲間に入れてもらおうとやってくるが、誰もいない。
 
島田 :しょうがねえなあ、もう。まったく。あと三日だっつうのに。
 
         と、ぺんきをさっさっさっと塗るまねをしたりするがどうも物足りない。
         ひとりで、ちょっとなにかふざけてみるが、寂しい気持ちにおそわれる。
         しょうもない下手なギャグをかまして去る。
 
7.再会・・・水曜
 
         喫茶店にかかるような音楽。
         少し明かりが薄暗くなる。
         センターのいすに大きいトップサスがはいる。
         父と書いた仮面をかぶった男がやってきていすに座る。
         彩美がやってきて、あたりを探し、向こう側に座る。
         注文を取りにくるウェイトレス。
         コーヒーなどを注文して、間。
 
二人 :それで・・。
 
         と、言いかけて、先に、おまえからと譲り合う。
 
彩美 :話があるの。
夫  :それで。
彩美 :空のことだけど。
夫  :あいつがなんか。
彩美 :このごろなんか変なの。ぼーっとしてるし、話もしたがらないし。
夫  :年頃になったんだよ。
彩美 :それならいいんだけど、なんか具合悪そうだし、こそこそしてるし。
夫  :子供にゃ子供の世界があるだろ。ほっときゃいいじゃないか。
彩美 :時々いたづら電話みたいなのもかかるのよ。
夫  :間違い電話だろ。
彩美 :空によ。
夫  :今時よくあるさ。気になりゃNTTでイタ電防止してくれるよ。
彩美 :そんなこと言ってるんじゃないの。あなた、父親でしょ。
夫  :ああ、親権者じゃないけどな。
彩美 :あたりまえよ。あんなことしといて。おまけに養育料もろくに送ってこないじゃない。
夫  :生活楽じゃないんだ。
彩美 :空、聖林女子大受けるのよ。入学金なんかとても用意できゃしない。
夫  :ほう、なかなかできるんだ。
彩美 :あんたと違って、がんばりやさんだから。
夫  :どう俺はぐーたらだよ。
 
         間。
 
夫  :話それだけか。
 
         間。
 
夫  :なら俺帰るわ。
 
         と、立ち上がろうとしたところへぼそっと。
 
彩美 :・・別れたんでしょ。
夫  :え・・。
彩美 :調べてもらったの。
夫  :調べた?
 
         夫、憮然としている。
 
彩美 :ねえ、やり直せない。
夫  :何だって。
彩美 :あの女と別れたからいいじゃない。父親必要よ。それに、大学だって。
夫  :お金がいるわな。
彩美 :そんなつもりじゃ。
夫  :そんなつもりもどんなつもりもいいんだよ。彩美、おまえわかってないよ。
彩美 :なにが。
 
         小さい間。
         ため息ついて。
 
夫  :おまえとはおしまいなんだ。
彩美 :どうしても。
夫  :ああ。
彩美 :空のためにも。
夫  :だからこそ。
彩美 :だからこそ?なにそれ。
夫  :おまえにゃわからない。
彩美 :どうして?ねえ、どうして?
 
         間。
 
彩美 :わかったわよ。帰る。・・今月の養育費ちゃんと送ってよ。
夫  :ああ。
 
         彩美、立ち上がり。
 
彩美 :ここはあなたのおごりよ。
 
         去る。
 
夫  :珈琲、もういっぱい。
 
         かしこまりました。という声。        
 
9.幕間・・・木曜
 
         上手にトップサス。食卓に彩美が座っている。
         何かをためつすがめつ見ている。
         音楽が消える。
         空が入ってくる。
         なんだか怒っているようだ。
         彩美はあわてて持っていたものを隠す。
 
空  :ただいま。
彩美 :お帰り、遅かったね。
空  :文化祭せっぱ詰まってるから。
 
         間。
 
彩美 :どうしたの。突っ立って。
空  :お母さん、昨日お父さんと会ってたでしょう。
彩美 :え、なに言うの突然。
空  :友達が言ってた。駅前の喫茶店。夕方、6時頃。母さんいなかったよね。
 
         ちょっとあわてて。
 
彩美 :あれは、その。
空  :逢うのはいいけど、みっともないことやめてよね。
彩美 :みっともないこと?
空  :どうせ、私の進路でお金いるからとか何とか言ったんじゃないの。
 
         図星を指されて黙り込む。
 
空  :いやだからね私、そんなの。
彩美 :そんなのって。
空  :学資は奨学金とバイトで何とかするって言ってるでしょ。別れた夫宛にするなんて、お母さん情けなくないの。しかもいつもはあんなにぼろくそに言ってて。
彩美 :でもあれはあの女が悪いのよ。
空  :ええ、ええそうでしょう。でも、みっともないまねいやなの。私。物乞いみたいじゃないそんなの。
 
         ぴしゃとはねつけるような言葉。
         ひるむ彩美だが。
         かくしておいたものを取り出す。
         口調が少し変わる。
 
彩美 :ねえ、これ空の?
 
