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「二十三の瞳」・・・あるいは夢で一杯の海・・・


★登場人物
 マルコ・・・
 船長・・・・
 卑弥呼・・
 ナギ・・・・
 伊豫・・・・
 猫・・・・・・
 きよ・・・・
 より・・・・
 夢見(阿鳥・夏女・赤目)
 指揮官・コマンド達日傘の女などなど


プロローグ

静かな水滴の音がいつまでも続く。
ぼんやりした明かりの中、どこか、ひどく懐かしい気がする、遠い空間の中。
待ち続ける、片目のきよちゃん、よりちゃん。二人の背後には、階段がある。二人は待ちつかれている。

きよ:なー。・・・・よりちゃん。なー。
より:あー。
きよ:なー。よりちゃん。
より:あー。
きよ:こないな。
より:あー。
きよ:くるかな。
より:あー。
きよ:あー。
より:いー。
きよ:うー。・・・よりちゃん!
より:なんだい、きよちゃん。質問は簡単に。
きよ:いつも僕は簡単だ。
より:そうか。よかったな。
きよ:うん・・。おい!・・・帰るぞ!
より:かえれよ。
きよ:はい。・・・そうはいくか。なー。よりちゃん真面目にやろうよ。
より:おれは真面目だ。
きよ:うそだ!
より:うそだ。
きよ:おい!

変な間

きよ:しずかだな。
より:ああ。

水滴の音、くっきりと聞こえ。やがて背後に退く。

きよ:・・・もうこないよ。
より:・・・・きよちゃん。もう少し待とう。きっと来るはずだ。
きよ:・・・僕は来ないと思う。もう随分待ち続けたもの。もう十分だ。
より:夢をみた。
きよ:え?・・うそだろ。
より:本当だ。夢だと思う。
きよ:レプリはみないんだよ。
より:でも、おれはみた。
きよ:いつ?
より:忘れた。でも見た。
きよ:どんな夢だ。
より:日傘の女。
きよ:日傘の女?
より:おれたちがいる。その人はゆっくりとおれたちの方へ歩いている。くるくると回る日傘に夏の日がまぶしく輝いて、表情はわからない。さ わやかに吹きわたっていく風につややかな黒い髪と白いうなじがこぼれ。日傘はゆらゆらと揺れ、こみ上げる懐かしさはほとんど苦しさ さえ感じる。
きよ:それで・・・

日傘の女、微かに通り過ぎてゆく。

より:なぜだか知らないが、こういう確信がこみ上げる。ああ、この人は、きっとおれたちに向かってこういうだろう。「お話があるの」・・・
きよ:・・・それから。
より:それだけだ。
きよ:それだけ?あとは?(より首を振る)・・・なんだ。疲れてるね。
より:疲れてる?
きよ:待ち疲れて見るはずの無い夢を見た。それだけだよ。
より:いいや。あの人は必ず来る。・・・だから、待つんだ。いつか、きっと帰ってくる。そうしたら・・・
きよ:確信はあるのか。
より:夢だ。・・・あれば、待ちはしない。
きよ:・・・わかった。・・待とう。
より:ありがとう。じゃ。
きよ:・・・うん。

二人はまた待ち続ける。
ぼんやりと暗くなり、やがて星明かりの中、大きな天宮図が支配する空。
微かな明かりの中に浮かび集まってくる十二人の人々。口々に何事かをつぶやき続けている。

Ⅰマルコ

コマンド達:十と二人が夢をみる。二十と三の夢を見る。紅い月が落ちるとき十と二人の瞳が開く。瞳開けばその奥に二十と三の夢がある。鏡の 向こうにゆらゆらと二十と三の夢を見る。十と二人が夢をみる。

突然に激しい、戦闘服に身を固めたコマンド達の動き。ゲリラ戦のようでもあり祭のようでもある。昔から革命はお祭だ。彼らがはける と、階段にマルコと、船長がいる。

マルコ:騒がしいな。
船長:おおかた、よっぱらってんでさ。
マルコ:君とは違うよ。
船長:こいつはご挨拶だ。
マルコ:どこだろうここは。
船長:どこかはわかりません。紡がれつづけた夢の果て。マリアの逃げこんんだ巣でもありましょう。
マルコ:どうしてわかる。
船長:ありうべくはずもない歴史。めちゃくちゃなどと言うも恥ずかしいほどの混乱した世界。全くマリアのやりそうなこって。どうやらいるは ずもない卑弥呼までおりますようで。
マルコ:何だって卑弥呼がいるんだ。
船長:私にいわれても。文句ならマリアにおっしゃい。あいつのおかげで、時は乱れるは、所はわからないわ、年代なんかあって無きが如し。現 代だろうと、卑弥呼だろうと、ごちゃごちゃのカクテルと同じ、悪酔いするばかりで、何の意味がありましょう。所詮、時の流れにしる されたレッテルかラベル。ビールの銘柄ほどにも信用できますまい。
マルコ:二日酔いだからといってあたるなよ。僕は単純に言おう。ここは誰の夢だ。
船長:ここの今ですか。
マルコ:そう、まさしくここの今。時間連続体の現在。僕たちが呼吸している今ここだ。いくつ今があったってかまやしないが、それでもやっぱ り今ここにいる今が心地よいさ。
船長:ややこしいことを言われる。たぶんマリアの現在。
マルコ:いつだ。
船長:今です。1991年。とれたての現在。
マルコ:わからんね。
船長:わたしにもわかりません。ただ、おそらくは。
マルコ:恐らくは。
船長:これが最後かと。
マルコ:ふん。それじゃ、あまり時間はないね。
船長:確かに。
マルコ:とうとうここまできてしまったか。
船長:とどのつまりといいたいでしょうが、つまらぬ感傷はおやめなさい。
マルコ:とどのつまりとどがつまった。どうして、立派な事実だよ。
船長:確かに。けれども。
マルコ:けれども?
船長:万に一つの。
マルコ:もしかしたらかい。
船長:はい。そのもしかがおこるかも。
マルコ:気休めはやめておこう。
船長:骨休みでもない、パンドラの箱です。
マルコ:え?
船長:最後に残ったもの。
マルコ:・・
船長:希望ですよ。
マルコ:夢と似たものだね。いつも裏切られる。
船長:皮肉ですか.
マルコ:・・・卑弥呼だと言ったね。
船長:調査では。
マルコ:マリアがいるかい?
船長:あるいは。
マルコ:その「あるいは」にどんなに裏切られ続けたか。
船長:裏切られるも人生のうちです。
マルコ:悟ったような口を言う。
船長:長生きはしてみるもので。

赤い火が見える。ざわめきが聞こえる。

マルコ:あれは何だ。祭かな?

