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「紅い薔薇咲く五月に」・・神林響の冒険第二章・・・薔薇迷宮編

                      作 結城 翼
第一回四国高等学校演劇祭上演台本

登場人物
神林響・・・・
茉莉・・・・・
カケル・・・・
ハリネズミ・・
ヤグモ・・・・
ムラサメ・・・
桔梗・・・・・


Ⅰプロローグ

宗教的な音楽。
全体が靄に包まれたような空間。
舞台中央に、少し高くなったエリア。その後ろに銀色の薔薇の花が咲いている格子がある。
エリア全面に白い布がしかれ、その上に紅い薔薇の花が散っている。
スローモーションのようにゆっくりとした動きで戯れる響と茉莉。おいかけっこのようでもある。
上手斜め奥から青い光の光条が格子を貫くように、薔薇と二人を照らしている。
舞台奥にやや高い通路がある。
通路中央に冷ややかに見つめる人影。薔薇を一本持っている。
下手斜め前方よりこれまた青い光条が持っている紅い薔薇を照らす。
やがて、エリアを照らしていた光はその明るさを失う。
とともに、二人は別れて去る。
奥の人影はそれを見届けると、薔薇を前方へ投げた。
暗転。同時に激しい、ダンダンというリズムを伴う音楽。緊迫感がある。

Ⅱ出発

音楽が消える。溶明。エリアのみに明かり。
エリアの布や格子は消えている。
イスが一個。
イスの上に薔薇が一本。
ヤグモがしゃきっとしたスーツを着て、口笛吹きながら入ってくる。手にはレポート。

ヤグモ:おっはよう。っていっても誰もいない。助手の独りもいないよろづ相談探偵事務所。世の中相変わらず不景気だよね。

と、愚痴こぼしながら、

ヤグモ:ま、ネズミたち相手じゃ仕方ないか。

と、イスに近寄り、薔薇に気づく。

ヤグモ:ん?

不審そうにしていたが、やがてレポートをいすにのせ、突然薔薇を取り上げ、口にくわえた。

ヤグモ:すきなんだけどー。

と、「星のフラメンコ」を歌いながらパパパンと手を打ったが。

ヤグモ:いってー。

と、口を押さえる。
どうやらバラのとげが刺さったらしい。アホだ。

ヤグモ:くっそー。

と、花びらをむしゃむしゃ食べる。ますますアホだ。

ヤグモ:えいっ。

と、食べた薔薇をゴミ箱へスローイン。(袖へ)

ヤグモ:ナイス、コントロール!

びしっと、指ならして得意そう。どうやらゴミ箱にうまく入ったらしい。口をさすりながら、イスに座る。
と小声で鼻歌歌いながらレポートを取り上げながらめくって。

ヤグモ:経過報告3。

レポートを読み始める。
  
ヤグモ:ご依頼の件ですが、まだ該当の場所は特定できておりません。当該場所が宮殿中枢部ということもあり、きわめて機密性が高く、かつまた警備体制が昨年の事件以来強化され、潜入捜査にはきわめて困難が伴います。また情報提供者が少なく、時間も経過しており、難航しております。依頼者におかれましては、今しばらくのご猶予を賜りたく・・。
ハリネズミ:やだね。

と、声がした。
振り返れば、ハリネズミ。

ハリネズミ:遅いんだよ、ヤグモ。
ヤグモ:ハリネズミ!
ハリネズミ:俺は水島だ。
ヤグモ:(無視して)でもね、なかなか調査進まないんですよ。これが。なんせ、15年も昔のことでしょ。
ハリネズミ:たった15年だ。
ヤグモ:千年女王の宮殿奥の話ですよ。
ハリネズミ:分かってる。俺がいたからな。
ヤグモ:ああ、そうでしたね。でも、あそこは迷路がいっぱいあるし。
ハリネズミ:確かに。
ヤグモ:薔薇迷宮だって誰も聞いたことないし。警備隊の連中だって、知らないし。
ハリネズミ:分かってる。
ヤグモ:なら、まってくださいよ、もう少し。
ハリネズミ:それがそうもいかなくて。
ヤグモ:どうして。
ハリネズミ:おい。

と、呼ぶ。

ヤグモ:あ、カケル。
カケル:ハイ。

と、入ってきた。

ヤグモ:なんだか大きくなったんじゃない。
カケル:ちょっとね。
ヤグモ:地上じゃ景気良さそうね。
カケル:まあね。
ヤグモ:でも、どうやってきたの。
ハリネズミ:通ってこれる窓はあれ一つじゃなかったって事だな。
ヤグモ:えっ。
カケル:地上とここをつなぐ窓は幾つもあるし、幾つだって作ることができる。
ヤグモ:うそ。・・でもそんなことしたら。
ハリネズミ:地上もここも大混乱だな。
ヤグモ:でも、どうしてそんなこと知ってるの。
カケル:ま、いろいろあって。
ヤグモ:ふーん。そう。・・でも、茉莉にはそれ言ったんでしょ。・・どうしたの。

ハリネズミとカケルが目配せをした。

ヤグモ:どうしたの。茉莉は?ハリネズミといつも一緒にいるのに。
ハリネズミ:俺は水島だと言うとろうが。
ヤグモ:わかってます。しつこいと嫌われますよ。
ハリネズミ:どっちがじゃ。
ヤグモ:茉莉は?
カケル:行方不明。
ヤグモ:え?
ハリネズミ:消えた。
ヤグモ:消えた?いつ、なぜ。
ハリネズミ:なぜかはわからん。消えたのは二日前。
ヤグモ:まさか、誘拐?
ハリネズミ:誰が?あんなタカビーで冷たいやつを好んで?身代金なんてこれっぽっちもないし、何のメリットがある。
ヤグモ:千年女王だから?
ハリネズミ:なり損ねだよ。
ヤグモ:他に心当たりは。
カケル:紅い薔薇の五月と。
ヤグモ:紅い薔薇?
カケル:ローテローザだね。
ヤグモ:カタカナで言わないで。薔薇は五月に咲くじゃない。何それ。第一カケル何でそんなこと知ってるの。
響  :そうよね。何でそんなこと知ってるの。

響が、いたずらっぽい瞳キラキラしてそこにいた。

ヤグモ:あっ、響ー。
響  :ヤグモーっ。
ヤグモ:響ー。
響  :ヤグモーっ。ってやってるわけにもいかないわ。
ヤグモ:あらら。
響  :茉莉が消えたって。そんな面白い話、どうして私に黙ってるの。
ヤグモ:だって今聞いたばかりだもの。
響  :ほー、ハリネズミの依頼受けて動いてたっていうのも初耳よね。
ヤグモ:たとえ友達でも依頼人の秘密は。
響  :そんなもの守らなくても良いわよ。どうせバレバレなんだから。
ヤグモ:おいおい。

あきれるヤグモ。

響  :それよりしばらくね。
カケル:半年ぶりかな。元気そうじゃない。
響  :まあね。また冒険家の血が騒いだの?
カケル:そういうとこ。
響  :家系ねー。
カケル:響もだろが。
響  :あたしは拾われっ子だからー。
カケル:よく言うよ。響も相変わらず絶好調みたいだね。
響  :もちろん、あたしはいつも絶好調よ。
ハリネズミ:どうだか。お前もなり損ねのくせに。
響  :あら、どうやらそこにいるのはつんつん頭だったハリネズミ。
ハリネズミ:おや、そこにいるのは生意気小娘の神林響さんじゃないかい。
響  :あらら、いつの間にかはげネズミっぽくなってるわね。
ハリネズミ:小娘!お前一遍まじに脳天かち割ったる。
響  :はげネズミが、かわいい小娘いたぶってるー。きゃー。
ハリネズミ:しばくっ!
響  :(ころっと)それより窓が自由に作れるって聞き捨てならないわね。
ハリネズミ:メモがあったんだ。
響  :メモって。
カケル:紅い薔薇咲く五月に。
響  :は?何、それ。もう一回。
ハリネズミ:紅い薔薇咲く五月に。
響  :どういう意味。
ハリネズミ:わからん。だが茉莉の字だった。
響  :でも、カケル、なぜ知ってるのそれ。
カケル:これに書いてあったからね。
ヤグモ:何それ。
カケル:神林恭一郎のメモ。
響  :お父さんのメモ?
ハリネズミ:死者からのメッセージだな。
響  :お父さんをバカにしないで。

ものすごい目で睨む。
肩をすくめるハリネズミ。

響  :どうしたのそれ。そんなものあるって前には。
カケル:うん。二週間前に送られてきた。読む?
響  :いいの。
カケル:もちろん、君も神林恭一郎の子供だろ。

響、メモを受け取る。
開いて読み始める。
明かりが響に絞られる。できれば斜め上手奥上方からの青い光条。
その間に舞台は転換をはじめる。
階段が出てくる。
格子が上下奥に出てくる。薔薇は飾られていない。
走り読みしたが。

響  :確かにお父さんの字ね。
カケル:読んで見て。箇条書きっぽいけど。
響  :問題は窓ではない。迷宮だ。薔薇の迷宮に気をつけなければならないだろう。紅い薔薇咲く五月に・・。何が起こるの?薔薇の迷宮?
カケル:続けて。
響  :基本的に1000年女王のシステムは蟻か蜂の社会システムに似ている。一人の女王と、兵隊蟻と、働き蟻。権力は常に一人に集中される。何これ?
カケル:続けて。
響  :女王の死は古いシステムの終焉を意味し、新しいシステムは自動的に新しい女王と共に再生する。薔薇の迷宮はそのときシステムを・・読めないなここ。・・あの青の部屋とは違う訳ね。
カケル:たぶんね。
響  :ムラサメは口が堅い。
ヤグモ:えっ。ムラサメって。
響  :知ってんの?
ヤグモ:オフィスムラサメなら。前ちょっと勤めてたから。

響、メモの裏見てみる。

響  :そうらしいね。・・仕事柄、つかんだ茉莉と響の秘密についてはなかなか口を割りそうもない。まだ私の知らない迷宮もある。警戒を怠らないように。私と茉莉の秘密?
ヤグモ:怪しいね。
響  :そこなにするところ。
ヤグモ:表向きは人材派遣業。でもほんとのところはよく分からない。
響  :目茶怪しいわね。私の秘密にまたまた迷宮かあ。てんこ盛りだわ。
カケル:いいから続けて。
響  :うっさいわねえ。続けりゃいいんでしょ。迷宮ばっかりじゃ、分けわかんないわよ、お父さん。
カケル:迷宮入りしちゃうね。

ヤグモと響にすごい目で見られるカケル。

カケル:ごほん。続けて。
響  :もう一回やったら殺すわよ。(頷くヤグモ)・・たぶんアンドロギュノスについても情報を持っているに違いない。何突然アンドロギュノスって。
カケル:男でもあり、女でもある両性体。
響  :ふーん。でもなんか関係あるのかな千年女王と。
カケル:分からない。
響  :・・犬笛のサイクルを確認すること。犬笛?