         はっとする空。
 
空  :え、あ、そう。そう。よかった、なくしたと思ってた。どこにあったの。
彩美 :階段の下。
 
         と、渡しながら。
 
彩美 :ずいぶん高そうね。いつ買ったの。
空  :え、こんなの安物よ。バーゲン、バーゲン。
彩美 :でも、それ、10万はするわよ。
空  :うそ、歩、大丸のバーゲンで買ったって。
彩美 :それ、歩さんの?
空  :そう、もらったの。いいでしょ。掘り出し物。
彩美 :そう、空。あんた、お母さんに嘘ついてるんじゃないよね。
空  :なにいってるの。むかつくなあ。
彩美 :それならいいけど、最近変な電話かかってくるでしょ。
空  :いたずらだよ。関係ない。
彩美 :でも、いつも男からじゃない。大人の。
空  :お母さん。なに言いたいわけ。
彩美 :なにって。
空  :変なこと言わないで。私、何にも関係ない。
 
         空は去る。
 
彩美 :待ちなさい、空、空!
 
         空はいなくなった。
 
彩美 :空、あんたは・・もう、なにを考えているの。母さん、わからない。
 
         呆然とする彩美。
         トルルーとかかる電話。
     
彩美 :はい、竹内です。・・もしもし、もしもし・・。
 
         ぷちっと切れる。
 
彩美 :まただわ・・。もしかして・・。
 
         予感におののく彩美の周りが暗くなる。
 
 
10.金曜・・明日は文化祭
 
         放送が入る。
 
放送 :執行部よりお知らせします。文化祭実行委員は至急生徒会室へ集合して下さい。警告します、無断で焼きそばの屋台を持っていったクラブは   至急返して下さい。中庭でバーベキューをやっているクラブは、火災の危険がありますので至急中止して下さい。やめない場合は、焼き肉を没収   いたします。警告します。かつてにつけで物品を購入し、執行部まで回した演劇部の部長は直ちに出頭して下さい。これ以上破廉恥な行為が続く   と、クラブを解散させます。警告します、演劇部の部長は直ちに・・・
 
         木材や運んたり看板を付け替えたりする生徒たち。
         ゆっくり溶明。
         にぎやかな放課後。
         佳境に入る準備。
         「絶体絶命、いよいよ明日だ」と大書されたポスターが貼ってある。
         海が厳しく催促している。
 
海  :これじゃあ、間に合わないよ。
和美 :わかってるわかってる。
海  :ほんとに。
 
         道子たちが看板を運んでくる。
 
海  :できた?
道子 :もうすぐ。あと、周りの装飾だけ。
和美 :こっちおいて。
 
         歩と空がお化けの衣装を持って入ってくる。
 
歩  :ほら、これ、見てみて。
海  :あー、なかなかいいじゃん。
 
         島田がかぶってやってくる。
 
島田 :はかどってるかー。
歩  :せんせー、じゃましないでー。
島田 :今日は、チェックだけだよーん。
海  :よーんじゃないですよ。先生。お金。
島田 :またかよ。
海  :ペンキもう一缶。いるんです。
島田 :はいはい。あ、おまえらちょっと。
 
         と、道子たちを呼ぶ。
 
和美 :えーっ、あたしたち。また、買い物。だるいなー。
 
         と、ぶーたれながらも、島田と去る。
 
海  :これで、ペンキはよし。空、会場の装飾は。段ボール間に合う。
空  :うん。三時頃だって。
歩  :あーあ、明日か。
空  :何とかなるだろ。
 
         と、作業にかかる。
 
歩  :ねえねえ、終わったら打ち上げやるでしょ。
空  :もちろん。
歩  :あたしいいところしってんだ。
海  :その話、乗った。
浅野 :私も乗りたいわね。
歩  :げっ。
 