船長しばらくのぞいているが。

船長:戦でもありましょうか。威勢のいいことで。
マルコ:戦っているのは?
船長:さあ。しかとは。
マルコ:いいよ。行けばわかる。僕は卑弥呼のもとに行こう。
船長:マリアであればいいんですがね。
マルコ:祈るんだね。
船長:あいにく、私は無神論で。
マルコ:僕もさ。・・・レプリに神はない。
船長:・・・少しひえますな。いきましょうか。
マルコ:ああ、夢は見飽きた。夜がもうあける。いこう。

非常警戒警報「東部第4軍管区発表。新羅軍東部戦線にて、昨夕より大規模なる侵攻を開始。わが軍は勇戦これを撃退中。神聖マリア帝 国臣民諸君は各自の任務に精励されたい。卑弥呼は諸君とともにある」
戦闘服のコマンドたち、勢いよく、ふたたびなだれ込んでくる。
二人消える。

コマンド1:(無線機に向かって)チェックメイトキング2よりレッドポーン3へ。聞こえますかどうぞ。チェックメイトキング2よりレッドポ ーン3へ聞こえますかどうぞ。・・・了解。・・マリアは宮殿にいます。
コマンド指揮官:よし。(GOサインを出す。一同いえーっ)用意はいいかい。(ひゅーひゅー!)今宵は紅い月。レプリも夢をみるときが来た よ。(ひゅーひゅー)

コマンド1:チェックメイトキング2よりレッドポーン3へ「卑弥呼の瞳は閉じられる」繰り返す「卑弥呼の瞳は閉じられる」オーバー。(指揮 官に向かい、準備OKです!
指揮官:アーユーレディー。
一同:いぇー。
指揮官:私たちはなんだい。
一同:レプリカント!
指揮官:卑弥呼はなんだい!
一同:レプリカント!
指揮官:卑弥呼は夢を見るのさ。

一同、ぶーいんぐ。

指揮官:私たちは夢を見ないね。

一同、ぶーいんぐ。

コマンド2:おれたちに夢を返せ。
コマンド3:レプリは夢をみちゃいけないか。(ひゅーひゅー)
指揮官:私たち夢を見る。
一同:おれたちは夢を見る。
指揮官:レプリカントは夢を見る。
一同:レプリカントは夢を見る。
コマンド1:チェックメイトキング2よりレプリカントチャイルドへ、チェックメイトキング2よりレプリカントチャイルドへ。レプリカントは 夢を見る。繰り返すレプリカントは夢を見る。オーバー。(指揮官に向かい、準備OKです!
指揮官:みんな、合図だよ。夜明けは近い。(おーっ!)目標、最終的には卑弥呼宮殿。
一同:レプリに夢を、レプリに自由を!
指揮官:いくよ!
一同:やーっ!

ときの声。
コマンドたち、踊るように去る。

Ⅱ卑弥呼宮殿

と、そこは卑弥呼の宮殿。ナギが入ってくる。
暗い目をしている。ひっそりとした間。
三人の夢見が静かに入ってくる。

ナギ:夢見か?(三人、うなづく)
赤目:赤目にございます。
ナギ:過去はよいのだ。過ぎたことは仕方あるまい。
夏女:夏女にございます。
ナギ:現在も要らぬ。阿鳥はどこか。

二人控える。
ひっそりと阿鳥たたずむ。

阿鳥:夢を尋ねてどうなされます。
ナギ:先を知りたい。紡がれる夢の中にある真実を。
阿鳥:笑止なことを申される。未来は夢の中にはありませぬ。
ナギ:承知。だが、私に取って夢は未来。聞きたい。
阿鳥:お話なさいませ。
ナギ:薄ぼんやりと輝く闇があるのだ。はるか彼方から続く階段があってな。日傘を差した女がゆっくりと通る。待っている者の所に確かに歩み 続けるのだが、いつまでも行き着かない。私はなぜか、その女を待っていることを知っている。だから、じっと待ち続ける。確かに遠く にその姿は見えるのだが、いつまでもやって来はしない。こんな夢だ。
阿鳥:人は自分の聞きたいことしか聞かぬもの。あなたさまもそれでありましょう。夢見に聞いたとて無益というもの。

赤目・夏女笑う。

ナギ:確かに人であれば。
阿鳥:人でございましょう。
ナギ:人であればこそ、もう一度聞く。
阿鳥:・・・お人払いを。
ナギ:(衛視に)ゆけ。・・・さて、どんな夢見かな?
阿鳥:マルコにお聞きなされませ。
ナギ:マルコ?だれだそいつは。
阿鳥:さあ。
ナギ:さあ?知らぬ奴に聞けというのか?
阿鳥:向こうからやってきます。
ナギ:どこから?
阿鳥:いつからと言えばよいでしょう。
ナギ:いつから?
阿鳥:時の闇の中から現れます。
ナギ:やくたいもない事を。
阿鳥:夢見は嘘は申しませぬ。マルコがあなたの時を知らせましょう。
ナギ:どんな奴だ。
阿鳥:卑弥呼様に似ております。
ナギ:卑弥呼に・・・もっと詳しい事を言え。
阿鳥:これ以上は。・・・ご用心なされませ。

時女たち笑う。

ナギ:もうよい。下がれ。

時女たち消える。
卑弥呼が現れる。

卑弥呼:もう、夢見は終わりか。
ナギ:これは、卑弥呼さま。相変わらずお美しいことで。
卑弥呼:世辞として聞き置く。それより、決心はついたか。
ナギ:いささかのご猶予をいただきたく。
卑弥呼:娘を差し出すのはさすがにいやだと見えるな。
ナギ:そうではございませぬが。伊豫の考えも聞きたく思います。
卑弥呼:まだ聞いておらぬのか。あいかわらずじゃな。
ナギ:・・・
卑弥呼:ナギは考えすぎるのだ。人はそれを熟慮と言うが私の目には、グズとしか見えぬ。いわゆる一つの優柔不断という奴だな。
ナギ:恐れ入ります。
卑弥呼:伊豫の答は聞かぬでもわかる。あれは、私に似ている。さだめにあらがうことなど思いもせぬ。ナギ!
ナギ:はっ。
卑弥呼:時間がない。わかっているな。
ナギ:はっ。
卑弥呼:市内では不穏な空気が漂っておる。卑弥呼打倒などというアジビラが堂々と張られておる。
ナギ:責任を痛感しております。
卑弥呼:ふん。自分で火をつけて、自分で消すか。
ナギ:はっ?
卑弥呼:なんでもない。情勢はよくない。市民達は動揺している。革命が起こるか、戦争が始まるか。どっちにしても余りぞっとせぬな。もつと も内乱を革命戦争へなどという向きもあろうがの。
ナギ:・・・
卑弥呼:(吹っ切るように)よい返事を期待している。・・・朝までだ。それまでの時間お前にやろう。よいな。
ナギ:確かに・・・

卑弥呼去りかかる。振り返り

卑弥呼:マルコというものが面会を求めておる。お前の知り人か?

ナギ、答えようとするが、卑弥呼そのまま皮肉な笑みを浮かべて去る。

ナギ:朝までだと。・・何ということだ。時間がない。・・・誰かある!