と、犬笛を取り出す。

響  :サイクルの確認。

吹いてみる。
もちろん何も起こらない。

響  :犬笛を可聴範囲とする存在は・・・ここで切れてる。なによこれ。全然分からない。
カケル:走り書きだしね。
響  :ほんとに訳わかめね。何か意味あるの?薔薇の迷宮だのアンドロギュノスだの犬笛だのって。
カケル:あるからたぶん送ってきたんだろう。
響  :誰が。
カケル:分からない。
響  :何のために。
カケル:分からない。
ヤグモ:訳も分からず飛び込んできたの。
カケル:まあね。挑発するなら乗ってやろうじゃないって。
響  :なるほど。冒険家の血が脈々と。
カケル:脈々とね。
響  :でもって、茉莉もこちらで同じ言葉を残して消えた。こいつはプンプンにおうわねー。
カケル:あ、ごめん。ここ二日シャワーも浴びてない。

二人ものすごい眼で睨み。

響・ヤグモ:ほんとに殺されたい?

ぶんぶんと首を振るカケル。

響  :よっし、じゃ決まった。
カケル:何が。
響  :探すのよ。メモ送った張本人。ついでに茉莉もね。
カケル:探すったって。
響  :挑発乗るんでしょ。わたしと茉莉のなんか妖しい秘密もあるみたいだし。行くよ。
カケル:どこへ。
響  :宮殿地下に決まってるでしょ。こんな変なメモ送ってくる奴らってだいたいあっち方面だもの。
ヤグモ:だいたいってか。

おいおいなんて雑な論理。

響  :あー、あんたら適当に決めたと思ってるでしょ。違うわよ。直感に基づいて私の灰色の脳細胞を使った正しい論理の力よ。
カケル・ヤグモ:やまかんともいうけどね。
響  :やかまし。いこ!

と去る。
緊迫感のある音楽。
暗転。

Ⅲ潜入

溶明。全体が明るい。
ムラサメのオフィス。
イスが二つ。
ムラサメが何か書類を調べている。
桔梗が誰かをつれて入ってくる。
姿は変わっているが茉莉だ。

ムラサメ:その子か。
桔梗 :はい。

ムラサメ、じろじろと見る。
茉莉、かしこまっている。

ムラサメ:名前は。
茉莉 :綾瀬ユキです。

と、見て。

ムラサメ:何ができる。
茉莉 :は?
ムラサメ:特技は。でなきゃ宮殿派遣サービスに登録はできないよ。
茉莉 :あ、はい。情報関係は一通り。
ムラサメ:ほう。プログラム組めるの。
茉莉 :小規模なシステムなら。例えば・・。

と、この事務所程度ならというのを言外に。

桔梗 :綾瀬さん。
ムラサメ:いいよ。鼻っ柱の強いのは嫌いじゃない。どこで覚えたの。
茉莉 :それはちょっと。差し障りが。
桔梗 :綾瀬さん。
ムラサメ:ますます面白いね。桔梗。この子のペーパーテストは。
桔梗 :かなりできのいい方です。
ムラサメ:いいだろ。とりあえず、仕事覚えてからだ。宮殿へ行けるかどうかは。それから後。手順教えてやって。
桔梗 :はい。
ムラサメ:結構厳しいよ。オフィスムラサメは。どうやら非合法でいろいろと学んだようだけど、それだけじゃ追いつかないかもね。
茉莉 :はい。
ムラサメ:死ぬ気でやりなさい。
茉莉 :頑張ります。
ムラサメ:けっこう。・・桔梗。ちょっと。

脇へ寄る。

ムラサメ:気に入らないね。警備局の公安かもしれない。いい、もし迷宮の秘密探ろうなんて動き見せたら。

と、首をかっきる動作。

桔梗 :はい。
ムラサメ:ヤグモの動きは。
桔梗 :今は何も。
ムラサメ:そう。あそこからも目を離さないように。
桔梗 :分かりました。ぼつぼつお時間ですが。先方が先ほどからお待ちです。
ムラサメ:いよいよ危ないのね。
桔梗 :どうもそうらしく。
ムラサメ:分かった。始まるわ。忙しくなりそう。
桔梗 :誰になるでしょうね。
ムラサメ:そんなこと知ってどうするの。
桔梗 :誰もが知りたい事じゃありません?
ムラサメ:私たちは知る必要はないわ。システムが知ってりゃ十分。・・後は頼むわよ。
桔梗 :はい。

ムラサメ、茉莉をじろっと見ておいて去る。
見計らって。態度が変わる。

桔梗 :綾瀬さん。
茉莉 :はい。
桔梗 :私ちょっとあちらで書類整理してるから。ここの掃除お願いね。手順教えるのそれから後。
茉莉 :はい。あのう掃除道具は。
桔梗 :あそこのロッカーのそば。
茉莉 :分かりました。
桔梗 :じゃ、お願いね。

と、階段を上って去る。
見送った茉莉。がらっと感じが変わる。
従順でおとなしそうな感じから、背もしゃきっと伸びてタカビーな感じへ一変。

茉莉 :ロッカーは、と。

ロッカーからほーきらしきものを取り出すが。
掃除はせず、あちこち、様子をうかがいながら捜索し始める。

茉莉 :やはり、何もないわね。さすがに用心深いこと。

さらに探して引っかき回す。

茉莉 :・・。

ため息をついて立ち上がろうとしたところ。

茉莉 :これは・・。

と、つぶやいて、イスの下から何か拾い上げた。
しみじみと見たとたんに、何かが聞こえた。頭を押さえる。
苦しそうに。

茉莉 :誰、私呼ぶの。
  
あたりを見回し。

茉莉 :やめて。笛を吹くのは。・・・頭が、割れそう・・。

思わずしゃがみ込む。
その姿を冷たく袖のところで見ている桔梗。
笑みが浮かんでいる。
やがて、発作のようなものは収まり、頭を振って立ち上がる茉莉。
桔梗、頷いて、何かポケットにしまい込み、足音高くでてくる。
茉莉、慌てて、拾ったものをポケットに入れ、ほうきで掃くまね。

茉莉 :あ、なかなか掃除終わらなくて。
桔梗 :いいのよ。散らかっている方が落ち着く人なんだから。それより、何か聞こえなかった。
茉莉 :え、何ですか。
桔梗 :違ったかな。
茉莉 :空耳じゃないですか。
桔梗 :そう。顔色悪いわよ。
茉莉 :大丈夫です。
桔梗 :ならいいけど。
茉莉 :は?
桔梗 :仕事だけど。
茉莉 :はい。
桔梗 :宮殿の営繕部でね、プログラム組める人探してるの。明日から。大丈夫?
茉莉 :はい。
桔梗 :なら、明日、朝一で。今日はもうけっこうよ。
茉莉 :はい。失礼します。

去ろうとする。
桔梗も去りかけて。

桔梗 :犬笛って知ってる?

茉莉、顔色が変わる。

茉莉 :犬笛ですか。
桔梗 :聞こえる人もいるんですってね。どういう人なんでしょうね。
茉莉 :さあ。
桔梗 :綾瀬さん。
茉莉 :はい。
桔梗 :あなた掃除は苦手のようね。

茫然とする茉莉。
桔梗、笑って、去る。
ダンダンという音楽。
茉莉だけが浮かぶ。

Ⅳ茉莉

去った後をにらみつける茉莉。

茉莉 :正体はばれている。

ポケットから拾ったものを取り出す。犬笛だ。

茉莉 :それでもこれ見よがしに手がかりが落ちている。

笑う。

茉莉 :まるで出来損ないのミステリー。それともお笑いか。

軽く吹く。

茉莉 :つっ。

頭を押さえる。

茉莉 :前はこんなことなかったのに。・・・うっ。やめてっ!

音。明かりが変わった。
座る、茉莉。
朝。欠伸をする茉莉。
なにやら机に向かってやっている。

茉莉 :・・ハリネズミの奴、面倒なことをさせる。誰。

影がいた。
すっと何か投げ込んで去る。

茉莉 :待てっ!

だがもういない。
外を警戒しながら見るがやがて緊張がほどける。

茉莉 :警備局か。

投げ込んでいったものを拾う。
読み始める。
驚くが・・笑みが浮かぶ。

茉莉 :おもしろい。私を挑発して何が得になるか知らぬが、そういうことなら誘いに乗ってやろう。

と、紙をひっくり返し。印刷された封筒を見た。

茉莉 :オフィスムラサメね。・・だれか知らないけど。わざわざ手がかり教えてくれてありがとう。でも思い通りにはならないよ。

と、見回し、メモを素早くした。
だっと走った。
音楽。
暗転。
元に戻る。茫然としている茉莉。

茉莉 :何あれは。二日前の自分じゃない。

おそるおそる笛を見る。

茉莉 :まさかね・・・。

と、歩き出したが。

茉莉 :うっ。誰、呼ぶの。吹かないで・・・。痛い!ハリネズミ、助けて!