         浅野がいつの間にかいた。
 
浅野 :どこで打ち上げやるって。
歩  :え、あ、もちろん前のたこ焼き屋です。
浅野 :ほー、たこ焼きや。ずいぶん健全だこと。
歩  :もちろんですー。ね。
海  :はい。煙も出さないし、色つき水も飲まないですー。
浅野 :どうだか。わかってるね。不埒なところで打ち上げすると停学よ。
二人 :はーい。
海  :不埒な所ってどこかしら。
歩  :怪しい所よ。
海  :怪しい所って。
歩  :うーん、イ・ケ・ナ・イ・ト・コ・ロッ。
海  :ほーっ、それは不埒千万ね。
海・歩:うんうん。
歩  :不埒だなー。
海  :不埒よー。
浅野 :ごほん。
 
         と、空咳をして。
 
浅野 :おちょくる気。
 
         二人ぶんぶんと顔を振り否定。
         空がだっと、かけ去る。
 
海  :空?
歩  :あたし見てくる。
 
         と、去った。
         見送っておいて。
 
浅野 :いいですか。終わりよければすべてよし。立つ鳥跡を濁さずよ。いいですね。
海  :はい。でも、まだ始まってません。なんせ準備が・・。
浅野 :そんなことはわかってます!とっととしなさい!
 
         と、捨てぜりふを行ってこれも去る。
 
海  :はいはい。ペンキの水でもくみますか。
 
         と、海はバケツを持って取りに行く。
         勢いよく水の流れる音がする。
         空が気分悪そう。
         歩が入ってくる。
 
歩  :空、あんた一体どうしたのよ。
 
         空何も答えない。
 
歩  :空、もしかして・・・妊娠してる?
空  :何言い出すの。
歩  :だって・・あんたのその具合の悪さって似てるんだもん。
空  :・・・。
歩  :そうなんでしょ?
 
        
         頷いて。
 
空  :多分・・・・。
歩  :どれぐらい前なの?
空  :えっと・・。
歩  :ちょっと、冗談でしょう?そんなに前なの?
空  :4・・・半年位・・・。
歩  :ちょっとそれってやばいよ。
空  :分かってるけど・・・・。
歩  :けどなんて言ってる場合じゃないでしょうが。今からいこう。
空  :どこに?
歩  :どこって、産婦人科にきまってるじゃない。
空  :ちょっと、待ってよ。そんなに急に・・・・。
歩  :急ったって、空が呑気にしてるからでしょ、早くしないと手遅れになるわよ。
空  :分かってるけど・・・・。
歩  :空、まさかあんた生むつもり?
空  :それは・・・。
歩  :どこのだれだかわからない男の子よ。堕しなさいよ。ね。
空  :でも・・。
 
         海が水を汲みにやってくる。
         しかし声がするので立ち止まる。
         思わずはっとして、バケツを取り落とす。
 
歩  :誰?
海  :ごめん。・・聞いちゃった。
歩  :海、聞いてたの?
海  :聞くつもりはなかったんだけどね。深刻そうだから、声掛け辛くて。
空  :海・・・。
歩  :海、今のこと・・・。
海  :あ、ああ。言わない、言わない。けど、大丈夫。
空  :うん。
海  :なんかしんじらんないなあ。空、まじめなのに。
歩  :まじめだったらしないって?
海  :そんなことじゃなくって。なんだかそらに似合わない。
歩  :あたしなら。
海  :うーむ。
歩  :なにそれ。ひっどーい。
 
         空、思わずまた吐きかける。
 
海  :冗談ともかく、このままじゃやばいよね。
歩  :カンパしてさ、病院つれてかなきゃ。
空  :やめてっ!
海  :どうして、そのままじゃ。どうにもならないよ。
空  :いいの。考えあるから。とにかく、文化祭終わるまで待って。
歩  :待つのはいいけど。大丈夫。
空  :大丈夫。せっかくの最後の文化祭だもの。思い出壊したくない。
 
         ため息、ついた海。
 
海  :思い出なんて言ってらんないとおもうけど、まあいいわ。協力しましょ。文化祭終わるまで。
空  :ありがと。
 
         と、言って行こうとする。
 
歩  :まだ、顔色悪いよ。
空  :でも、風君たち変に思うかもしれないから。
 
         向こうから風が海たちを呼んでする。
         長いトイレはやめましょーとかなんとかしょうもないこと。
 
海  :あいつー。
空  :いいの。
 
         と、去る。
         見送って。
 
歩  :ねえ。
海  :なに。
歩  :軽蔑する。
海  :なにを。
歩  :援交。
海  :どうして、あなたが選んだことでしょう。
歩  :冷たいね。
海  :うらやましいだけよ。
歩  :うらやましい。
 