衛兵やってくる。

ナギ:伊豫を呼べ。至急だ。私の部屋へ来いと言え。

衛兵去る。

ナギ:マルコが来た?夢見か。不思議なことだな。何が起ころうとしているのか。・・いや、それどころではない。

ナギ、去る。
やや溶暗して、溶明。

Ⅲ街角

市民たちにアジビラが撒かれている。
コマンド指揮官アジテーション。

指揮官:みんな、いきてるかい。私たちはレプリだ。こんなものをもたなきゃ街にもでれない。

徘徊許可証を取り出す。市民ブーイング

指揮官:そうだ。徘徊許可証だ。お天道様の下歩けるのは、この徘徊許可証あってのこと。ありがたいことさね、卑弥呼様は。卑弥呼様は夢を見 られる。私たちとは違うんだ。

コマンド1:ありがてー神聖マリア帝国だからよ。
コマンド2:ありがてーマザーだからよ。
コマンド3:おれたちは、卑弥呼の子。
コマンド4:夢の子どもだ。

激しいブーイング。

指揮官:夢の子供なら、夢を紡ぎたいだろ。けれど私たちの生命は短い。なぜだ。
コマンド1:夢を見ないレプリだからよ。ありがたすぎて、涙も出ねえよ。
指揮官:情報が入った。こよい。祭儀が始まる。
コマンド2:許しゃなんねえ。そうだろ。
指揮官:卑弥呼はもはや夢を見ることはない。
コマンド3:見ることはねえ。
指揮官:さあ、許可証をやぶれ。

許可証を破る。次々と。

指揮官:卑弥呼にもはや夢はみさせないよ。祭儀をつぶそう。いいね。(ひゅーひゅう)

神聖マリア突撃隊登場

突撃隊①:うだうだいうとるのは誰や。
突撃隊②:神聖マリア帝国をおちょくってからに。
突撃隊③:いいかげんせえよ。こらあ。
突撃隊④:卑弥呼様は許してもこの神聖マリア突撃隊はゆるさへんど。おら。
突撃隊⑤:夢の子どものくせさらして、あまえとるやないけ。
突撃隊②:レプリはレプリらしゅう、おとなしくはたらいとりゃええんや。
突撃隊③:許可証破ってからに。どんなことなるか、わかっとるやろろな。ええ。
突撃隊①:おい、こら。なんとか、いうたれや。

コマンド①ばり雑言。

突撃隊①:おんどれ。なめとるな。こいつら、いてまえ!(おーっ)

コマンドたち、引く。突撃隊たち追っかける。
マルコ登場。

マルコ:随分騒々しいな。

猫、登場。

猫:本当だな。
マルコ:誰だ。
猫:猫と呼んでいいよ。
マルコ:猫?奇妙な名前だ。
猫:僕は気に入ってるんだがな。
マルコ:それで。
猫:ご挨拶だね。そっけなくしなくても言いだろう。
マルコ:なれなれしいのは好きじゃない。
猫:君らしいな。
マルコ:何か用かい。
猫:卑弥呼にあうのか。
マルコ:なぜそれを。
猫:いろいろとルートがあるもんで。・・・時間はあまりないんだろ。
マルコ:だからどうした。
猫:気になってね。
マルコ:どうして。
猫:いまにわかるよ。又逢おう。
マルコ:まてよ。いやに気をもたせるじゃないか。何を言いたいんだ。
猫:二十三の瞳。
マルコ:え?
猫:君は二十三の瞳だ。
マルコ:「二十四の瞳」なら読んだことがある。
猫:はぐらかしが上手いな。お前の片目だよ。
マルコ:僕の目は一つだ。
猫:そりゃそうだ。封印されてるんだろ。
マルコ:なぜ知ってる。
猫:なぜだか、僕は知っているのさ。・・・マルコ。見ろよ。

別の空間が現れる。ナギと伊豫がいる。

ナギ:では、どうあっても考え直さないのか。
伊豫:はい。申し訳ありません。
ナギ:奇妙なことを言う。申し訳ないのは私だ。お前をこんなことで失うとは・・・。
伊豫:卑弥呼様を恨まれてはなりません。これはわたくしの定めなのです。父上。なげかなくともよいのです。わたくしは幸せです。
ナギ:・・・幸せか・・・
伊豫:はい。
ナギ:父はそうは思わぬ。ほかに方法もあろう。いくら定めとは言え、生け贄にならずともよいではないか。
伊豫:では、卑弥呼様にそうおっしゃって下さい。
ナギ:・・・・
伊豫:父上。わたくしがならずともほかの誰かが生け贄の祭儀に連なることとなりましょう。卑弥呼様の意志は誰にも止められませぬ。そのこと はほかならぬ父上がご承知のはず。
ナギ:・・・・
伊豫:お嘆きなさることはありませぬ。伊豫は幸せですから。
ナギ:幸せと言うのか。
伊豫:はい。
ナギ:死ぬのだぞ。
伊豫:喜んで。
ナギ:この腐りかかった神聖マリア帝国の為に?
伊豫:はい。
ナギ:私は、大事な娘をたかがそんなものと交換せねばならないのか。
伊豫:定めでありますれば。
ナギ:定めか。
伊豫:はい。
ナギ:・・・もうしばらく時間をくれ。
伊豫:伊豫のこころは代わりませぬ。
ナギ:・・・わかっておる。わかってはおるのだ・・・だが・・・

ふたたび空間が戻る。

猫:見ただろ。
マルコ:あれはなんだ。
猫:何だと言われても困る。あれはあれだ。
マルコ:あれはあれか。
猫:それはそれだ。
マルコ:これはこれか。
猫:お前動揺してるな。
マルコ:当たり前だ。
猫:かわいいからか。
マルコ:何だって。
猫:かわいいからかと聞いたんだ。
マルコ:そんなことが何の意味を持つ。
猫:聞いてみただけだ。ヒロインはかわいいほど悲劇がよく似合う。
マルコ:聞いたふうなことを言うな。
猫:悲しい奴だな。
マルコ:誰が?
猫:お前さ。
マルコ:僕が。
猫:そうだ。
マルコ:どうして。
猫:(答えず)伊豫をどうする。
マルコ:どうするって。
猫:放っておくのか。
マルコ:・・・
猫:生け贄になるんだぜ。
マルコ:生け贄?
猫:どうやら、ここのしきたりらしいな。かわいそうに。
マルコ:そんなこと言える義理か。
猫:言えるんだよ。マルコ。言えるんだ。
マルコ:どういうことだ。
猫:(答えず)鏡を見ろよ。真実はそこにある。
マルコ:何だって?
猫:又逢おう。
マルコ:おい、待てよ。待てったら。

市民たちでてくる。革命の熱気が溢れる。やっぱり革命はお祭だ。猫、その中に消える。

マルコ:どういうことだ?僕の目がどうしたって?

市民たちの熱気の中立ちすくむマルコ。巻き込まれて退場。
船長出てくる。

船長:ああ、どこへいっち待ったか。世話が焼けるこった。こんなに急場だと言うのに。マルコ!マルコ!・・・卑弥呼にゃ会えないし、マルコ にゃはぐれる。おまけに町は革命騒ぎと来ている。これはなかなかのもんだぞ。うん。たしかに、こいつはなかなかのもんだ。どうやら、 マリアはここにいる。それにしてもどこにいっちまったか。マルコ!マルコ!