Ⅴ交錯と暴走と窓

音楽。緊迫感。
ハリネズミが駆け込んでくる。
とまどっている。

ハリネズミ:え、おれ、呼んだ。
響  :呼ぶわけないでしょ。

と、響犬笛くわえてやって来る。

ハリネズミ:イイや、確かにだれかが呼んだ。
響  :そりゃポチぐらいは呼ぶけどさ。

と、犬笛吹く。
ハリネズミ、一拍遅れてだれかの呼ぶ声を聞く感じ。

ハリネズミ:誰だ!ほら呼んでいる。

響も耳をすますがもちろん呼んではいない。

響  :誰もいないわよ。幻聴聞くようになったらもうおしまいね。年よ、年。
ハリネズミ:イイや確かに呼んでる。
響  :おまけにうぬぼれと自信過剰。
ハリネズミ:やかましい!ぬかすか!
響  :ぬかして悪い。
ハリネズミ:この。この、この、この・・・

と、激怒のあまり声にならない。
笑って。

響  :蝉みたい。このこのこのこの・・。

と、言いかけて、ハッと止まる。

響  :待って。

急に止められて、怒り心頭に発し、響をしめようとしたハリネズミがタイミング狂う。

ハリネズミ:ふんぐ?!
響  :やかましい!黙って。

ハリネズミ、沈黙して暴れる。
響、真剣な顔で何かに聞き入る。

響  :隠れて!

びたっと壁にひっつく響。あわててハリネズミもひっつく。
同時に、入ってくる第一章の警備局の行進。
悪夢が再現される。
行進が終わる。

ハリネズミ:なんだ。
響  :?・だれか来るっ!

とハリネズミを突き飛ばして、自分は隠れる。
転げたハリネズミの鼻先へ、インラインスケートをはいたヤグモ。

ヤグモ:響ーっ。
響  :なんだ。ヤグモーっ。
ヤグモ:響ーっ。
響  :ヤグモーっ。

と、ぴょんぴょんするのだが。

ハリネズミ:いってーーーっっ!

踏んだらしい。

ハリネズミ:何すんだっ。
響  :そんなところで寝てるから悪いのよ。
ハリネズミ:御前が突き飛ばしたろうが。
ヤグモ:まあまあ。大事なニュース。きいてきいて。

ハリネズミ、はあはあ言ってたが。

ハリネズミ:言って見ろ。
ヤグモ:千年女王が危ないよ。
響  :危ないって。
ヤグモ:危篤らしい。
響  :死ぬの。
ヤグモ:さあ・・。

ハリネズミの態度に気づく。

響  :ハリネズミ。
ハリネズミ:なんだ小娘。
響  :知ってたのね。

ふんと笑った。

ハリネズミ:まあな。
ヤグモ:ひどい。
ハリネズミ:何が。
ヤグモ:依頼人が隠し事してちゃ始まりませんよ。
ハリネズミ:関係ないことだからね。
響  :おかしいわ。
ハリネズミ:何が。
響  :千年女王が生きるか死ぬか。とても大事なことじゃない。茉莉だって千年女王の・・まさか、茉莉に話してないとか。
ハリネズミ:その必要はない。
響  :どうして。
ハリネズミ:お前に言う必要はない。
響  :なんだか知らないけど、後ろ暗いことしてそうね。
ハリネズミ:ぎっくーっ。
響  :ほらほら態度にでてるわよ。
ハリネズミ:たらたら。
響  :冷や汗は体によくないわ。早くはいたら。
ハリネズミ:ゲロゲロ。なにやらせんじゃ!

響の笑い声。

響  :どうして知ってたの。言いなさいよ。
ハリネズミ:しつこい奴だな。
響  :ねばり強いだけ。
ハリネズミ:宮殿中枢からとだけいっとこう。
響  :へー、手づるがあるの。さすがもと警備局。でも、ヤグモはどうして。
ヤグモ:これ。

と、突き出す。

響  :何、またメモ。
ヤグモ:響あてよ。
響  :私?
ヤグモ:ドアの入り口に挟んであった。
響  :どれどれ。

と、小さいメモを受け取る。

響  :御注進。千年女王の余命はもはや幾ばくもない。システムは次の女王の選考を開始した。心せられよ。響殿。あなたの親愛なるしもべより。
ヤグモ:次の女王だって。
響  :くだらない。
ヤグモ:くだらなくないよ。やばいんじゃない。
響  :関係ないもの。いいのいいのいちいち気にしてたらご飯食べらんない。・・いたっ。

と、何かぐらっと来たようだ。

ヤグモ:どうしたの。
響  :何でもない。最近ちょっとね。
ハリネズミ:どうやら小娘にも親切な宮殿中枢部がいるようだな。
響  :罠のにおいがぷんぷんしてるけど。
ヤグモ:ぷんぷんはいいけどどうする。
響  :追伸があるわ。
ハリネズミ:追伸?
響  :犬笛のサイクルに気をつけよ。
ハリネズミ:犬笛?
響  :どこかへいけるのかしらね。

と、犬笛を出す。

響  :たとえば・・
ヤグモ:たとえば。

にっこり笑って。

響  :薔薇の迷宮とか。

と、犬笛を吹いた。
音楽。
暗転。
悲鳴。
渦巻くような感覚の音楽。

ハリネズミ:これは!
響  :何!
ハリネズミ:窓の迷路だ!

激しい音楽。
斜めに入る蒼い光。
その中で切れ切れに飛んでいく三人。
やがて収まれば、響が一人倒れている。
柵が道に沿ってある。
銀色の花が咲いている格子。
頭を振って起きあがる、響。

響  :あー、ひどい目にあった。あったまいてー。(と、頭押さえるが)なにこれ。へんなの。

と、銀色の花をむしる。
くんくんとかいで。

響  :食べれそうにはないわね。

振り回す。

響  :宮殿のどのあたりかな。

と、見回すが分からない。
と、えいっと花を放り上げた。
落ちた方向を見ていたが。

響  :こっちかな。

と、奥の階段へいく。
上がりかけたとき、上手から駆け込んできたものと衝突しそうになる。
そいつはものの見事にすっころんだ。

カケル:いってーっ。だれじゃーっ!!あ。
響  :相変わらず落ち着きないわね。今までどうしてたの。
カケル:どうしてたのもクソもないだろ。今別れたばかりじゃないか。
響  :何言ってるの。別れたのは昨日よ。
カケル:そっちこそ何言ってるの、ほら、そこの角でついさっき。
響・カケル:え?

小さい間。
見回す。

カケル:どうやらとんでもないところみたいだね。
響  :どうして。
カケル:心当たりあるんじゃない。
響  :あるわけ無いじゃない・・あ。

と、笛を見る。

カケル:おもちゃ持ったら見境なしだから。
響  :済みませんねー。どうせガキですー。
カケル:こまったな。みんなとはぐれた。
響  :ここどこよ。

まわりを見回して。

カケル:たぶん白亜紀。
響  :は?
カケル:やばいよ、これ。
響  :何が。
カケル:来るかも。

やってきた。
強烈な咆哮。

響  :何これ。
カケル:逃げよ!

だっと逃げようとするが。
再びの咆哮と、激しい音楽。
照明が変わる。

カケル:うわっ。
響  :どうしたの。
カケル:笛吹いて!
響  :何。
カケル:犬笛!早く!
響  :もう!

あわてて、笛を吹く。
音。斜めからの蒼い光。
暗転。

響  :カケル!
カケル:やばい!迷っても諦めないで!君は千年・・

激しい音。
溶明。
二人は消えた。
茉莉が駆け込む。

茉莉 :誰、呼んだ?!あっ。

カケルが倒れている。

茉莉 :カケル!

カケルに駆け寄る。
パンパンと顔をはたく。

茉莉 :カケル!
カケル:響!・・。何だ茉莉か。
茉莉 :ほー、茉莉で悪かったな。
カケル:あ、いや。響は。
茉莉 :会ってない。響と一緒か?
カケル:さっきまで。
茉莉 :いつこっちへ来た。
カケル:おとつい。紅い薔薇を探しにね。
茉莉 :何で知ってる。
カケル:君こそ。
茉莉 :誰かが、私に何かをしてもらいたいようだ。
カケル:何それ。
茉莉 :さあ、千年女王がアブナイって時だ。魑魅魍魎が動き出すわけだな。どうやってきた。
カケル:窓がひらいたのさ。
茉莉 :どうやって。
カケル:分からないけどたぶんそいつに関係あるみたい。
茉莉 :何。
カケル:吹いただろそれ。
茉莉 :え?

思わず持っていた犬笛を握りしめる。

茉莉 :これは。
カケル:窓を呼ぶみたい。
茉莉 :窓を呼ぶって、これが?

と、明かりに透かして見る。

カケル:たぶんね。

小さい間。

茉莉 :声が聞こえた。
カケル:声?
茉莉 :私を呼ぶ声。
カケル:誰の。
茉莉 :はっきりとは分からない。世界が突然変わった。さっきまで私は、ムラサメのオフィスにいた。
カケル:ムラサメの?何で。
茉莉 :どうやらお節介の本元がそのあたりにありそうなので調べていた。
カケル:ハリネズミが心配していたよ。

渋い顔。

カケル:どうしたの。
茉莉 :あやつは少しおかしい。
カケル:どうして。
茉莉 :私に内緒で何かしている。
カケル:調査じゃない?
茉莉 :私に隠すことはない。・・まあいい。それよりここはどこだろう。
カケル:どうやらここは大昔みたいだよ。

やってきた。
強烈な咆哮。

茉莉 :何あの声は。
カケル:ティラノザウルスかな。来るよ。
茉莉 :ティラノ・・恐竜か。
カケル:そうみたいだね。

足音が近づく。

茉莉 :何で!
カケル:吹くときになんか見たんじゃない。
茉莉 :あっ。
カケル:何。
茉莉 :映画のポスター。ムラサメのオフィス!
カケル:それだ!君のせいだよ!
茉莉 :私の!
カケル:笛吹いて!思って地下宮殿を!
茉莉 :そんな。
カケル:早く!
茉莉 :分かったわよ!