         驚く歩。
         にこっと歩を見て。
 
海  :優等生はつらいのよ。
 
         と、去る。
 
歩  :いいきなもんね。ぱっぱっらぱーも辛いのよ。
 
         と、去る。
         影のように浅野がいた。
         ついていこうとして。
  
放送 :浅野先生、浅野先生、至急、事務室までご連絡下さい。幸福ローンよりお電話が入っています。
 
         浅野、ぎくっとして。
 
浅野 :ちっ。
 
         と、振り返り。
 
浅野  :よーし。確かに何かがある。見てらっしゃい。ふん!
 
         と、気合いを入れるポーズして。
         ずんずんと去っていく。
         夜になった。
         屋上へ歩いていく空。
         星が出ている。
         見回す空。
 
空  :生活かあ。
 
         一人一人、静かに歩いてきていすの上に立つ。
         シルエットっぽい。やがて一人一人が、ぽつぽつとペンライトをつける。小さいぼんやりした明かりがともる。
 
空  :お金いるんだよね。生活って。自分の望みかなえようって思うとお金がいるようにできてる。愛さえあればお金なんていう馬鹿は今頃いない   だろうけど。
 
         くすっと笑う。
 
空  :あそこの家もここの家も苦労してんだろうなあ。いろいろと。
 
         明かりが瞬く。
 
空  :でも、本当はお金いるからしてんじゃないけど。なぜだろうなあ。自分でもなんだかよくわからない。何にも変わらなかった。何か変わると   思ったけど。
 
         間。
 
空  :生活。生活。生活。
 
         と、明かりを指さしながら。
 
空  :続いて行くんだろうな。私がいなくなっても。・・でも、幸せだろうか。そこに居続けていいって言う気になるんだろうか。
 
         星を見上げる。
 
空  :星は、ずっと見ているわけだ。馬鹿な女の子と馬鹿な街を。それって、なかなか退屈なんじゃない?・・じゃもうひとつ、馬鹿なことを。
 
         携帯を取り出す。
         ぴぽぱぴぽ。
 
空  :もしもし、はい。私、空です。
 
         と、かけながら去っていく。
         人々は、ペンライトを消して去っていく。
         それとともに、ざわめき。
 
 
10・・文化祭・・土
 
         明るい音楽。
         お化け屋敷という看板を持ってきて掛ける島田と和美と道子。
         その間に放送が入る。
 
放送 :執行部よりお知らせします。まもなく文化祭を開会します。遅れているクラブやクラスは大至急準備して下さい。なお、執行部の再々の警告   を無視した演劇部の発表は、執行部の権限により中止を命じます。なお、演劇部の部長は執行部の説得を振り切り、校内より逃亡した模様。直ち   に、執行部により校内全域指名手配といたします。演劇部部長を発見した生徒は、直ちに、執行部室かもよりの生徒会役員まで通報して下さい。   繰り返します。演劇部の発表を停止いたします。また、演劇部部長は校内全域指名手配・・・
 
         放送の合間にかけ終わっている。
 
島田 :よーし、これでいいな。
道子  :あと、受付の飾り付けが。
島田 :それで終わりか。よし、とってこよう。
 
         とさりながら。
 
島田 :何とか間に合ったな。よかったよかった。
浅野 :よくはありません。
 
         と、浅野が入ってくる。
 
島田 :は?
浅野 :先生、大変なことが起こってるんですよ。
島田 :大変なこと?
 
         浅野は、島田を隅へ引っ張っていく。
 
浅野 :実は、私、昨日。ここで。
 
         と、ごにょ、ごにょ。
 
島田 :援助交際?!
浅野 :しーっ。
 
         と、ごにょごによ。
 
島田 :うそー。
浅野 :で、そうしたら・・。
 
 
         と、ごにょごによ。
         島田、うきーっ。とか、どしぇーっとかわけのわからん大げさな反応。
         当然、道子と和美も耳ダンボになって、しのびより聞く羽目に。
         二人声を出さずにショックを受ける。オーバーアクション。
     
浅野 :と、そういうわけです。
三人:空が!援助交際!
 
         三人、ガビーン!
 
浅野 :しかも。
三人 :妊娠!
 