船長退場。市民たち、右へ左へ、喧噪が遠のきスローモーションとなる薄闇の中、日傘の女がひっそりと通りかかる。
マルコの声。(卑弥呼の服装をしていること後ろ向き)

マルコ:人は決して、自分自身を自分の目で見ることはできない。だからそのために夢はある。朝、起きて鏡を見る。おはようという。鏡の向こ うから微笑む顔がある。だがそれは、君の半分でしかない。僕はそいつににっこりしてやる。そいつもまたにっこりする。だから、僕は 安心して、こういう。「おはよう。僕の世界へ」そうして、いつもの朝を迎える。だけど、心の奥では密かに恐れているんだ。いつまで も続きはしないことを。そうした朝がやがては来る。いつもと違わない、其の朝に、僕はにっこりして、おはようという。だけれど、鏡 の向こうの僕は、笑わずにこういって僕を迎える。「おはよう。僕の世界へ」。そうした朝がいつかきっと来る。これはもう僕の確信み たいなものだ。

Ⅳ卑弥呼の宮殿

市民たち退場すると、それはマルコではなくて卑弥呼がいる。

卑弥呼:誰かある。

衛兵がくる。

卑弥呼:戦況を知らせよ。

衛兵去ろうとする。

卑弥呼:まて。・・・伊豫を呼べ。話がしたい。

卑弥呼、沈思黙考。ナギがくる。

卑弥呼:ナギか。
ナギ:お話が。
卑弥呼:伊豫のことなら聞かぬ。
ナギ:ですが・・・
卑弥呼:私が決めたことだ。祭儀の巫には他の誰でもかなわぬ。伊豫でなければならぬ。それは、血の掟。
ナギ:余りにむごうございます。
卑弥呼:そう。むごいことだ。だが、帝室に生まれた身の運命であろう。戦の神はそれを所望しておる。
ナギ:このような世の中でも。
卑弥呼:いつの世も神の掟は神聖なもの。やむを得ぬ。
ナギ:・・・・
卑弥呼:この卑弥呼を無慈悲な女と思うておろう。それでよい。それで気が済めば私を恨め。なれておる。それとも、ことを起こすか?
ナギ:めっそうもない。
卑弥呼:はは、どうかな。・・・状況はどうか。
ナギ:芳しくありませぬ。西部方面で新羅軍優勢であります。東部方面は、既に戦線を縮小して、後退中です。市街では、不穏な空気があり、不 満分子を中心として、暴動が起こりつつあり、現在鎮圧中。ただ、革命軍を名乗る暴徒どもの抵抗がなかなか強く・・・・
卑弥呼:外は、新羅。内は革命か。面白いとは言えぬな。時は切迫している。祭儀の時を早める。夜明け前に行う。準備を。
ナギ:・・・
卑弥呼:どうした。・・辛いのはわかる。だが・・・。よいな。
ナギ:・・はっ。・・・

ナギ去る。
猫現れる。

卑弥呼:誰だ。
猫:名もないもので。
卑弥呼:名がなければ呼びもできぬ。
猫:猫とお呼び下さい。
卑弥呼:不思議な名だな。
猫:おかげさまで。
卑弥呼:誰も呼んではおらぬぞ。
猫:はい。さようで
卑弥呼:その猫がどうした。何かようか。私は忙しい。
猫:マルコがやってきます。
卑弥呼:今日はよくその名を聞くな。何者だ。
猫:レプリカントでございます。
卑弥呼:レプリなど珍しくもない。街を見たか。
猫:はい。なかなかにぎやかで。
卑弥呼:レプリがあふれておる。革命ごっこに大騒ぎであろう。
猫:お祭騒ぎですな。
卑弥呼:昔から、革命はお祭ときまっておる。あやつたちも夢を見たいのであろう。卑弥呼打倒のな。くだらん。
猫:下りませんか。
卑弥呼:私を倒して、神聖マリア帝国の新しい主になろうというのであろう。愚かなことだ。
猫:愚かですか。
卑弥呼:壊したあとのことなど考えもせぬ。子供みたいなものだ。私を倒せば、この神聖マリア帝国は消滅する。国のない民衆などどこへゆくと 言うのか。まして、レプリなどどこにもいく先はない。
猫:そうですか。
卑弥呼:どうも癇に障る奴だな。お前といるとしゃべる過ぎてしまう。何を言いたいのだ。
猫:ですから、マルコがやってきます。
卑弥呼:そのレプリがどうした。
猫:片目のレプリと言うのも珍しかろうと思いまして。

猫、思わず飛びしざる。卑弥呼、殺気。剣を抜く。

猫:危ない。危ない。短期は損気ですよ。
卑弥呼:お前は何者か!言え!
猫:ですから、猫と。
卑弥呼:私の夢を知っておるものは夢見たちのみ。夢見をたぶらかしおったか。
猫:はて、何のことだか。
卑弥呼:とぼけおって。・・・本当に知らぬのか。
猫:真実の夢にかけて。
卑弥呼:知らぬのだな。
猫:はい。
卑弥呼:ではよい。(吐息をつき、剣を収める)悪かったな。すまぬ。私の気の迷いだ。
猫:いいんですよ。私は。
卑弥呼:そのマルコが私に会いに来るのだな。
猫:多分。
卑弥呼:なぜ。
猫:あえばわかりましょう。
卑弥呼:このような時にか。
猫:だから面白ございましょう。
卑弥呼:・・・。猫。
猫:はい。
卑弥呼:気に入った。私のそばに居らぬか。
猫:猫と言うのは、自由気ままが本性。出は入り勝手でございます。
卑弥呼:それでよい。
猫:では又いずれ。
卑弥呼:まて、マルコとやらはどのような奴じゃ
猫:あなたによく似ております。会えばわかりましょう。
卑弥呼:私に?

猫、チェシャー猫のような笑いを残し去る。

卑弥呼:片目のレプリ・・・まさかな・・・

伊豫、登場。だが、卑弥呼に声をかけそびれているが。

伊豫:・・・お呼びで。
卑弥呼:(はっとして)伊豫か。・・・決心はついたか。
伊豫:はい。いつでも。
卑弥呼:私を恨んでいような。
伊豫:何をおっしゃいます。伊豫は、さだめに従い、自分の道を歩みます。伊豫は幸せであれ、決して恨んだりはいたしませぬ。
卑弥呼:ナギがそういったか。
伊豫:(失言に気づく)あ、いいえ。この役目、お前でなくてはかなわぬと。
卑弥呼:いいのだ。ナギの言うのももっとも。この卑弥呼を恨んでいよう。実の娘を生け贄にせよとは、いかに帝室の定めとはいえむごいことだ。 私を恨むがよい。
伊豫:そのようなこと。
卑弥呼:そのようなことなのだ。人の心とはそのようであるべきなのだ。伊豫、私にそのような心、ないと思うか。
伊豫:滅相もない。
卑弥呼:そうであろうな。・・・伊豫。
伊豫:はい。
卑弥呼:私とて祭儀は行いたくない。
伊豫:わかっております。
卑弥呼:だが、こういう状況ではの。
伊豫:新羅軍がわが国に侵攻するのはもはや時間の問題。帝国の危機ですもの。仕方ございません。
卑弥呼:新羅か。それは、確かにそうだ。
伊豫:ほかにもございますので・・・暴動がおこっているようですが
卑弥呼:・・・いや。そのような意味ではない。ただ・・・
伊豫:ただ・・・
卑弥呼:いやよい。お前にいってもせんないことだ。(自分に向かって)夢は自分で紡がねばならぬ。そうなのだ。
伊豫:卑弥呼様。
卑弥呼:・・・ああ、すまぬ。つい考え事をしてしまった。
伊豫:よろしければ。
卑弥呼:かまわぬ、なんだ。
伊豫:少し、外の空気に当たってきとうございます。
卑弥呼:そうだな。・・・最後の夜だ。好きにするがよい。だが、夜明けまでには・・・。
伊豫:はい。それでは。