何か顔しかめて思いっきり吹く!
音楽、暗転。
溶明。
オフィスムラサメ。
入ってくる桔梗。

桔梗 :動き始めました。
ムラサメ:やっぱり。地下宮殿へは。
桔梗 :迷路の入り口付近です。ただ。
ムラサメ:何。
桔梗 :一時間ほどですが一時見失ったようです。
ムラサメ:気をつけて。地下迷路には何があるか正確には私たちも把握していないのよ。
桔梗 :はい。どういたしましょう。
ムラサメ:とりあえず監視続けて。全ては明日。
桔梗 :分かりました。綾瀬は明日から営繕部へ派遣しますが。
ムラサメ:いいでしょ。綾瀬の背後洗うの忘れないで。どうもどっかで見た気がするの。
桔梗 :(うっすらと笑って)はい。

と行きかけるが。
冷たく。

ムラサメ:桔梗。
桔梗 :なんでしょう。
ムラサメ:ローテローザって知ってる

かすかな動揺が走るが、立ち直り。

桔梗 :いいえ。・・調べてみましょうか。
ムラサメ:もちろん。特に念入りにね。
桔梗 :はい。

と、去る。

ムラサメ:保険はかけておかねば。あんたも窓に少し興味持ち過ぎよ。

と、なにやら手の中で転がしている。
笛みたいだ。

ムラサメ:神林恭一郎、あんたのまいた種、刈り取るのってなかなか楽じゃないわよ。

去る。
音楽。
暗転。溶明。
駆け込むハリネズミ。

ハリネズミ:誰だ。・・なんだ空っぽか。それにしてもどこへいった。

通信機を取り出して連絡しようとするがダメのようだ。
舌打ちしてしまい込む。
ところ転がり込んできたカケルと衝突。

ハリネズミ:うわっち。だれやーこらー。なめんなよー。

と、こけて重なりながらピストル思わず構えるが。

カケル:なんだ、ハリネズミか。
ハリネズミ:俺は水島じゃーっ!
カケル:はいはい。あっ、それより茉莉にあったよ。
ハリネズミ:何!
カケル:自分で捜索してる見たい。
ハリネズミ:何を。
カケル:薔薇迷宮。
ハリネズミ:あの馬鹿!
カケル:そんなこと言っていいの。
ハリネズミ:いい。昔からかわらん。猪突猛進して玉砕するタイプ。しょうがねえなあ。
カケル:ほー。
ハリネズミ:なんだ。
カケル:いや、茉莉の方はハリネズミに不信感ちょっと持ってるみたいだったから。
ハリネズミ:何だそれは。
カケル:思い当たることあるね。
ハリネズミ:いや、そんなことはない。

と、少し焦る。
音がする。

ハリネズミ:なんだあの音は。

ローテローザたち。

カケル:やばっ。お先に!
ハリネズミ:あ、まてっ!

二人脱兎のごとく逃げる。
明かりが変わる。
インラインスケートでだーっと駆け去る(逃げる)ヤグモ。

ヤグモ:まってー、私もーっ。

後を追うように軍団が追跡する。
音楽。
暗転。

Ⅵ響漂流

溶明。
響がいる。
疲れているようだ。
音がしている。

響  :カケル・・カケル!・・消えた。・・迷ったかな。

あたりを調べている。
何もない。座る。

響  :犬笛ね。

と、しみじみみている。
吹いてみる。
明かりと音が変わる。
ぐらっと来たようだ。

響  :痛っ。・・何、この感覚。やはり窓が。

何かの気配に気づく。

響  :だれっ。

地からわくように声が聞こえた。
人影が二人奇妙な明かりの中に浮かぶ。

カケル:お父さんと別れてしまうんだよ、永遠に。笑顔はないんじゃない。
響の声:そうしろといったんだもの。お父さん。
カケル:父さんが。
響の声:悲しいときには笑いなさい。辛いときには笑いなさい。苦しいときには笑いなさいって。だから。

愕然としている響。

響  :何これ。あのときの。

響の声は聞こえてくる。

響の声:一番悲しいから笑うのよ。一番辛いから笑うのよ。一番苦しいから笑うのよ。笑えば元気がでてくる。泣きたいならわらいながらなけって。
カケル:滅茶苦茶だね。
響の声:いいえ、真実よ。元気が出れば生きてける。だから、笑うの。一番世界で最高の笑顔をつくって、笑うの。
響  :時間が狂ってる。まさか。

と、笛を吹く。
音。
暗転。明かりがまた別のところにつく。

ハリネズミ:窓の本当の意味を知らないようだね。お嬢さん。道は、副産物でしかないよ。本当の意味はね。この音だ。
響の声:音って。どういうこと。
響  :ハリネズミ!

当然呼びかけても反応はない。

ハリネズミ:すべての生き物は動いている。生命は振動なんだ。生きている限り生命は動く。振動する。ならば、その振動をすべて集めれば、逆に生命はいつまでも生き続けることになるだろう。不老不死さ。

音がする。
頭を抱える響。
響きを残して、また再び音がし、場所が違うところに明かりがつく。

響の声:私そんなものになりたくない。お父さんは正しい。そんなのあるべき姿じゃない。
茉莉 :どうして。
響の声:あんたはなりたいの。
茉莉 :そのために努力してきたわ。
響の声:あんたなんかなれないよ。

音。
あざ笑うかのように、明かりは明滅する。音は続く。
声が錯乱して交錯する。
苦しそうな響。
音。

響の声:不老不死。そんなのただの牢獄よ、いつも元気で笑えるようにならないと。でなきゃ、悲しみや、苦しみやつらさの中で永遠に生きて行かなきゃならないんだよ。
茉莉 :かもしれない。
響の声:かもしれないじゃないよ。あんたはまだ、わらえないじゃない。あんたの笑顔なんか最低よ。ネズミにも劣るわ。やめなさい。茉莉。あんたは、永遠に笑わないつもりなの。
響  :やめろーっ!

音。
静かになる。
全てが消えた。
斜めに明かりが入っている。

響  :狂ってる。時間も何も滅茶苦茶みたい。何とかしなきゃ。これじゃどこへ行くか分からない。でも・・どうやって。・・また、吹いてみる?・・・

見つめて、吹こうとしたとき。
人がいた。

響  :誰。あ・・あんたは。

音楽。
暗転。

Ⅶ世界の変容

溶明。
ムラサメが入ってきた。
桔梗が落ち着いて入ってくる。

ムラサメ:もう4時間以上になるわ。
桔梗 :いま、追跡させています。
ムラサメ:どこへ消えたのかしら。
桔梗 :もしかしたら裏の街へ・・。
ムラサメ:まさか。あそこは封印されてるし、第一身体が堪えられないでしょ。下手したら発狂してしまうわ。
桔梗 :響の潜在的なポテンシャルは非常に高いはずです。侮れません。
ムラサメ:まずいわね。綾瀬ユキは。
桔梗 :彼女も消えました。
ムラサメ:消えた?
ムラサメ:綾瀬ユキも・・綾瀬ユキね。

と、何かに気づく。

桔梗 :どうしました。
ムラサメ:茉莉か。
桔梗 :え。
ムラサメ:あいつが保護してたもう一人のなり損ねよ。気がつかなかったな。
桔梗 :申し訳ございません。

桔梗、うっすらと笑った。

ムラサメ:いいわ。こちらが間抜けだっただけ。それより桔梗。
桔梗 :はい?
ムラサメ:私たち、アブナイ火遊びしてたかも知れない。
桔梗 :どういうことです。
ムラサメ:あなたのアイデアで餌をばらまいてみたけど逆効果だったかも。
桔梗 :といいますと。
ムラサメ:思惑あの子たちの力が大きくなっていたわね。
桔梗 :はい。
ムラサメ:窓をああまで簡単に開けるとは。
桔梗 :なり損ねとはいえそれなりに。
ムラサメ:千年女王の力が弱ったせいだわ。あの子たち、このままでは窓を暴走させてしまう。
桔梗 :それは。
ムラサメ:窓が暴走すると因果律が狂ってしまう。
桔梗 :因果律。原因と結果の法則ですか。
ムラサメ:そう。原因と結果が滅茶苦茶になり、あってはいけない可能性が大手を振ってのし歩く。
桔梗 :例えば神林恭一郎が生き返るとか。
ムラサメ:かもしれないわ。
桔梗 :(笑って)オカルトですね。
ムラサメ:(まじめに)いいえ、おぞましい現実よ。あの子たちは開けてはいけないパンドラの箱を開けたのかも知れない。世界はあの子たちの気まぐれで振り回されるかもね。
桔梗 :知らずに現実を変えてしまうとでも。
ムラサメ:世界は無数の可能性に過ぎないもの。可能性が揺らげば世界も揺らぐ。現実なんてもろいものよ。
桔梗 :まさか。
ムラサメ:何としても探して。いやな予感がするの。千年女王は死に瀕してる。窓をコントロールできるものはいない。
桔梗 :はい。