         ガビーン!
         浅野が当然気づく。
 
浅野 :な、なに、あなたたち!
三人 :えっ!
島田 :おまえたち・・まさか。
和美  :はい、きいてしまいました。
島田 :オーマイガッ!和美。いいか、これは絶対秘密だぞ。
和美  :はいっ。
島田 :よっし、いけっ。
二人 :はいっ。
 
         と、行きかかるが。くるりと振り向いて。
 
三人 :違うって。
 
         と、三人真剣になる。
 
道子 :本当なんですか。
島田 :それは・・・。
浅野 :あってはいけないことだけど、どうやらね・・。
島田 :でも、竹内に限って・・。
道子 :空に限って・・。
浅野 :甘いわね・・。
 
         と、ちっちっと首を振る。
         島田たち、顔見合わせて。
 
浅野 :とにかく、大問題よ。我が校の名誉がけがされる。これがマスコミにばれたらどうなるか、考えただけでもぞっとする。
和美 :(かちんときた)そんなつまらないことより風自身のことが問題でしょう。
浅野 :つまらないこと。どこが。ことは、我が校の生徒全体の関わるのよ。世間の目てっのは恐ろしいんだから、一人でもそんなことやってるってニュースになってご覧なさい、生徒全体がやってるって見られるんだから。ねえ、先生。
島田 :はあ、確かにそういう傾向は・・。
道子 :ちょっと待ってください。やってるかやってないかまだわからないでしょう。空に確かめたわけ。
島田 :確かめたんですか。
浅野 :時間あるわけないでしょ。これからよ。
島田 :これからだって。
道子 :何だ、じゃ、単なる思い過ごしかデマかもしれないじゃないですか。ばかばかしい。
浅野 :ばかばかしい、なに言ってるの、こんなことはね。早く確かめなくちゃ。噂が噂を呼んで。
和美 :だから、噂しているのは先生で。
浅野 :何ですって、それじゃ私が悪いとでも。
島田 :確かに、浅野先生がおっしゃったわけで・・。
浅野 :島田先生!
 
         と、あれそうなところへ。
         ゲッゲッゲゲゲノゲとかぶりものなどをしてノー天気にやってくる海、空、歩。
 
歩  :どう、結構いい感じでしょう。
海  :準備できた。ああ、いい感じね、看板。
 
         と、言いかけたが、妙な雰囲気に気づく。
         間。
        
海  :ど、どうしたのみんな。固まったみたいになって。
        
         固まってるんだ。
 
海  :ねえ。
道子 :いや・・、実は。その・・。
歩  :なに、はっきり言って。
浅野 :竹内さん。
 
         のどに絡んだような切り口上の声。明らかに、詰問する調子。
 
空  :はい。何でしょうか。
 
         空、何となく質問の内容を感じ取ったようだ。
         海や、歩にも緊張感が走る。
         音楽が消える。
         静寂があった。張りつめた緊張感。
 
浅野 :いやな噂を耳にしたの。確かめたいわけ。
空  :はい。
浅野 :ここじゃ何だから、あちらへ。
 
         と、行こうとするが。
 
空  :ここでいいです。
浅野 :でも、みんないるのよ。
空  :ここでいいんです。
 
         浅野、周りを見回す。
         遊びの雰囲気はない周りの様子に。
         だれにともなく。
 
浅野 :いいのね。
空  :はい。
 
         周りの何人かも頷いた。
 
浅野 :じゃ聞くわ。
 
         深まる静寂。
         照明が落ちる。
         浅野と空にだけトップサス。
 
浅野 :あなたが援助交際してるって言ううわさを聞いたわ。本当?
 
         空は、一度目をつぶって、何かを考えた。
         そうして、ゆっくり一呼吸して答える。
 
空  :はい。
海  :空!
島田 :竹内。
 
         空は動じない。
         浅野も冷静に。
 
浅野 :妊娠しているとも聞いたわ。これも本当?
空  :はい。
 
         どよめく回り。
 
浅野 :静かに!・・認めるのね。
空  :はい。
浅野 :どうして、そんなことをしたの。
空  :は?
浅野 :どうしてそんなことをしたの?
 