伊豫、去りかける。

卑弥呼:伊豫。

伊豫、振り返り立ち止まる。

卑弥呼:許せよ。

伊豫、にっこりして礼をして去る。
卑弥呼、疲れたように立ち尽くす。
非常放送が微かに聞こえる。ほっとして、歩きだそうとするところへ。影出現。船長のようでもある。

影:心が痛むのか。
卑弥呼:猫か?違うな。誰だ。
影:時と夢が紡ぐ幻といっておく。
卑弥呼:幻がなんのようだ。
影:心を欺いてまで、生け贄を求めるのが帝王か。
卑弥呼:知らぬものはなんとでも言える。神聖な義務を嘲笑すると許さぬ。
影:信じてもおらぬ義務を行うことを普通偽慢と言うぞ。
卑弥呼:黙れ!それ以上言うな!
影:かなしいやつだな。
卑弥呼:おかしなことを言う。かなしいのは、わたしではない。この世界だ。定めにあらがい、執着するレプリを見たか。あやつらとは違う。
影:おなじことだろう。祭儀など無駄なこと。綻び始めた、夢は、現実とはならぬ。お前は、ただの現在に過ぎないのだ。
卑弥呼:結構。現在を紡げば、未来は紡げる。時間は私が支配する。
影:(笑って)いつまでもか。
卑弥呼:いつまでも。
影:それはどうかな。
卑弥呼:お前も、猫と同じだな。おもわせぶりはそれだけか。去れ!

影、笑いながら消える。
卑弥呼、不機嫌に立つ。葛藤をこらえている。

卑弥呼:・・・それでも、私はやらねばならない。・・・やらねばならぬのだ!

卑弥呼、決然と歩み去る。

Ⅴ市街戦

街は狂熱化している。伊豫は群衆の中にまじって、翻弄される。
暴動の気配すらある。
伊豫、よろける。猫が助ける。

猫:おっと、あぶないよ。みんな気が立ってるからね。
伊豫:ありがとう。
猫:なにしてるんだ。
伊豫:街を見てるの。
猫:おもしろいかい。
伊豫:ええ。とても。
猫:お祭みたいだろ。
伊豫:そうね。夢みたいだわ。
猫:君は夢を見るのか。
伊豫:見ないわ。
猫:どうして、夢みたいだというの。
伊豫:さあ。どうしてなのかな。いつもと違うからかしら。
猫:夢を見たいのか。
伊豫:ええ。でも、レプリはみないのよ。
猫:見る奴もいる。
伊豫:卑弥呼様は違うのよ。
猫:ああ、わかってる。別の奴だ。
伊豫:そんなのいるの。
猫:会ったことがある。
伊豫:どこで。
猫:忘れたな。
伊豫:なんだ。
猫:どうしたんだ。
伊豫:会ってみたいと思っただけ。夢を見るのがどんな気分か知りたいの。
猫:大していい気分だとは思えないけれど。
伊豫:夢見たことあるの?

答えようとしたところへ、群衆なだれ込み、二人避ける。
まぎれて、マルコがくる。

猫:おや、マルコだ。
伊豫:マルコ?
猫:気のいい奴だよ。おーいマルコ。ここだ。

マルコ、人目を忍びながらやってくる。

マルコ:しずかにしろよ。又お前か。・・・伊豫さんだね。
伊豫:私の名前を誰から。
猫:まあ、いろいろあってね。
マルコ:君は怖くないかい。
伊豫:何が?
マルコ:何がって・・・
猫:祭だろ。
伊豫:面白いわ。
マルコ:面白い?
伊豫:みんな生き生きしている。
猫:革命は生きのいいものだ。
マルコ:これじゃない。祭儀だ。
伊豫:どうしてしってるの。
マルコ・猫:まあ、いろいろあってね。
伊豫:私は嬉しいわ。
マルコ:なぜ。死ぬのが嬉しいなんて変だぞ。
伊豫:死ぬんじゃないわ。夢を見るのよ。

マルコ、猫を見る。猫、首を振る。

伊豫:私が夢を紡ぐ巫となり帝国をすくうの。
マルコ:本当にそう思うのか。
伊豫:肉体は滅びても心は夢の中にあるわ。
マルコ:悲しい考え方だ。
伊豫:何も悲しくはない。私の定めよ。
マルコ:伊豫!
猫:もうよせ。それより。(といいかけたところへ)

非常放送。雰囲気険悪になる。

猫:危ないな。こいつは。
マルコ:どうした。
猫:暴動だ。本当に始まったな。革命が。

コマンドたちなだれ込む。追撃する突撃隊。市街戦が始まる。逃げまどう市民たち。
マルコたち、階段に伏せる。

猫:おいで。逃げよう。

猫、伊豫を連れて、脱出。マルコを連れてゆこうとするが、マルコなぜか、階段に気を取られるている。

マルコ:階段だ。・・そう、階段なんだ。

市街戦、激しく続く中、マルコは回想する。

Ⅵ階段

回想。
遠いどこかの場所。天球図がかかる。時間と空間を支配する黄道十二宮。その中を二重螺旋が走る。
マルコがいる。船長もいる。

船長:いきますか。マリアが夢を紡ぎ始めたようです。
マルコ:間に合うかな。
船長:わかりません。しかし、急がねば。
マルコ:夢の侵略か。
船長:ぞっとしませんな。早く、封印をしないと。
マルコ:僕がこれを解いたらどうなる。
船長:滅多なことを言うものではありません。
マルコ:管理局に消されるかな。
船長:さあ。
マルコ:遺伝子の悪夢と言ったところだね。僕が僕に会いにゆく。マリアが夢みているのか、それとも僕が見ているのか。
船長:・・・行きましょう。
マルコ:下りかな、上りかな。
船長:何です?
マルコ:この階段は下り階段だろうか。上り階段だろうか。
船長:おかしなことを、階段には上りも下りもありゃしません。上ろうと思えば上れるし、下ろうと思えば下れる。
マルコ:いいや。下り階段は上れないし、上り階段は下れない。僕はマリアじゃないし、マリアは僕じゃない。レプリだけれどマリアは僕の半分 だ。僕はマリアの半分と言っていい。レプリにはどちらかしかないよ。上る階段なのか、下る階段なのか。どちらかを選べば、どちらか にはゆけない。
船長:まるで二重螺旋のようで。
マルコ:そうだね。いつまでたっても世界の半分しか見ることは出来ない。・・・行こうか。

日傘の女通りかかる。

マルコ:・・・まただ。・・・待って!