と、慌てて出ていこうとする。

ムラサメ:桔梗。
桔梗 :はい。
ムラサメ:ローテ・ローザのこと何か分かった。

固い声で。

桔梗 :五月に咲く紅い薔薇です。
ムラサメ:そのまんまじゃない。
桔梗 :咲くのは薔薇迷宮にです。
ムラサメ:薔薇迷宮に。
桔梗 :はい。
ムラサメ:では。
桔梗 :あの子たちが窓を次々開けば。
ムラサメ:凍り付いた窓を開けて薔薇迷宮に行き着く・・そうしたら。
桔梗 :たぶん生まれます。
ムラサメ:この世界で許されないものが?
桔梗 :(うなずき)失礼します。
ムラサメ:桔梗。
桔梗 :は?
ムラサメ:詳しいわね。
桔梗 :これは。
ムラサメ:有能な助手をもつと助かるわ。行って。
桔梗 :はい。

慌てて去る。
小さい間。
笛らしき者をもてあそぶ。

ムラサメ:ふん。あなたは知り過ぎよ。・・・やはりパンドラの箱を開けてしまったか。・・・こちらからのぞくだけじゃすまないのよ。お嬢さん。窓を開ければ向こうからものぞかれる。二つの世界がそこで解け合うの。・・1000年女王のなり損ねか・・確かに化け物だわ。神林恭一郎、14年前のあんたのお節介でとんでもないものたちが育ったわ。

ゆっくりと溶暗。
音楽。

Ⅷ裏切り

溶明。
ハリネズミが入ってくる。
様子を見ているが。
誰かから連絡が入ったらしい。

ハリネズミ:はい。・・なんだ、あんたか。

見回して。

ハリネズミ:いいや、はぐれた。そうだ。・・裏の街?まさか。窓が開くはずないだろ。・・違う。裏切りゃしねえよ。・・茉莉?あってない。本当だ。・・それよりローテローザを動かすのはやめろ。混乱する。・・ダメだ。・・誰か来る。

と、切ったかと思うと
ヤグモがどどーっと入ってくる。

ヤグモ:誰か止めてーっ。
ハリネズミ:わぉーっ。

ぶち当たってすっころぶ。

ハリネズミ:またかーっ。
ヤグモ:すみませーん。
ハリネズミ:どけーっ。

再び下敷きになっていたようだ。
起きあがって。

ハリネズミ:まったく、いつもいつも。
ヤグモ:でも調査少しはかどりました。
ハリネズミ:嘘つけ。逃げてただけだろ。
ヤグモ:ぎっくーっ。
ハリネズミ:いいわけ言いからさ。それより見つけたか。
ヤグモ:なにを。
ハリネズミ:他の奴らだよ。
ヤグモ:全然。・・見つけてどうするの。
ハリネズミ:あほかお前、恐竜見ただろ。
ヤグモ:ああ、あれ。
ハリネズミ:ああ、あれって。

あきれる。


ハリネズミ:とにかくな。ここは地下宮殿やらなんやらわからんのや。
ヤグモ:ええ?地下宮殿のはずだよ。だって。
ハリネズミ:何。
ヤグモ:ここ見覚えあるもの。蒼の部屋への入り口近くじゃない。
ハリネズミ:確かにそう見える。今はな。
ヤグモ:今は?
ハリネズミ:窓がいつ開くか分からない。
ヤグモ:いつ開くかって・・あ、そういやさっき、窓の迷宮って言ったわね。みんなバラバラになったのはなぜ。
ハリネズミ:めちゃくちゃなんだよ。
ヤグモ:何が。
ハリネズミ:窓が。
ヤグモ:何で。
カケル:窓がばかばか開いてるってことだよね。
ヤグモ:カケルーっ。
カケル:ヤグモーっ。
ヤグモ:カケルーっ
カケル:というようなことやるわけないだろ。

こけるヤグモ。

ハリネズミ:察しがいいな。
カケル:白亜紀に放り込まれちゃね。焦ったよ。帰れないかと思った。
ヤグモ:どういうこと。
カケル:気をつけないと、どこへ放り込まれるか分からない。
ハリネズミ:しかも、還ってこれないかも。
ヤグモ:じゃ。
カケル:そう。窓を開く力がないとね。
ヤグモ:あんたが帰ってきたのはその力?
カケル:ボクにはないよ。窓が閉じてなかったからさ。
ヤグモ:あ、でも・・ここは。
ハリネズミ:そう。閉じては開く奴と、開けっぱなしのがありそうだな。
ヤグモ:ふーん、後始末悪いのがいるのね。
カケル:散らかすのが好きな奴とお掃除好きな奴ってどこにもいるよ。
ヤグモ:え、ということは。
ハリネズミ:一人じゃないのさ。
カケル:たぶん、響と茉莉?
ヤグモ:二人とも?どうやって。
カケル:たぶんあの笛でね。
ヤグモ:でも二人ばらばらでしょ。お互い勝手にやってたら。
ハリネズミ:そう。めちゃくちゃになる。
ヤグモ:たいへん。・・ねえ。二人が同時に笛吹くとどうなるの。

暗転。
音楽。

Ⅸ千年女王の見る夢

溶明。
斜めに明かりが入っている。

茉莉 :今までどこに。
響  :何か変なところ。時間が狂ってた。
茉莉 :時間が・・ひょっとして何日か前の自分がいなかった。
響  :いたわ。半年も前だけどね。
茉莉 :訳が分からない。

斜めに明かりが入っている。
銀色の薔薇が格子にからみついている。

響  :そりゃね。こんな花はまああんまりないだろうね。
茉莉 :平気か。
響  :びびってるわよ。あんたは。
茉莉 :怖い。
響  :正直でいいわ。

小さい間。

茉莉 :さいきん、なんかおかしくないか。
響  :何が。
茉莉 :その、うまくいえないけど。からだとか。
響  :あんたも。
茉莉 :やっぱり。
響  :これって・・関係するのかな。
茉莉 :たぶん・・・。
響  :どうなっちゃうのかなあ。これから。
茉莉 :・・・さっき恐竜がいた。
響  :あたしのいたとこにもいた。
茉莉 :カケルは私にこう言った。私がムラサメの事務所で恐竜のポスターを見たからだと。
響  :なにそれ。何であんたが見たら恐竜がでてくるわけ。
茉莉 :響はどうだ。なんかのきっかけがなかったか。
響  :さあねえ。あんまり気にしてないから。

というより、きがつかねーだけだろう。

茉莉 :なぜここにいる。
響  :え?
茉莉 :なぜ響がここにいる。たしかここは恐竜のいたところと続いているはず。私が開いたらしい窓のはずだ。
響  :まあね。でもま、いいじゃない。あんたの窓だろうが私の窓だろうが。窓に代わりはないじゃなし。ね。
茉莉 :1000年女王の力を忘れたか。
響  :あ、あんたまだそんなこと頑張ってたの。むりむり。
茉莉 :窓を開けるのは1000年女王だけのはず。

響、笑った。

響  :なら、あたしたち千年女王なわけだ。千年女王死にそうだって言うし。ハリネズミが喜ぶわね。念願かなうじゃない。
茉莉 :分かってないな。響は。
響  :どーせ私はバカですー。
茉莉 :あたしたちではない。あたしだ。
響  :は?
茉莉 :女王は二人ではない。一人だ。
響  :へー、でそれがどうしたの。

まるっきりわかつてない。

茉莉 :私か、響かどちらかが千年女王と言うことだ。
響  :そんなことになりますかねえ。
茉莉 :冗談だとおもってるな。

響、けっこうまじめに。

響  :冗談でしょ。
茉莉 :私はこの街が嫌いだと言っただろう。けれど、私には必要なのだ。絶対に。
響  :この世界を支配するために?
茉莉 :支配?(笑う)誰がこんな世界など。私の欲しいのは自由。ここから逃れる自由。
響  :そんなの自由なんかじゃないよ。あんたは逃げてるだけ。捨てられるはずのないものを捨てようとして逃げてる。
茉莉 :捨てられるはずのない?何が。
響  :あんたはここで生まれ、ここで育った。私もそうよ。嫌な世界だし、生活も楽じゃない。でも。捨てようたって捨てられない。だって、私やあんたの居場所はここだもの。私もあんたもこの世界の一部だもの。世界を捨てれば自分を捨てることになるのよ。自分を捨てれば、もうどこにもいられやしない。いる場所なんかなくなるよ。どこまでも窓といっしょに流れていくしかないのよ。
茉莉 :それもいいだろう。
響  :茉莉!
茉莉 :響には分からない。
響  :ああ、そうよ。分からないわ。当たり前じゃない。何もあんたのこと分かろうとも思ってやしない。
茉莉 :ほんとの自分を獲得するんだ。
響  :ここのほかにどこにほんとの自分なんてあるの。そんなの現実逃避でしかない。
茉莉 :そういいたければそういうが言い。
響  :まだ分からないの。
茉莉 :響がいったとおり、響のことなんか分からない。ただ・・
響  :何。

茉莉の声が和む。

茉莉 :夢を見た。・・青い光があふれてた。銀色の薔薇が咲いて、なぜか紅い花びらが散っていた。本当に安心してた。私はここにいていいんだと。

小さい間。

響  :格子があった。からみつく薔薇。不思議な光。人の影。あんたと私。
茉莉 :どうして知ってる。・・まさか。
響  :時々見るでしょ。
茉莉 :・・見る。それもだんだん・・
響  :鮮明になっている。

間。

茉莉 :落ち着くんだ。あの景色を見てると。
響  :私は違う。ねえ、覚えてない。・・夢の中いるの私たちだけだった?
茉莉 :当たり前だ。ほかに誰がいる。・・けれどもし実際にあんなところがあるとしたら
響  :あるとしたら。
二人 :薔薇迷宮。

見合わして。
小さい間。

響  :なぜ二人同じ夢を見るの。
茉莉 :それは・・。
響  :千年女王の候補だからよね。あなたも私も・・。窓を開く力があるから見てるのよね。でも千年女王は一人だけ。
茉莉 :私に決まっている。
響  :残念ながら私も窓を開くことが出来る。私も女王かも知れない。
茉莉 :それは。
響  :夢見る場所だけど、悪夢かも知れないって事。少なくとも私の感・・ごほん。私の灰色の脳細胞はそういってる。私が女王なら論理的にいってそうなるもの。
茉莉 :私ならそうはならない。
響  :そう。真実はどちらかにあるはずなのに、どちらも成り立つかも知れない。
茉莉 :はあ?
響  :いい、問題はなぜふたりともあんな夢を見るだろうって事。そして、どうして受け取る感じが違うんだろうってこと。
茉莉 :それは・・

恐竜の咆哮。前とは別の。
二人、びくっとする。
お互いを見る。

茉莉 :何?
響  :それはこっちが聞きたいわよ。

小さい間。

響  :まさかほかにまだ誰かいる?
茉莉 :私たちよりほかに?
響  :千年女王の大安売りね。

と笑った。

茉莉 :案外そいつもあの夢を見てたりして。
響  :まさかね・・

と笑ったが。

茉莉 :銀の薔薇、青い光。紅い薔薇、そうして。
響  :三人目!