         空は答えない。
 
浅野 :竹内さん、答えなさい。どうしてそんなことをしたの。
空  :理由がなくちゃいけませんか。
浅野 :当たり前よ。何だって理由があるわ。とくに、こんなことしでかすのに理由がないなんてことないじゃない。
空  :じゃ、お金のためです。
浅野 :じゃ・・てなに。真剣に答えなさい。
空  :私真剣です。
浅野 :誠実さのかけらもないわね。
空  :私真剣ですよ。理由を言えっていうから、真剣に考えてるんです。お金のためじゃいけないんですか。
浅野 :信じられない。あなたのような。
空  :私のようなってどういう意味ですか。
浅野 :まじめで勉強ができる人が。
空  :まじめで勉強できる人は援助交際してはいけないんですか。
浅野 :そんなこと言ってるんじゃありません。
空  :同じことです。私はまじめで勉強ができる人でも、不真面目で落ちこぼれている人でもありません。私は竹内空です。
浅野 :だから、あなたがなぜ。
空  :竹内空でいたいからです。
浅野 :わからないわ。どういうこと。
歩  :うざったいんじゃない。
 
         ぱっと明るくなる。
         ざわめきが戻る。
         かすかな明るい音楽。
 
浅野 :なに?なにが。
歩  :さあ。
浅野 :歩さん、あなたにも聞きたいことがあるの。
歩  :私なんにも知らないわよ。
浅野 :嘘。見かけた生徒がいるわ。案外あなたが主犯かもね。
歩  :主犯てなによ。
浅野 :空さんを引っ張り込んだんでしょう。
歩  :ふーん、そんな目でみてんだ。
浅野 :そう見られても仕方がないでしょう、あなたは今まで。
歩  :あーあ、そうくると思ったけど。
空  :歩は関係ないです。
浅野 :竹内さん、もっと詳しく聞きたいわ。あっちまできてくれる。先生。
 
         と、島田に声をかける。
         島田呆然としていたが。
 
島田 :あ、はい。竹内。
 
         と、つれていこうとした。
 
和美 :いくことないよ。
浅野 :何。
和美 :空が認めたからいいじゃない。
浅野 :認めたからいいって言うものじゃないわ。事情を聞かなければ。
和美 :だから、事情は言ったじゃない。竹内空でいたいって。
浅野 :それがわからないからきてもらうのよ。
和美 :はっ。
 
         と、鼻で笑う。
 
和美 :わからない。へー。はっきりしてるじゃない。竹内空は、竹内空でいたいっていってるじゃない。
浅野 :屁理屈こねるんじゃないの。とにかく、きてもらわないと。事情によって、退学処分もあるから・・。
歩  :わかんねえおばさんだなー。
浅野 :おばさん!!
歩  :こんな簡単なことわからなくなってるのはおばさんの証拠じゃない。
浅野 :どういうこと。
歩  :私は歩でいたいし、海は海でいたいし。
海  :空は空でいたい。
歩  :簡単なことじゃない。
二人 :ねーっ。
 
         浅野、意味が分からない。
 
浅野 :島田先生、この子たちなに言ってるかわかります。
島田 :はあ、ようは、この子たちは、この子たちでいたいと・・。
浅野 :島田先生、あなた馬鹿じゃありません。
島田 :はあ、面と向かって言われたのは初めてですが・・。
浅野 :もう!わからないことばっかりいって。
 
         と、いらだって。空をつれていこうとするが。
         歩たちが素早くかっさらう。
 
浅野 :あなた達、なにするの!
歩  :えー、文化祭ですよ。これから。
道子 :思いで作らないと。
海  :最後ですもの。
 
         へらへらしている感じにいらだって。
 
浅野 :悪ふざけはやめなさい!まじめにしなさいっ!
和美 :まじめだって。
歩  :まじめねえ。
浅野 :いつまでも、そんなへらへらしたことしてると竹内さんと同罪よ。
歩  :同罪だって。・・私主犯かなー。
 
         浅野、怒って踏み出そうとしたが。
 
歩  :でも、あたし達悪ふざけぐらいしかやることないですよ。
和美 :そうそう。
浅野 :なんだって。
歩  :だって、朝から晩まで補習補習。やれスカートが長いの短いの、髪が茶色いの黄色いの。いいんですけど別に。でも、おもしろくないんです   よねー。今の学校。
道子 :息詰まるって感じ。
海  :どんどんどんどんなんだか、行き場しょない感じで。
浅野 :あほなこと言ってないで、事情聴取にくるの!
空  :私言いたいこと全部言いました。
浅野 :なにが全部よ。
海  :だから、空は空です。
浅野 :だから、それがわからないって言ってるでしょうがーっ!!
 