日傘の女、振り返らない。幻のように消える。

船長:どうしたんです。
マルコ:みなかったのか。
船長:何を?
マルコ:・・・いいんだ。ゆくぞ。

二人去る。
再び、街。市街戦は散発的に続く。
猫、じっと、マルコを見ている。立ち去ろうとする。

マルコ:待てよ。
猫:僕に用か。
マルコ:なぜ、僕にかまう。
猫:おかしなことを言う。僕がいつきみにかまった。
マルコ:今。そして、昨日。明日。いつか。いつでも。どこでも。・・・僕の前に君はいる。
猫:僕の後ろに道は出来るってか。・・・言いがかりだな。
マルコ:言い逃れだ。
猫:じゃいってやろう。後悔するなよ。
マルコ:するものか。
猫:封印をとくためさ。
マルコ:何の。
猫:知ってるくせに。お前のその瞳さ。
マルコ:瞳!(たじろぐ)
猫:十と二人の瞳は幾つ?
マルコ:え?
猫:十と二人の瞳は二十と四つ。二十と四の瞳があれば、この宇宙をめぐる黄道十二宮の瞳は開かれ、夢は解放される。だが、お前の瞳は封印さ れている。二十と三の瞳は暗い。夢はまだここにある。
マルコ:・・・お前は、いったい何者だ。
猫:・・・こんな話がある。・・・十二支の話を知っているかい。時を守護する十二の獣の話。そう。子、丑、寅のあれだ。空想の動物である龍 さえいるのに、なぜ猫はいないんだろうね。フェリス・ドウメスティカ・・・家庭的な動物という意味だよ。そんなにありふれた動物な のに、なぜ十二支の中にいないんだろうね。ふふん。知らないか。だろうな。・・・だまされたんだよ。鼠にさ。本当は、時を支配する 十二の一つになれたのだけれど。・・・遅れてしまってね。以来、だから猫は鼠を追いかけるのが、世の定めというわけだ。
マルコ:おとぎ話はいい。
猫:ああ、僕もそう思う。これは、現実だ。僕は追いかけている。僕は十二番目ではない。永遠にね。
マルコ:僕を?
猫:察しのいい奴は好きだな。愛してやろうか。
マルコ:後免だね。
猫:僕もだよ。けれど、君は確かに十二番目に違いない。
マルコ:話が見えない。
猫:見えなくてもいい。けれど、僕はあきらめはしない。君が十二番目の鼠だ。僕が十三番目の猫であると同様に。
マルコ:鼠?
猫:世界の半分しか見ようとない鼠さ。二十と三の瞳はある。けれど、二十と四番目の瞳はなぜ開かない。
マルコ:僕の右目は見えない。
猫:そうかな。
マルコ:そうだ!
猫:どうして?
マルコ:どうして?!
猫:誰が、決めた!
マルコ:もともとさ!
猫:鏡に写してみろよ。
マルコ:なぜ?
猫:鏡に映った見えない目はどっちだ。
マルコ:え?
猫:その、閉ざされた目は、どっちに映っている?
マルコ:あたりまえじゃないか。それは・・・
猫:それは?
マルコ:それは・・・・
猫:左だよ。鏡の中から微笑む君の右目は開かれている。
マルコ:鏡だから、左右が反転するのは当たり前だろ。
猫:世界の半分は鏡の中に映る。鏡の中で君は目を開く。
マルコ:詭弁だ!
猫:僕は、あきらめない。二十と三の瞳の君を。僕はあきらめない。又、逢おう。いつでも、僕はここにいる。

猫、翻るように消える。

マルコ:世界の半分。二十と三の瞳。・・・この片目が。・・封印をとけば・・・・ばかな。・・・時間がない、いそがなきゃ。

マルコ、宮殿に駈け去る。
コマンドたち、攻撃している。市街戦激しくなる。どうやら、一斉烽起したようだ。

Ⅶナギ

宮殿の一室
ナギ、入ってくる。続いて、衛兵報告に来る。

衛兵:報告します。市街東部地区で暴動状態になりました。現在突撃隊との交戦中であります。
ナギ:戦況は。
衛兵:新羅軍、東部戦線突破しました。
ナギ:第3軍はどうした。
衛兵:壊滅の模様であります。
ナギ:わかった。市街二十キロまで後退して防衛線を構築せよ。第四軍を応援にやる。必ず死守せよ。いけ!
衛兵:はっ。

衛兵、去る。

マルコ:八方塞がりのようだね。

ナギ振り返り、卑弥呼様といいかけてやめる

ナギ:・・・お前はマルコだな。
マルコ:そうだ。どうしてわかる。
ナギ:夢見の言った通りだな。似ている。
マルコ:不思議はないけれどね。
ナギ:なにしにやってきた。
マルコ:卑弥呼に会いに。
ナギ:卑弥呼様は忙しい。それより、私の時を知らせてくれ。夢見が言った。
マルコ:なんと。
ナギ:夢が紡ぐ真実はマルコに聞けと。
マルコ:苦くても?
ナギ:良薬は口ににがしというではないか。日傘の女は何者だ。
マルコ:えっ。
ナギ:遠いどこか階段があり、そこをゆっくりと日傘の女が通る。いつだって同じ夢だ。あいつは何者だ。
マルコ:そうか。日傘の女をね。
ナギ:知ってるか。
マルコ:知らない。知りたいと思っている。
ナギ:なんだ。知らぬのか。夢見もあてにはならぬ。
マルコ:けれど。
ナギ:どうした。
マルコ:どこかでつながっているはずだ。
ナギ:何が。
マルコ:日傘の女とあなたとそして・・・僕。
ナギ:なんだと、どうしてそういうことが言える。
マルコ:同じ夢を見るからね。
ナギ:お前は誰だ。どこからやってきた。
マルコ:どこからでもない。僕は、生まれたところからきた。
ナギ:どこだ。言え。
マルコ:遺伝子管理局。といっても、わからないだろう。遠いところだ。
ナギ:わからんな。
マルコ:いつかわかる。それより、伊豫さんをどうするつもり。
ナギ:伊豫か。知ってるのか。
マルコ:さっき、街であった。
ナギ:どうしようもない。私にはどうしようもない。
マルコ:それで本当にいいの。
ナギ:よいはずがなかろう。
マルコ:祭儀を中止させるべきだ。
ナギ:私にはできない。
マルコ:伊豫にもう一度人生を与えるべきだ。こんなことは許されはしない。
ナギ:もう一度の人生、もう一度の歴史、もう一度の時間・・・。無意味だ。我々はいつも過去から未来へながれ続ける現在にいる。流されるだ けなのだ。
マルコ:少し違う。
ナギ:どこが。
マルコ:この時間の流れには現在も過去もない。未来もない。あるのは、ただ流れ続ける現在だけ。卑弥呼の紡ぐ夢の時間だけが流れている。も う止めるんだ。祭儀をやめさせることができるのはあなただけだろう。
ナギ:かいかぶりだな。マルコ。私にはそんな力がない。それにお前の言うことはよくわからぬ。お前のいう夢の時間などくれてやる。私の欲し いものはたかだかこの帝国だ。ちっぽけなものだろう。悲しすぎて涙もでぬわ。マルコ、お前はどうやら遠くから旅して来たな。あるい は、私の見た夢の中と同じところからかもしれぬ。だが、賢くはないと見える。覚えておくがよい。人は先のことなど考えはしない。せ いぜい目の前の喜びや悲しみに踊らされて生きるだけだ。私もそういきる。マルコ。去れ。お前のいる場所はここではない。
マルコ:あなたも、悲しい人だな。
ナギ:勝手にほざけ。
マルコ:僕は、ここにいるために、ここに来た。どこにも行かない。すべてが終わるまでは。
ナギ:はっ。豪儀なことだ。勝手にすることだな。

衛兵、走り込んでくる。

伝令:暴徒どもが一斉ほう起しました。鎮圧に失敗、王宮に迫ります。ご指示を。
ナギ:というわけだ。マルコ。もう、時間がない。夢であろうがなかろうが、お互い、生命があったらまた会おう。