バンと暗転。
音楽。

Ⅹ錯綜

ここから二面舞台。(下手)

桔梗 :見つけました。

バンと明転。

ムラサメ:どこ。
桔梗 :青の部屋の手前・・窓がかすかに開いてます。
ムラサメ:誰の
桔梗 :・・さあ

と、にやりとする。

桔梗 :分かりません。
ムラサメ:まあ、いいわ。だれでも。往こう。止めさせないと。
桔梗 :どうして。
ムラサメ:危険よ。これ以上、勝手にさせておくと。現にコントロールが効かなくなり始めてるでしょ。このままほっとくと凍った窓が開いてしまう。そうなれば、世界がメルトダウンしてしまうわ。処分しないと。

と、出かけようとする。
桔梗がついてこないのに、振り返る。

ムラサメ:どうしたの。
桔梗 :後の連絡を一カ所。
ムラサメ:そう。(と、鋭く見て。小さい間)待ってるから。現場でね。
桔梗 :すぐ往きます。

ムラサメがでかけた。
見送って。

桔梗 :・・そう。私。出かけたわ。急いで。時間がない。

切って、辺りを見回し。犬笛を出す。
にやっと笑い。拳銃を取り出し、確認をする。

桔梗 :いよいよね。

拳銃をしまい、急いで後を追う。
バンと明かりが上手に変わる。
ハリネズミとカケルとヤグモがいた。

ヤグモ:ねえ。二人が同時に笛吹くとどうなるの。
カケル:えっ。
カケル:それは。窓が二つ開くだけだろ。

ハリネズミ、真剣に。

ハリネズミ:違うな。
カケル:違う。
ハリネズミ:たぶん地獄を見ることになる。あいつらも、俺たちも。
ヤグモ:え?地獄。
カケル:あんたなんか知ってるね。
ハリネズミ:夢だよ。
ヤグモ:夢
ハリネズミ:見果てぬ夢だ。
ヤグモ:誰の。
ハリネズミ:千年女王の。

明かりがばっと下手に変わる。
響と茉莉。
再び恐竜の咆哮。

響  :近い。
茉莉 :どうするこのままでは巻き込まれる。二人で吹くか。

ぱちっと指ならす動作。(音が出なくともよい)

響  :面白い。それもーらい。
茉莉 :よし。

それぞれ取り出す。
二人素早く吹いた。
ばっと明かりが上手に変わる。
ハリネズミ、カケル、ヤグモ。

ヤグモ:見て!
ハリネズミ:どうした。
ヤグモ:あそこが。

蒼い光が同時に二つ落ちてきた。
音楽。

ハリネズミ:滅多なことは言えねーな。
カケル:どうした。
ハリネズミ:地獄の釜のふたが開いたみたいだ。

音楽
悲鳴。
暗転。

ⅩⅠ薔薇迷宮

音楽は宗教的な音楽に変わる。
溶明。青い光が光条となって降り注いでいる。
下手、上手、奥にそれぞれ大きな格子の入口がある。窓である。
封印され凍り付いた窓が開いた。冷たい霧に閉ざされた窓の世界。薔薇迷宮。
大きな格子の入り口を通って、異形の者たちがうごめいている。
うごめくたびに格子に薔薇の花が咲く。ただし銀色に。
全ては霧に閉ざされている。
やがて異形の者たちは去る。
後には寒々とした銀色の薔薇がからみつく格子状の窓が並ぶ世界。
フローズンウインドウ。凍り付いた窓。廃棄された可能性の世界である。
格子の一つ一つが可能性の世界へつながる窓である。
ただし、それは全て世界から廃棄されてしまった可能性でしかない。
一つだけ、紅い薔薇のからみついた窓がある。
上手の大きな窓からヤグモとカケルが転がり込んできた。

ヤグモ:いったー。
カケル:大丈夫?
ヤグモ:たぶん。ハリネズミは。
カケル:(見回して)はぐれたみたい。

と、起きあがった。
ブルブルっと。

ヤグモ:寒い。

はーっと、息を吹きかける。

カケル:すっかり凍ってる。
ヤグモ:薔薇迷宮?
カケル:たぶんね。
ヤグモ:きれいじゃない。
カケル:地獄の美しさかも知れないよ。

カケルは、窓を覗いては顔をしかめている。
不審そうに。

ヤグモ:どうしたの。
カケル:見て。

と、窓の一つを指さす。

ヤグモ:何。

と、近寄る。

カケル:いいから。
ヤグモ:なん見えるの。

と、のぞいた。

ヤグモ:何これ。

とからだが硬直。

カケル:ほかのも見て。

と、カケル見ていく。
おそるおそるまた別の窓を見る。

ヤグモ:なんだかぬらぬらしてるよ。見たこと無い。ヒルの大きなものみたい。
カケル:もっと見て。

ヤグモまた別のを見る。

ヤグモ:翼があって、あ、でもしっぽもあって、ゲッこっち見た。女の人!なにこれ。
カケル:ハーピーだろ。
ヤグモ:ハーピー。
カケル:お化けみたいなものさ。
ヤグモ:何でそんなのがいるのよ。こんなきれいなとこに。
カケル:可能性だな。
ヤグモ:可能性?
カケル:もしかしたらあったかも知れない。いたかもしれない。進化したかも知れない。ほんとの世界では許されないものばかりいる。それにつながる窓がいっぱいある。封印された窓だ。薔薇迷宮だって、笑っちゃうよ。銀の薔薇か。あるはずのない薔薇。
ヤグモ:あら、でも一つだけ。紅い薔薇。あっ。
二人:紅い薔薇咲く五月に・・・。
ヤグモ:何が起こるの。
カケル:いや、なにか起きたんだ。

カケル、駆け寄って見る。

カケル:えっ。これは・・茉莉・・だよね。
ヤグモ:そう。・・でも。なぜ。
カケル:あ、もしかして・・。これは。
ヤグモ:何よ。さっさと教えてよ。
茉莉 :私も教えてもらいたい。

茉莉が中央奥の格子にいた。
衣裳が違う。

二人 :茉莉!

茉莉がふらっとする。

茉莉 :・・何か知ってるな。
カケル:十分には。
茉莉 :不十分でいい。あの窓から何が見えた。
カケル:あれは。
ハリネズミ:知ったところでどうにもならんさ。
茉莉 :ハリネズミ!
ヤグモ:よかった。ハリネズミ。

冷たく取り合わずに。

ハリネズミ:無駄ですよ。
茉莉 :何が。
ハリネズミ:千年女王になるのは。
茉莉 :どうして。
ハリネズミ:分かりませんか。
茉莉 :わからん。
ハリネズミ:なら、見たらいいでしょう。あの窓を。

茉莉、ヤグモたちを見る。

茉莉 :ろくなものじゃなさそうね。

茉莉、窓を見る。
体が硬直した。
やがて、ゆっくりと離れる。

茉莉 :あれは、何。なぜ、私がいる。

誰も答えない。

茉莉 :答えろ、ハリネズミ、あれは何だ!

ハリネズミむしろ憐れみを込めて。

ハリネズミ:アンドロギュノスですよ。
ヤグモ:アンドロギュノス!
茉莉 :アンドロ・・何。
カケル:男でもあり、女でもある。両性体。伝説の化け物だよ。
茉莉 :化け物?・・でもあれは確かに私だ。

小さい間。
笑う。
ぐらっと来る。
あわててヤグモが助けようとするが。

茉莉 :さわるな!私は大丈夫だ。
カケル:体の調子がおかしいだろ。
茉莉 :大丈夫だ!
カケル:父さんは書いていた。基本的に1000年女王のシステムは蟻か蜂の社会システムに似ていると。
茉莉 :それで。
カケル:一人の女王と、兵隊蟻と、働き蟻。権力は常に一人に集中される。
茉莉 :だから、私が・・。

静かに首を振るカケル。

茉莉 :どうして。
ハリネズミ:資格がなくなったと言うことだ。
茉莉 :資格がない?
カケル:君はもう女王にはなれない。
茉莉 :どういうこと。
響  :そうよ。どういうこと。
ヤグモ:響ーっ。