         怒鳴る浅野。
 
歩  :じゃ、しょうがねえわ。
 
         ぺこんと空がお辞儀をする。
 
和美 :じゃそういうことで。
 
         空たちは下手へ逃げる。
 
浅野 :あっ、待って!
島田 :おい、先生を追いてくな!
浅野 :あほ!
島田 :すみません、つい。
浅野 :屋上よ。
島田 :追いかけますか。
浅野 :当たり前。あの子たちなにするかわかったもんじゃないわ。
島田 :警察には。
浅野 :島田先生!ここは学校です。教育のことは、学校が仕切ります!
島田 :かっこいい。
浅野 :いきますよ!
島田 :大団円ですね!
浅野 :おもしろがってんですか。あなたは。
島田 :はい、学園ドラマみたいですね。
浅野 :学園ドラマなんです!これは!
島田 :は?
 
         かけていく浅野。
 
島田 :あ、浅野先生!
 
         と、追いかけていく。
         音楽が軽快にかかる。
         引き割り幕が迫って棚が隠れる。
 
11.屋上の悪夢・・土
 
         上手から駆け込んでくる生徒たち。
         なぜか風が吹いていた。
         ばたばたと、イスを並べてバリケード。
         追いかけてくる、浅野と島田。
        
浅野 :馬鹿なまねはやめなさい。
道子 :あほな説教はやめて下さい。
島田 :道子。
歩  :私たちをほっといてくれませんか。
浅野 :ほっとけないからこうしているんじゃない。
歩  :(ため息ついて)それがいやなんだなあ。ねえ。
海  :うん。
浅野 :こんなことしていいと思ってるの。
海  :思ってません。
浅野 :じゃどうして。
海  :退屈ですから。
浅野 :退屈?なにが。
海  :別に。
浅野 :べつにっていうことはないでしょう。
海  :じゃいいです。
浅野 :じゃいいですって、あなた!
 
         空、急におなかを押さえて座り込む。
         流産しそうな感じ。
         浅野たち、焦る。
 
島田 :竹内、具合悪いんだろ。医者行こう。
空  :いいんです。
島田 :よくない。おまえ、そんなことしてると、ほんとに死んじゃうぞ。
空  :(笑って)かもしれませんね。
島田 :かもしれないって、なに考えてんだ。先生、ほんとに怒るぞ!
空  :はい。ごめんなさい。
 
         島田、いやな予感がする。
 
島田 :おまえ、まさか、くだらんこと考えてんじゃないだろうな。学校のことなんかどうでもいい。俺が何とかする。だから、いらんこと考えるな。降りてこい。
空  :(穏やかな顔)でも、先生。もうどこにも場所がありませんから。
島田 :なに言ってんだ。みろ。こんなに広い場所があるぞ。ほら、もっと広くしてやる。
 
         島田、狂気のように、そこらにあるイスをはねのける。
         冷ややかに笑う、歩たち。
 
島田 :場所なんか、いくらでも自分で作れるんだ。人生ガッツだよ。こんなに広い場所がいくらでも作れるんだ。竹内!
空  :(ちょっとの間)そうですね。
 
         と、一歩引く。
 
島田 :竹内!
浅野 :なぜ止めないの。
歩  :空の自由にさせてやりたいからでーす。
浅野 :自由でも何でもないわそんなもの、命が尊くないの。
歩  :尊いのは生きてることでしょうが。生きてないんだもの。
浅野 :こどもの命はどうなるの。
歩  :中絶するか、生まれてきたってどうせしようがないんでしょう
海  :そういう生活だもの今は。
島田 :命をおもちゃにするのか。
歩  :はい。
浅野 :なんて言うこと。
 
         ショックを受ける浅野。
 
歩  :こんなことです。
島田 :おまえたち、絶対逃げてるぞ。
歩  :はい逃げてます。ごめんなさい。
生徒達:ごめんなさーい。
島田 :あほーっ。ごめんですむなら警察はいらんわーっ。
 
         と、錯乱しかかっている。
         やりきれない思いで。
 
島田 :それでここがおまえたちの場所なのか。
 
         歩が笑って。
 
歩  :いいえ。
島田 :じゃ、どこだ。なぜ、居場所ぐらい自分で作らない。
海  :言ったでしょうさっき。加藤海でいたいだけなんです。
島田 :俺はおまえたちの言葉がわからない。
空  :わからなくてもいいじゃありませんか。
 