ナギ、去る。
船長がやってくる。

船長:かくして、説得失敗の巻。というとこですな。
マルコ:船長!どうしてた。
船長:いや、もうたいへん。あなたとはぐれてからあっち行ったりこっち探したり、そこでのんだり、ここでのんだり。つまみもないもんでえら い難儀しました。ここまで来るのに鼻薬かがせるは塀乗り越えるは、いや、まったく往生こきました。
マルコ:話を聞いたか。
船長:そりゃもうばっちり。いよいよとどのつまりですな。いわゆる一つの大団円ですよ。行きましょう。卑弥呼のところへ。
マルコ:それはいいけれど、ナギの夢をどう思う。
船長:さあて、私にはなんとも。それより、祭儀が始まらぬ前に。
マルコ:よし。

船長、マルコ去る。

Ⅹ二十三の瞳・

大きな天球図がかかる卑弥呼の宮殿
舞台奥、祭儀は始まろうとしている。十二の祭儀士が入ってきて所定の位置にたつ。

祭儀士:時を紡ぎ、夢を紡ぎ、現世(うつしよ)を表す黄道の十二の人々揃いましてございます。
卑弥呼:時と夢を紡ぐ者たちよ。すべての準備は整ったか。
一同:整いました。
卑弥呼:されば、申せ!
一同(順に):白羊宮これに。金牛宮これに!・・・・
卑弥呼:(言う中)伊豫を。

伊豫、入ってくる。祭儀が始まった
一方舞台上手ナギの部屋

衛兵:祭儀が始まりました。ナギ殿にもご出席を。
ナギ:今ゆく。

衛兵、下がる。

ナギ:マルコか。お前の言うことは正しい。だが、私は・・・

衛兵、入る。

衛兵:申し上げます。革命軍と称する暴徒ども、新羅軍と呼応し、市街東部地区を制圧いたしました。既に王宮付近で戦闘が発生しております。
ナギ:わかった。
衛兵:いかがいたしましょう。
ナギ:・・・
衛兵:ナギ様。
ナギ:・・・
衛兵:ナギ様!
ナギ:・・・なにもするな。
衛兵:はっ?
ナギ:・・・何もしなくともよい。・・・ゆけ。もはや。どうにもならぬ。マルコ、お前の言うとおりだ。・・・衛兵!衛兵!
衛兵:ここに!
ナギ:兵を集めよ。・・・卑弥呼を討つ。
衛兵:・・・なんとおっしゃられました?
ナギ:卑弥呼を討つと申したのだ。
衛兵:卑弥呼様を!
ナギ:・・・もはや、帝国の安泰は卑弥呼の手にはない。卑弥呼をとらえよ!新羅と講和をせねば帝国は滅ぶ。ゆくぞ!
衛兵:はっ!

祭儀が続いている。伊豫、ゆっくりと祭壇に上がってゆく。船長とマルコ駆け込んでくる。

マルコ:やめろ!

突入しようとするマルコたちを、祭儀士たち制止しようとする。

卑弥呼:まて。そのもの、私の知り人だ。手荒に扱うな。・・・マルコだな。
マルコ:君が卑弥呼だね。
卑弥呼:懐かしい。
マルコ:僕もだ。
卑弥呼:とうとうやってきたわけだ。
マルコ:そうだ。
卑弥呼:何をしに来た。
マルコ:マリアに会いに。
卑弥呼:知らぬな、そんなものは。
マルコ:君は、よく知っているはずだ。だれよりも。
卑弥呼:なぜ、わかる。
マルコ:君は、僕の半分だからだ。
卑弥呼:わかるのか。そんなことが。
マルコ:お芝居はいい。ここが君が紡いだ夢だと言うこともわかってるんだ。
卑弥呼:クローンはクローン同士と言うわけだな。
マルコ:祭儀はやめろ。
卑弥呼:なぜ。
マルコ:君に取っては夢でも、伊豫には現実だ。いや、伊豫だけじゃない。もはや、これが本当の現実になりつつある。君の力は大きい。だから、 やめるんだ。
卑弥呼:おかしなことを言う。現実だからこそ、祭儀は行わねばならぬ。夢など遺伝子管理局に食わせてやればいい。それに、お前は勘違いして いる。この夢を紡いでいるのは、私ではない。
マルコ:言い逃れだ。
卑弥呼:お前は、私が自分の半分だと言ったではないか。
マルコ:なに?
卑弥呼:夢を紡いでいるのは、私ではない。・・・お前だ。

卑弥呼、凛然とたつ。

卑弥呼:見よ!

十一人の人々がいる。

人々:十と二人が夢をみる。二十と三の夢を見る。紅い月が落ちるとき十と二人の瞳が開く。瞳開けばその奥に二十と三の夢がある。鏡の向こう にゆらゆらと二十と三の夢を見る。十と二人が夢をみる。

卑弥呼:潮の満ちるように時が満ち、十二の黄道が開くとき、夢は現実を紡ぐ。二十三の瞳を持つものがその夢を紡ぐ。
マルコ:封印された瞳を開いたお前だろう。管理局に遺伝子操作されたレプリじゃないか。自分の現実を作るために逃亡した、レプリじゃないか。
卑弥呼:ちがうな。・・・本当に知らぬのか。哀れな。操作されたのは、お前だ。私は、瞳を封印したことはない。だから、ここにいる。
マルコ:何だって。
卑弥呼:伊豫の祭儀は、天の黄道を開くためにある。二十三の瞳を持つなら必要もない。知らなかったのか。
猫:というわけだ、船長も人が悪い。教えてなかったのか。
マルコ:船長!
船長:命令でさ。遺伝子管理局の。すまんこって。
マルコ:・・・ということは。
卑弥呼:お前が二十三の瞳の最後の人。片目のレプリカントだ。
マルコ:嘘だ!
卑弥呼:私も、夢は紡げる。しかし、お前ほどではない。
マルコ:なぜだ。
船長:あなたがドナーでなくて、卑弥呼があなたのドナーだからでさ。
マルコ:僕がマリアのドナーだろ。
卑弥呼:知らない方がよいということもこの世にはある。そういうことだな。マルコこの世界を現実に紡ぐには、私には祭儀が必要じゃ。じゃまするな。
マルコ:うそだ・・・そんなことってありえない。ありえないよ。
卑弥呼:私の瞳を見よ。
マルコ:・・・
卑弥呼:私の瞳は操作された目か?

卑弥呼、マルコに相対する。

マルコ:そんな・・・。ありえない!嘘だ!