と行きそうだが、気圧されてやめた。

響  :聞き捨てならないわね。人でなくなったら何か不都合でも生じるの?
カケル:違うんだ。
響  :何が。
カケル:ここにある窓、全然違うんだ。
響  :だから何が。
カケル:世界にはないものばかり。あってはいけないものばかり。
茉莉 :あってはいけない。
カケル:そう。喪われてしまったものや、絶滅してしまったもの、あり得ないもの・・そんなものばかりがつながっている。もしかしたらどこかであるかも知れないけれど、ぼくらの世界からは失われた可能性だよ。
響  :失われた可能性。
カケル:いいや、許されない可能性といってもいい。
茉莉 :どういう意味。
カケル:不適切なものはこの世界から拒否される。捨てられるんだって。
響  :捨てられるって。
カケル:ゴミやなんかいらないものは捨てるだろ。あれと同じ、この世界で必要ないものは捨てられる。存在を許されない。
茉莉 :存在を許されない。
カケル:かわいそうだけれど、アンドロギュノスってものはこの世界にはいらないんだ。
茉莉 :私のいる場所はないという訳か。

間。
茉莉、笑う。

茉莉 :響、この世界は私を必要としていない。私はどこに行けばいい。窓とともに流れて行くしかないか。
響  :(答えず)・・なぜ、アンドロギュノスであっていけない。私はなぜならないの?
カケル:そこまでは・・。
響  :そうでしょ。それってカケルの単なるあて推量じゃない。私みたいに灰色の脳細胞使いなさいよ。

って、あんたのはあてずつぽでしょうが。

ハリネズミ:カケルの言うことは正しい。茉莉はもう1000年女王にはなれない。ここはそういう場所だ。
響  :そういう場所って。
ハリネズミ:廃棄する場所だよ。
茉莉 :廃棄?
ハリネズミ:世界で存在できる可能性を。そうして、存在できないものはここに封印される。
響  :ふーん、詳しいのね。・・ハゲネズミ、背後に誰かいるね。
ハリネズミ:ぎっくーっ。
茉莉 :裏切ったのか。私を。

黙るハリネズミ。

茉莉 :ハリネズミ:!

ハリネズミ、苦笑する。

ハリネズミ:保険をかけたんですよ。
茉莉 :保険?
響  :(冷たく)乗り換えたってことね。
ハリネズミ:人聞きが悪いなあ。私も生きてかなくちゃいけないからね。
茉莉 :お前は。
ハリネズミ:親切でずーっと面倒見てきたと思ってるんですか。冗談じゃない。ボランティアでこんなことは出来ませんよ。
茉莉 :ハリネズミ・・。
ハリネズミ:1000年女王になれないあなたなど何の値打ちもありません。

茉莉、悲しげ。
響、さらに冷たく。

響  :なら誰に乗り換えたの。
茉莉 :まさか、夢の中の三人目。
ハリネズミ:しらねえなあ。
響  :その頭ほんとにハゲにしちゃうよ。
ハリネズミ:その口、マンモスにくわしたろか。
響  :がたがた言わずに相方吐いたらどう。
ハリネズミ:俺は口が堅いんだよ。

にらみ合うところへ。

茉莉 :オフィスムラサメか。
ハリネズミ:ゲロゲロっ。
ヤグモ:ムラサメ?まさか。
茉莉 :あそこで罠にかけられた。他に考えようがなかろう。ムラサメそれとも桔梗か。
ハリネズミ:ご想像に任せますよ。
茉莉 :いつから裏切ったハリネズミ。
ハリネズミ:蒼の部屋以来のつきあいだ。
ヤグモ:さいってー。
響  :でも何か忘れてんじゃないハゲネズミ。
ハリネズミ:何を。
響  :私だって、まどガバガバ開けられるのよー。私が1000年女王だったらどうすんの。
ハリネズミ:そんなこと・・あるわけが・・
響  :あるんじゃなーい。私はアンドロギュノスなんかじゃないもの。

ハリネズミ、自信が揺らぐ。

響  :ほらほらどうしたの。も一人の女王様候補はどこ行ったの。案外そいつもはずれだったりしてね。
桔梗 :はずれとは人聞き悪いな。

ムラサメと桔梗がいた。

ムラサメ:薔薇の迷宮へようこそ。響、それに・・綾瀬ユキ。いいえ茉莉。
茉莉 :私を罠にかけてうれしいか、三人目。

ムラサメ少し困惑している。

ムラサメ:三人目の話なぞしらないね。それより手間をかけさせてくれたわね。とうとうこの凍り付いた窓まで開いてしまった。やっぱりあのとき始末しておくべきだつたのよ。そうでしょハリネズミ。
ハリネズミ:あのときは仕方が無かろう。
茉莉 :あの時とは何だ。ハリネズミ。
ムラサメ:神林恭一郎とハリネズミがあなた達を助けた大昔。助けるべきじゃなかった。
響  :そこにいたようなこと言うじゃない。
ムラサメ:いたからねお嬢さん。
茉莉 :青の部屋に・・。
ヤグモ:え、じゃあんたも千年女王・・まさかあおばさんが・・・。
ムラサメ:(笑って)そうよ、万年女王よって。何言わせるの。最終処分が決まるまで飼育していただけよ。ハリネズミが変な同情したばっかりに責任取らされたけどね。
カケル:それで今まで監視してたのか。
ムラサメ:見つけるのに随分苦労したけど。
響  :ほっときゃいいのにね。
ムラサメ:千年女王のなりそこねは危険だからね。
茉莉 :危険。
ムラサメ:あなた達は世界を壊してしまう。ここのものではないものはしょせん。
響  :ここのものではないって。
ムラサメ:(口が滑ったという顔)何でもない。あのとき処理をしておくべきだったということだ。
カケル:処理ってのは穏やかじゃないね。
ムラサメ:世界が狂ってしまうのはもっと穏やかじゃないと思うけど。どう紅い薔薇の咲く五月、化け物になる気分は。
茉莉 :言う必要はない。
響  :あほくさ。

とぼけた声。

響  :人であろうが化け物だろうが茉莉は茉莉でしようが。
桔梗 :威勢がいいわね。
響  :絶好調だからね。
ムラサメ:かわいそうだけどここで氷漬けになって死ぬのよ。ハリネズミ。それにとーってもお若いヤグモたちもね。
ヤグモ:むっかー。
ハリネズミ:そんなことは聞いてないぞ。
桔梗 :間抜けなお方。
ムラサメ:死人は口を利かない。これは秘密を守る鉄則でしょ。
ハリネズミ:くそっ。うらぎったな。
桔梗 :裏切るも何も、最初から味方なんかではないわ。
ハリネズミ:くそーっ。うがーっ。
茉莉 :これが現実か・・私はどうやらほんとに化け物らしい。(笑う)
響  :茉莉。
茉莉 :よかろう。私は化け物として生きてやろう。この凍り付いた世界で。
響  :何言ってるの。
茉莉 :お前は還れ。1000年女王になるんだろ。
響  :そんなものになる気はないよ。
茉莉 :なる気ないって。
響  :人の心をおかしくして現実見えなくしてしまう。こんなシステムぶっこわしてやる。
ムラサメ:壊せはしないし還れもしない。まして千年女王にはお前はなれない。
桔梗 :1000年女王には私がなるもの。
ムラサメ:・・桔梗。

と、振り返る。

ムラサメ:・・何、馬鹿なことを言ってる。
桔梗 :どこがですか。

と、銃口を向けた。

ムラサメ:桔梗。お前。

桔梗、笑う。

桔梗 :私が三人目と言ったら。
ムラサメ:ばかな。あのとき助けられたのは。
ハリネズミ:あり得ない。響と茉莉の二人だけのはず。
桔梗 :そうよでも覚えていない?もう一人かわいい女の子がいたのを。
ムラサメ:もう一人・・・あっ。
桔梗 :思い出してもらえたかしら。
ハリネズミ:まさか、一足先に処分されていたはずだ。
桔梗 :(にっこり笑って)そう、その子が私。
ヤグモ:何でこんなことするの。
桔梗 :復讐とでも言ったところかしら。
カケル:復讐?
桔梗 :私は一人で逃げたわ。でも響は神林恭一郎が、茉莉はハリネズミが助けた。
響  :なんだひがみか。
桔梗 :十歳だったわ。処分されると分かったとき、赤ん坊同然のあなた達より私が一番女王に近かったのに。必死で逃げて、ネズミの街に潜り込んだ。惨めよね。十歳の子供が一人で生きていくのは。生き延びるためなら何でもやった。物乞い、かっぱらい、スリ、置き引き。何にも希望がもてない惨めな毎日だった。そんなとき偶然ムラサメ見つけ、そうして知ったの、てっきり処分されたはずのあんたたちが助けられてぬくぬくと生きているのを。その時私にも希望が生まれた。私は一人で生きてやる。いいえ一人で生きる必要がある。生きて、生きて、生き抜いて、ハリネズミと神林恭一郎に復讐し、私が千年女王になるために。
ハリネズミ:最初から俺を恨んでいた訳か。
桔梗 :探したわ随分。見つけたときは嬉しかった。これでやっと復讐できるってね。
ハリネズミ:それで、近づいた。
桔梗 :楽しかったわよ。化かし合いも。
ムラサメ:それで私のところに潜り込んだ訳か。
桔梗 :はい。面白かったし随分助かりましたわ。おかげで神林恭一郎にも。
響  :(鋭く)お父さんに何した。
桔梗 :別に。風邪引いて亡くなったんですってね。怖いわね夏風邪も(邪悪な笑い)
響  :まさか。
桔梗 :まさか。(からかう感じ)
ムラサメ:だましてた訳ね。孤児だと思って親切にしてやれば。1000年女王のなり損ねとはね。
桔梗 :勝手にそちらが誤解しただけ。安心して。窓は私が管理するわ。
ムラサメ:窓を迂闊につつくんじゃない。世界が崩壊するよ。
桔梗 :(笑う)脅かしてもダメ。お人好しのムラサメさん。そろそろ茶番劇は終わりにしましょ。
ムラサメ:そうね。終わりにしましょう。お前もその二人もここで死ぬ。
桔梗 :みんな死んだら女王はいなくなるのよ。
ムラサメ:システムは次の女王を選んだはずだ。
桔梗 :誰を。
ムラサメ:お前が知る必要はない。
桔梗 :(笑って)なら帰ってからあいましょう。その新しい女王とやらに。
ムラサメ:帰さない。
桔梗 :(笑って)どうやって。
ハリネズミ:お前には千年女王は無理だからだ。
桔梗 :それはどうかしらね。地獄で見てたらいいわ。元警備隊長水島謙さん。

あざ笑う響。

桔梗 :何がおかしい。
響  :まるっきり逆恨みね。
桔梗 :神林恭一郎が何であんたみたいな性悪小娘を助けたのか分からないわ。
響  :世界一可愛いからに決まってるでしょ。

おいおい。逆なでしちゃいかんでしょ。

桔梗 :神林響!今すぐ死にたいの!