         照明がゆっくり少し落ちる。
         空と島田にトップサスが重なる。
         二人の周りがぼんやり明るい程度。
 
島田 :なぜだ。
空  :だって、私は竹内空。先生は島田先生。私は竹内空にしかなれなくて、先生は島田先生にしかなれません。
島田 :だからそれがわからない。
空  :無理につながらなくてもいいんです。みんな、無理につながろうとして、土足で踏み込んでくる。竹内空でいるためには逃げるしかないんで   す。
島田 :そんなの寂しくないか。竹内。
空  :でもそうするしかないんです。ごめんなさい。そうしてさようなら。先生。
浅野 :やめなさいっ!
空  :さようなら。
島田 :竹内!
生徒達:ばいばーい!
 
         生徒達ひらひらと手を振る。
         空が、一瞬飛び降りたように見えた。
         浅野たちの悲鳴が上がる。
 
島田 :おれは認めんぞ、絶対に認めん!竹内!居場所は自分で作るもんだ。そうだろ、竹内!居場所なんか、どこだって、こんなに広くつくれるじ   ゃないか。こうして、こうして、竹内、竹内ーっ!!(絶叫)・・・
 
         だんだんと暗くなっていく。
         そのとき。
 
部長 :はい、カット!
 
         と、台本持って部長が出てくる。
         ばっと演技がやまり、緊張がほぐれる。
 
部長 :みんなー、えいぜー。その調子。
歩  :わあ、部長、本当ですかー。
部長 :ほんと、ほんと。舞台監督さん時間どればあ。
舞監 :59分20秒です。
部長 :うっわ。きっつい。本番、テンポあげんと時間オーバーするで。
島田 :へいへい。
彩美 :あとの方、せりふ結構抜けたねえ。
部長 :それでもとめんとできたきまあえいろう。
道子 :四国ぬけれるろうか。
部長 :ほかがこけてくれたらいけらあね。はい、だめだしやるでえ。集まってえ。
 
         と、上手の方へ集まりながら。
 
島田 :けんど、空の脚本もディープやねえ。きっつい、きっつい。終わりなんかめちゃくちゃや。
海  :時間がないきしょうがないろう。ちょっとわかりにくいかもしれん。
和美 :学校からクレームくるかもね。
部長 :お芝居やき平気平気。
島田 :女の子はみんなああんなことやりゆうろうか。
部長 :あほ。みんなあやりよったらえらいことよ。
歩  :そうよ。あたしがやりゆういうて思う?
島田 :おう。まんまや。
歩  :ひっどーい。ねえ。
浅野 :ほんと。そんな目でみゆうがや。セクハラや、セクハラ。
 
         女の子たち、サイテー、と口々に蹴り入れたり非難の嵐。
         逃げまどう島田。
 
部長 :はいはい。明日から大会で。気合い入れていきよ。
一同 :おう。
部長 :ミーティング、集合!
 
         と、ミーティングがはじまったようだ。
         空が、一人離れてゆっくり屋上に上がる。
         音楽。
 
11エピローグ
 
         そっとおなかに手を当てる。
         そうして。
 
空  :台本を書きながら、屋上のベンチから街を見ると見ると、なにもかも不思議に遠くて、近い。出入り口のドアを閉めると、ここは私だけの開   かれた密室になる。街中を見渡すことができ、街中の音を聞くことができる。私は、屋上が好きだ。どこへも行けないからだ。私は、屋上が好き   だ。なぜなら、どこへも行けそうだから。どこでもありそうで、どこでもない場所だから。何の役にも立ちそうにない場所だから。私はここが好   きだ。見回すと、私の住む街が見える。たぶんあそこでは生活というものが一日中繰り広げられているだろう。私は、それを見てなんだか無性に   むかつく。どこにも行きたいところがないからだ。だから、私は・・・。
 
         携帯を取り出し、かけ始める。
         呼び出し音。
         いつの間にか、ミーティングをやっていた、生徒たちは、街の人々となり「生活」を背負いゆっくりと動いている。
         「僕らはみんな生きている」の無声音が十重二十重に重なり、その中に少女たちは埋もれていく。
         「空」の電話がつなった。
 
空  :もしもし、はい、はいそうです。あ、メッセージ聞いてくれたんだ。うん。今から?うん、時間あるけど。うん。分かったじゃあ、何処で待   ち合わせする?うん、分かった大丈夫だって、ちゃんと行くから。
 
         声が、街の中に消えていく。
         音楽。
      
                                                              【 幕 】


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