どこかで夢がきしむ音がする。

船長:いかん。やばいですぞ、これは。夢が解体し始める。

更に、激しいきしむような音がして、紡いだ夢が崩壊し始める
衛兵、駆け込んでくる。

衛兵:ナギ殿、謀反!
祭儀士:謀反?ばかな。この大事なときに。
衛兵:やってきます。

ナギ、兵士とともに祭儀に乱入。

ナギ:これは、卑弥呼殿。ごきげんうるわしう。
卑弥呼:お前か。
伊豫:お父様!
卑弥呼:親子の情に負けたか、ナギ。だが、新羅は喜んでも帝国のためにはならぬぞ。
ナギ:なんとでも言われるがよい。だが、親子の情に負けたのではない。帝国のためだ。遅くはない。新羅と講和なされよ。さすれば祭儀など必 要もない。
卑弥呼:裏切るものはいつもお為ごかしにものを言う。
ナギ:あなたのためを思えばこそだ。
卑弥呼:私のため?ならば無用。ナギ、お前にはわからぬことだ。
祭儀士:ナギ殿。兵を退かれよ。あなたの戦うは、別にあるはず。
ナギ:笑止なことを言う。私の娘を返せ。
祭儀士:伊豫殿は、自らすすんで生け贄となられる身。返す訳にはなりませぬ。
ナギ:生命が惜しいならその口閉じるがよい。伊豫来るのだ。
伊豫:いやです。
ナギ:伊豫!
伊豫:伊豫は、定めに従うと申し上げたはず。
ナギ:お前はだまされておる。
伊豫:いいえ、私は私の心に従います。
ナギ:父のことばを聞けぬか。
伊豫:私は、卑弥呼様の代わりにはなれませぬ。
ナギ:なんと。
卑弥呼:伊豫には夢は紡げぬ。
ナギ:たわごとを。夢などいらぬ。帝国さえあればよい。
卑弥呼:日傘の女もか。
ナギ:なぜ、それを。
卑弥呼:しらぬと思うか。愚かな。
マルコ:あの人は、誰?
卑弥呼:まだ、わからぬのか?・・・本当に。
ナギ:えい。そんなことは、どうでもよい。もう一度、言う。帝国を私に渡せ。新羅と講和をする。
卑弥呼:むりだな。夢を紡ぐのは私だ。
ナギ:ならば、夢とともに死ぬがよい。かかれ!

戦闘が始まる。夢、激しくきしむ。不協和音。本格的な崩壊が始まる。時間がスローにながれ始める中、十二の人々がゆっくりと、崩れ ていく。
呆然とするマルコ。猫、現れる。

猫:夢が、壊れ始めたよ。
マルコ:・・・
猫:さあ、マルコ。ここが本当のとどのつまりだ。もう逃げられやしない。
マルコ:・・・
猫:いつまでわからない振りをする。
マルコ:・・・
猫:わかってるだろ。誰だっていつまでも子供ではいられない。
マルコ:・・・
猫:二十三の瞳が揃っているよ。夢から覚めるときだ。
マルコ:・・・
猫:ほらお前の一つ一つの夢が壊れてゆく。

戦闘の中で、伊豫が、倒れてゆく。

猫:ほら、又一つ。

ナギが倒れる。

猫:ほら。

11人が次から、次へと倒れてゆく。

マルコ:やめろ。やめるんだ。
猫:止められない。誰も。こうして、大人になるんだ。
マルコ:そうだ、猫。お前だろう。お前が夢を紡げるんだ。23番目の瞳があるだろう。
猫:違うね。まだわからないのか。
マルコ:・・・
猫:これは、すべてお前の紡いだ夢だ。お前の瞳を開け。二十四番目の瞳を開くときだ。夢は美しい。けれど、いつかは覚めるときがくる。
マルコ:・・・
猫:お前の片目が開くとき、二十と四個の瞳が見つめる。二十四の時が刻まれ、一日が完成する。そうして、半分の世界は一つになる。世界はや っと本当になるんだ。
卑弥呼:マルコ、いるか。
マルコ:ここにいるよ!
卑弥呼:私の夢をつむがせよ。
マルコ:あなたの夢だろ!自分で紡いだらいいじゃないか!
卑弥呼:もう、目が見えぬ。私の目は封印された。

卑弥呼が倒れてゆく。

マルコ:卑弥呼!
卑弥呼:私の夢をつむがせよ!
マルコ:卑弥呼!
猫:・・・お前が見始めた夢じゃないか。始末は自分で付けるんだな。
マルコ:僕が・・・
猫:それが大人というものだ。

激しくきしむ夢は、崩壊しようとするが・・・

マルコ:船長!
船長:ここに。
マルコ:僕が二十三の瞳と言ったね!
船長:たしかに。
マルコ:僕が封印をとけば、夢は紡げるね!
船長:はい!
マルコ:私の夢をつむがせよと、卑弥呼は言った!
船長:はい!
マルコ:いいだろう!ぼくは見てやろう。その世界の半分を。ぼくのこの目が開くならば。残された世界の半分を。

激しくきしむ夢の中。
逆光の中、伊豫が立ち上がる。ナギが立ち上がる。卑弥呼が立ち上がる。十二人の人々が立ち上がる。世界のその半分が立ち上がる。

マルコ:盲いた目が、開く。いや、ふたたびあけることはない目が開く。僕の半分のお前を見つけるために、僕は、その開いてはならない目をあ けるのだ。見ていろ!これが二十四の瞳だ!

眼帯がゆっくりとはずされる。光の中、マルコの両目が開いた。卑弥呼である。
伝令走り込んでくる。

伝令:革命軍王宮突入しました!ご指示を!
マルコ:うろたえるでない。各持ち場を離れるな!別命あるまで各個で戦え!
伝令:はっ。
船長:あなたは・・・
マルコ:そうだよ。船長さん。僕は卑弥呼だ。世界の半分ではなく、残りの半分でもなく、マリアでもなく、マルコでもない。僕は一人の卑弥呼 だ。僕は、やっと僕自身の夢を紡ぐ。これが現実だ。
船長:(にやりとして)今の今を?
マルコ:(にっこりと)今の今を!
船長:それは、重畳。猫のやつもやっと、みつけましたな。十二番目の鼠を。
マルコ:猫!どこへ行った。あいつはいったい誰なんだ。
船長:おや、おわかりになりませんか。
マルコ:ああ。
船長:本当に?
マルコ:そうだ。不思議な奴だ。
船長:不思議なはずで。あなたの二十四番目の瞳ですよ。あるべき姿に戻ったんですな。
マルコ:嘘だろ?
船長:さあて、あなたの夢ですからね。
マルコ:ふん。よくいうよ。この酔っぱらいが。
船長:夢によったのはあなたの方で。
マルコ:・・・いいや、今度は現実だ。
船長:違いない。今の今ですな。
マルコ:そうだ。今の今だ。・・・では、行こうか。
船長:少しひえますな。
マルコ:パンドラの箱だな。
船長:えっ?
マルコ:何でもない。レプリの夢は短い。夜が開けたら現実が待っている。
船長:はい。
マルコ:始まったようだ。
船長:行きましょう。(マルコうなづいて、二人ゆっくりと去る)

日傘の女、ゆっくりと通り過ぎる。二人、気づかずにすれ違ってゆく。
革命軍、王宮に突入。喧噪が静かになり。

エピローグ

水滴の音が聞こえてくる。
ぼんやりと待ち続ける二人。

きよ:ねえ。
より:なんだ。
きよ:待ってみようか。
より:・・・・
きよ:今まで待ったんだ。もう一日待ってみよう。
より:無駄だ。
きよ:無駄じゃないよ。よりちゃん。一日待てたら、もう一日待つことができる。もう一日待ってこなかったら、さらにもう一日待つことは可能 だ。
より:それでも来なかったら。
きよ:わかりきってる。もう一日待つのさ。
より:・・・
きよ:まとうよ。
より:・・・そうだな。もう一日待ってみるか。
きよ:そうだ。もう一日待とう。

二人、じっと待ち始める。
水滴の音がやや大きくなる。
日傘の女、現れる。
二人ゆっくりと振り返る。

日傘の女:お話があるの。
きよ:・・・僕たちもだ。待っていたよ。
より:お座り。・・・時間はたっぷりある。

ぼんやりした明かりの中、どこか、ひどく懐かしい、遠い空間の中。二十四の瞳を持つ、三人が座っている。
日傘はくるくるとまわり、ゆっくりと夢は現実に向かって紡がれ始める。

                                                  【 幕 】


 


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