と銃口を向けた。
ほらいわんこっちゃない。

響  :撃つならちゃんと心臓ねらいなさいよ。顔に当てたら承知しないからね。
桔梗 :なんだって。
響  :あんたこそ、性悪よ。すねて、ひがんで、逆恨みして、人の心もてあそんで。そんなの千年女王になられたら大迷惑だわ。
桔梗 :言うことはそれだけ。
響  :これだけ言えば十分じゃない!
桔梗 :そうね。これだけ聞けば十分だわ。

笛を吹こうとする。

ムラサメ:やめろ!
 
ムラサメうとうとするが。
桔梗に冷酷に撃たれる。
倒れるムラサメ。

桔梗 :手間がかかる上司ね。では。あなた達。薔薇迷宮で凍り付くがよい。

笛を吹く。何も起こらない。桔梗の衝撃。
もう一度吹く。何も起こらない。
ムラサメが笛を見せ。

ムラサメ:(苦しげに)出来ないと言ったでしょ。
桔梗 :くそっ。
ムラサメ:それに、いったん閉じこめられるとなり損ねの力じゃ開かないのよ、ここの窓は。
桔梗 :黙れ!

もう一度撃つ。
ムラサメ死ぬ。
笛がこぼれる。すかさずヤグモが拾う。
あざ笑う響。

響  :哀れな笛吹ね。笛を吹いても誰も踊らないわ。
桔梗 :それをよこせ。

ヤグモをうとうとする。

ハリネズミ:もう終わりだよ。あきらめろ。

と、カバーする。

桔梗 :ならば死ね。

と、うとうとする。
思わず響笛を吹く。

桔梗 :お前が吹いても窓など開くか。

音楽。
光条。
桔梗の悲鳴。

桔梗 :馬鹿な!なんでお前が!・・何これ。焼け付く。身体が。
響  :あんたこそなりそこねの化け物よ!

蒼い光条が集中する。
発射音。悲鳴。暗転。音楽。

ⅩⅡ帰還

溶明。
薔薇は消えている。
だが、蒼い光の中で紅い薔薇の花びらが緋緋として降っている。
ハリネズミが肩を打たれうずくまっている。ヤグモが支えている。
茫然と見上げている茉莉。
警戒している響とカケル。

カケル:大丈夫。
ヤグモ:私かばってハリネズミが・・。
響  :天罰よ。
ハリネズミ:なにを・・いててて。
ヤグモ:大丈夫。
ハリネズミ:ああ。還ってきたのか。
茉莉 :私はここにいる。

ぼそっと言う。
みんなが茉莉を見た。
小さい間。

響  :ちょっと世界が狂ったのよ。

と、薔薇の花びらを受ける。

茉莉 :私のせいか。
響  :それでもいいじゃない。

何かの声。

ヤグモ:あれは。
カケル:確かに少し現実が安定しないかもね。
茉莉 :響は本当にならないのか。
響  :女王なんかいなくったって、生きていけるよ。
茉莉 :変わってしまったこの世界で?
響  :違うわ。この世界が正しい世界なのよ。

小さい間。

茉莉 :そうか。・・ハリネズミ、今まで世話になった。
ハリネズミ:世話になったって。
茉莉 :どうやら私はここで生きていけるらしい。だが化け物の生き方はよくわからん。探すしかない。響。
響  :何。
茉莉 :有り難う。お別れだ。

くるっと回って颯爽と去る。

カケル:全然変わらないね。
ヤグモ:化け物の千年女王になりそう。
響  :ありそうね。(笑って)

みんな上を見る。

ヤグモ:先往くよ。ハリネズミの手当しなきゃ。
ハリネズミ:すまんな。
ヤグモ:何いってんの。

二人去る。
見送って。

響  :カケル、どうする。
カケル:どうするかなあ。窓、壊れたみたいだし・・。
響  :私の家来る?
カケル:いってやってもいいけど。

歩き始める。

響  :行くとこもないくせに。
カケル:こき使われそうだなあ。
響  :ま、それなりに。

去りながら。
暗転。
音楽。

ⅩⅢエピローグ

溶明。
探偵事務所。
薔薇の花びらが散っている。格子はない。
イスが一個。
イスの上に紅い薔薇。
ヤグモが入ってくる。

ヤグモ:おっはよう。っていってもお客も来ない。相変わらず不景気なよろづ相談探偵事務所。世の中ってけっこう冷たいのね。あーあー。まった花びらが。

と、愚痴こぼしながら、掃除道具を取りに行く。
袖で誰かに。

ヤグモ:もー、ちょっとは掃除をしてよね。何であたしばっかりやらなきゃいけないの。あたしは働いてるの。いそがしいのよ、もー。

と、ぼやいている。
掃除道具を持ってきて、掃除をはじめる。
気持ちよく掃いているが、掃いても掃いても後から花びらが落ちてくる。
にらみつけて。

ヤグモ:確かに世界は狂っちゃってるね。

と、薔薇を口にくわえて。

ヤグモ:花は降るー、あなたはこないー。

歌ったと思うや、切れて、うおーっと、落ちてくる花びらと格闘する。
やがて、天上に向けてファックユーをやってしまう。
花びら落ちるの止まる。

ヤグモ:けっ。

と、満足して掃き出すが。
うんざりして。

ヤグモ:にしても、毎日、毎日、これじゃあねー。

と、ぼやきながら掃いている。
響が様子をうかがいながらささつと入ってくる。

響  :また掃除?
ヤグモ:見ての通り。・・また逃げてるの。
響  :警備局うるさいもの。
ヤグモ:システムがあんたを女王に選んだんでしょ。年貢おさめたら。
響  :やだね、あんなもん。
ヤグモ:なら、もうちっとやり方あったと思うけど。

と、掃除にうんざり。

響  :やっぱりちょっとまずったかなあ。
ヤグモ:茉莉はあそこに残るつもりだった。化け物としてね。響がこちらへ連れてきたんだ。おかげで世界は少し狂ってしまった。

小さい間。

響  :ま、化け物だって、化け物なりに生きて行かなきゃいけないからね。
ヤグモ:素直じゃないね。
響  :なんとでも。でも、少しおかしい現実って面白いでしょ。
ヤグモ:まあね。
響  :楽しまなきゃ。
ヤグモ:責任転嫁よ。

ところへカケルがバラの花束抱えてすっ飛んでくる。
こける。

カケル:いったー。
ヤグモ:あれまだいたの。
カケル:いやあ、帰れなくなっちゃった。・・どうも。今、居候。
ヤグモ:そりゃそりゃ。へっへ。

と、二人を見る。

響  :なによ。

ヤグモ:別に。それよりどうしたの。
カケル:これっ!
ヤグモ:私に花束?
カケル:ちがーうっ。これ。

メッセージカード。

響  :何。・・響へ。世界は少しずつ狂いはじめている。千年女王の責任を果たしなさい。私と会える日まで。恭一郎。・・神林恭一郎・・お父さん。なにこれいたずら。
カケル:にしては手が込んでるし、誰もそんなことをする意味はない。
ヤグモ:すると神林恭一郎が生きてる?まさか。
カケル:だろう。けど、誰かが送ってきた。しかも、世界は・・。
ヤグモ:可能性の世界と融合してる。
響  :ひっかかってることあるのよね。
ヤグモ:何が。
響  :私と茉莉がここの者じゃないっていったのよね。
カケル:あ、あれ。
響  :お父さん知ってたのかな。(小さい間)何で私を助けたのかな。
カケル:ということは。
ヤグモ:茉莉と響の秘密?

二人響を見る。
間。

響  :確かめる。
ヤグモ:よっし。いこう。
響  :5分ちょうだい。
ヤグモ:お茶が一杯飲めるわ。ハリネズミ、入れて。濃いめのダージリン。
ハリネズミ:用意できてるよ。

と、顔を出す。

カケル:あ、お前・・すると。

と、二人を見る。

ヤグモ・ハリネズミ:へへっ。
響  :あら今度はヤグモに乗り換えたの?
ハリネズミ:何とでも言え。
ヤグモ:響は何にする。
響  :ぬるめの緑茶。
ヤグモ:相変わらずね。
ハリネズミ猫舌か。
響  :やかまし。おいしくなかったら承知しないからね。
ハリネズミ:けっ。

と引っ込む。
興味深そうに見送っていたカケル。

カケル:このこのー。
ヤグモ:へへーっ。
カケル:どうして。一体いつ?
ヤグモ:ヒ・ミ・ツ。
カケル:やってらんねーなー。
ヤグモ:あら、お互い様じゃない?
カケル・響:違う(わ)よ。
ヤグモ:へー。
響  :もーっ。

ところへハリネズミが持ってくる。

カケル:では乾杯といきますか。世界の混沌と
ヤグモ:神林響の冒険最終章に。
響  :終わればいいんだけどね。
カケル・ヤグモ:まだつづくの?
響  :作者に聞いて。

音楽。
また、花びらが降って来る。
みんながそれぞれ乾杯でストップモーション。
To Be Continued 「神林響の冒険第三章・・響最後の挨拶・・」

【 幕 】

 


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